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拾遺和歌集卷第十六 雜春
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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16. 拾遺和歌集卷第十六
雜春

凡河内躬恒

題志らず

春立つと思ふこゝろは嬉しくて今ひと年の老ぞそひける

よみ人志らず

あたらしき年はくれども徒に我身のみこそふり増りけれ

新しき年にはあれども鶯の鳴く音さへには變らざりけり

右近

北宮の屏風に

年月の行方も知らぬ山がつはたきの音にや春をしるらむ

紀貫之

延喜十五年齋院の屏風の歌

春くれば瀧の白糸いかなれや結べども猶あわにみゆらむ

中務卿具平親王

正月に人々まうで來りけるに又の日のあしたに右衛門督公任の朝臣のもとに遣はしける

あかざりし君が匂の戀しさに梅の花をぞ今朝は折りつる

贈太政大臣

流され侍りける時家の梅の花を見侍りて

こち吹かば匂おこせよ梅の花主人なしとてはるを忘るな

よみ人志らず

桃園の齋院の屏風に

梅の花春よりさきに咲きしかど見る人稀に雪の降りつゝ

中納言安陪廣庭

題志らず

いにし年ねこじて植ゑしわが宿の若木の梅は花咲きに鳬

一條攝政

天暦の御時臺盤所のまへに鶯のすを紅梅の枝につけて立てられたりけるを見て

花のいろはあかず見るとも鶯の塒の枝に手ななふれそも

源寛信朝臣

おなじ御時梅の花のもとに御いしたてさせ給ひて花の宴せさせ給ふに殿上のをのこども歌つかうまつりけるに

折りてみるかひもある哉梅の花けふ九重に匂ひまさりて

參議伊衡

内裏の御遊侍りける時

簪してはしらがに紛ふ梅の花今は何れをぬかむとすらむ

貫之

清和の七のみこ六十賀の屏風に

かぞふれど覺束なきをわが宿の梅こそ春の數を知るらめ

よみ人志らず

題志らず

年毎に咲きは變れど梅の花哀なるかはうせずぞありける

源順

圓融院の御時三尺の御屏風十二帖の歌の中

梅がえをかりにきて折る人やあると野べの霞は立隱すかも

右衛門督公任

北白川の山庄に花のおもしろく咲きて侍りけるを見に人々まうで來りければ

春きてぞ人もとひける山里は花こそやどの主人なりけれ

安法法師

鞍馬にまうで侍りける折に道をふみたがへてよみ侍りける

覺束なくらまの山のみちしらで霞の内にまどふけふかな

紀貫之

延喜十五年齋院の屏風に霞をわけて山寺にいる人あり

思ふ事ありてこそ行け春霞道さまたげに立ちなかくしそ

能宣

小一條のおほいまうちぎみの家の障子に

田子の浦に霞の深くみゆるかな藻汐の煙立ちや添ふらむ

よみ人志らず

山里に忍びて女をゐてまうできてある男のよみ侍りける

思ふ事いはでやみなむ春霞山路もちかし立ちもこそきけ

中宮内侍

人に物いふと聞きてとはざりける男のもとに

春日野の荻の燒原あさる共見えぬなき名をおほすなる哉

藤原長能

女のもとになづなの花につけて遣はしける

雪を薄み垣ねに摘る唐なづななづさはまくのほしき君哉

右衛門督公任

東三條院の御四十九日のうちに子日いできたりけるに宮の君と云ひける人のもとに遣はしける

誰により松をもひかむ鶯の初音かひなきけふにもある哉

惠慶法師

子日

引てみる子日の松は程なきを爭で籠れる千世にかある覽

よみ人志らず

題志らず

占て社千年の春はきつゝみめ松を手たゆく何か引くべき

齋院の子日

一本の松のちとせも久しきにいつきの宮ぞ思ひやらるゝ

清原元輔

右大將實資下??に侍りける時子日しけるに

老の世に斯る御幸はありきやと木高き峰の松にとはゞや

大中臣能宣

正月叙位の頃ある所に人々まかりあひて子日の歌よまむといひて侍りけるに六位に侍りける時

松ならば引く人けふは有なまし袖の緑ぞかひなかりける

元輔

除目のころ子日にあたりて侍りけるに按祭の更衣のつぼねより松をはしにてたべ物を出してはべりけるに

引く人も無てやみぬるみ芳野の松は子日をよそに社きけ

康和二年春宮の藏人になりて月のうちに民部丞にうつりて二たびよろこびを述べて右近の命婦がもとに遣はしける

引く人もなしとおもひし梓弓今ぞ嬉しきもろ矢しつれば

よみ人志らず

題志らず

咲きし時猶こそみしか桃のはな散れば惜くぞ思ひ成ぬる

弓削嘉言

帥のみこ人々に歌よませ侍りけるに

山里の家居は霞こめたれど垣ねのやなぎすゑはとにみゆ

賀朝法師

春ものへまかりけるにつぼ裝束して侍りける女どもの野邊に侍りけるをみて何わざするぞと問ひければ野老ほるなりと應へければ

春の野に野老求むといふなるはふたりぬ計見出たりや君

よみ人志らず

かへし

春の野にほる/\みれどなかり鳬世に所せき人の爲には

題志らず

掻暮し雪もふらなむ櫻花まだ咲かぬまはよそへてもみむ

春風は花のなきまに吹果てね咲きなば思なくてみるべく

躬恒

咲かざらむ物とはなしに櫻花面影にのみまだきみゆらむ

よみ人志らず

何處にか此ころ花の咲かざらむ心からこそ尋ねられけれ

躬恒

延喜の御時月次の御屏風のうた

櫻花わが宿にのみありと見ばなき物ぐさは思はざらまし

よみ人志らず

櫻の花の咲きて侍りける所にもろともに侍りける人の後の春ほかに侍りけるにその花を折りてつかはしける

もろともに折りし春のみこひしくて獨見まうき花盛かな

壬生忠見

みづし所にさぶらひけるに藏人所の男子ども櫻の花を遣はしたりければ

諸共にわれしをらねばさくら花思ひやりてや春を暮さむ

御導師淨藏

ある人のもとに遣はしける

霞立つ山のあなたのさくら花思ひやりてや春をくらさむ

貫之

題志らず

遠方の花も見るべく白波のともにやわれも立ち渡らまし

僧正遍昭

春花山に亭子法皇おはしまして歸らせ給ひければ

まてといはゞ最も畏し花山に暫しとなかむ鳥のねもがな

藤原忠房朝臣

京極の御息所かすがにまうで侍りける時國司の奉りける歌あまたありける中に

鶯の鳴きつるなべに春日野のけふの御幸を花とこそみれ

古里に咲くと侘びつる櫻花ことしぞ君に見えぬべらなる

春霞春日の野べに立ちわたりみちてもみゆる都びとかな

兼盛

圓融院の御時三尺の御屏風に花の木の本に人々あつまりゐたる所

世中に嬉しき物は思ふどち花見てすぐすこゝろなりけり

元輔

清愼公の家にて池のほとりの櫻の花をよみ侍りける

櫻花底なる影ぞをしまるゝしづめる人をはるとおもへば

藤原長能

上總よりのぼりて侍りける頃源頼光が家にて人々さけたうべけるついでに

東路の野路の雪間を分けてきて哀れ都のはなをみるかな

兼盛弟

清愼公の家さぶらひにともしびのもとに櫻の花を折りてさして侍りけるをよみ侍りける

日の本にさける櫻の色みれば人の國にもあらじとぞ思ふ

平きんざね

山櫻を見侍りて

深山木の二葉みつ葉にもゆる迄消せぬ雪とみえもする哉

藤原長能

ごんくうち侍りける時にはたやき侍りけるをみてよみ侍りける

かた山にはたやく男子かのみゆるみ山櫻をよきて畑やけ

よみ人志らず

石山のたうのまへに侍りける櫻の木に書き付け侍りける

うしろめたいかで歸らむ山櫻あかぬ匂をかぜにまかせて

貫之

敦慶式部卿のみこのむすめ伊勢がはらに侍りけるが近き所に侍りけるに瓶にさしたる花を送るとて

久しかれ仇に散るなと櫻花かめにさせれど移ろひにけり

源公忠朝臣

延喜の御時南殿にちりつみて侍りける花をみて

殿守のともの宮つこ心あらばこの春ばかり朝ぎよめすな

よみ人志らず

題志らず

櫻花三笠の山の影しあれば雪と降るともぬれじとぞ思ふ

年毎に春の詠めはせしかども身さへふる共思はざりしを

年毎に春はくれども池水におふる蓴は絶えずぞありける

菅原輔昭

三月閏月ありける年八重やまぶきをよみ侍りける

春風はのどけかるべしやへよりもかさねて匂へ山吹の花

屏風のゑに花のもとにあみひく所

浦人は霞をあみにむすべばや浪の花をもとめて引くらむ

貫之

延喜の御時御屏風に

やみなれば河風いたく吹く時ぞ浪の花さへ落ち増りける

一條の君貞平のみこの女

亭子院京極の御息所にわたらせ給うてゆみ御覽じてかけ物いださせ給ひけるにひげこに花をこき入れて櫻をとぐらにしてやますげを鶯にむすびそへてかくかきて加へさせたりける

木の間より散りくる花を梓弓えやはとゞめぬ春の形見に

如覺法師

ひえの山に住み侍りける頃人のたき物をこひて侍りければ侍りけるまゝにすこしを梅の花のわづかに散り殘りて侍る枝につけて遣はしける

春過ぎて散りはてにける梅の花唯かばかりぞ枝に殘れる

左大臣

右衛門督公任こもり侍る頃四月一日にいひ遣はしける

谷の戸をとぢや果てつる鶯のまつに音せで春も過ぎぬる

公任朝臣

返し

行きかへる春をもしらず花咲かぬみ山がくれの鶯のこゑ

元輔

四月朔日よみ侍りける

春はをし時鳥はたきかまほしおもひわづらふしづ心かな

貫之

延長四年九月二十八日法皇御六十賀京極の御息所のつかうまつりける屏風の歌、藤の花

松風の吹かむ限は打ちはへてたゆべくもあらず咲る藤波

皇太后宮權大夫國章

延喜の御時藤壷の藤花の宴せさせ給ひけるに殿上のをのこども歌つかうまつりけるに

藤の花宮のうちには紫のくもかとのみぞあやまたれける

右衞門督公任

左大臣のむすめの中宮の寮にてうじ侍りける屏風に

紫の雲とぞ見ゆる藤の花いかなるやどのしるしなるらむ

よみ人志らず

紫の色しこければ藤の花まつのみどりもうつろひにけり

人麿

題志らず

時鳥かよふかきねの卯花のうきことあれや君がきまさぬ

重之

屏風のゑに

卯花の咲ける垣ねに宿りせじねぬに明けぬと驚かれけり

實方朝臣

みちの國にまかり下りてのち時鳥の聲を聞きて

年をへて深山がくれの時鳥きく人もなき音をのみぞなく

よみ人志らず

女のもとに白き絲をさうぶのねにしてくすだまをおこせ侍りてあはれなる事どもをある男のいひおこせて侍りければ

聲立てゝ鳴くといふとも時鳥袂はぬれじそらねなりけり

元輔

廉義公の家の障子に

かくばかり待つとしらばや時鳥梢たかくも鳴き渡るかな

大中臣輔親

題志らず

足引のやま時鳥里なれてたそがれどきに名のりすらしも

大伴像見かたみトカ

坂上の郎女に遣はしける

古里のならしの岡に時鳥ことづてやりきいかにつげきや

健守法師

螢をよみ侍りける

終夜もゆる螢を今朝みれば草の葉ごとにつゆぞおきける

貫之

延長七年十月十四日もとよしのみこの四十賀し侍りける時の屏風に

常夏の花をしみれば打はへて過ぐる月日の數もしられず

贈皇后宮懷子

一條攝政の北のかたほかに侍りける頃女御と申しける時

しばしだに蔭にかくれぬ時は猶うなだれぬべき撫子の花

躬恒

題志らず

徒に老いぬべらなり大荒木の森のしたなる草葉ならねど