University of Virginia Library

源順

身の沈みぬることをなげきて勘解由判官にて

あらたまの  年のはたちに  たらざりし  ときはの山の  やまさむみ  風もさはらぬ  ふぢごろも  ふた度たちし  あさぎりに  こゝろも空に  まどひそめ  みなしこ草に  なりしより  物思ふことの  葉をしげみ  けぬべき露の  よるはおきて  夏はみぎはに  もえわたる  ほたるを袖に  ひろひつゝ  ふゆは花かと  見えまがひ  このもかのもに  ふりつもる  雪をたもとに  あつめつゝ  文みていでし  みちはなほ  身の憂にのみ  ありければ  爰もかしこも  あしねはふ  下にのみこそ  しづみけれ  誰こゝのつの  さはみづに  なくたづの音を  ひさかたの  雲のうへまで  かくれなみ  たかく聞ゆる  かひありて  いひ流しけむ  ひとはなほ  かひも渚に  みつしほの  世には辛くて  すみのえの  松はいたづら  老いぬれど  みどりの衣  ぬぎすてむ  春はいつとも  しらなみの  浪路にいたく  ゆきかよひ  ゆも取敢へず  なりにける  舟のわれをし  きみしらば  あはれいまだに  しづめじと  天のつりなは  打ちはへて  ひくとしきかば  物は思はじ