University of Virginia Library

Search this document 

 1. 
 2. 
 3. 
 4. 
collapse section5. 
新拾遺和歌集卷第五 秋歌下
 413. 
 414. 
 415. 
 416. 
 417. 
 418. 
 419. 
 420. 
 421. 
 422. 
 423. 
 424. 
 425. 
 426. 
 427. 
 428. 
 429. 
 430. 
 431. 
 432. 
 433. 
 434. 
 435. 
 436. 
 437. 
 438. 
 439. 
 440. 
 441. 
 442. 
 443. 
 444. 
 445. 
 446. 
 447. 
 448. 
 449. 
 450. 
 451. 
 452. 
 453. 
 454. 
 455. 
 456. 
 457. 
 458. 
 459. 
 460. 
 461. 
 462. 
 463. 
 464. 
 465. 
 466. 
 467. 
 468. 
 469. 
 470. 
 471. 
 472. 
 473. 
 474. 
 475. 
 476. 
 477. 
 478. 
 479. 
 480. 
 481. 
 482. 
 483. 
 484. 
 485. 
 486. 
 487. 
 488. 
 489. 
 490. 
 491. 
 492. 
 493. 
 494. 
 495. 
 496. 
 497. 
 498. 
 499. 
 500. 
 501. 
 502. 
 503. 
 504. 
 505. 
 506. 
 507. 
 508. 
 509. 
 510. 
 511. 
 512. 
 513. 
 514. 
 515. 
 516. 
 517. 
 518. 
 519. 
 520. 
 521. 
 522. 
 523. 
 524. 
 525. 
 526. 
 527. 
 528. 
 529. 
 530. 
 531. 
 532. 
 533. 
 534. 
 535. 
 536. 
 537. 
 538. 
 539. 
 540. 
 541. 
 542. 
 543. 
 544. 
 545. 
 546. 
 547. 
 548. 
 549. 
 550. 
 551. 
 552. 
 553. 
 554. 
 555. 
 556. 
  
 6. 
 7. 
 8. 
 9. 
 10. 
 11. 
 12. 
 13. 
 14. 
 15. 
 16. 
 17. 
 18. 
 19. 
 20. 

5. 新拾遺和歌集卷第五
秋歌下

後嵯峨院御製

題志らず

神代より幾よろづ代になりぬらむ思へば久し秋の夜の月

俊惠法師

澄み昇る心やそらに立ち添ひて今夜の月の影となるらむ

爲道朝臣

伏見院に月の十五首の歌奉りける時

吹き拂ふ嵐のまゝに顯はれて木の間さだめぬ月の影かな

伏見院御製

卅首の歌召しけるついでに

秋風の閨すさまじく吹くなべに更けて身にしむ床の月影

前中納言定家

建仁二年、石清水の歌合に、月照海邊

荒れにけり潮汲む海士の苫びさし雫も袖も月やどるまで

太宰大貳重家

秋の歌の中に

諸共に波の上にもやどるかな月も明石やとまりなるらむ

前參議家親

見慣ても五十ぢになりぬ夜はの月分きて忍ばむ秋は無けれど

源頼康

入道二品親王覺譽の家の五十首の歌に

見るまゝに思ひも晴るゝ月影や心を照すかゞみなるらむ

前大納言爲家

家の十五首の歌に、月

天の原光さし添ふかさゝぎのかゞみと見ゆる秋の夜の月

中務卿宗尊親王

題志らず

更け行けば月影寒しかさゝぎの夜渡る橋に霜や冴ゆらむ

前中納言實任

文保三年百首の歌奉りける時

いにしへの眞澄の鏡世々かけて神路の山に照すつきかげ

中納言爲藤

正和五年九月十三夜、後醍醐院みこの宮と申しける時五首の歌講ぜられけるに、月前松風

足曳の山の端たかく澄む月に松吹く風のおとぞ更け行く

鎌倉右大臣

秋の歌の中に

天の原ふりさけ見れば月清み秋の夜いたく更けにける哉

藤原爲業

難波潟芦間を分けて漕ぐ舟のおとさへ澄める秋の夜の月

從二位家隆

春日野に朝居る雲の跡もなく暮るれば澄める秋の夜の月

前參議定宗

入道二品親王覺譽の家の五十首の歌に

名に高き秋のなかばの中空に雲もおよばず澄める月かな

二條太皇太后宮攝津

水上秋月と云ふ事を

池水に映れる影ものどかにて秋の夜すがらすめる月かな

前大納言爲氏

建長元年九月十三夜鳥羽殿にて水郷月といへる事を仕うまつりける

高瀬さす淀のわたりの深き夜にかはかぜ寒き秋の月かげ

源有長朝臣

題志らず

白妙の富士の高嶺に月冴えてこほりを敷けるうき島が原

後京極攝政前太政大臣

建仁三年、仙洞の十首の歌合に、河月似氷といふ事を

是もまた神代は聞かず龍田川月のこほりに水くゝるとは

法印淨辨

題志らず

杉立てる門田の面の秋風に月かげさむき三輪のやまもと

安嘉門院四條

露ながら洩りくる月を片しきて鳥羽田の庵に幾夜寐ぬ覽

法眼行經

入道二品親王覺譽の家の五十首の歌に

いかばかり光添ふらむ月影の夜な/\磨く露のしらたま

道濟

題志らず

誰れ住みて哀知るらむ常磐山おくの岩屋のありあけの月

清原深養父

草ふかく寂しからむと住む宿の有明の月に誰を待たまし

眞昭法師

前大納言頼經の家にて月の十首の歌詠み侍りけるに

月影のさびしくも有るか高圓の尾上の宮のありあけの空

清輔朝臣

法性寺入道前關白太政大臣月の歌あまた人々に詠ませけるに詠める

終夜我れを誘ひて月かげの果はゆくへも知らで入りぬる

讀人志らず

海邊月を

とまるべき方をも志らず漕ぎ出でゝ月を限の秋のふな人

前大納言爲世

難波に月見に罷りて五首の歌詠み侍りけるに、海上曉月といふ事を

浪の上に映れる月は在りながら伊駒の山の峯ぞ明け行く

中納言爲藤

難波潟いり潮近くかたぶきて月より寄する沖つしらなみ

法皇御製

題志らず

秋風の夜床を寒み寢ねがてにひとりし在れば月傾ぶきぬ

後鳥羽院御製

春日の社の歌合に曉月と云ふ事を詠ませ給うける

足引の山の木枯吹くからにくもる時なきありあけのつき

寂蓮法師

題志らず

野邊は皆思ひしよりもうら枯れて雲間にほそき有明の月

大藏卿有家

建長三年、内裏の秋の十五首の歌合に、秋雨

日ぐらしの鳴く夕暮の浮雲に村雨そゝぐもりのしたぐさ

正三位知家

建保四年、内裏の歌合に

蜩の鳴く山かげは暮れぬらむ夕日かゝれる嶺のしらくも

後鳥羽院御製

秋の御歌の中に

秋風や潮瀬の波に立ちぬらむ芦の葉そよぐゆふぐれの空

後京極攝政前太政大臣

正治の百首の歌奉りける時

亂れ芦の穗むけの風の片よりに秋をぞ寄する眞野の浦浪

御製

鹿を

男鹿鳴く岡邊のわさ田穗に出でゝ忍びもあへず妻や戀ふ覽

後嵯峨院御製

建長二年鳥羽殿にて野外鹿と云ふ事を詠ませ給うける

秋の野の尾花が本に鳴く鹿も今は穗に出でゝ妻を戀ふらし

法印定爲

嘉元の内裏の卅首の歌に

結び置く野原の露の初尾花我がたまくらと鹿や鳴くらむ

左兵衛督直義

秋の歌の中に

月影の入る野の薄打ちなびきあかつき露に鹿ぞ鳴くなる

前大納言經繼

後醍醐院いまだみこの宮と申しける時、五首の歌講ぜられけるに、月前聞鹿

高砂の尾上の月に鳴く鹿の聲澄みのぼるありあけのそら

權大納言義詮

百首の歌奉りし時、鹿

妻戀の涙や落ちて小男鹿の朝立つ小野のつゆと置くらむ

西行法師

同じ心を

かねてより心ぞいとゞ澄みのぼる月待つ峯の小男鹿の聲

中納言爲藤

元亨三年九月十三夜後宇多院に三首の歌講ぜられけるに、月前鹿

小倉山秋は今宵と小男鹿の妻とふみねに澄めるつきかげ

前大納言爲氏

建長二年八月十五夜鳥羽殿にて曉鹿といへる事を仕うまつりける

つれなさのためしは知るや小男鹿の妻とふ山の有明の空

常磐井入道前太政大臣

弘長元年百首の歌奉りける時、鹿

男鹿鳴く外山のすその柞原いろに出でゝや妻を戀ふらむ

左近大將師良

題志らず

鹿の音ぞ空に聞ゆる夕霧のへだつる方やをのへなるらむ

權中納言通俊

承保二年九月、殿上の歌合に、朝霧

山里は霧立ち籠めて人も無し朝立つ鹿のこゑばかりして

源家清

題志らず

さらでだに寐覺悲しき秋風に夜しもなどか鹿の鳴くらむ

西園寺内大臣

山里の鹿の鳴く音ぞ長き夜の寐覺の友と聞きなれにける

小野小町

妻戀ふる小男鹿の音に小夜更て身の類をも有りと知ぬる

入道二品親王尊圓

高砂の松を友ともなぐさまでなほ妻ごひに鹿ぞなくなる

増基法師

高砂や松の木ずゑに吹く風の身にしむ時ぞ鹿もなきける

康資王母

四條太皇太后宮の歌合に、鹿を

色に出でゝ秋しも鹿のなくなるは花の折とや妻は頼めし

藤原雅家朝臣

野鹿と云へる事を

名にめでゝ妻や戀ふらむ女郎女多かる野邊の小男鹿の聲

從二位家隆

小男鹿の夜はの草ぶし明けぬれど歸る山なき武藏野の原

清輔朝臣

前參議經盛の家の歌合に

鹿の音の吹き來る方に聞ゆるは嵐や己がたちどなるらむ

從三位爲理

二品法親王覺助の家の五十首の歌に、夜鹿

夜を寒み妻や戀ふらむあしびきの山下風に鹿ぞなくなる

前大納言爲氏

弘安元年百首の歌奉りける時

夕日さす田のもの稻葉打ち靡きやまもと遠く秋風ぞふく

花園院御製

百首の御歌の中に

夕日さす田のもの稻葉末遠みなびきも果てずよわる秋風

中園入道前太政大臣

百首の歌奉りし時、秋田

白鳥の鳥羽田の穗波ふきたてゝもる庵さむき秋のやま風

權中納言公雄

文保三年百首の歌奉りける時

明け渡る山もと遠く霧晴れて田のもあらはに秋風ぞふく

上西門院兵衛

久安の百首の歌に

きり%\す壁のなかにぞ聲すなる蓬が杣に風やさむけき

大藏卿隆博

永仁元年八月十五夜後宇多院に十首の歌召しけるに、秋虫を

秋を經てなるゝ枕の蟋蟀知るや五十ぢのなみだ添ふとは

順徳院御製

題志らず

淺茅生や床は草葉の蟋蟀なく音もかるゝ野べのはつしも

前參議爲實

虫の音は淺茅が露にうらがれて夜さむに殘る有明のつき

前大納言爲世

聞けば早うらがれにけり淺茅原虫の音までも霜や置く覽

後光明照院前關白左大臣

文保の百首の歌奉りける時

秋深き淺茅が庭の霜の上に枯れても虫のこゑぞのこれる

中納言爲藤

夜を寒み枯れ行く小野の草蔭によわりも果てぬ虫の聲哉

讀人志らず

月前虫といふ事を詠める

長月の在明のかげに聞ゆなり夜を經てよわる松虫のこゑ

彈正尹邦省親王

家の五十首の歌に

分きてなほ哀に堪へぬ時ぞとや夕は虫のねにも立つらむ

花山院御製

寛和元年八月十日殿上に出でさせ給うて歌合せさせ給うけるに

秋來れば虫もや物を思ふらむこゑも惜まずなき明すかな

信明朝臣

題志らず

待つ人にいかに告げまし雲の上に仄かに消ゆる初雁の聲

延喜御製

秋風もふき立ちにけり今よりは來る雁がねの音をこそ待て

中納言家持

霧分けて雁は來にけり隙もなく時雨は今や野邊を染む覽

後九條前内大臣

雁なきて寒きあしたや山城のいは田の小野も色變るらむ

藤原雅冬朝臣

百首の歌奉りし時、雁

今よりの秋の寐覺よいかならむ初雁がねもなきて來に鳬

僧正行意

名所の百首の歌奉りける時

水莖の岡の葛葉を吹く風にころも雁がねさむくなくなり

伏見院御製

題志らず

雁がねは雲居がくれになきて來ぬ萩の下葉のつゆ寒き頃

相摸

故里を雲居になしてかりねがのなか空にのみなき渡る哉

寂蓮法師

後鳥羽院に五十首の歌奉りける時

なき渡る雲居の雁もこゝろ知れこぬ人たのむ秋風のころ

紀友則

題志らず

初雁のなき渡りぬる雲間より名殘おほくて明くる月かげ

坂上是則

幾千里ある道なれや秋ごとに雲居を旅とかりのなくらむ

平政村朝臣

つらかりし春の別は忘られて哀とぞ聞くはつかりのこゑ

平義政

天の河とわたる雁やたなばたの別れしなかにかよふ玉章

西行法師

入夜聞雁といへる事を詠める

鳥羽に書く玉章のこゝちして雁なき渡るゆふやみのそら

從三位親子

伏見院の三十首の歌に

晴やらぬ朝げの空の霧の内につらこそ見えね渡る雁がね

御製

百首の歌召されし時、雁

隔つとは見えで間遠く聞ゆなり霧の上行く初かりのこゑ

後西園寺入道前太政大臣

性助法親王の家の五十首の歌に

夕されば雲に亂れて飛ぶかりのゆくへ定めず秋風ぞふく

躬恒

題志らず

秋風に山飛び越えて來る雁の羽むけに消ゆる嶺のしら雲

前參議實名

百首の歌奉りし時、雁

小山田のをしね雁がねほにあげてなく聲聞けば秋更けに鳬

從三位爲信

秋田を詠める

雁なきて夜寒になれば初霜のおくての稻葉色づきにけり

中納言爲藤

正和五年九月十三夜、後醍醐院みこの宮と申しける時五首の歌に、月前擣衣

秋深き月の夜さむにをりはへて霜よりさきと擣つ衣かな

權中納言具行

里人の砧のおともいそぐまで月や夜さむの霜と見ゆらむ

後醍醐院御製

元弘三年九月十三夜、三首の歌召しけるついでに同じ心を

聞き侘びぬ葉月長月長き夜の月の夜さむにころも擣つ聲

中園入道前太政大臣

貞和二年百首の歌奉りける時

長月の月も夜さむの寢ねがてに起き居て誰れか衣擣つ覽

前大納言爲定

元弘三年九月十三夜、内裏の三首の歌に、月前擣衣といふ事を

あくがれて月見る程の心にも夜寒わすれず擣つころも哉

從二位行忠

入道二品親王覺譽の家の五十首の歌に

夜もすがらあきの心をなぐさめて月に擣つなり麻のさ衣

權少僧都經賢

鳥の音の聞ゆるまでに里人の寢ぬ夜もしるく擣つ衣かな

正三位經朝

寳治二年百首の歌奉りける時、聞擣衣といふ事を

誰が爲に麻のさ衣うち侘びて寐られぬよはを重ね來ぬ覽

芬陀利花院前關白内大臣

文保の百首の歌奉りける時

津の國の芦ふくこやの夜を寒み隙こそ無けれ衣擣つこゑ

後三條前内大臣

貞和二年百首の歌奉りけるに

小夜衣誰が寢覺より擣ちそめて千里の夢をおどろかす覽

前參議爲秀

題志らず

立ち籠むる霧の籬の夕月夜うつれば見ゆる露のしたぐさ

前大納言爲家

寳治の百首の歌奉りける時、重陽宴を

諸人の今日九重に匂ふてふ菊にみがけるつゆのことの葉

關白前左大臣

百首の歌奉りし時、菊

長月の豐のあかりは名のみして今は昔にきくのさかづき

堀河中宮

黒戸の前に菊を植ゑられたりけるを

咲きぬればよそにこそ見れ菊の花天つ雲居の星に紛へて

貫之

延喜十八年、女四のみこの屏風に

何れをか花とは分かむ長日の有明の月にまがふしらぎく

大炊御門右大臣

崇徳院の御時菊送多秋と云ふ事を仕うまつりける

幾返り千とせの秋に逢ひぬらむ色もかはらぬ白菊のはな

法眼行濟

入道二品親王性助の家に菊を植ゑさせける時詠める

移し植ゑば千代まで匂へ菊の花君が老いせぬ秋を重ねて

土御門右大臣

長暦二年九月、歌合に

匂こそ紛れざりけれ初霜のあしたの原のしらぎくのはな

讀人志らず

寛平の御時菊合に紫野の菊を詠める

名にし負へば花さへ匂ふ紫の一もと菊に置けるはつしも

人丸

題志らず

天雲のよそに雁がね聞きしよりはだれ霜降り寒し此夜は

故里の初もみぢ葉を手折もて今日ぞ我がくる見ぬ人の爲

讀人志らず

時待ちて送る時雨のあまそゝぎ淺香の山は移ろひぬらむ

洞院攝政左大臣

家の百首の歌に

初時雨まだ降らなくに片岡のはじの立枝は色づきにけり

從二位爲子

嘉元の百首の歌奉りける時

秋山はしぐれぬさきの下紅葉かつ%\露や染め始むらむ

大藏卿長綱

題志らず

よそに見し雲やしぐれて染めつらむ紅葉して鳬葛城の山

崇徳院御製

百首の歌召しける時詠ませ給うける

いり日さす豐旗雲に分きかねつ高間の山の峯のもみぢ葉

二品法親王覺助

弘安元年百首の歌奉りける時

夕日影さすや高嶺のもみぢ葉は空も千しほの色ぞ移ろふ

前關白左大臣近衛

百首の歌奉りし時、紅葉

花ならば移ろふ色や惜しからむ千入を急ぐ秋のもみぢ葉

彈正尹邦省親王

龜山殿の千首の歌に、同じ心を

いつの間に千入染む覽昨日よりしぐると見えし峯の紅葉は

前大納言爲家

題志らず

敷島や大和にはあらぬ紅の色の千しほに染むるもみぢ葉

權僧正果守

足引の山の紅葉やぬしなくて晒せる秋のにしきなるらむ

正三位成國

いつの間に賤機山の初時雨そめて紅葉のにしき織るらむ

藤原清正

しぐるれば色まさりけり奥山の紅葉の錦濡れば濡れなむ

人丸

紅のやしほの雨はふり來らし龍田の山のいろづく見れば

清輔朝臣

小倉山木々の紅葉のくれなゐは峯の嵐のおろすなりけり

大納言公實

承保三年大井河に行幸の日詠める

水の綾を唐紅に織りかけて今日の行幸に逢へるもみぢ葉

大納言齋信

小一條院大井河におはしましける時、紅葉浮水と云ふ事を

秋深くなり行くときは大井河なみの花さへ紅葉しにけり

大中臣頼基朝臣

紅葉を

水庭に影のみ見ゆるもみぢ葉は秋の形見に波やをるらむ

萬秋門院

秋の歌の中に

山姫の心のまゝに染めなさば紅葉にのこる松やなからむ

信生法師

高嶺より紅葉ふきおろす山風やふもとの松の時雨なる覽

今出川院近衛

變らじな常磐の杜の村時雨よそのもみぢに秋は見ゆとも

僧正良瑜

兼ねてより移ろふ秋の色もなほしぐれて増る神南備の森

中納言定頼

紅葉送秋といふ事を

降り積る紅葉の色を見る時ぞ暮れ行く秋は先知られける

前大納言公任

秋の暮つ方白河に罷りて詠み侍りける

都出でゝ何に來つらむ山里のもみぢ葉見れば秋暮にけり

讀人志らず

陽成院の御時、歌合に

年毎にとまらぬ秋と知りながら惜む心のこりずも有る哉

刑部卿範兼

殘秋の心を

明日も猶暮れ行く秋は有る物ををしむ心を今日盡しつる

内大臣

百首の歌奉りし時、九月盡

暮れ果つる秋の形見と明日や見む袖に涙のつゆを殘して

平經正朝臣

福原に侍りける頃人々長月の晦日の日わたに罷りて海邊九月盡の心を詠み侍りけるに

いり日さす方を詠めてわたの原波路の秋を送る今日かな

大納言通具

千五百番歌合に

弱り行く虫の音にさへ秋暮れて月も有明になりにける哉

後醍醐院御製

いまだみこの宮と申しける時十首の歌召しけるついでに暮秋霜といふ事を詠ませ給うける

行く秋の末野の草はうら枯れて霜に殘れるありあけの月

從二位家隆

題志らず

有明の仄かに見えし月だにも送らぬ空にかへるあきかな
[_]
[2] Kanji in place of A is not available in the JIS code table. The kanji is Morohashi's kanji number 21117.