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 ハワイの ( おも ) ( ) は、レイの花からでした。

  第一装 ( だいいっそう ) のブレザァコオトに 着更 ( きが ) え、 甲板 ( かんぱん ) に立っていると、上甲板のほうで、「 ( ふか ) ( ) れた」と ( さわ ) ぎたて、みんな ( ) けてゆきました。しかし、ぼくは ( ようや ) く、 雲影模糊 ( うんえいもこ ) とみえそめた島々の ( あお ) さを 驚異 ( きょうい ) 憧憬 ( どうけい ) の眼でみつめたまま、動く気もしなかったのです。

 未知の国を初めてまのあたり ( なが ) める感動と、あなたへの 思慕 ( しぼ ) とがありました。その ( ころ ) 、漸くにして、自分の 技倆 ( ぎりょう ) の未熟さはさておき、とにかく日の丸の下に戦わねばならぬ、自分の重責を、あなたへの思い深まるに連れて、深く自覚自責するものがありました。ぼくは、あなたへの愛情をどうしても、帰国後まで、大切に、 ( しま ) っておかねばならぬと、おもった。 ( しか ) し、具体的なことはまだ一言も言わなかったし、言えもしなかった。ぼくの 焦躁 ( しょうそう ) はひどいものでした。

 ようやく波止場も見えてきて、全員集合を命ぜられたとき、いつもの様に、ぼくの眼は、あなたの姿を探していました。 ( ) る人達が、わめきちらす、女子選手達のお ( しり ) についての 無遠慮 ( ぶえんりょ ) な評言を、ぼくは ( ) えられないような弱い気になって、聞くともなく聞いていると、いちばん ( おく ) れてあなたが、うち ( しお ) れた姿をみせた。

 あなたは、先頃の明るさにひきかえ、一夜の中に、 ( みにく ) く、 年老 ( としと ) って、なにか人目を ( ) じ、泣いたあとのような赤い眼と手に ( しわ ) くちゃの 手巾 ( ハンカチ ) を持っていました。ぼくは、あなたが、てっきりぼく達のことについて、なにか言われたのではないかと、勝手な想像をして、 黯然 ( あんぜん ) となったのです。おまけに、そのとき、あなたはぼくが ( ) ってから、初めて厚目に、 白粉 ( おしろい ) をつけ、紅を ( ) っていた。その 田舎娘 ( いなかむすめ ) みたいなお 化粧 ( けしょう ) が、 ( なみだ ) ( くず ) れたあなたほど、 ( みじ ) めに 可哀想 ( かわいそう ) にみえたものはありません。

 あたかも、 ( ) ぐそのあとで、ぼくの胸には、歓迎 邦人 ( ほうじん ) からの、白い 首飾 ( くびかざ ) りの花が ( ) けられました。有名な選手などは、二つも三つも掛けて ( もら ) っていましたが、ぼくが洋装をした田舎の 小母 ( おば ) さん然たる ( おく ) さんに、にこにこ笑いながら掛けて貰ったレイの花は、ひとつでも堪えられないくらい 芳烈 ( ほうれつ ) ( かお ) りを放っていました。ぼくは、その ( にお ) いのなかに、 恋情 ( れんじょう ) の苦しさを ( あま ) くする ( すべ ) を発見したのでした。

 それから、間もなく ( もよお ) して頂いた、ハワイの官民歓迎会の、ハワイアン・ギタアと、フラ・ダンス、いずれも土人の亡国歌、 余韻嫋々 ( よいんじょうじょう ) たる悲しさがありましたが、ぼくは、その悲しさに甘く 陶酔 ( とうすい ) している自分を、すぐ発見して、なにか 可憐 ( いと ) しく思ったのです。ハワイでは、あなたと一度も、話し出来ませんでしたが、ぼくは、美しい異国の風景のなかに、あなたの姿を、まぼろしに ( えが ) くだけで、満足でした。

 ぼく達が日本語よりも、英語がうまいのを 自慢 ( じまん ) にしている運転手君――というのは、ぼく達が波止場から邦人の提供してくれた、自動車に乗りこむと、早速、英語で話しかけて来て、皆が、第二世君と思っていたのに、土人かしらと、 ( いささ ) 唖然 ( あぜん ) としていると「あなた達、英語出来ないんですねエ」と 軽蔑 ( けいべつ ) したように、初めて日本語を使った――その小生意気な運転手君に連れられて一同と共に、奇勝ノアノパリに向う 途中 ( とちゅう ) 、もの ( すご ) 大雷雨 ( だいらいう ) に、 ( おそ ) われました。が、 ( たちま ) ち、からりと晴れると、なんとその ( ) ( とお ) るような ( あお ) い空の見事さ。雨に ( ) れ、緑のいっそう ( あざ ) やかに光り ( かがや ) く、草木のあいだに、 撩乱 ( りょうらん ) と咲き ( ほこ ) っている、 紅紫黄白 ( こうしこうはく ) 、色とりどりの花々の美しさ、あなたは 何処 ( どこ ) にでもいる気がふッと ( いた ) しました。

 ぼくはものを感じるのは、まあ 人並 ( ひとなみ ) だろうと、思っていますが、 ( おぼ ) えるのは、 面倒臭 ( めんどうくさ ) いと考える ( ゆえ ) もあって、自信がありません。

 それでも、ノアノパリの 絶壁 ( ぜっぺき ) 上に立ち、世界で三番目に強いと言われる風速何十 ( メエトル ) かの 突風 ( とっぷう ) 、顔をたえず ( たた ) かれ 上衣 ( うわぎ ) をしょっちゅう ( ) くられているような烈風を受けつつ、眺めた景色は 髣髴 ( ほうふつ ) と、今でも ( うか ) んできます。眼前に ( ひろ ) がる 蒼茫 ( そうぼう ) たる平原、かすれたようなコバルト色の空、 懸垂直下 ( けんすいちょっか ) 、何百米かの切りたった ( がけ ) の真下は、牧場とみえて、何百頭もの牛馬が草を ( ) んでいる。その牛馬一 ( ぴき ) 々々の 玩具 ( おもちゃ ) のような小ささ、でもさすがに、 ( けだもの ) の生々しい毛皮の色が、今も眼にあります。

 しかし、後方右側に ( そび ) えたつ、なんとか峰はたえず陽に輝き、左側のなんとか峰はたえず雨に降られている。これは、その ( むかし ) ハワイの王様なんとか一世が、なんとかいう 蛮人 ( ばんじん ) 酋長 ( しゅうちょう ) を、火牛の戦法で、この崖から追い落した。で、陽の照っているほうは、なんとか一世の 善霊 ( ぜんりょう ) ( しず ) まり、雨に降られているほうは、蛮人なんとかの悪霊、鎮まるという、こんな伝説の固有名詞は全部忘れてしまいました。が、折からの 驟雨 ( しゅうう ) が晴れて、水々しい山頂をくっきりと 披璃 ( はり ) のような青い空に、聳えさせていた峰々のうるわしさは、忘れません。

 あなたはあのとき、びッしょり濡れて、善霊峰の下の 洞穴 ( どうけつ ) に、風雨を ( ) けていた。スカアトの ( ひだ ) も崩れ、 手巾 ( ハンカチ ) ( かぶ ) って強風にあおられている。あなたは、朝の印象もあって、ばかに惨めにみえました。が、その苦しさも、ハワイの素晴しい自然が、すぐ ( なぐさ ) めてくれ、甘いものとする。そう考えるほど、ぼくは自分のなかだけで、恋情を育てていたのです。

 午後から、ハワイのロオイング 倶楽部 ( クラブ ) に、招待されて練習に行きました。

 コオスはほんとうに、草花につつまれているのどかさで、 小波 ( さざなみ ) ひとつなく、目にみえる流れさえない 掘割 ( ほりわり ) でした。 隅田 ( すみだ ) 川の 濁流 ( だくりゅう ) 、ポンポン蒸汽、 伝馬船 ( てんません ) 、モオタアボオト等に囲まれ、せせこましい練習をしていた、ぼく達にとって、文字どおり、ドリイミング・コオスといった感じです。 ( てい ) は、 固定席 ( フィックス ) 滑席艇 ( スライデング ) に移るまえにあった。ドギュウと日本では称しているような昔 ( なつか ) しいもの。それにオォルの ( にぎ ) りも太く、ブレエドの ( はば ) も広く、艇は ( おそ ) いけれど、バランスがよく、舟足も軽い。まっさおい水の上に、艇をポオンと置いてから、約 一月 ( ひとつき ) ぶりに、シャッシャッと ( ) ぎだすと、一本々々のオォルに水が青い油のように、ネットリ ( から ) みついて、スプラッシュなどしようと思っても、出来ないあんばい。三十本も漕ぐと、艇はたちまちコオスの ( はし ) まで行ってしまう。河幅わずか十米あまり。漕いでいるオォルの先に、ぷうんと熱帯の花々が匂うばかりです。さすがに 先輩 ( せんぱい ) たちも感にたえたか、ぼくはいつもの 叱言 ( こごと ) 一つさえ、 ( ) きませんでした。五番の松山さんが、突然「あーア」とおおきい 溜息 ( ためいき ) をつき、「おーイ、みんな、漕ぐのは ( ) めろッ、 ( ) ろッ寝ろッ」と ( さけ ) びさま、オォルをぽおんと投げだし、ぼくの 太股 ( ふともも ) のうえに、もじゃもじゃの頭を ( ) せました。彼の ( おに ) をも ( あざむ ) くばかりの ( かお ) が、ニコニコ笑うのをみると、ぼくは股の上の彼の 感触 ( かんしょく ) から、へんに 肉感的 ( センシュアル ) なくすぐッたさを覚え、みんなに ( なら ) って、やはり三番の沢村さんの ( ひざ ) に、頭をのせ 仰向 ( あおむ ) けになりました。と、そんな ( けち ) な肉感なんか、忽ちすッとんでしまうほど空はとろけそうに碧く、ギラギラ燃えていた。その空の奥に、あなたの顔の 輪廓 ( りんかく ) が、ぼおっと浮んだような気がしました。

 あなたに逢いたい、逢いたいと思っていた。そうしたら、ワイキキ・ビイチに行く途中、 凱旋門 ( がいせんもん ) のところで、あなたと内田さん達の一行に、ぱったり逢いました。ぼく達の自動車は、助手席の ( ところ ) にぼく、うしろに三番の沢村さん、二番の虎さんなんかが乗っていた。あなたはその日、朝からずうっと ( しお ) れどおしのようでした。ただ、内田さんは、たいへん元気で、あなた達がつけたぼくの 綽名 ( あだな ) を呼び「ぼんぼん、アイスクリイムあげよう」と片手に、容器を ( ささ ) げてとんで来ました。ちょうど、車が動きだしたところだったので、はにかみながら ( うで ) ( ) ばした。ぼくには届かず、うしろの沢村さんが、ひッたくッてしまった。そして、なにか 猥褻 ( わいせつ ) なことを内田さんに言い、自分もすこし照れた様子で、わざと「うまい。うまい」と内田さんのほうに、みせびらかしながら、虎さんと食ってしまいました。虎さんも助平な事を言い、 豪傑 ( ごうけつ ) 笑いしてから食っていた。

 ぼくは ( はなは ) だ、 憤慨 ( ふんがい ) したが、弱いのだから止むを得ません。ただ、半べそを ( ) きつつ、「ひどいわ。意地悪」と叫んでいる内田さんに、たいへん愛情を感じました。

 しかし、それはその時に、 ( ) き上がった感情です。あなたに対しては、心の中で、すでに、愛さなければならないという 規範 ( きはん ) を、打ち ( ) てていたと思います。

 ホノルル・ブロオドウェイの 十仙店 ( テンセンストア ) で、ぼくは、 ( あか ) のセエム ( がわ ) 表紙のノオトを買いました。初めて、米国の金でした買物、金五十仙 ( なり ) 。ぼくは、それをあなたとの、日記帳にしようと思って ( いや ) らしく、紅い色のものを買ったのです。しかし、それも後から ( おも ) えば買わなかったほうが、いや買ったにしても、なんにも書かぬ 白紙 ( カイエブランシュ ) のなかに、 記憶 ( きおく ) だけを ( とど ) めておいたほうが、良かった結果になりました。

 翌月の午後は、個人外出を許され、船の 出帆 ( しゅっぱん ) 時刻は、確か、七時でしたが、ひとりぼっちで歩いていても、 面白 ( おもしろ ) くなく、帰ったならば、案外また、あなたに逢えるかとも思うと、四時頃からもう帰船しました。

 午前中の甲板には、銭拾いの土人達が多勢、集まって来ていて、それが 頂辺 ( てっぺん ) のデッキから、真ッ 逆様 ( さかさま ) に、蒼い海へ、 水煙 ( みずけむ ) りをあげて、次から次へ、飛びこむと、こちらで ( ほう ) った ( いく ) つもの銀貨が海の中を水平に、ゆらゆら光りながら、落ちて行く。それを 逸早 ( いちはや ) く、 ( くわ ) えあげたものから、ぽっかりぽっかりと海面に首を出し、ぷうっと口々に水を ( ) きながら、片手で水を ( たた ) き、片手に金をかざしてみせる。とまた、忽ち ( さる ) ( ごと ) く甲板に ( ) じのぼってきては、同じ芸当を 繰返 ( くりかえ ) すのでした。その中に、ぼくは片足の 琉球人 ( りゅうきゅうじん ) 城間 ( クスクマ ) ( ぼう ) という、 赤銅色 ( しゃくどういろ ) ( たくま ) しい三十男を発見し、彼の生活力の豊富さに ( おどろ ) いたものです。

 然し、外出から帰ってみると、甲板には、もう土人達は一人もいず、その代りに第二世のお ( じょう ) さんたちが、花やかに着飾って、まだ、あまり帰っていない選手達を取り巻いていました。

 真面目でもあるし、 ( こと ) にフェミニストの坂本さんが、やはり、五六人のお嬢さん達に取り囲まれていましたが、ぼくの姿をみるなり「ああ坂本君」と呼んで「この人もボオトの選手です。大きいでしょう」とか、 紹介 ( しょうかい ) しておいて、自分は歓迎に来ている県人会の人達のほうへ行ってしまいました。ぼくは周囲の女性達をみるなり、坂本さんが、ぼくに ( まか ) して、立ち去ったのが、すぐ 諒解 ( りょうかい ) できました。 美醜 ( びしゅう ) はとわず、とにかく、その頃の言葉で、心臓の強いお嬢さん達でした。

 いずれも二十歳前後の娘さんとみえますが、なかに一人、豊かに ( ) えた ( かた ) をむきだした洋装の、だぼ 沙魚 ( はぜ ) みたいなお嬢さんが、リイダア格で、「サインして下さいよう」とサイン帳をつきだすと、あとは我も我もと、キャアキャア手帳をつきつけます。「ぼくなんかサインしてもつまりませんよ」と、それでも ( ) しつけられるままに、ぼくが女持の万年筆を借りて、Xth Olympic, Japanese Rowing Team, No.4. S. Sakamoto と書きながら、驚いたのは、そのだぼはぜ嬢、「 ( ) いのよ、好いのよ」と 嬌声 ( きょうせい ) を発し、「あなた、とても好いわ」とぼくの肩に手を置いた事です。馬鹿です。ぼくは 相好 ( そうごう ) 崩して喜んだらしい。「チャアミングよ」というお嬢さんもいれば、「日本人で、こんなに大きい。スプレンディッド」という ( ひと ) もいる。いよいよ、好い気持になって、ワアワアヘしあってくる娘さん達の、 香油 ( こうゆ ) と、 ( あせ ) と白粉のムッとする 体臭 ( たいしゅう ) にむせていると、いきなり、また 吃驚 ( びっくり ) させられました。というのは、そのだぼはぜ嬢が、 愈々 ( いよいよ ) ( ひとみ ) ( こび ) をたたえて、「けっして、助平とは思わないでね」とウインクをするのです。失礼! が、ぼくはふき出したい 衝動 ( しょうどう ) のあとで、泣き出したいような気になりました。だって、このお嬢さん達は、きっと祖国を知らないんだ。だから日本の 礼儀 ( れいぎ ) 、日本の言葉もよく知らないのだろう。笑ってはいけない、と思いました。で、「ええ、思いませんとも」真面目に言いきりましたが、そういう口の ( ) から、へんに肉感的な 微苦笑 ( びくしょう ) が、唇を ( ゆが ) めるのを、 ( おさ ) えられませんでした。

 すると、そのだぼはぜ嬢はいきなり、ハンドバッグのなかから、自分の写真を取り出し、サインをしてくれます。と ( そば ) から、「わたしも上げる」とか言いながら、パアスを探すお嬢さんがいます。二三枚、貰った写真は、 ( いず ) れもブロマイド式に ( ) ったものですが、正直 綺麗 ( きれい ) なひとは、一人もいませんでした。

 その上、「あなた、メモ貸して、ミイのアドレス書く」と、だぼはぜ嬢が切り出し、また、続けて、二三人が、達者な英語で、御自分のアドレスを書いてくれました。

「あなた、向うのアドレス、着いたら、教えて」とだぼはぜお嬢さんが言うのを、うんうん ( うなず ) いている中、ぼくは、そのグルッペの ( すみ ) に、ひとりの 可憐 ( かれん ) な娘を見つけました。

 美しい顔ではありませんが、色の黒い、 ( ) せた顔に、子供らしい瞳が、くるくるしていて 可愛 ( かわい ) らしい。先刻から、だぼはぜさんの蔭にかすんで、 悄然 ( しょんぼり ) しているのが、今朝からのあなたの姿に連想され、「テエプ、この ( うち ) の一人に抛ってね」とだぼはぜ嬢が自信ありげに念を押したとき、よしあの ( ) に抛ろうと、とっさに決めたのでした。

 出帆の 銅鑼 ( どら ) が鳴りだしたとき、ぼくは白いテエプを、その娘に投げてやりました。 ( さび ) しい顔立が、 人混 ( ひとご ) みに ( ) まれ、船が ( はな ) れて行けば、いっそう ( たよ ) りなげに見える、そのぼんやりした瞳に、ぼくが、テエプを抛ろうとすると、その瞳は、急に ( ) れてみえるほど、生々と光りだした気がしました。この娘は、まだ十七で、帰りに寄航したときも逢いましたし、内地に子供らしい手紙を 度々 ( たびたび ) くれました。

 あとで、船室に集まった皆が、ハワイでの 収穫 ( しゅうかく ) を話しあったとき、坂本さんが、ニヤニヤ笑いながら、ぼくとだぼ沙魚嬢のロオマンスを ( ) 破抜 ( ぱぬ ) きました。こんな 巫山戯 ( ふざけ ) た話になると、みんなとても 機嫌 ( きげん ) よく、森さんが、 ( ) ず、「ほう、 大坂 ( ダイハン ) は、最近、大当りだな」とひやかせば、松山さん、「色男は ( ちが ) うな」と、大口開いて笑うし、虎さんは、「ドレドレ」とだぼはぜ嬢の写真をとって見ようとする。「 ( おれ ) にも貸せ」と梶さんが手を ( ) ばす。「待て、待て」と横から ( のぞ ) いていた沢村さんが怒る。あとは、ワアッと大笑いでした。

 あなたとの友情も、こんなに巫山戯半分で、皆と共々に笑える 余裕 ( よゆう ) があったなら、あんなに皆から ( にく ) まれず、また、ぼくも苦しい ( おも ) いをしなくても、済んだ、と思います。