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新拾遺和歌集卷第十九 雜歌中
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19. 新拾遺和歌集卷第十九
雜歌中

御製

百首の歌めされしとき、曉

ことしげき我が習はしにおきなれて聞けば夜深き鳥の聲哉

後醍醐院御製

題志らず

ほのかなる聲ぞ聞ゆる九重の宮のほかにや鳥は鳴くらむ

前大納言爲世

嘉元の百首の歌奉りし時、曉

長閑なる老の寢覺の寂しきに鳥の八聲をかぞへてぞ聞く

源氏經朝臣

題志らず

治まれる時をぞ告ぐる我が君の代に逢坂の關のとりのね

二品法親王覺助

嘉元の百首の歌奉りし時

こととひしみゆきの跡は世々ふりて殘る川邊の松ぞ木高き

前中納言定家

名所の百首の歌奉りけるに

待ち戀ひし昔は今に忍ばれてかたみ久しきみつのはま松

信明朝臣

題志らず

うちつけに渚の岡の松かぜを空にも浪のたつかとぞ聞く

前大僧正孝覺

與謝の浦入海かけて見わたせば松原とほき天のはしだて

從三位行尹

清見潟おきつしほせの夕なぎに入日うつろふ三保の松原

花園院御製

三十首の歌詠ませ給うけるに

難波潟浪路はれゆく夕なぎに入日まぢかき淡路しまやま

御製

百首の歌めされし時、眺望

松浦潟もろこしかけて見渡せば浪路も八重の末のしら雲

按察使公通

保延元年、内裏の歌合に、海上遠望

波間より仄かに見ゆる蜑小舟雲とともにも消え渡るかな

平泰時朝臣

題志らず

哀なり蜑のまてがた暇なみ誰れもさてこそ世は盡せども

法印定爲

嘉元の百首の歌奉りし時、山

富士のねを田子の浦より見渡せば烟も空にたゝぬ日ぞなき

法皇御製

題志らず

よるの雨の雲吹き拂ふ朝嵐に晴れてまぢかき遠の山のは

龜山院御製

嘉元の百首の歌めしけるついでに、松

徒にみのゝを山のまつこともなき我ながら年ふりにけり

前大僧正道昭

大峯にて詠み侍りける

今はわれ苦しき老の坂こえて又分け侘ぶるすゞのした道

修理大夫顯季

題志らず

雲かゝる青ねが峯のこけ莚幾代經ぬらむ知るひとぞなき

前大納言實教

幾世しも隔てぬものを位山のぼりし跡になどまよふらむ

祝部成仲

天台座主忠尋僧正になりて程なく又法務になりぬと聞きてよろこびに遣しける

日にそへて位の高く成行けば山のかひある君とこそ見れ

藤原爲邦

前參議爲秀いまだ四品に侍りける頃、寄山述懷といへる心をよめる

位山まだ椎柴のかげに居て我がのぼるべき道はいそがず

太宰大貳重家

清輔朝臣、四位して侍りけるに遣しける

武藏野のわか紫の衣手はゆかりまでこそうれしかりけれ

藤原朝尹朝臣

かうぶり給はりて後、又藏人にかへりなり侍りける時詠める

同じくばあけの衣の色ながらいかで雲居に立ち歸らまし

月花門院

百首の御歌の中に、鶴をよませ給うける

たぐひなく哀とぞ聞く小夜ふけて雲居に渡るたづの一聲

順徳院御製

名所の百首の歌めしけるついでに

芦邊より潮滿ちくらし天つ風吹飯の浦にたつぞ鳴くなる

天暦御製

忠見津の國に年頃身を沈めて侍りけるにおほやけ聞しめして召し侍りければよる參りて侍りけるつとめてありとしの朝臣して仰せられける

見しかども誰とも知らず難波潟波の夜にて歸りにしかば

忠見

御返し

住吉の松と仄かに聞きしかば滿ちにし潮のよる歸りけむ

讀人志らず

應和二年、一宮の歌合に

田子の浦の波はのどけし我袖に譬へむ方のなきぞ悲しき

前大納言爲世

文保三年百首の歌奉りける時

立歸り和歌の浦波この御世に老いて再びなをぞかけつる

善源法師

題志らず

沖つ波高師の濱の志ほ風に夜や寒からしたづぞなくなる

中宮大夫公宗母

貞和の百首の歌めされし時

斯しつゝ積れば老の水無瀬川さのみや有りて袖濡すべき

後嵯峨院御製

題志らず

龜山のみねたちこえて見渡せばきよたき川をおとす筏師

中園入道前太政大臣

貞和の百首の歌奉りけるに

渡りする川瀬の舟にさす棹の其名ばかりはとるも苦しな

俊頼朝臣

河を詠める

大井川みなわさかまく岩淵にたゝむ筏のすぎがたの世や

亭子院御製

宮瀧御覽じて歸らせ給ふとて立田山をこえさせ給うける日、時雨の志侍りければ

世の中にいひながしてし立田川みるに涙ぞ雨と降りける

前内大臣

題志らず

世々絶えぬ關の藤川いかなれば沈む浮瀬に名を流すらむ

平兼盛

荒れたる宿にてよめる

岩間より出づる泉ぞむせぶなる昔を忍ぶ戀にやあるらむ

能因法師

音無の瀧にて

都人きかぬはなきを音なしの瀧とは誰か云ひはじめけむ

西行法師

大覺寺の瀧殿の石ども閑院へわたされて跡なくなりたると聞きてみにまかりて赤染衛門が、いまだにかゝりとよみけむ折、思ひ出でられて

今だにもかゝりと云ひし瀧つ瀬の其の折迄は昔なりけむ

法印定圓

志ばし世をのがれてこもりゐて侍りけるに勅命のがれ難くて又公請にしたがふとて心の内に思ひつゞけゝる

又世にも立ち歸るかなすゝぎえぬうき三輪河の水の白波

祝部成久

題志らず

待たれつるこのせも過ぎぬ君が代に阿武隈川の名を頼め共

紫式部

里の名を我が身に知れば山城の宇治の渡りぞ最ど住憂き

三條院御製

世を歎かせ給うて

つく%\と浮世に咽ぶ河竹のつれなき色はやる方もなし

右大臣

百首の歌奉りし時、庭竹

家の風なほ吹きたえず十代餘り又かげなびく庭のくれ竹

正三位有範

竹をよめる

呉竹のよゝの君には仕へきぬ思出のこるひとふしもがな

前中納言爲相

空しきを友とはすれど呉竹のうき節ばかり身にぞ數そふ

從二位家隆

千五百番歌合に

存へてあればぞあへる君が代に數ならずとも身をば厭はじ

後山本前左大臣

嘉元の百首の歌奉りし時、述懷

おろかなる我が身にむけて思ふには君が惠の猶餘りぬる

六條内大臣

後醍醐院御受禪のほど近くなりて後宇多院西園寺に御幸侍りけるに仕うまつりて詠める

老らくの白髮までに仕へきて今日の御幸に逢ふが嬉しさ

前大納言爲家

弘長元年百首の歌奉りけるとき、述懷

傳へくる庭の教のかたばかり跡あるにだに猶まよひつゝ

院御製

題志らず

敷島の道は正しきみちにしも心づからやふみまよふらむ

民部卿爲明

康安二年三月古今集の家の説聞こしめされし事を傳へ承りて、按察使實繼その儀を尋ね侍りしに

塵の身に積れる庭の教までいともかしこく聞えあげてき

按察使實繼

返し

和歌の浦に年ふるたづの雲居まで聞えあげゝる道ぞ畏き

從二位行家

續古今の竟宴の歌

志き島の道の光とまき/\の中にみがける玉を見るかな

前大納言爲氏

弘安元年百首の歌奉りけるに

古の世々に變らず傳へきて今もあつむるやまとことの葉

等持院贈左大臣

貞和の百首の歌奉りし時

古のかしこきみちをまなべども心をかふる人ぞすくなき

中納言爲藤

月の歌とてよめる

三笠山その名をかけて見し秋も遙になれる峰のつきかげ

前大納言爲氏

弘安の百首の歌奉りける時

めぐり逢ふ雲居の月に幾度か出でゝ仕へし秋を戀ふらむ

前關白左大臣近衛

從三位

[_]
[7]E
子八月十五夜に、位記をうけ侍りける時、詠み侍りける

今宵しも光そへけるくらゐ山かひある秋の月を見るかな

藤原高範

藏人にて侍りけるがかうぶり給はりて後よめる

位山のぼる我が身のいかなれば雲居の月に遠ざかるらむ

前中納言雅孝

貞和の百首の歌奉りし時

齡こそいつよをこえめ位山たえにし跡にまたのぼるかな

八條入道内大臣

題志らず

二代迄承繼ぐ君をわが君と仰ぐ八十ぢの身こそふりぬれ

後中院前太政大臣

なゝそぢの袖の涙にやどりきて老をば月ぞ厭はざりける

法印長舜

むそぢ餘り同じ空行く月を見て積れる老の程ぞ知らるゝ

彈正尹邦省親王

家に五十首の歌よみ侍りけるに、月

身のうさの慰むとしはなけれ共夜はすがらに月を見る哉

前大納言爲氏

月の歌の中に

おのづから物思ふ人も慰さめと浮世に秋の月やすむらむ

惠慶法師

人の家に女どもの月みける所にて

我宿の物とだに見ば秋の夜の月夜よしとも人に告げまし

藤原爲顯

弘安の百首の歌奉りし時

和歌の浦に沈み果てにし捨舟も今人並の世にひかれつゝ

源成實朝臣

寄草述懷

藻鹽草かきおく數は積れども又あらはるゝ言の葉ぞなき

伏見院御製

竹林院入道左大臣いまだ右大將に侍りける頃、御製をあまたあそばして給はせける奥に

かきとむる此水莖の變らずばなからむ跡の形見とも見よ

後二條院御製

御歌ども書きおかれたる卷物のおくに

我が身世になからむ後に哀れとは誰れか岩間の水莖の跡

從二位行忠

文和三年十一月、大甞會の悠紀方の額書とて代々の古本をみ侍りて

見る度に思ひぞ出づる水莖の跡は忘れぬ代々のかたみを

大納言經信

人の手本かゝせけるを主はたれぞと尋ねけれども中さず侍りければおくに書き侍りける

誰かすむ宿の妻とも知らなくにはかなくかける小蟹の跡

讀人志らず

屏風の繪に花の木ある家に人來りてあるじに向ひゐたる所

心ひく宿にくらして梓弓かへらむほどをわすれぬるかな

贈法印慈應

右近大將道綱の家に人々小弓射てあそびける時、まかり侍らで申し遣しける

梓弓居てもかひなき身にしあれば今日の圓居にはづれぬる哉

道命法師

返し

梓弓君しまとゐにたぐはねばとも離れたる心地こそすれ

中園入道前太政大臣

貞和二年百首のうた奉りける時

五代まで君に仕へてとしさむき松の心はならひきにけり

前大僧正實伊

山家の歌とてよみ侍りける

高砂の尾上に見ゆる松の戸は誰が世を盡すすみかなる覽

平貞秀

述懷の歌に

待ちいでゝ見るも難面き我身かなすむべき山の有明の月

中園入道前太政大臣

百首の歌奉りし時、山家

あらましの心は行きてすみ乍らよそは深山の雲ぞ隔つる

戒仙法師

山にのぼりて詠める

雲ならで木高き峯にゐる物は浮世を背く我が身なりけり

前律師永觀

禪林寺にて時鳥を聞きて

志のびねも音なかりけり郭公こやしづかなる林なるらむ

惟宗行冬

題志らず

尋入るかひやなからむ山深くすむともすまぬ心なりせば

前僧正慈快

柴の戸の暫しばかりのすまひぞと慰めて聞く軒のまつ風

頓阿法師

庵室の庭の松を仙洞にうつされける時むすびつけ侍りける

友ときく松の嵐も音せずばなほやま里やさびしからまし

法皇御製

御返し

さびしさを思ひこそやれ山里の友と聞きけるまつの嵐に

前大納言爲家

弘長の百首の歌に、山家

垂乳根の昔の跡と思はずば松のあらしやすみうからまし

後鳥羽院御製

建仁三年、八幡宮の歌合に、山家松

都人とはぬ程をも思ひ知れ見しより後のにはのまつかぜ

藤原冬隆朝臣

山家を

憂き事を聞かじとてすむ山里に又や厭はむ峯のまつかぜ

法皇御製

題志らず

あす知らぬ身はかくてもや山深み都は八重の雲に隔てゝ

藤原高光

山深く住み侍りし頃人のとぶらひきて侍りけるによめる

山深み木の葉の露を打拂ひいつまでされば消え殘るらむ

讀人志らず

題志らず

侘びぬれば松の嵐の寂しさも堪へてすまるゝ山の奥かな

法印梁清

尋ね入る深山の奥の隱れがは世のうき事や導べなるらむ

只皈法師

つねにすむ心の内の隱れがぞ人のとひくる道なかりける

按察使公敏

山家の歌とて

とふ人のあらばと待ちし山里は猶世をすてぬ心なりけり

源顯氏

人とはぬ程も知られて山里は苔のみ深きにはのかよひぢ

源頼仲

栞せで入りにし道のかひありて人もとひこぬ山の奥かな

藻壁門院少將

洞院攝政の家の百首の歌に

さらぬだぬ夕暮つらき山里にとふ人かへる岩のかけはし

前大僧正尊什

東山なる所にてよみ侍りける

此儘にたちも歸らじ山里は思ひしよりも住みよかりけり

法印禪守

山家の心を

山深み又すむ人のあるにこそ身一つならぬ浮世とは知れ

法印禪隆

山家送年といふ事を

假そめに結びし柴の庵にもすめばすまれて年ぞ經にける

藤原朝村

常陸の國に侍りける時よめる

假初と思ひし程に筑波嶺のすそわの田居も住みなれに鳬

僧正桓覺

田家烟

筑波嶺のすそわの田居の松の庵このもかのもに烟立つなり

二品法親王尊胤

百首の歌奉りし時、田家

守りあかす門田の面のいな莚ふきしくかぜを枕にぞ聞く

大納言顯實母

世中は秋の山田の假の庵すみうしとてもよしやいつまで

是法法師

八十ぢに多くあまりて後よめる

なべて世の憂きにこえたる老の波いつ迄斯る身を歎かまし

前大僧正頼仲

題志らず

殘なき末を思へばなゝそぢのあまりにもろきわが涙かな

前大納言良冬

徒に老いにけるかな春日野にひく人もなきもりの志た草

大僧正忠性

述懷の歌の中に

いつ迄と思ふにつけて老が身は慰む程のあらましもなし

頓阿法師

限あれば身の憂き事も歎かれず老をぞ人は待つべかりける

法印長舜

いかにせむ憂しと思ひし世の中の面變りせで身こそ老いぬれ

彈正尹邦省親王

老後述懷といふ事を

いつ迄と世を思ふにも袖ぬれて老のしるしぞ涙なりける

覺空上人

題志らず

かひなしや我が世はふけて徒にかゝげもやらぬ法の燈火

法印經深

後の世の闇をはるけよ集めても身をば照さぬ螢なりとも

藤原成藤

遂に行く道はありとも暫しだに老をとゞむる關守もがな

源光正

述懷の歌に

侘びつゝも猶すてやらぬ心哉げに浮世とや思はざるらむ

宗祐法師

幾度かうき世の外に捨てし身を又立ち歸り歎き侘ぶらむ

從三位實遠

なべて世の憂きはならひと思ひこし理すぎて身を歎く哉

一條太政大臣女

河を

飛鳥川あすのふち瀬を知らぬこそ定なき世の頼なりけれ

三善直信

題志らず

斯計り憂きはいかなる報ぞと身をこそ喞て世をば恨みず

入道二品親王法守

貞和の百首の歌奉りし時

折々に事こそかはれ身の憂さを思ふ心のやすげなの世や

藤原宗遠

寄橋述懷を

東路の十綱の橋のくるしとも思ひ知らでや世を渡るらむ

永福門院内侍

題志らず

仰ぎつゝ頼みし蔭は枯果てぬ殘る朽木の身をいかにせむ

源直氏

數ならでながらへきつるうき身をも君が爲にと猶惜む哉

藤原雅朝朝臣

述懷の心を

背かれぬ我身の程の難面さも世のうきにこそ思知りぬれ

眞俊法師

生きて世に住むとはいはじ數ならぬ身とだに我を知る人ぞなき

法印宗尋

題志らず

在果つる世とし思はゞいか計り數ならぬ身の猶うからまし

惟宗忠景

世の中の憂きをもうしと歎く身に厭ふ心のなどなるか覽

清原通定

浮世とは思ひも知らで過にけり數ならぬ身をあるに任せて

平政村朝臣

述懷の歌よみ侍りけるに

今日まではうきもつらきも忍びきぬ猶世を慕ふ心弱さに

公寛法師

浮世をも厭ひぞはてぬ折々にかはる心のさだめなければ

信生法師

世を捨てゝ後猶のがれえぬ事のみ侍りければ

小蟹の厭ひしかひもなき世哉斯てもなどか苦しかるらむ

津守國助

題志らず

何をして暮すともなき月日かな積る計りを身に算へつゝ

權少僧都行顯

寄夢述懷を

思ひつゝ猶驚かぬ浮世こそ夢と知りてもかひなかりけれ

源和義朝臣

鳥羽玉のよる見る夢を夢とのみ思ふ心ぞいやはかなゝる

源義高朝臣

誰も皆まだ覺めぬ間の夢とのみ心をとむる程のはかなさ

從二位經尹

二品法親王覺助の家の五十首の歌に、述懷

たち歸り猶ぞ悲しき世の中の憂きは夢ぞと思ひなせども

後鳥羽院御製

題志らず

何か思ふ何かは歎く覺めやらぬ夢の裡なる夢の憂き世を

法皇御製

うきも夢うからぬも亦幻の世をなぐさむる我もはかなし

讀人志らず

夢のごと過ぎし月日の廻りきて忍ぶ昔となりにけるかな

前權僧正雲雅

夢ならば覺むる現もあるべきを現ながらの夢ぞはかなき

山田法師

哀なり消果てぬとも憂きならで何を此の世の思出にせむ

賀茂基久

善惡を心にだにも捨てぬれば同じ浮世も住みよかりけり

大江高廣

捨てはてぬ我心もて幾度か世を憂しとのみ恨みきぬらむ

普誥法師

あらましに厭ふは今も易き世を誠にならば捨てや兼ねまし

前參議彦良

夢を

現には又も歸らぬいにしへを二たび見るは夢路なりけり

從三位宣子

懷舊の心を詠める

繰り返し何忍ぶらむ數ならで昔も過ぎし志づのをだまき

圓空上人

浮世には覺むる現のあらばこそ見しを夢とも人に語らめ

法印源意

戀ひわたる世々の昔も思ひつゝぬればや見ゆる夢の浮橋

源義春

題志らず

我ながら心や變るうしといひてすぎし昔をまた忍ぶかな

道昌法師

古を聞くにつけてぞ忍ばるゝ我が見し後や浮世なるらむ

平守時朝臣女

平英時にともなひて西國にすみ侍りし事を思ひ出でゝ

志らざりし心づくしの古を身の思ひでと志のぶべしとは

入道二品親王法守

貞和の百首の歌たてまつりける時

何しかもうさは變らぬ同じ世の昔になれば戀しかるらむ
[_]
[7] Kanji in place of E is not available in the JIS code table. The kanji is Morohashi's kanji number 30706.