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新拾遺和歌集卷第十八 雜歌上
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18. 新拾遺和歌集卷第十八
雜歌上

後一條前關白左大臣

早春霞を

天の戸を明くる程なく來る春に立ちもおくれぬ朝霞かな

讀人志らず

題志らず

逢坂の關には雪の消えなくにいづくを春の道ときぬらむ

忠見

御障子の繪に、山に鶯聞く人あり。

鶯の鳴く音を聞けば山ふかみ我よりさきに春はきにけり

後京極攝政前太政大臣

鶯を

深草やうづらの床はあと絶えて春の里とふうぐひすの聲

民部卿爲明

春雪を

春きても霞のみをはさゆる日に降來る雪の泡と消ゆらむ

順徳院御製

早春の心を詠ませ給うける

風吹けば峯のときは木露落ちて空より消ゆる春のあわ雪

入道二品親王覺譽

野春雪と云ふ事を

野邊はまだこぞ見し儘の冬枯に消ゆるを春と泡雪ぞふる

源時秀

題志らず

山陰はなほ春寒み白雪の消えぬがうへに今日も降りつゝ

前大納言爲世

嘉元の百首の歌奉りける時、梅

朝あけの窓吹入るゝ春風にいづくともなき梅が香ぞする

典侍藤原親子

中務卿宗尊親王の家の百首の歌に

紅の色に出でにけり梅の花こむとたのめし人のとふまで

寂蓮法師

題志らず

花の色をよそに見捨てゝ行く雁も後るゝ列は心あるらし

正三位成國

なれてうき後の別を思へばや花よりさきに雁の行くらむ

參議雅經

道助法親王の家の五十首の歌に、遠歸雁

霞み行くよもの木のめも遙々と花待つ山にかへる雁がね

法眼宗信

題志らず

老ゆらくの涙に曇る春の夜は月もむかしや思ひいづらむ

正三位知家

石清水の歌合に、月前霞

よこ雲は嶺にわかるゝ山ひめの霞のそでにのこる月かげ

花園院御製

百首の御歌の中に

野邊に志く草の縁のすゑ遠み霞をわけてひばりおつなり

左兵衛督基氏

題志らず

萌えいづる春も淺野の若草に隱れもはてず雉子鳴くなり

法皇御製

春の御歌の中に

春山の霞のおくの呼子鳥世のかくれがにたれさそふらむ

前中納言有光

百首の歌奉りし時、花

朝ぼらけ積れる雪と見るまでに吉野の山は花咲きにけり

圓嘉法師

山の椿堂の櫻のもとにてよめる

植置きし春を見しかば八重櫻重なる年ぞ身に知られける

讀人志らず

題志らず

慕侘び許多の春を送りても花に老いぬる身こそ惜しけれ

夢窓國師

年たけて後庭の花を見て

七十ぢの後の春までながらへて心に待たぬ花を見るかな

藤原興風

亭子院の歌合に

たのまれぬはなの心と思へばや散らぬさきより鶯の鳴く

法印兼舜

題志らず

尋ね來て散るをこそ見れ山櫻何を手折りて家づとにせむ

二品法親王尊胤

春かぜのさそふは同じ梢にも先づ咲く方の花や散るらむ

前大納言公蔭

根に歸る花かと見れば木のもとを又吹き立つる庭の春風

藤原基名

山里は花より外の友もなし散りなむ後をいかに志のばむ

前大納言爲兼

弘安八年八月十五夜、三十首の歌奉りしとき、落花埋庭

庭の面は跡見えぬまで埋れぬ風よりつもる花のしらゆき

按察使資明

辨官の時しばらく職をさりて侍りける頃よめる

位山おどろのみちも程とほしはなの外なる峯の志ひしば

八條入道内大臣

春の歌の中に

家の風吹きぞ傳へむ春日山すゑ葉のふぢも影なびくまで

讀人志らず

暮春の心を

いたづらに名をのみとめて東路の霞の關も春ぞ暮れぬる

小侍從

身に積る年の暮にも勝りけり今日計りなる春の惜しさは

源和義朝臣

限ありて暮れ行く春は花鳥の色にも音にも殘らざりけり

彈正尹邦省親王家少將

題志らず

ほとゝぎす待つに心ぞうつりぬる花色衣ぬぎかへしより

後猪熊前關白左大臣

忍ぶともたゞ一聲は時鳥さのみつれなきよはなかさねそ

院御製

待郭公と云ふことを詠ませ給うける

みじか夜を幾夜あかしつ時鳥たゞ一こゑの初音待つとて

僧正植覺

題志らず

いたづらにまた尋ねまし時鳥なが鳴くさとの定なければ

三善資連

夜時鳥

夢路かとたどる寐ざめの郭公たが枕にか聞きさだむらむ

基俊

堀河院の御時、百首の歌奉りけるに、時鳥

一こゑのきかまほしさに時鳥思はぬ山にたび寐をぞする

中納言爲藤

文保三年百首の歌奉りけるに

さらでだにさだかならぬを郭公今一聲はとほざかりつゝ

從二位家隆

洞院攝政の家の百首の歌に

時鳥いづくに今は山がつの聞きも咎めぬはつね鳴くらむ

法印定宗

郭公

今も猶つれなかりけり時鳥おのが五月のそらだのめして

徽安門院一條

題志らず

時鳥里なれぬべき五月だに猶ふかき夜のしのび音ぞ鳴く

前中納言定家

朝五月雨

玉水も志どろの軒の菖蒲草五月雨ながらあくるいく夜ぞ

院御製

五月雨の心を

山深み晴れぬ眺めのいとゞしく雲とぢ添ふる五月雨の空

左近中將基冬母

おのづから晴るゝ雲間の月影も又かきくらす五月雨の空

後鳥羽院御製

夏の御歌の中に

夏山の嶺とび越ゆるかさゝぎのつばさにかゝる有明の月

津守國冬

二品法親王覺助の家の五十首の歌に、鵜河

薦枕たかせの淀の鵜飼舟ねなくにいく夜かゞりさすらむ

藤原嗣定朝臣

夏草を

いかにせむ茂るにつけて古の跡とも見えぬ庭のなつぐさ

御製

百首の歌めされしついでにおなじ心を

夏草の道ある方は知りながらしげき浮世になほ迷ふらむ

常磐井入道前太政大臣

題志らず

夏かりの葦屋のさとの夕暮に螢やまがふあまのいさり火

前中納言雅孝

せき入るゝ岩間傳ひの水の音に夕暮かけて風ぞ吹きそふ

鷹司院帥

山風に瀧のよどみも音立てゝ村雨そゝぐ夜半ぞすゞしき

前大納言伊平

承久元年内裏の歌合に、水邊草

汲みて知る人やなからむ夏草のしげみに沈む井手の玉水

後光明照院前關白左大臣

文保の百首の歌の中に

鳴く蝉のこゑより外は夏ぞなきみ山の奥のすぎの下かげ

從二位行家

題志らず

入日さす森の下葉に露見えて夕立すぐるそらぞすゞしき

僧正覺信

夕立のはれぬる跡の山の端にいざよふ月のかげぞ凉しき

源時朝

日ぐらしの鳴く山蔭の凉しきに風も秋なる楢の葉がしは

藤原範永朝臣

橘俊綱朝臣伏見にて歌合し侍りけるに、晩凉如秋といふ事を

松風の夕日がくれに吹く程は夏過ぎにける空かとぞ見る

法皇御製

秋の御歌の中に

秋きぬとまだ志ら露のせきもあへず枕すゞしき曉のとこ

後深草院辨内侍

老の後あふきと云ふ山里にこもりゐて侍りけるに龜山院より題を給はりて歌よみて奉りけるに、七夕衣

秋きても露おく袖のせばければ七夕つめに何をかさまし

此の後哀がらせ給ひて常にとはせ給うけるとなむ。

權律師仙覺

秋の歌とて

秋風はすゞしく吹きぬ彦星のむすびし紐は今や解くらむ

前大納言經顯

貞和の百首の歌奉りけるに

よそにだに待ちこそ渡れ天の河さぞ急ぐらむつま迎へ舟

安法法師

秋の頃山深く住みてよみ侍りける

露けさはさこそみ山の庵ならめ苔の袖さへ秋や知るらむ

左近大將師良

題志らず

吹きまよふ風のやどりの荻の葉に結びもとめぬ秋の白露

從二位家隆

光明峰寺入道前攝政の家の百首の歌に、夕荻

軒ちかき山した荻の聲たてゝ夕日がくれに秋かぜぞ吹く

入道二品親王覺譽

百首の歌奉りし時

植置きし軒端の荻を吹く風にたがとがならぬ物ぞ悲しき

權律師乘基

秋の歌の中に

閨ちかき荻の葉そよぐ風の音に聞きなれてだに夢ぞ驚く

永福門院

村雨のはるゝ夕日の影もりて木の下きよき露のいろかな

祝部成任

草木にもあらぬ袖さへしをれけりむべ山風の秋の夕ぐれ

深守法親王

住みわぶる時こそありけれ白雲のたなびく峯の秋の夕暮

讀人志らず

題志らず

うき事も何かは嘆く志かりとてそむかれぬ世の秋の夕暮

兼空上人

世のうきめ見えぬ山路の奥までも秋の哀は遁れざりけり

伊勢

秋深き山のかげのゝしばの戸に衣手うすし夕ぐれのそら

藤原元眞

常よりも物思ふ事のまさるかなむべもいひけり秋の夕暮

伊勢大輔

伊勢に祭主輔親が建てたるいはて寺より三昧堂のほら貝のうせたるをこひ侍りけるを遁すとて

かすかなる谷の洞をぞ思ひやる秋風のみや吹て訪ふらむ

安倍宗時朝臣

題志らず

朝茅生の小野の秋風はらへども餘りて露やなほ結ぶらむ

澄覺法親王

物思はでいづれの年の秋までか露に袂の知られざりけむ

人丸

吾妹子にゆきあひのわせを苅る時に成にけらしも萩の花咲く

從二位家隆

二品法親王道助の家の五十首の歌に、萩露

さきかくす野守が庵の篠の戸もあらはに置ける萩の朝露

法印淨辨

秋の歌とてよめる

萩が花うつりにけりな白露に濡れにし袖の色かはるまで

平常顯

色變るした葉をかけて秋萩の花のにしきは織り重ねつゝ

貫之

權中納言兼輔の家の屏風の歌

植し袖まだも干なくに秋の田の雁がねさへぞ鳴渡りける

源氏經朝臣

秋の歌の中に

故郷を雲居の雁にことゝはむさらで越路の音づれもなし

彈正尹邦省親王

暮山鹿といふことを

よそに猶妻をへだてゝ白雲の夕ゐる山に志かぞ鳴くなる

祝部尚長

題志らず

深き夜に鳥羽田の面の鹿の音をはるかに送る秋の山かぜ

圓照法師

秋の頃嵯峨なる所にまかりて歌よみ侍りけるに、山鹿を

小倉山紅葉ふきおろす木枯に又さそはるゝ小男鹿のこゑ

中務

秋の歌とて

人志れず萩の下なるさを鹿もほにいづる秋やねには立つ覽

祝部忠成

こりず猶牝鹿鳴くなりつれもなき妻と知りても年はへぬ覽

從三位行能

道助法親王の家の五十首の歌に、曉鹿

秋の夜は寐覺の後も長月のありあけの月に鹿ぞ鳴くなる

花園院御製

秋の御歌に

きり%\す聲かすかなる曉のかべにすくなき有明のかげ

前大納言俊定

永仁元年八月十五夜、後宇多院に十首の歌奉りける時、秋虫といふことを

八重葎しげれる庭に鳴くむしの露のやどりや涙なるらむ

讀人志らず

題志らず

霜むすぶ一夜の程によわるなりをざゝが下の松むしの聲

源高嗣

秋さむき頃とやよわる淺茅生の露のやどりのまつ虫の聲

前大納言爲世

こぬ人は心づくしの秋かぜに逢ふたのみなき松蟲のこゑ

前大納言經顯

百首の歌奉りし時

夕日影雲のはたてにうつろひて月待つ程の空ぞさびしき

衣笠前内大臣

石清水の社の歌合に、秋明月

秋風の吹きそめしより天の原空ゆく月のくもる夜もなし

寂惠法師

題を探りて名所の歌よみ侍りけるに、高師山

秋風に夜わたる月の高師山ふもとのなみの音ぞ更けぬる

左兵衛督基氏

秋の歌の中に

秋ながら影こそ氷れ富士のねの雪に映ろふ夜な/\の月

權中納言公豐

月の歌とて

更け行けば雲も嵐もをさまりて夜渡る月の影ぞのどけき

民部卿爲明

此の集承りて撰びはじめける日題を探りて歌詠み侍りしに、深夜月を

徒らに我がよふけぬと歎きつる心も晴れて月を見るかな

登蓮法師

題志らず

くまもなき月見る程やわび人の心のうちの晴間なるらむ

等持院贈左大臣

轉寢も月には惜しき夜半なればなか/\秋はゆめぞ短き

徽安門院小宰相

貞和の百首の歌奉りけるに

虫の音のよわるも寂し明方のつき影うすき霧のまがきに

道濟

月を見て

秋さむくなりにけらしも山里の庭しろたへに照すつき影

民部卿爲明

百首の歌奉りし時

有明の月待ちいでゝ白妙のゆふつけ鳥もときや知るらむ

平定文

家に歌合し侍りけるに

雲居より照りやまさると水清みうらにても見む秋の夜の月

菅原孝標朝臣女

石山にこもりて侍りける頃よめる

谷川のながれは雨ときこゆれどほかより晴るゝ有明の月

七條后

伊勢がかつらに住み侍りける頃、雨の降りける日遣はしける

月の内のかつらの人を思ふとて雨に涙のそひて降るらむ

高階重茂

題志らず

久方の月のかつらのもみぢ葉は志ぐれぬ時ぞ色勝りける

大江經親

秋の夜のしぐれて渡る村雲にたえ%\はるゝ山の端の月

等持院贈左大臣

百首の歌奉りし時、月

音ばかりしぐるとぞきく月影の曇らぬ夜半の峯のまつ風

源宗氏

題志らず

松に吹く嵐の音を聞きわかで時雨にはるゝ月かとぞ見る

小侍從

月前遠情といふ事を

厭ふらむ久米路の神の氣色まで面影にたつ夜半の月かな

前中納言定資

月を詠める

春日野や曇らぬ月の影なればおどろの道の跡もまよはず

讀人志らず

夜もすがら露の光をみがくなり玉のよどのゝ秋の月かげ

雅成親王

野月を

宮城野の木の下露や落ちぬらむ草葉にあまる秋の夜の月

眞昭法師

前大納言頼經の家にて月の十首の歌よみはべりけるに

難波がた汐干も月はやどりけり葦の末葉に露をのこして

源頼遠

題志らず

敷妙の床のうらわの海士小舟うきね定めぬ月や見るらむ

前參議爲秀

關白前左大臣の家に題を探りて歌よみ侍りけるに、海邊月

渡の原月もはてなき浪の上に偖しも明けむ夜こそ惜けれ

後二條院御製

湖月の心を

志賀の浦や氷くだけて秋風の吹きしく浪にうかぶ月かげ

藤原爲冬朝臣

元弘三年八月十五夜、上のをのこども題を探りて月の歌よみ侍りけるに、月前霧

空にのみ立つ川霧もひま見えてもりくる月に秋風ぞ吹く

等持院贈左大臣

貞和の百首の歌奉りし時

霧はらふ比良の山風ふくる夜にさゞ波はれて出づる月影

藤原隆信朝臣

題志らず

明けぬとや釣する舟も出でぬらむ月に棹さす鹽がまの浦

平高宗

長き夜も明けなばつらし水の江の浦島かけてすめる月影

永福門院

伏見院の三十首の歌の中に

さやかなる月さへ疎く成ぬべし涙の外に見る夜なければ

式子内親王

題志らず

我が宿の籬にこむる秋の色をさながら霜に知せずもがな

正三位季經

明方に夜はなりぬらし菅原や伏見の田ゐに鴫ぞ立つなる

中納言爲藤

文保三年百首の歌奉りける時

憂き事の限知られぬねざめかな鴫の羽根掻數はかけども

伏見院御製

秋の御歌の中に

思へたゞ空しきはしに雨をおきて明け難き夜の秋の心を

侍從隆朝

元弘三年九月十三夜、内裏の三首の歌に、月前擣衣といふ事を

亂れてぞ音も聞ゆる夜もすがら志のぶの衣月にうつらし

前大納言爲定

正和五年九月十三夜、後醍醐院みこの宮と申しける時、五首の歌めされけるに、同じ心を

つき草の花ずり衣秋の夜はやがて移ろふかげに擣つなり

法印仲顯

題志らず

床の霜枕の月のさむき夜にたえずや人のころもうつらむ

讀人志らず

山彦の音は野里の小夜衣こなたかなたに擣つかとぞ聞く

二品法親王寛尊

移り行く籬の菊のいろにこそ秋の日數のほども見えけれ

伏見院御製

花園院くらゐにおましましける時、十月ばかり持明院殿へ行幸あるべかりけるまへの日、紅葉を箱のふたに入れて奉らせ給うける

色そへむ行幸をぞ待つもみぢ葉もふりぬる宿の庭の景色に

花園院御製

御返し

尋ぬべき程こそ最ど急がるれかづ%\見ゆる庭のもみぢ葉

入道二品親王覺譽

紅葉を

露霜の色とも見えぬ紅にいかで染めける木の葉なるらむ

玄勝法師

山ひめの手染に急ぐもみぢ葉やしぐれぬ先の錦なるらむ

太宰權帥爲經

建長六年九月十三夜、五首の歌めされける時、初紅葉といふ事を

山姫のいそぐ衣の秋の色を染めはじめたる峯のもみぢば

後醍醐院御製

十首の歌めしける時、秋夕雨といふ事をよませ給うける

夕づくひしぐれて殘る山のはのうつろふ雲に秋風ぞ吹く

前參議實名

百首の歌奉りし時、紅葉

今はたゞよそにぞ見つる小倉山峯の紅葉の秋のさかりを

堀河右大臣

宇治入道前關白紅葉見にまかると聞きていひ遣しける

いかにしてありし心を慰めむ紅葉見にとも誘はれぬ身を

貫之

延喜七年大井川に行幸の時序たてまつりて泛秋水と云へる事をよめる

波の上を漕ぎつゝ行けば山近み嵐に散れる木葉とや見む

前大納言實教

後醍醐院に十首の歌めしけるに、曉惜月といふ事を

惜しと見る有明の月の名殘をも思捨てゝや秋は行くらむ

前大納言爲世

暮秋霜

うらがるゝ野べの尾花の袖の霜結びすてゝも暮るゝ秋哉

冷泉前太政大臣

寳治二年百首の歌奉りける時、初冬時雨

晴れ曇り時雨ふりおける片岡の楢の葉さやぎ冬はきに鳬

禪信法師

題志らず

山風にすぎ行く雲の跡までも猶名殘あるむらしぐれかな

藤原俊顯朝臣

寐覺して明くるまつ間の手枕に幾度すぐる時雨なるらむ

前大納言經顯

百首の歌奉りし時、落葉

濡れて猶色こそ増れ落葉をも重ねて染むる時雨なりけり

殷富門院大輔

同じ心を

神無月時雨の雨の織りかけし錦ふきおろすさほの山かぜ

前内大臣

大井川かげ見しみづに流るめりさそふ嵐の山のもみぢば

貫之

權中納言兼輔の家の屏風の歌

もみぢ葉の流るゝ時は白浪のたちにし名こそ變るべらなれ

高市黒人

題志らず

とくきても見てまし物を山城の高槻村の散りにけるかも

平時常

野も山も木葉まれなる冬がれに嵐を殘すみねのまつばら

後西園寺入道前太政大臣

文保の百首の歌奉りし時

いせ島や浦風そよぐ濱荻のしものかれ葉も神さびにけり

聖尊法親王

冬の歌の中に

難波江や霜に朽ぬる芦の葉はそよぐともなく浦風ぞ吹く

大江忠廣

冬枯の眞野の萱原ほにいでし面影見せておけるしもかな

入道二品親王覺譽

百首の歌奉りし時、寒草

風さゆる霜の籬の花ずゝきかれし人めにたれまねくらむ

等持院贈左大臣

冬月の歌とてよめる

霜むすぶ枯野の小笹うちさやぎ嵐も月も冴えまさりつゝ

院御製

冬望といふ事を

冬ふかみ寂しきいろは猶そひぬかり田の面のしもの明方

前大納言經繼

龜山殿の千首の歌に

冬の夜の月影さむき谷の戸に氷をたゝく山おろしのかぜ

中納言爲藤

二品法親王覺助の家の五十首の歌に、冬曉月

長き夜の寐覺の涙ほしやらで袖よりこほるありあけの月

宗久法師

題志らず

今朝見れば竹の筧を行く水のあまる雫ぞかつこほりぬる

内大臣

百首の歌奉りけるに、氷

さえまさる山風ばかり音たてゝ氷にむせぶたに川のみづ

藤原長秀

瀧氷を

吉野川たぎつ流もこほるなり山した風やさえまさるらむ

乘功法師

題志らず

冬の夜のさむけき月に數見えて伏見の澤にわたる水どり

按察使實繼

百首の歌奉りし時、水鳥

群れてたつ鴨のうきねの跡ばかり暫しこほらぬ庭の池水

前大納言公蔭

冬の歌の中に

いつのまに結ぶ氷ぞあし鴨のあしのいとなくさわぐ池水

權中納言公雄

河千鳥

山科の音羽の河の小夜千鳥およばぬ跡に音をのみぞ鳴く

二品法親王尊胤

百首の歌奉りし時、千鳥

人なみに名をやかくると和歌の浦に猶跡慕ふ友千鳥かな

信快法師

同じ心を

人志れぬ音をのみなきて濱千鳥跡をぞかこつ和歌の浦波

正三位通藤女

題志らず

和歌の浦に心をとめて濱千鳥跡まで思ふ音こそなかるれ

後醍醐院女藏人萬代

難波がた月のでしほの浦風によるべ定めずなく千鳥かな

左兵衛督基氏

みだれ葦の枯葉の霜や沖つ風ふけゆく月に千鳥鳴くなり

權大納言義詮

百首の歌奉りし時、千鳥

とけて寐ぬ須磨の關守夜や寒き友よぶ千鳥月に鳴くなり

亭子院御製

亭子院の歌合に左方にうへの御心よせありとて、右の頭の女七のみこ恨み給ふよし聞しめして

立ち歸り千鳥なくなりはまゆふの心隔てゝ思ふものかは

延政門院新大納言

伏見院に奉りける三十首の歌に

浦づたふ霜夜の千鳥聲さえて汐干のかたに友さそふなり

道因法師

網代待友といふ事を

網代へと契りし人のまだこぬは何處によりて日を暮す覽

源氏頼

鷹狩をよめる

降る雪にとだち尋ねて今日幾か交野のみのを狩暮すらむ

源顯氏

冬の歌の中に

音にのみふるとはきけど玉笹の上にたまらず散る霰かな

權律師則祐

枯れ殘るまがきの荻の一むらにまた音たてゝふる霰かな

前參議敦有

霰を

ぬきとめぬをすての山の苔の上に亂るゝ玉は霰なりけり

源頼隆

題志らず

志がらきの外山に降れる初雪に都の空ぞなほしぐれける

夢窓國師

初雪の朝等持院贈左大臣尋ね來りて侍りける時よみ侍りける

とふ人の情の深きほどまではつもりもやらぬ庭の志ら雪

源宗氏

冬の歌の中に

降る雪の踏分けぬべき宿ならばとはれぬ身をや猶も怨みむ

後醍醐院女藏人萬代

踏み分けて誰かはとはむ草の原そことも知らず積る白雪

惟賢上人

さゞ波や打出でゝ見れば白妙の雪をかけたる瀬田の長橋

藤原盛徳

難波がたまさごぢ遠くひく潮の流れ干る間につもる白雪

前關白左大臣近衛

百首の歌奉りし時、雪

雲かゝる葛城山に降り初めてよそにつもらぬ今朝の白雪

藤原爲重朝臣

かざこしの峰の吹雪もさえくれてきそのみ坂を埋む白雪

範空上人

題志らず

いとゞ猶ゆきゝも絶えて世を厭ふ山のかひある庭の白雪

加賀左衛門

大納言經信草子を書かせけるを、雪の降る日、書きて遣し侍るとて書きつけ侍りける

哀なり降積りたる雪よりも我身はまづや消えむとすらむ

大納言經信

返し

富士のねに降積む雪の年をへて消えぬ例に君をこそ見め

前大納言忠季

百首の歌奉りし時、炭竈

雪はなほ埋みも果てぬ炭がまの烟ふきしく小野の山かぜ

等持院贈左大臣

炭がまに通ふゆきゝの跡ばかり雪にぞみゆる大原のやま

伏見院御製

嘉元元年三十首の歌めしけるついでに、夜神樂といへる事を詠ませ給うける

星うたふ聲や雲居にすみぬらむ空にも頓て影のさやけき

後伏見院御製

冬の御歌の中に

見しやいつぞ豐の明のそのかみも面影とほき雲の上の月

野宮左大臣

千五百番歌合に

行く年も立ちくる春も逢坂の關路の鳥の音をや待つらむ