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拾遺和歌集卷第九 雜下
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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9. 拾遺和歌集卷第九
雜下

貫之

ある所に春秋いづれかまさるととはせ給ひけるによみて奉りける

春秋におもひ亂れてわきかねつ時につけつゝうつる心は

元良のみこ承香殿のとし子に春秋いづれかまさるととひ侍りければ秋もをかしう侍りといひければおもしろきさくらをこれはいかゞといひて侍りければ

大かたの秋に心はよせしかど花みる時はいづれともなし

よみ人志らず

題志らず

春はたゞ花のひとへに咲くばかり物の哀は秋ぞまされる

大納言朝光

圓融院のうへ、鶯と郭公といづれかまさると申せと仰せられければ

折からに何れ共なき鳥のねもいかゞ定めむ時ならぬ身は

參議伊衡

躬恒忠岑にとひ侍りける

白露は上より置くをいかなれば萩の下葉のまづもみづ覽

躬恒

こたふ

小男鹿のしがらみふする秋萩は下葉や上になり返るらむ

忠岑

秋萩はまづさすえより移ふを露のわくとは思はざらなむ

これひら

又とふ

千年ふる松の下葉の色づくはたがしたかみに懸て返すぞ

躬恒

こたふ

松といへば千年の秋に逢來れば忍びにおつる下葉なりけり

これひら

またとふ

白妙のしろき月をも紅の色をもなどかあかしといふらむ

躬恒

こたふ

昔よりいひしきにける事なれば我らはいかゞ今は定めむ

伊衡

又とふ

影みれば光なきをも衣ぬふ糸をもなどかよるといふらむ

躬恒

こたふ

うば玉の夜は戀しき人に逢て糸をもよれば逢ふとやはみぬ

これひら

又とふ

夜晝の數はみそぢにあまらぬをなど長月といひ始めけむ

躬恒

こたふ

秋深み戀する人の明しかね夜を長月といふにやあるらむ

よみ人志らず

歌合のあはせずなりにけるに

水の泡や種となるらむ浮草のまく人なみの上におふれば

此歌貫之が集にあり。

惠慶法師

草合し侍りける所に

種無くてなき物草はおひに鳬まくてふ事は有じとぞ思ふ

曾禰好忠

なぞ/\物語しける所に

わが事はえも岩しろの結び松千年をふとも誰かとくべき

よみ人志らず

題志らず

足引の山のこでらに住む人はわがいふことも叶はざりけり

源經房朝臣

健守法師佛名の野ぶしにてまかり出でゝ侍りけるとしいひ遣はしける

山ならぬ住處許多に聞く人は野伏にとくもなりにける哉

健守法師

返し

山伏ものぶしもかくて心みつ今はとねりのねやぞ床しき

右大將道綱母

屏風に法師の舟にのりて漕ぎ出でたる所

渡つ海は蜑の舟社ありと聞け乘たがへても漕ぎ出づる哉

内より人の家に侍りける紅梅をほらせ給ひけるに鶯のすくひて侍りければ家の主人の女まづかくそうせさせ侍りける

勅なればいともかしこし鶯の宿はととはゞいかゞ答へむ

かく奏せさせければほらずなりにけり。

壽玄法師

ある所にせきやうし侍りける法師のずそうばらのゐて侍りけるに簾垂の内より花を折りてといひ侍りければ

いなをらじ露に袂のぬれたらば物思ひけりと人も社みれ

能宣

月を見侍りて

梓弓遙に見ゆるやまの端をいかでか月のさして入るらむ

伊勢

賀茂にまうで侍りける男の見侍りて今はな隱れそいとよく見てきといひおこせて侍りければ

空めをぞ君は御手洗川の水淺しやふかしそれはわれかは

藤原仲文

能宣に車のかもをこひに遣はして侍りけるに侍らずといひて侍りければ

かを指て馬といふ人有ければ鴨をも惜しと思ふなるべし

能宣

返し

なしといへば惜むかもとや思ふ覽鹿や馬とぞ云べかりける

惠慶法師

廉義公の家のかみゑにあを馬ある所にあしのはなげの馬ある所

難波江の芦の花げの雜れるは津の國かひの駒にやある覽

忠見

津のかみに侍りける人のもとにて

難波瀉茂りあへるは君が世にあしかる業をせねば成べし

津の國に罷れりけるにしりたる人に逢ひ侍りて

都には住侘び果てゝ津の國の住吉ときくさとにこそゆけ

難波にはらへしに、ある女まかりたりけるにもとしたしく侍りける男の葦をかりて怪しきさまになりて道にあひて侍りけるにさりげなくて年頃えあはざりつることなどいひ遣はしたりければ男のよみ侍りける

君なくてあしかり鳬と思ふにもいとゞ難波の浦ぞ住憂き

返し

惡からじよからむとてぞ別れ劍なにか難波の浦は住憂き

麗景殿宮の君

伊勢の御やす所うみ奉りたりけるみこのなくなりにけるが書きおきたりける繪を藤壷より麗景殿の女御のかたに遣はしたりければ此のゑを返すとて

亡人の形見と思ふに怪しきはゑみても袖のぬるゝなりけり

菅原道雅女

地獄のかた書きたるを見て

みつせ川渡るみざをもなかりけり何に衣をぬぎてかく覽

皇太后宮權大夫國章

こぞの秋むすめに後れて侍りけるにうまごの後の春兵衛佐になりて侍りけるよろこびを人々いひつかはし侍りければ

かくしこそ春の始はうれしけれつらきは秋の終なりけり

源重之が母の近江のこふに侍りけるにうまごの吾妻よりよるのぼりて急ぐ事侍りてえ此度逢はで上りぬることと言ひて侍りければおばの女のよみ侍りける

親の親と思はましかば問てまし我子の子には非ぬ成べし

人麿

題志らず

山高み夕日かくれぬ淺茅原後みむためにしめゆはましを

貫之

名のみして山はみ笠も無かり鳬旭夕日のさすをいふかも

よみ人志らず

なのみしてなれるも見えず梅津川井堰の水ももれば也鳬

名にはいへど黒くも見えず漆川流石に渡る水はぬるめり

惠慶法師

雨ふる日大はら川をまかり渡りけるにひるのつきたりければ

世中にあやしき物は雨ふれど大原川の干るにぞありける

仲文

かうぶり柳をみて

河柳糸はみどりにあるものをいづれかあけの衣なるらむ

御製

天暦の御時一條攝政藏人頭にて侍りけるにおびをかけて御碁あそばしけるまけ奉りて御數多くなり侍りければおびを返し給ふとて

白波の打ちや返すと待つほどに濱の眞砂の數ぞつもれる

小野宮太政大臣

内侍馬が家に右大將實資が童に侍りける時碁打ちに罷りたりければものかゝぬさうしをかけ物にして侍りけるを見侍りて

いつしかと明けてみたれば濱千鳥跡ある毎に跡のなき哉

返し

止めても何にかはせむ濱千鳥ふりぬる跡は浪に消えつゝ

よみ人志らず

題志らず

水底のわくばかりにやかゝるらむよる人もなき瀧の白糸

清原元輔肥後守に侍りける時かの國のつゞみの瀧といふ所を見にまかりたりけるにことやうなる法師のよみ侍りける

音にきく皷の瀧を打見ればたゞ山川のなるにぞありける

三位國章ちひさき瓜を扇に置きて藤原かねのりにもたせて大納言朝光が兵衛佐に侍りける時つかはしたりければ

音にきくこまのわたりの瓜作りとなりかくなりなる心哉

返し

定なくなるなる瓜のつゝ見ても立やよりこむこまの好物

兼盛

みちのくに名取のこほりくろづかといふ所に重之がいもうとあまたありと聞きていひ遣はしける

陸奧の安達の原の黒づかに鬼こもれりといふはまことか

藤原爲頼

廉義公の家のかみゑに旅人の盗人にあひたるかたかける所

盗人の立田の山に入りにけり同じかざしの名にや穢れむ

なき名のみ立田の山の麓にはよにも嵐のかぜも吹かなむ

八條のおほいぎみ

高尾にまかりかよふ法師に名たち侍りけるを少將重基が聞きつけて誠かといひ遣はしたりければ

なき名のみ高尾の山と云立つる君は愛宕の峯にやある覽

元輔

みたけに年おいてまうで侍りて

古ものぼりやしけむ吉野山山よりたかきよはひなるひと

大隅守櫻島の忠信が國に侍りける時郡の司かしら白き翁の侍りけるをめしかんがへむとし侍りにける時翁のよみ侍りける

老果てゝ雪の山をば戴けど霜と見るにぞ身はひえにける

この歌によりて許され侍りにける。

旋歌頭
[_]
[1]

増かゞみそこなる影に向ひゐて見る時にこそしらぬ翁にあふ心地すれ
[_]
[1] Shinpen kokka Taikan (Tokyo: Kadokawa Shoten, 1983, vol.1) reads 旋頭歌.

柿本人麿

増鏡見しかと思ふ妹にあはむかも玉のをの絶えたる戀の茂き此頃

彼岡に草かるをのこ然なかりそありつゝも君がきまさむみまくさにせむ

源景明

女のもとに罷りたりけるにとくいりにければあしたに

梓弓思はずにして入りにしをさもねたく引きとゞめてぞふすべかりける

長歌
人麿

吉野の宮に奉る歌

ちはやぶる  わがおほ君の  きこしめす  天のしたなる  くさのはも  うるひにたりと  やまがはの  澄るかふちと  みこゝろを  吉野のくにの  はなざかり  秋津ののべに  みやばしら  太敷きまして  もゝしきの  おほみや人は  ふねならべ  あさ川わたり  ふなくらべ  夕がはわたり  このかはの  たゆる事なく  このやまの  いや高からし  たまみづの  たきつの都  みれどあかぬかも

反歌

みれどあかぬ吉野の川の流れても絶ゆる時なく行歸見む

源順

身の沈みぬることをなげきて勘解由判官にて

あらたまの  年のはたちに  たらざりし  ときはの山の  やまさむみ  風もさはらぬ  ふぢごろも  ふた度たちし  あさぎりに  こゝろも空に  まどひそめ  みなしこ草に  なりしより  物思ふことの  葉をしげみ  けぬべき露の  よるはおきて  夏はみぎはに  もえわたる  ほたるを袖に  ひろひつゝ  ふゆは花かと  見えまがひ  このもかのもに  ふりつもる  雪をたもとに  あつめつゝ  文みていでし  みちはなほ  身の憂にのみ  ありければ  爰もかしこも  あしねはふ  下にのみこそ  しづみけれ  誰こゝのつの  さはみづに  なくたづの音を  ひさかたの  雲のうへまで  かくれなみ  たかく聞ゆる  かひありて  いひ流しけむ  ひとはなほ  かひも渚に  みつしほの  世には辛くて  すみのえの  松はいたづら  老いぬれど  みどりの衣  ぬぎすてむ  春はいつとも  しらなみの  浪路にいたく  ゆきかよひ  ゆも取敢へず  なりにける  舟のわれをし  きみしらば  あはれいまだに  しづめじと  天のつりなは  打ちはへて  ひくとしきかば  物は思はじ

能宣

返し

よのなかを  思へばくるし  わするれば  えも忘られず  たれもみな  同じみやまの  まつが枝と  かるゝ事なく  すべらぎの  千代も八千代も  つかへむと  たかき頼みを  かくれぬの  したよりねざす  あやめぐさ  綾なき身にも  ひとなみに  かゝる心を  おもひつゝ  よにふる雪を  きみはしも  冬はとりつみ  なつはまた  草のほたるを  あつめつゝ  光さやけき  ひさかたの  月のかつらを  をるまでに  時雨にそぼち  つゆにぬれ  へにけむ袖の  ふかみどり  色あせがたに  いまはなり  かつ下葉より  くれなゐに  うつろひはてむ  秋にあはゞ  先ひらけなむ  はなよりも  木高きかげと  あふがれむ  物とこそみし  しほがまの  うら寂しげに なぞもかく  世をしも思ひ  なすのゆの  絶ゆる故をも  かまへつゝ  わが身を人の  身になして  思ひくらべよ  もゝしきに  あかし暮して  とこなつの  雲居はるけき  ひとなみに  おくれて靡く  我もあるらし

讀人志らず

ある男の物いひ侍りける女の忍びてにげ侍りて年頃ありて消息して侍りけるに男よみ侍りける

いまはとも  いはざりしかど  やをとめの  立つや春日の  ふるさとに  歸りやくると  まつちやま  待つ程過ぎて  かりがねの  雲のよそにも  きこえねば  我はむなしき  たまづさを  斯てもたゆく  結び置きて  つてやる風の  たよりだに  渚にきゐる  ゆふちどり  うらみは深く  みつしほに  袖のみいとゞ  ぬれつゝぞ  あとも思はぬ  きみにより  かひなき戀に  なにしかも  われのみ獨  うきふねの  焦れてよには  わたるらむ  とさへぞはては  かやり火の  くゆる心も  つきぬべく  思ひなるまで  おとづれず  覺束なくて  かへれども  けふ水ぐきの  あとみれば  契りしことは  きみもまた  忘れざりけり  暫しあらば  誰もうきよの  あさつゆに  光待つまの  身にしあれば  思はじいかで  とこなつの  花のうつろふ  あきもなく  同じわたりに  すみの江の  岸のひめまつ  ねをむすび  世々をへつゝも  しもゆきの  ふるにもぬれぬ  なかとなりなむ

東三條太政大臣

圓融院の御時大將はなれ侍りて後久しく參らで奏せさせ侍りける

あはれわれ  いつゝの宮の  みやびとゝ  その數ならぬ  身をなして  思ひしことは  かけまくも  かしこけれ共  たのもしき  かげに二たび  おくれたる  ふたばの草を  ふくかぜの  荒きかたには  あてじとて  せばき袂を  ふせぎつゝ  ちりも据じと  みがきては  玉のひかりを  誰れかみむ  とおもふ心に  おほけなく  かみつ枝をば  さしこえて  はな咲く春の  みやびとゝ  なりし時はゝ  いかばかり  しげき影とか  たのまれし  末の世までと  おもひつゝ  こゝの重ねの  そのなかに  いつきすべしも  ことてしも  誰ならなくに  をやまだを  人にまかせて  われはたゞ  袂そほづに  身をなして  ふたはる三春  すぐしつゝ  その秋ふゆの  あさぎりの  絶間にだにも  と思ひしを  みねのしら雲  よこさまに  立ち變りぬと  みてしかば  身を限とは  おもひにき  命あらばと  たのみしは  人におくるゝ  ななりけり  思ふもしるし  やまがはの  みなしもなりし  もろびとも  動かぬきしに  守りあげて  沈むみくづの  はて/\は  かき流されし  かみなづき  薄きこほりに  とぢられて  とまれる方も  なきわぶる  なみだ沈みて  かぞふれば  ふゆも三月に  なりにけり  長きよな/\  しきたへの  ふさず休まず  明けくらし  思へどもなほ  かなしきは  やそうぢ人も  あたらよの  例なりとぞ  さわぐなる  况てかすがの  すぎむらに  未だかれたる  枝はあらじ  おほ原のべの  つぼすみれ  つみ犯しある  ものならば  照日もみよと  いふことを  年のをはりに  きよめずば  わが身ぞ遂に  くちぬべき  谷のうもれ木  はるくとも  偖ややみなむ  年のうちに  春ふくかぜも  心あらば  袖のこほりを  とけとふかなむ

これが御返したゞいなぶねのと仰せられたりければ又御返し

いかにせむ我身くだれる稻舟のしばしばかりの命堪ずば