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新拾遺和歌集卷第十 哀傷歌
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10. 新拾遺和歌集卷第十
哀傷歌

人丸

題志らず

草の葉に置きゐる露の消えぬ間に玉かと見ゆる事のはかなさ

日置皇子かくれ給ひける時よみ侍りける

久方の空見る如く仰ぎ見しみこの御門の荒れまく惜しも

額田王

天智天皇かくれさせ給ひける時詠める

かゝらむと思ひしもせば大舟の泊る泊りにしめゆはましを

貫之

題志らず

藤衣おりける糸はみづなれや濡れは増れど乾く間もなし

重之

子におくれて歎きける比輔親が許へ申し遣しける

言の葉に云置く露もなかり鳬忍び草には音をのみぞ泣く

祭主輔親

返し

假初の別ならねば志のぶ草しのぶにつけて露ぞこぼるゝ

道命法師

三條院隱れさせ給うける比郭公の鳴きけるに

足引の山時鳥このごろはわがなく音をやきゝわたるらむ

赤染衛門

題志らず

厭へどもあまり憂き身の長らへて人に後るゝ數積るらむ

新少將

田上と言ふ所へまかりける時關山を過ぎ侍りけるに古へ父俊頼朝臣のもとにまかりし事を思ひ出でゝ車をとゞめてやすらひける時よめる

なき人に行き逢ふ坂と思ひせば絶えぬ泪は堰止めてまし

按察使公通

待賢門院隱れさせ給ひける御忌に籠りて九月盡日申し遣しける

世の中にうかりし秋と思へ共暮行く今日は惜しくやは非ぬ

堀河

返し

限なくけふの暮るゝぞ惜まるゝ別れし秋の名殘と思へば

前中納言定家

題志らず

色は皆むなしきものを龍田川紅葉ながるゝあきもひと時

西行法師

鳥羽院隱れさせ給うて御葬送の夜高野より思はざるに參りあひて詠み侍りける

今宵こそ思ひ知りぬれ淺からず君に契の有る身なりけり

信實朝臣

八條院隱れさせ給ひて後程なく又春花門院失せさせ給ひにけるを鳥羽へ送り奉りけるに詠み侍りける

かゝりける別をしらで山城のとはにも君を頼みけるかな

藤原秀茂

母の終りける面影尚身に添ふ心地し侍りて

今はとて見し面影の更に尚身に添ふ物となりにけるかな

近衞關白前左大臣

歎く事侍りける比詠み侍りける

明暮は身をも離れぬ面影の有りて無きこそはかなかりけれ

前大僧正公豪

浄土寺入道前太政大臣隱れ侍りて後詠める

時の間も忘らればこそ慰まめ面影ばかりうきものはなし

如圓法師

信實朝臣みづから影を寫し置きて侍りけるを身まかりて後見侍りてよめる

思ひ出でゝ見るも悲しき面影を何中々にうつし置きけむ

永陽門院左京大夫

昭慶門院の少將身まかりける時人の許へ申し遣しける

哀とも言ふべき人は先だちて殘る我身ぞ有りてかひなき

前權僧正圓伊

六條内大臣隱れて後法事いとなみ侍りける時申し遣しける

ことわりのならひ違はで垂乳根の跡とふ道は何か悲しき

前中納言有忠

返し

理のたがはぬのみぞうかりける身にもかへてと思ふ別は

源頼時女

題志らず

志ひてこそ世の習ひとは思ひなせ哀たぐひもなき別かな

達智門院兵衛督

寄夢無常を詠み侍りける

世のうさも如何計かは歎かれむはかなき夢と思爲さずば

前大僧正慈鎭

無常の歌とて

世の中のうつゝの闇に見る夢の驚く程は寐てか覺めてか

隆信朝臣

物申しける女の、母の諫によりてつらくのみ有りけるに、かの女身まかりぬと聞きて母の許へ遣しける

君だにも有りて厭はゞ侘びつゝも身のうきのみや歎ならまし

かく申し遣したりける返事に此の人のかぎりに侍りける時はらからなりけるものに、我がなからむ折尋ぬる人あらばこれを見せよとて書き置きたる文を遣したりけるに書きたりける歌

人志れず思ひし事を契置かでうき名をとめむ跡の悲しさ

これに添へて母の遣したりける

通ひける心を知らで厭はせて後は悔しきねをのみぞなく

後伏見院御製

伏見院の御忌の比花園院未だ位におはしましけるに紅葉につけて奉らせ給うける

かき暮す袖の涙にせき兼て言の葉だにも書きもやられず

花園院御製

御返し

色深き袖の泪に習ふらし千しほ八千しほ染むるもみぢ葉

按察使實繼

陽祿門院隱れさせ給ひて後、人のとぶらひて侍りし返事に

思へたゞ連ねし枝は朽ち果てゝ頼む陰なくなれる歎きを

安喜門院大貳

神無月の比法性寺にて母身まかりにける時志ぐれの降りけるに詠める

常よりも志ぐれ/\て墨染の頃もかなしきかみなづき哉

前大納言雅言

後一條入道前關白隱れ侍りし比雨の降りける日申し遣しける

雨とのみ降るは泪と思ひしに空さへくるゝ昨日けふかな

源邦長朝臣

返し

かき暮す泪ばかりにほし侘びて降りける雨も分かぬ袖哉

法眼源承

入道二品親王性助隱れ侍りける又の日雨いと降り侍りしに法眼行濟に遣しける

空だにも猶かきくれて降る雨に涙のそでを思ひこそやれ

法眼行濟

返し

思ひやれ空もひとつにかきくれてあめも泪も志ぼる袂を

境空上人

中園入道前太政大臣隱れ侍りて二尊院にて後のわざし侍りし時あまたのはらからの中にひとり送り侍りし事を思ひて詠める

思はずよ夜半の烟とのぼるまで一人立ち添ふ契ありとは

從三位吉子

同じ所にまかりて思ひつゞけ侍りける

さらに又立ち後れじと慕ふ哉もえし烟のあとをたづねて

前權僧正玄圓

題志らず

昨日と言ひ今日もさきだつ夕烟消え殘る身の哀いつまで

僧正澄經

立ちのぼる野邊の烟や亡き人の行きて歸らぬ限なるらむ

法印經深

母の思ひに侍りける比詠める

脱ぎ更ふる程をもまたで藤衣なげく泪に朽ちや果てなむ

藤原行春

行應法師身まかりて後服脱ぎける時詠み侍りける

此のまゝに思ひやたゝむ脱ぎ更へば名殘も悲し墨染の袖

權大納言長家

民部卿濟信の女にすみ侍りけるが身まかりて後服ぬぎ侍るとて

着しよりも脱ぐぞ悲しき君が爲そめし衣の色とおもへば

大江廣房

父廣茂なくなりて後よめる

送りおきし野原の露をそのまゝにほさで朽ちぬる藤衣哉

鴨長明

旅の歌詠み侍りける中に

遠からぬ遂の住みかを孰くとて野邊に一夜を明しかぬ覽

壽成門院

前坊隱れさせ給ひし比詠ませ給ひける

露消えし草のゆかりを尋ぬれば空しき野邊に秋風ぞふく

藤原俊顯朝臣

春月の歌詠み侍りけるに

思ひいづる春の深山のかげまでも涙に浮ぶ夜半の月かな

西花門院

月あかき夜二條殿にて後二條院の御世の事を思しめし出でゝ

雲の上と見しは野原になりぬれど昔に似たる月の影かな

妙宗法師

九月十三夜にをはりをとりける時みづから書きける歌

明らけき今宵の月にさそはれてむなしき空に今歸りぬる

源高秀

無常の心を

行く末を思ふに袖のぬるゝかなつひにのがれぬ道芝の露

式部卿久明親王

女の身まかりけるをとぶらひて四種の供養し侍りける時枕にかきつけ侍りける

今はわれ誰とともにかならぶべき古き枕ぞみるも悲しき

後宇多院宰相典侍

母の思ひに侍りける比おなじ歎きする人の許へ申し遣しける

しられじな同じうき世の別路によその哀れも袖濡すとは

法印榮運

老の後成運法印が卅三年の佛事いとなみ侍るとて

なき跡の三十ぢ餘りの三年迄とふにぞ老の憂さも忘るゝ

江侍從

枇杷の皇太后宮隱れさせ給ひて後御帳の内を何となく見入れ侍りければしかせ給ひたりけるあやめの草の侍りけるをみてよめる

玉貫きし菖蒲の草は有り乍ら夜床は荒れむ物とやは見し

權大納言義詮

等持院贈左大臣隱れて後五月五日詠み侍りける

菖蒲草今年はよそに見る袖にかはりてかゝる我が涙かな

性威法師

又の年三月つごもりの日常在光院にて詠み侍りける

又もこむ春だにも憂き別路にこぞをかぎりの跡ぞ悲しき

出羽辨

大納言經信服に侍りける又の年申し遣しける

戀しさや立ち増るらむ霞さへ別れし年をへだて果つれば

大納言經信

返し

別れにし年をば霞隔つれどそでの氷はとけずぞありける

上東門院

後朱雀院隱れさせ給ひて後白河殿にかき籠らせ給ひて月日の行くもしらせ給はざりけるに今日は七月七日と人の申しける事を聞かせ給ひて

今日とても急がれぬ哉なべて世を思ひうみにし七夕の糸

廉義公

清愼公隱れて後かのつくりて置きて侍りける住の江のかたを見て詠み侍りける

永き世のためしと聞きし住の江の松の烟となるぞ悲しき

祝部成仲

子に後れて歎きける比都に侍りけるむすめの許へつかはしける

もろ共に越えまし物を死出の山又思ふ人なき身なりせば

返し

君が爲いとゞ命の惜しき哉斯るうき目をみせじと思へば

前參議教長

久安の百首の歌に

水の面に浮べる玉の程もなく消ゆるをよその物とやは見る

二品法親王慈道

身まかりて侍りけるわらはの爲に佛事いとなみける人に遣しける

よそ迄も袖こそぬるれあだし野や消えにし露の秋の哀に

法印實性

歎く事侍りけるを程經てとひける人の返りごと

日數ふる後も今さらせき兼ねつとふにつらさの袖の涙は

己心院前攝政左大臣

題志らず

露の身をはかなき物と思ひしる心ぞやがて空しかりける

從二位家隆

雨中無常

末の露淺茅がもとを思ふにも我が身一つの秋のむらさめ

少僧都源信

題志らず

朝顏のあだにはかなき命をばつとめてのみぞ暫し保たむ

頓阿法師

贈從三位爲子身まかり侍りし比蝉のもぬけたるを朝顏の花に付けて前大納言爲定の許に申し遣しける

空蝉の世のはかなさを思ふには猶あだならぬ朝がほの花

前大納言爲定

返し

空蝉は空しきからも殘りけりきえて跡なきあさ顏のつゆ

前中納言惟繼

同じ頃願文の草あつらへける書きて遣すとて包み紙にかき侍りける

歎くらむ心を汲みて數々に書くも悲しきみづぐきのあと

中納言爲藤

返し

書き流す此の水莖の跡なくばしたにぞむせぶ歎ならまし

祝部成光

正三位成國身まかり侍りし頃よみ侍りける

とてもかく假の世ならば假にだになど亡き人の歸らざる覽

中務卿宗尊親王

從一位倫子の思ひに侍りける頃

はかなくもこれを形見と慰めて身に添ふ物は涙なりけり

順徳院御製

後鳥羽院隱れさせ給うて後御惱の程の御文を御覽じて

君もげに是ぞ限の形見とは知らでや千世の跡をとめけむ

同じ御歎きの頃月を御覽じてよませ給うける

同じ世の別はなほぞ忍ばるゝそら行く月のよその形見に

隆信朝臣

美福門院隱れさせ給ひける御葬送の御供に草津と云ふ所より舟にて漕ぎ出でける曙の空の景色浪の音折から物悲しくてよみ侍りける

朝ぼらけ漕ぎ行く跡に消ゆる泡の哀れ誠にうき世なりけり