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新拾遺和歌集卷第十二 戀歌二
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12. 新拾遺和歌集卷第十二
戀歌二

前大納言爲家

光明峯寺入道前攝政の家の戀の十首の歌合に、寄糸戀

逢ふまでの契も待たず夏引の手びきの糸の戀のみだれは

芬陀利花院前關白内大臣

文保三年百首の歌奉りける時

逢ふ事はなほかた糸にぬく玉の心よわくぞ思ひみだるゝ

八條院高倉

寳治二年百首の歌奉りし時、寄玉戀

消えね唯何ぞはあだの言の葉にかけてもつらき袖の白玉

藤原隆祐朝臣

題志らず

徒に年は經にけり玉の緒のながらへばとも契りやはせし

入道二品親王法守

百首の歌奉りし時、寄篠戀

玉笹の葉分の露の消えぬべく思ふとまでは知る人やなき

讀人志らず

貫之が家の歌合に

秋萩に置く白露の消えかへり人を戀しとおもふころかな

赤染衛門

十月ばかりに女のもとへ遣はさむとて男のよませ侍りけるに

霜枯の野べに朝吹く風の音の身にしむ計り物をこそ思へ

前大納言良教

寄露戀

我が戀は草葉にあまる露なれや置き所なく身を歎くらむ

式子内親王

百首の歌の中に

我が袖はかりにも干めや紅のあさはの野らにかゝる夕露

權大納言公實

堀河院の御時奉りける百首の歌に

憂しとのみ人の心をみしま江の入江の眞菰さぞ亂るらむ

土御門院御製

寄鏡戀の心を

ます鏡戀しき人は見えなくに我が面かげの何うつるらむ

法印定爲

嘉元の百首の歌奉りける時

我がなかは遠山鳥のます鏡よそにも人のかげをやは見る

權中納言實直母

題志らず

山鳥のをろの鏡のよそながら見し面影にねこそなかるれ

鴨祐夏

いつまでかよそにのみして天雲の隔つる中に戀渡るべき

後岡屋前關白左大臣

逢ふ迄と頼をかけし玉の緒の弱るばかりに年ぞ經にける

伊勢大輔

男のずゝを置きてつとめて取りにおこせたりけるに遣しける

人しれぬ思の玉のをだえなば何してあはぬ數をとらまし

壽成門院

題志らず

戀死なぬ命ばかりはおなじ世の契ありとや猶たのまゝし

藻壁門院但馬

寳治の百首の歌奉りける時、寄湊戀

湊入の蘆間を分けてこぐ舟も思ふなかには障らざりけり

讀人志らず

延喜十三年、亭子院の歌合に、戀

蘆間より難波の浦を引く舟の綱手ながくも戀ひ渡るかな

基俊

題志らず

なぞもかく天の戸渡る海士小舟舵とる間なく物思ふらむ

和泉式部

與謝の海の蜑の所爲と見し物をさも我がやくと汐たるゝ哉

道曉法師

逢ふ事は堅田の浦のおきつ浪立つ名ばかりや契なるらむ

後深草院少將内侍

汐垂るゝ身をば思はず異浦に立つ名苦しき夕けぶりかな

後伏見院御製

戀の歌とてよませ給うける

逢ふ事も身には渚に寄る浪のよその見る目にねこそなかるれ

權中納言時光

百首の歌奉りし時、寄藻戀

いつまでか思ひ亂れむ徒におきつ玉藻のみがくれにして

前大納言爲定

文保の百首の歌奉りけるに

如何にせむ唐土船の寄る方も知らぬに騷ぐ袖のみなとを

徽安門院一條

百首の歌奉りし時

逢ふことは浪路遙にこぐ舟のほの見し人に戀ひや渡らむ

前參議爲秀女

題志らず

寄る舟の便はなくていたづらに我が身こがるゝ床の浦浪

賀茂成助

春の立ちける日女の許へ遣しける

春立てば空の景色の變るかなつらき心もかゝらましかば

太宰大貳高遠

櫻の花につけて或る女に遣しける

隔てたる霞の間より散る花は忍ぶに餘るこゝろとを知れ

基俊

年頃物申し渡りけれどいとつれなくてやみ侍りけるに、女のいかゞ思ひけむ、いと面白く咲きたる花をおこせたりければ言ひ遣しける

如何にして花の下紐解けにけむ人の心はありしながらに

洞院攝政左大臣

光明峯寺入道前攝政の家の戀の十首の歌合に、寄帶戀

紫の濃染のおびのかたむすび解けてぬる夜の限知らせよ

後堀河院民部卿典侍

かりそめに結び捨てける下帶をながき契となほや頼まむ

祖月法師

題志らず

思へどもえぞ岩代のむすび松打ちとけぬべき心ならねば

謙徳公

杉立てる宿も教へずつらければ三輪の山邊を誰に問はまし

行乘法師

祈らずよ泊瀬の檜原時雨にも露にも染めぬ色を見むとは

八條入道内大臣

御祓せし神も受けずば立返りつらき人をや又かこたまし

三善爲連

神だにも靡かぬ中のゆふしでは何にかくべき頼なるらむ

前大納言爲定

依戀祈身

戀死なぬ身の難面さを祈るより思絶えぬと神や知るらむ

關白左大臣

百首の歌奉りし時、寄杜戀

時雨する生田の杜の初紅葉日を經てまさる色に戀ひつゝ

從三位行尹

正和五年九月盡日後醍醐院いまだみこの宮と申しける時十首の歌召しけるに、見不逢戀

時雨れ行く雲の絶間の峰の松見ずば難面き程も知られじ

從三位爲理

逢ふ事を暫しはかけじ沖つ浪よそのみるめの絶えもこそすれ

中納言爲藤

いもせ山中なる瀧の音にのみ聞かぬばかりを猶や頼まむ

藤原輔相

人に對面せむといひ送り侍りし返り事は無くて小石を送りければ

逢ふ事の渚にひろふ石なれや見れば涙のまづかゝるらむ

前大納言爲兼

題志らず

海士の刈るみるめはよその契にて汐干も知らぬ袖の浦浪

藤原爲清

海士のたく藻に住む虫に非ねども我から戀に身を焦す哉

前大納言爲世

我が中は浦より遠に置く網の引けども寄らぬ程ぞ苦しき

常磐井入道前太政大臣

女の許に遣しける

うらみても年經る蜑の釣のをのうけくに浮ぶ涙とを知れ

源藤經

寄關戀と云ふ事をよめる

清見潟あふ事なみの關もりは我が通路に打ちもたゆまず

法印長舜

題志らず

關守の心も知らず逢坂を我がかよひ路とおもひけるかな

從二位爲子

嘉元の百首の歌奉りける時

聞くもうし誰を勿來の關の名ぞ行逢ふ道を急ぐこゝろに

前大納言隆房

題志らず

如何にまた心ひとつの通ひ路も末は勿來の關となるらむ

伏見院御製

寄布戀といふ事をよませたまうける

世と共に胸あひ難き我が戀のたぐひもつらき今日の細布

讀人志らず

中納言匡房のいへの歌合に、戀の心を

戀しきもつらきも同じ思ひにてやむ時もなき我が心かな

實方朝臣

戀の歌の中に

哀てふ言の葉いかで見てしがな侘果つる身の慰めにせむ

小少將

あだに置く露の情の言の葉に我が命さへかゝる果敢なさ

源頼康

憂きに猶堪ける年を數ふれば我が難面さの程ぞ知らるゝ

權大納言義詮

聞戀と云ふ事を

存へて同じ浮世にありとのみ聞くや我が身の頼なるらむ

法印良憲

題志らず

つれなさの限も知らず同じ世に命あらばと頼む果敢なさ

前大納言爲兼

かひなしや憂きになしても一方に思ひもこりぬ心弱さは

前中納言隆長

元亨三年八月大覺寺殿に行幸ありて人々題をさぐりて歌仕うまつりける時、不逢戀

逢ふまでは結ばざりける先の世の報しられて憂き契かな

前大納言公蔭

戀契と云ふ事を

世々かけて我さへつらし報ありて憂きに引かるゝ契と思へば

善源法師

戀の歌の中に

報ある世とも知らでや憂き人の心の儘につれなかるらむ

前大納言實教

嘉元の百首の歌奉りける時、不遇戀

あらましに慰むほどの契だにわが心よりおもひ絶えにき

俊惠法師

題志らず

逢ふにだにかへむ命は悲しきに憂き人故に身をや捨つべき

前大納言爲氏

二品法親王性助の家の五十首のうたに

戀死なむ後の世とても如何ならむ生きて難面き人の心は

藤原基任

二品法親王覺助の家の五十首の歌に、不遇戀

難面しとよそにや見えむ逢ふ事に人の換ねばいける命を

金光院入道前右大臣

戀の歌の中に

逢見ての後のつらさをせめてなど歎く計りの思出もがな

法印定煕

さりともと果敢なく頼む心こそつれなき中の契なりけれ

宗惠法師

逢ふ事にかへもこそすれ惜からぬ我が命とは人に語らじ

三善信方

訪はれぬも憂き身の咎と思ふこそせめても慕ふ心なりけれ

殷富門院大輔

何か思ふ強ても言はじうき身をは厭ふもさこそ苦しかるらめ

寂蓮法師

千五百番歌合に

伊勢の海の潮瀬に靡く濱荻の程なきふしに何しをるらむ

冷泉前太政大臣

建長二年、鳥羽院にて、寄水戀を

せきとむる山井の水の影にだに見ずば袂を絞らましやは

永福門院

題志らず

人心淺きにまさるおもひ川浮瀬に消えぬみづからもうし

藤原頼清朝臣

人知れぬ心のうちのおもひ川流れて末のたのみだになし

按察使實繼

百首の歌奉りし時、寄橋戀

年を經て戀ひわたる身の苦しさを哀とは思へ宇治の橋姫

源頼康

寄川戀

思ひかね宇治の川長こととはむ身の浮舟も寄るべありやと

大藏卿有家

名所の歌の中に

最上川人のこゝろのいな舟も暫しばかりと聞かば頼まむ

式乾門院御匣

題志らず

水の上の泡と消えなば戀瀬川ながれて物は思はざらまし

前參議爲秀

そこひなき淵となりても涙川したに心のさわぎやはせぬ

山本入道前太政大臣

逢ふ瀬なき涙の川の澪標つらきしるしに朽ちや果てなむ

權大僧都信聰

いかなれば人に心をそめ河の渡らぬ瀬にも袖ぬらすらむ

前中納言匡房

すけしげがむすめを云ひ渡りけるに下野守よしつなに逢ひぬと聞きて云ひ遣しける

烟立つ室の八島にあらぬ身はこがれし事ぞ悔しかりける

平忠度朝臣

戀の歌の中に

浮世をば歎きながらも過し來て戀に我身や堪ずなりなむ

法印村基

さてしもぞ命は最ど惜からむ逢ふにはかへじ戀は死ぬとも

伴周清

逢ふ事にかへぬ命ぞよそながらなか/\長き契なりける

小侍從

身の憂さを思ひも知らぬ物ならば何をか戀の慰めにせむ

鷹司院帥

寳治の百首の歌奉りける時、寄枕戀

敷妙の枕もうとくなるまでにさても寢ぬ夜の積りぬる哉

源頼隆

題志らず

戀ひ侘ぶる袖の涙をその儘にほさでかた敷く夜半のさ莚

源宗範

逢ふ事はかたしき衣さ莚に寢ぬ夜かさねて濡るゝ袖かな

藤原雅冬朝臣

百首の歌奉りし時、寄衣戀

ひとりぬる泪の床の濡衣逢ふ夜も知らで朽ちや果てなむ

鷹司院按察

戀の歌の中に

幾夜われおしあけ方の月影にことわりならぬ物思ふらむ

後醍醐院御製

おのづから慰むやとて眺むれば月見ぬよりも濡るゝ袖哉