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新拾遺和歌集卷第二十 雜歌下
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20. 新拾遺和歌集卷第二十
雜歌下

赤人

短歌

富士の山を望みて詠める

あめつちの 別れし日より かみさびて 高くかしこき するがなる 富士の高嶺と あまのはら ふりさけみれば わたる日の 影もかくろひ てるつきの 光も見えず 志らくもの い去り憚り ときじくぞ 雪は降りける かたりつぎ 云繼ぎゆかむ 富士の高嶺は

讀人志らず

香具山をよめる長うた

あまくだる あまの香具山 かすみたち 春にいたれば まつかぜに 池なみたちて さくらばな このくれ茂み おきべには 鴎よばひて へつかたに あぢむら騷ぎ もゝしきの 大みやびとの 立ち出でゝ あそぶ舟には かぢさをも なくて寂しく 漕ぐ人なしに

大納言經信

源政長朝臣の家にて人々長歌よみけるに、初冬述懷といへる心を詠める

あらたまの 年くれゆきて ちはやぶる かみな月にも なりぬれば 露より志もを 結び置きて 野山のけしき ことなれば なさけ多かる ひと%\の とほぢの里に まとゐして うれへ忘るゝ ことなれや 竹の葉をこそ かたぶくれ 心をすます われなれや 桐のいとにも たづさはる 身にしむ事は にはの面に 草木をたのみ なくむしの 絶々にのみ なりまさる 雲路にまよひ 行くかりも きえみきえずみ 見えわたり 時雨し降れば もみぢ葉も 洗ふにしきと あやまたれ 霧しはるれば つきかげも 澄める鏡に ことならず 言葉にたえず しきしまに 住みける君も もみぢ葉の たつ田の河に ながるゝを 渡らでこそは をしみけれ 然のみならず からくにゝ 渡りしひとも つきかげの 春日のやまに いでしをば 忘れでこそは ながめけれ かゝるふる事 おぼゆれど 我が身に積る たきゞにて 言葉のつゆも もりがたし 心きえたる はひなれや 思ひのことも うごかれず 志らぬ翁に なりゆけば むつぶる誰も なきまゝに 人をよはひの くさもかれ 我が錦木も くちはてゝ 事ぞともなき 身のうへを あはれあさ夕 何なげくらむ

花山院御製

題志らず

千はやぶる 神の御代より 木綿だすき 萬代かけて いひいだす 千々の言の葉 なかりせば 天つそらなる 志らくもの 知らずも空に たゞよひて 花にまがひし いろ/\は 木々の紅葉と うつろひて よるの錦に ことならず 物思ふやとの ことぐさを 何によそへて なぐさめむ これを思へば いにしへの さかしき人も なには江に いひ傳へたる ふることは 長柄のはしの ながらへて 人をわたさむ かまへをも たくみいでけむ ひだだくみ よろこぼしくは おもへども くれ竹のよの すゑの世に 絶えなむ事は さゝがにの いと恨めしき はまちどり 空しきあとを かりがねの かき連ねたる たまづさは こゝろの如く あらねども 常なきわざと こりにしを 後の世までの くるしみを 思ひも知らず なりぬべみ 露のなさけの なかりせば 人のちぎりも いかゞせむ 谷のうもれ木 朽ちはてゝ 鳥のこゑせぬ おくやまの 深きこゝろも なくやあらまし

左京大夫顯輔

久安の百首の歌奉りける長歌

憂き身には 世のふることも たのまれず いづれか孰れ おぼつかな ことわりなれや まきもくの 檜はらの山の そまびとの うき節志げみ まがり木と 厭ひすてたる 身なれども 心にもあらず たちまじり 悲しきまゝに かりがねの 隙なく鳴けど あはれてふ 言の葉をだに きかせねば なくも行かむも かはらぬを 唯身のとがに なしはてゝ 此世のことを おもひすて 後の世をだにと おもひつゝ うき世の中を 立出づれど 子を思ふ道に まよひつゝ 行くべき方も おぼえねば あまの川なみ たちかへり 空をあふぎて ありあけの 難面き名をも 流しつるかな

反歌

身を知らで云ふはかひなき事なれど頼めば人を思ふ計ぞ

衣笠前内大臣

旋頭歌

述懷の心を

はかなくて世を徒に經し程に我が身は早く六十ぢも近くなりにけるかな

信實朝臣

墨染のそでの千しほにまどはるゝ我が身もて心のはなのいろやなにぞも

源有長朝臣

題志らず

悟ある人の世にふるつみなれやわたつ海に積らで消ゆるなみのうへの雪

俊頼朝臣

折句歌

藤原仲實朝臣の許にうしをかりに遣はしける時萩の枝につけて

恨むとは知らでや鹿のしきりには萩のはひえを柵にする

藤原仲實朝臣

返し

恨めしと鹿をないひそ萩が枝も苅藻にしつゝ過すとぞ見る

前大僧正慈鎭

ひえのみやを

人ごとにえてうれしきは法の花みよの佛のやどの物とて

讀人志らず

春の暮に友だちの許へ、などや久しく訪はぬと云ふ事を折句のくつかぶりに置きて

なほ散れと山風通ひさそふらし雲は殘れど花ぞとまらぬ

後鳥羽院御製

千五百番歌合を折句にて判ぜさせ給うけるに、同じほど

岡のべのならの落葉に時雨降りほの%\出づる遠山の月

俊頼朝臣

さつきやみと云ふ事を

笹の葉の露は暫しも消殘るやよやはかなき身を如何にせむ

重之

物名

但馬の國の出石の宮と云ふ社にて、なのりそと云ふ草を

千早ぶるいづしの宮の神の駒人な乘りそや崇りもぞする

貫之

苅萱

秋の野を分けつゝ行けば花も皆散かゝるかや袖にしむ覽

前中納言定家

さしぐし、日かげ

神山に幾代經ぬらむ榊葉の久しく志めをゆひかけてけり

左近中將具氏

くり、しひ、もちひ

繰り返し祈る心を強ひてなほ神はもちひよもりのしめ繩

讀人志らず

くつ、したうづ、まり

行く月もかげ更けにけりかぢ枕下うつ波の夜のとまりに

志やう、ふえ、ひちりき、こと、びは

うしやうし花匂ふえだに風通ひ散來て人のこととひはせず

從三位頼政

二條院の御時、ひだりまきのふちふち、桐火桶をこめて、河に寄せて歌奉るべきよし仰ありければみづからの名を添へて詠みはべりける

水ひたりまきの淵々落たぎり氷魚けさ如何に寄り増る覽

從三位頼政

正治の百首の歌奉りけるに鳥の五首の中に、はやぶさ

恨みかね絶えにし床は昔はや臥さずなりにきよはのさ莚

しらふの鷹

山里は秋をまつかぜ琴志らぶ野田苅る賤は千世歌ふなり

入道二品親王性助

やくしぼとけを

須磨の浦蜑の苫屋の明くるより燒く鹽とけさ立つ烟かな

中務卿宗尊親王

誹諧

山鶯を

寂しくて人くともなき山ざとにいつはりしける鶯のこゑ

大江千里

題志らず

玉柳みどりの枝のよわければうぐひすとむる力だになし

俊惠法師

よしさらば導べにもせむ今日ばかり花もてむかへ春の山風

忠見

秋毎に刈り來る稻は積みつれど老いにける身ぞ置所なき

藤原仲文

雪の降りける朝院の御粥のおろし給はせて歌詠めと仰せられければ

白雪の降れる旦の白粥はいとよくにたる物にぞありける

藤原實方朝臣

めのとの弓のふくろをとり出でゝ果物を取り入れておこせたりければ

おし張りて弓の袋と知る/\や思はぬ山の物を入るらむ

清輔朝臣

法性寺入道前關白の家に男女房物語してはべりける程に、たき物を包みて出されたりければ爭ひ取りて見るにあらぬ物にて侍りけるたまの日參りたりけるに、昨日のたき物の爭こそをかしくと女房申しける返事に詠める

玉垂のみすのうちより出でしかば空だき物と誰も知にき

光俊朝臣

旅泊を詠める

夕凪にほづゝしめ繩繰りさげて泊りけずらひ寄する舟人

從二位行家

題志らず

我戀は目さへいつかは近江なる安きいをだにぬるよしぞなき

後西園寺入道前太政大臣

入道二品親王性助の家の五十首の歌に

風荒き山田の庵の菰すだれ時雨をかけて洩る木の葉かな

正三位知家

わらびを

今日の日は暮るゝ外山のかぎ蕨明けば又見む折過ぎぬまに

讀人志らず

曉水鷄を聞きて

明くる間をなほたゝくこそ夏の夜の心短き水鷄なりけれ

夜松にて觀音をつくり奉りけるを

ゆふかけし神の北野の一夜松今はほとけの御祓なりけり

從二位行家

冬の歌の中に

たきつ河に亂れし玉のをだえして水の糸すぢ氷しにけり

西行法師

柳隨風と云ふ事を

見渡せば佐保の河原にくりかけて風によらるゝ青柳の糸

前大納言爲家

寳治の百首の歌奉りけるに

つらかきな山の杣木の我ながら打つすみ繩に引かぬ心は

權中納言公雄

文保三年百首の歌奉りける時

大井川かへらぬ水の鵜飼舟つかふと思ひし御代ぞ戀しき
新拾遺和歌集終