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新拾遺和歌集卷第四 秋歌上
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4. 新拾遺和歌集卷第四
秋歌上

法皇御製

貞和二年七月七日三首の歌召されけるついでに、早凉知秋といふ事をよませたまうける

秋來ぬと思ひもあへず朝げより始めてすゞしせみの羽衣

權大納言義詮

早秋の心を

蝉の羽の薄きたもとに吹きかへて頓て身にしむ秋の初風

從二位家隆

二品法親王守覺の家の五十首の歌に

秋風の吹きにし日より片岡の蝉の鳴く音も色かはるなり

贈從三位爲子

嘉元の百首の歌奉りける時、初秋

須磨の蜑の袖になれぬる浦風も秋とや今朝は吹き變る覽

西行法師

秋の始め鳴尾といふ所にてよめる

常よりも秋に鳴尾の松風は分きて身にしむ物にぞ有ける

大納言經信

題志らず

大伴の三津の濱松神さびてむかしながらの秋のはつかぜ

後鳥羽院宮内卿

千五百番歌合に

軒近き松の木ずゑに音づれて袖に知らるゝ秋のはつかぜ

彈正尹邦省親王

初秋の心を

飛鳥風音吹き變てたをやめの袖にも今朝や秋を知るらむ

前中納言匡房

たをやめのころもをうすみ秋や立つ飛鳥に近き葛城の山

後京極攝政前太政大臣

木末吹く風より秋の立田山下葉につゆやもらしそむらむ

二品法親王寛尊

いと早も露ぞ亂るゝ玉だれのこすの大野の秋のはつかぜ

徽安門院一條

百首の歌奉りし時

秋はまだ淺茅が末の夕風に我がそでかけて露けかるらむ

基俊

堀川院の御時百首の歌奉りけるに、荻

獨居て詠むる宿に秋來ぬと荻のうは葉のおどろかすらむ

式乾門院御匣

題志らず

いかなれば荻の葉戰ぐ風の音の秋と聞くより寂しかるらむ

中務卿具平親王

終夜をぎの葉風の絶えせぬにいかでか露の玉と貫くらむ

御製

百首の歌召されし時、荻

分きてなど荻の葉にのみ殘るらむ程なく過ぐる庭の秋風

等持院贈左大臣

袖にのみ置きこそ増れ荻の葉の風にたまらぬ秋の白つゆ

達智門院兵衛督

秋の歌の中に

昔たれ秋のあはれを知り初めていまも涙の露こぼるらむ

圓光院入道前關白太政大臣

嘉元の百首の歌奉りける時、初秋

秋來ぬと思ひもあへぬ衣手のたが習はしに露けかるらむ

菅原孝標朝臣女

題志らず

思ひいでゝ人こそ訪はね山里の籬の荻にあきかぜぞ吹く

躬恒

七夕の歌に

久堅の天のかはぎり立つ時や七夕つめのわたるなるらむ

赤人

天の河舵音きこゆ彦星のたなばたつめとこよひ逢ふらし

後岡屋前關白左大臣

貞和二年百首の歌奉りける時

障るべき契ならねど七夕の暮るゝ待つ間や苦しかるらむ

前關白左大臣近衛

同じき七月七日三首の歌講ぜられけるに、七夕契久といふこと

幾秋も絶えぬ契や七夕の待つにかひあるひとよなるらむ

入道二品親王法守

百首の歌奉りける時、七夕

九重の庭のともしび影更けて星合のそらに月ぞかたぶく

從二位行家

題志らず

幾とせを行きめぐりても七夕の契は絶えじ夜はの下おび

前大納言經顯

貞和二年七月七日三首の歌に、七夕契久といへる事を

織女の稀に逢ふ瀬も年經ればわたりやなるゝ天の川なみ

院御製

七夕地儀といふ事をよませ給うける

天の川年の渡りは遠けれどながれて早くあきも來にけり

前大納言忠季

百首の歌奉りし時、七夕

重ねても恨や晴れぬ七夕の逢ふ夜間どほの雲のころもは

源兼氏朝臣

題志らず

いつのまに紅葉の橋を渡すらむしぐれぬさきの星合の空

中務卿宗尊親王

天の河思ふがなかに船はあれどかちより行くか鵲のはし

後二條院御製

幾秋かわたし來ぬらむ天のがはおのがよりはの鵲のはし

前參議經宣

元弘三年、立后の屏風に、七夕

七夕の五百機ごろも重ねても秋の一夜となにちぎりけむ

前大納言爲家

秋の歌の中に

七夕の雲のころもの衣々に歸るさつらきあまのかはなみ

内大臣

織女の飽かぬ別れの歸るさに今來む年をまたちぎるらむ

皇太后宮大夫俊成女

千五百番歌合の歌

風吹けばしのに亂るゝ苅萱も夕べは分きて露こぼれけり

前中納言長方

題志らず

夕されば尾花片寄る秋風にみだれもあへぬつゆのしら玉

[_]
[1]A
子内親王

風吹けば眞野の入江に寄る波を尾花にかけて露ぞ亂るゝ

輔仁親王家甲斐

雲居寺の瞻西上人の坊にて歌合し侍りける時詠める

野邊毎にみだれて見ゆる苅萱の露吹きむすぶ秋のやま風

從二位爲子

伏見院の卅首の歌に

置きあへぬ朝げの露に咲き初めて小萩が末は花ぞ色濃き

月花門院

百首の御歌に

朝な/\見れども飽かぬ秋萩の花をば雨に誰れ濡しけむ

法皇御製

秋の御歌の中に

忘れずよ萩の戸口のあけたてば詠めし花のいにしへの秋

中務卿具平親王

秋の花を贈りて今日まうでこむと云ひける人の遲く見えければ遣しける

千種なる花の錦を秋くれば見る人いかに立ち憂かるらむ

讀人志らず

題志らず

鶉鳴くいはれの野邊の秋萩をおもふ人とも見つる今日哉

法印隆淵

建武二年内裏の千首の歌に、秋植物

宮城野の露分け來つる袖よりも心にうつる萩がはなずり

法印定爲

文保の百首の歌奉りける時

萩が花折てを行かむ宮城野や木の下風に散らまくも惜し

人麿

題志らず

秋風は凉しくなりぬ駒なべていざ見に行かむ秋の花見に

春されば霞がくれに見えざりし秋萩咲けり折りて簪さむ

中納言家持

我が門に秋萩咲けり此の寐ぬる朝かぜ早み花散りぬべし

前大納言公蔭

百首の歌奉りし時、萩

小男鹿のしがらむ野邊の萩が花衣にすらむ散らまくも惜し

御製

月前萩と云へる事を詠ませ給うける

秋萩の露散る花のすりごろもうつろふ月も影ぞみだるゝ

前大納言爲氏

建長二年鳥羽殿にて、野草花を

唐ごろも裾野の草の白露のむすべば解くる花のしたひも

皇太后宮大夫俊成

秋の歌の中に

秋の野は心も志のにみだれつゝ苔の袖にも花やうつらむ

貫之

女郎花匂を袖にうつしてばあやなく人や我れをとがめむ

基俊

堀河院の御時、百首の歌に

あだし野の心も知らぬ秋風にあはれ片寄るをみなへし哉

二條院讃岐

千五百番歌合の歌

女郎女よがれぬ露をおきながらあだなる風に何靡くらむ

清原元輔

題志らず

なべて咲く花のなかにも女郎花多かる野邊は過憂かり鳬

法印實性

影くらき籬のもとの蟋蟀暮るゝも待たで音をや鳴くらむ

堀川院中宮上總

瞻西上人の歌合に

聲絶えず秋の夜すがら鳴く虫は淺茅がつゆぞ涙なりける

伏見院御製

秋の御歌の中に

露深きまだ朝あけの草がくれ夜の間の虫の聲ぞのこれる

古郷の籬の虫やうらむらむ野邊の假寐の夜さむなるころ

太宰大貳高遠

朝戸明けて花の紐疾く出でゝ見む立ちな隱しそ野邊の秋霧

邦世親王

風騷ぐ草のまがきの花ずゝき覆ふばかりの袖かとぞ見る

九條左大臣女

伏見院に卅首の歌奉りけるに草花露と云ふ事をよみ侍りける

夕暮の野邊吹き過ぐる秋風に千ぐさを傳ふ花の上のつゆ

頓阿法師

同じ心を

萩の上の露となりてや雲居飛ぶ雁の涙もいろに出づらむ

修理大夫顯季

白河院鳥羽殿におはしましける時、野草露繁といふ事を

鶉鳴くあだの大野の眞葛原いく夜のつゆに結ぼゝるらむ

前中納言定家

題志らず

鶉鳴く夕べのそらを名殘にて野となりにけり深草のさと

權中納言宗經

深草や我が故郷も幾秋か野となり果てゝうづら鳴くらむ

上西門院兵衞

立ちとまる人は交野の花薄何と穗に出でゝ招くなるらむ

梅壷女御

行きかへり故里人に身をなして獨ながむる秋のゆふぐれ

關白前左大臣

さらでだにもの思ふ事の限なる夕べを時と秋かぜぞ吹く

惟宗光吉朝臣

置きあまる露は亂れて淺茅生の小野の篠原秋かぜぞ吹く

岡屋入道前攝政太政大臣

あらはれて露やこぼるゝ陸奥のしのぶが原に秋風ぞ吹く

正二位隆教

文保の百首の歌奉りける時

あらち山夕霧晴るゝ秋風に矢田野の淺茅つゆもとまらず

花山院御製

百寺の金口うたせ給はむとて夜深き道に出でさせ給ふとて詠ませ給うける

夜を籠めて草葉の露を分行けば物思ふ袖と人や見るらむ

前大納言爲世

嘉元の百首の歌奉りける時

あだなりな露もて結ぶ野邊の庵眞垣と頼む霧のへだては

龜山院御製

題志らず

花ずゝき袖に涙の露添へて暮るゝ夜毎に誰れまねくらむ

前參議雅有

弘安の百首の歌奉りける時

今よりははや寐ねがての秋風に色づき初むる庭の淺茅生

從二位家隆

承久二年内裏にて、待月と云ふことを講ぜられけるに

月待つと人には云ひし僞のいまやまことの夕ぐれのそら

前内大臣

題志らず

出でぬ間に雲吹き拂へ月影のいざよふ峯の秋のゆふかぜ

進子内親王

百首の歌の中に、月

秋風は梢をはらふ夕ぐれに雲もかゝらぬやまの端のつき

前大納言爲世

文保の百首の歌奉りける時

秋風の拂ふも待たで村雲のかゝる尾上を出づるつきかげ

中納言爲藤

嘉元の百首の歌奉りける時、月

初瀬山尾上の鐘や更けぬらむいざよふ雲に出づる月かげ

民部卿爲明

康安二年九月十三夜うへのをのこども題を探りて歌仕うまつりし時、月前雲といふ事を

おのづからたゞよふ雲も澄む月の光に消えて晴るゝ空哉

如法三寳院入道内大臣

題志らず

出で初むる月の光に足引の山の木の間もあらはれにけり

從三位經有

暦應三年八月十五夜仙にて三首の歌講ぜられけるに、月出山といふ事を

空に澄む光ぞおそき峯越えて松ばらつたふ秋の夜のつき

冷泉前太政大臣

寳治元年、十首の歌合に、海邊月

押し照るや難波の浦の夕なぎにあしの末葉を出づる月影

刑部卿頼輔

題志らず

渡の原潮路は空とひとつにて雲のなみより出づる月かげ

後醍醐院御製

風渡る門田のすゑに霧霽れて稻葉の雲を出づるつきかげ

普光園入道前關白左大臣

出づるより光ぞしるき秋の月曇らぬ御代のゆくすゑの空

山階入道前左大臣

寳治の百首の歌に、山月

君が住む藐姑射の山を出づるより曇らぬ月は空に見えつゝ

右兵衛督爲遠

百首の歌奉りし時、月

久堅の空にも雲の殘りなくをさまれる世の見ゆる月かな

大江貞重

題志らず

名に高き今宵は秋の中空にひかり滿ちたる月のさやけさ

前大納言俊光女

思ひやる千里のほかの秋までも隔てぬ空に澄める月かげ

正三位知家

足引の山立ちのぼる月かげの行くかた遠き秋のそらかな

二條院參河内侍

月の歌とて詠み侍りける

月を見て心の儘にあくがればいづくか秋の住みかならまし

三條入道左大臣

正治二年、百首の歌に

更級や姨捨山の月は見じおもひやるだになみだ落ちけり

土御門院小宰相

名所月と云ふ事を

志賀の海士の思も入れぬ袖迄も秋は色添ふ月や見るらむ

大納言顯實母

百首の歌奉りし時、月

見ぬ世まで心に浮ぶあきの夜の月やむかしの鏡なるらむ

權中納言公雄

嘉元の百首の歌奉りける時同じ心を

雲の上になれし昔の面影もわすれやすると月に問はゞや

山階入道前左大臣

建長二年八月十五夜鳥羽院にて池上月といへる事を講ぜられけるに仕うまつりける

秋の月むかしを今にうつしてもやゝ澄み増る宿のいけ水

後嵯峨院御製

蓮葉の玉かとぞ見る池水のにごりにしまぬ秋の夜のつき

土御門院御製

秋月をよませ給うける

大井川しもは桂の月かげに磨きて落つる瀬々のしらたま