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新拾遺和歌集卷第九 羈旅歌
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9. 新拾遺和歌集卷第九
羈旅歌

讀人志らず

題志らず

爰にして家やはいづこ白雲のたなびく山を越えて來に鳬

人丸

玉藻刈るとしまを過ぎて夏草の野島が崎に舟ちかづきぬ

貞數親王

亭子院難波に御幸せさせ給うける時詠み侍りける

君が爲浪の玉敷く三津の濱行き過ぎがたしおりて拾はむ

讀人志らず

題志らず

逢坂を打ち出でゝ見れば近江の海白木綿花に浪立ち渡る

大納言通具

千五百番歌合に

泊りするをじまが磯の浪枕さこそは吹かめ與謝の浦かぜ

中納言爲藤

旅泊

今日幾日浪の枕に明け暮れて山の端しらぬ月を見るらむ

如願法師

羈旅の心を

渡の原八十島かけてしるべせよ遙にかよふおきのつり舟

皇太后宮大夫俊成

隅田川故郷思ふ夕ぐれになみだを添ふるみやこどりかな

御製

百首の歌召されしついでに、羈旅

限なくとほく來にけり隅田川ことゝふ鳥の名を慕ひつゝ

前大納言忠良

羈中暮と云ふことを

草むすぶかりほの床の秋の袖露やはぬらす夕ぐれのそら

今出河院近衛

旅の心を

行きなれぬ鄙の荒野の露分けて萎るゝ旅の頃も經にけり

前大納言爲兼

永仁元年八月十五夜後宇多院に十首の歌奉りしに、秋旅と云ふ事を

故郷を忘れむとてもいかゞせむ旅寐の秋の夜半の松かぜ

爲道朝臣

秋の夜もあまた旅寐の草枕露よりつゆにむすび添へつゝ

權大納言義詮

百首の歌奉りし時、羈旅

大江山こえ行く末もたび衣いく野の露になほしをるらむ

伏見院御製

羈中野といふ事をよませ給ひける

露ふかき野邊の小笹のかり枕臥しなれぬ夜は夢も結ばず

前參議爲秀

題志らず

いつまでか草の枕の白露のおくとは急ぎぬとはしをれむ

藤原宗秀

あづま野の露わけ衣今宵さへ干さでやくさに枕むすばむ

前大納言有忠

元亨二年龜山殿にて題を探りて歌仕うまつりけるに、旅行

都をば夜ふかく出でゝ逢坂の關に待たるゝ鳥のこゑかな

按察使資明

題志らず

關の戸もはや明方の鳥の音におどろかされていそぐ旅人

頓阿法師

中園入道前太政大臣の家にて、朝旅行といふ事を

逢坂の鳥の音とほくなりにけりあさ露分くる粟津野の原

權中納言宗經

誰れか又露けき野邊の假寐せむ結び捨てつるくさの枕に

後嵯峨院御製

五十首の御歌の中に羈中衣といふ事をよませ給うける

分け過ぐる千種の花のすり衣おもひ亂るゝ旅のそらかな

大藏卿有家

守覺法親王の家の五十首の歌に、旅

櫻色に春立ちそめし旅ごろも今日宮城野の萩がはなずり

藤原行春

旅の歌に

分け行けど花の千ぐさのはてもなし秋を限の武藏野の原

西行法師

東の方へ修行し侍りけるに白河關にて月のあかゝりければ柱に書き付けゝる

しら河の關屋を月のもるかげは人の心をとむるなりけり

丹波忠守朝臣

元亨元年八月十五夜、内裏の歌合に、關月

今宵こそ月に越えぬれ秋風の音にのみ聞くしら河のせき

後九條前内大臣

羈旅

秋風に今日しら河のせきこえて思ふもとほし故郷のやま

祝部成茂

東へ下りける時詠める

足柄の山路の月にみね越えて明くれば袖に霜ぞのこれる

善了法師

夕旅

行く末は月にや越えむ旅衣日もゆふぐれのさやの中やま

兼好法師

旅のそらいく夕暮に待ち出でゝ山の端變る月を見つらむ

前中納言爲相

題志らず

旅人はまだ出でやらぬ關の戸に月ぞさきだつ有明のそら

後光明峯寺前攝政左大臣

我れならぬ人もやかゝる旅寐して有明の月に物思ふらむ

荒木田氏忠

振り捨てゝ誰かは越えむ鈴鹿山關屋は夜半の月も洩り鳬

中納言家持

旅人のよこをり伏せる山越えて月にも幾夜別れしつらむ

後鳥羽院御製

旅の御歌の中に

さらぬだに都戀しきあづま路に詠むる月の西へ行くかな

伏見院御製

松が根のあらしの枕ゆめ絶えて寐覺の山に月ぞかたぶく

六條入道前太政大臣

元久元年七月宇治の御幸の時の五首の歌に

いほりさす端山が原の假寐には枕になるゝ小男鹿のこゑ

宜秋門院丹後

和歌所の六首の歌合に、旅月聞鹿

松が根のまくらに鹿の聲はして木の間の月を袖に見る哉

源頼貞

題志らず

鴈なきて朝風寒し故里に我が思ふいもやころもうつらむ

正三位知家

寳治の百首の歌に

今宵もや佐野の岡邊の秋風にさゝ葉刈り敷き獨かも寐む

法印長舜

題志らず

笹枕夜はの衣をかへさずば夢にもうときみやこならまし

源業氏

草枕露打ち拂ふそのまゝになみだ片敷く夜はのころも手

前大僧正實超

羈中夢

故里に通ふたゞぢは許さなむ旅寐の夜半の夢のせきもり

左京大夫顯輔

旅の心を

草枕袖のみぬるゝ旅ごろも思ひ立ちけむことぞくやしき

源仲正

吾妻に下りける時宿れりける家に男は無くて女ばかり有りと聞きていひ遣しける

霜さゆる旅寐の床の寂しさをいかにとだにも訪ふ人もがな

讀人志らず

返し

旅ならぬ我も衣を片敷きて思ひやれどもいかゞ訪ふべき

前大納言爲家

白河殿の七百首の歌に、旅宿時雨

唐衣はる%\來ぬる旅寐にも袖ぬらせとや又しぐるらむ

前大納言爲氏

羈旅秋を

里遠き山路の雲はしぐれつゝゆふ日にいそぐ秋のたび人

卜部兼直

冬旅

しぐれつる雲を外山に分け捨てゝ雪に越え行く足柄の關

二品法親王承覺

雪の歌とて詠める

休らはで猶ぞつもらむ降る雪に強ひてや越えむ冬の山道

寂眞法師

甲斐が嶺はなほいかばかり積るらむ早雪深しさやの中山

大藏卿隆博

旅歳暮を

歸るさは年さへ暮れぬ東路やかすみて越えししら河の關

前大納言爲家

題志らず

旅衣はる%\來ぬる八橋のむかしの跡にそでもぬれつゝ

源家長朝臣

道助法親王の家の五十首の歌、旅春雨

宿もがな佐野の渡りのさのみやはぬれても行かむ春雨の比

讀人志らず

題志らず

頼め置く宿し無ければ旅の空暮るゝを道の限りにぞ行く

源季賢

行暮れぬこやに一夜の宿訪ひて難波の芦の假寐をやせむ

法印公順

前大納言爲世詠ませ侍りし春日の社の卅首の歌の中に

今日こそはよそになりぬれ葛城や越えし高間の嶺の白雲

右大臣

百首の歌奉りし時、羈旅

古里を隔て來にけり旅ごろもかさなる山の八重のしら雲

參議雅經

道助法親王の家の五十首の歌に、山旅

立ち歸り又もや越えむ峯の雲跡も定めぬ四方のあらしに

花園院御製

旅の心を詠ませ給うける

深山ぢを夕越え暮れて宿もなし雲居る嶺に今宵かも寐む

入道二品親王尊圓

都思ふ宇津の山道越え侘びぬ夢かと辿るこゝろまよひに

法印定圓

吾妻よりのぼりける道にて

露繁き蔦のしげみを分けこえて岡邊にかゝる宇津の山道

平齋時

小夜の中山をこえ侍りけるに朝霧深く侍りければ

明けぬとて麓の里は出でぬれどまだ霧くらき小夜の中山

性嚴法師

題志らず

孰くにか宿をからまし岩根蹈み重なる山に日は暮れに鳬

從二位家隆

洞院攝政の家の百首の歌に

龍田山夕こえくれぬ大伴の三津のとまりに舟やまつらむ

祝部行親

旅の心を

漕ぎ出でし湊隔てゝ渡の原かさなるくもにかゝるしら波

後岡屋前關白左大臣

貞和二年百首の歌奉りける時

漕ぐ舟の行方も知らぬ浪間より見ゆる小島や泊りなる覽

前大納言爲定

元亨三年十月後宇多院に十首の歌奉りけるに海邊旅といふ事を

渡の原沖漕ぐ舟の寄るべなみ蜑の住むてふ里や訪はまし

後宇多院御製

嘉元の百首の歌召されしついでに、海路を

いかにして人も通はむ渡の原舟と風とのたよりならずば

大炊御門右大臣

保延元年内裏の歌あはせに、海上遠望

見渡せば碧の空に浪かけて泊りも知らぬふなでしにけり

二品法親王守覺

旅の心を

臥しなれぬ鳥籠の浦風身にしみて心浮き立つ波の音かな

前中納言定家

洞院攝政の家の百首の歌に

臥しなれぬ濱松が根の岩枕袖打ちぬらしかへるうらなみ

前内大臣

百首の歌奉りけるに、千鳥

言とひて幾たび過ぎぬ友千鳥あらいそ波のよるの浮寐に

權僧正果守

入道二品親王覺譽の家の五十首の歌に

臥し侘びぬ芦の葉そよぐ湊風寒く吹く夜の波のまくらに

贈從三位爲子

嘉元の百首の歌奉りける時

身にぞしむかゝる所の夜半も又なれぬ旅寐をすまの浦風

藤原基任

二品法親王覺助の家の五十首の歌に、旅泊

舵枕いかに定めてゆめも見む浮寐になるゝ人にとはゞや

法印覺寛

道助法親王の家の五十首の歌に、海旅

衣手をしき津のうらの浮枕なみだも波もかけぬ夜ぞなき

平行氏

題志らず

浮枕結びも果てぬ夢路よりやがてうつゝにかへる波かな

權大納言忠基

思ひやれなれたる海士の袖だにも波の浮寐は濡るゝ習を

從三位成清

こゝろして苫引きおほへ浮雲も雨に鳴門の沖つふなびと

法印源意

船泊めて片敷く袖の浦風をたゆたふ波のまくらにぞ聞く

大江茂重

二品法親王覺助の家の五十首の歌に、旅泊

友誘ふ室の泊りの朝嵐に聲を帆にあげて出づるふなびと

大江貞重

題志らず

憂かりける荒磯波の音までもならはぬ旅に袖ぞしをるゝ

源兼氏朝臣

太神宮の歌合に、羈中月

まどろまで月をぞ見つる寄る浪の荒き濱邊の夜はの假寐に

法眼源承

伊勢島や月に折り敷く濱荻の假寐もさむし秋のしほかぜ

從二位家隆

羈旅を

折り敷かむ隙こそ無けれ沖つかぜ夕立つ波の荒き濱をぎ