University of Virginia Library

大納言經信

源政長朝臣の家にて人々長歌よみけるに、初冬述懷といへる心を詠める

あらたまの 年くれゆきて ちはやぶる かみな月にも なりぬれば 露より志もを 結び置きて 野山のけしき ことなれば なさけ多かる ひと%\の とほぢの里に まとゐして うれへ忘るゝ ことなれや 竹の葉をこそ かたぶくれ 心をすます われなれや 桐のいとにも たづさはる 身にしむ事は にはの面に 草木をたのみ なくむしの 絶々にのみ なりまさる 雲路にまよひ 行くかりも きえみきえずみ 見えわたり 時雨し降れば もみぢ葉も 洗ふにしきと あやまたれ 霧しはるれば つきかげも 澄める鏡に ことならず 言葉にたえず しきしまに 住みける君も もみぢ葉の たつ田の河に ながるゝを 渡らでこそは をしみけれ 然のみならず からくにゝ 渡りしひとも つきかげの 春日のやまに いでしをば 忘れでこそは ながめけれ かゝるふる事 おぼゆれど 我が身に積る たきゞにて 言葉のつゆも もりがたし 心きえたる はひなれや 思ひのことも うごかれず 志らぬ翁に なりゆけば むつぶる誰も なきまゝに 人をよはひの くさもかれ 我が錦木も くちはてゝ 事ぞともなき 身のうへを あはれあさ夕 何なげくらむ