University of Virginia Library

Search this document 

 1. 
 2. 
 3. 
 4. 
 5. 
 6. 
 7. 
 8. 
expand section9. 
 10. 
 11. 
 12. 
 13. 
collapse section14. 
拾遺和歌集卷第十四 戀四
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
 15. 
 16. 
 17. 
expand section18. 
 19. 
 20. 

14. 拾遺和歌集卷第十四
戀四

人麿

題志らず

朝寢髮われはけづらじうつくしき人の手枕ふれてし物を

藤原實方朝臣

もとすけがむこになりてあしたに

時の間も心は空になるものをいかですぐしゝ昔なるらむ

よみ人志らず

題志らず

白波の打ちしきりつゝ今宵さへいかでか獨ぬるとかや君

小貳命婦

一條攝政内にてはびんなしさとに出でよといひ侍りければ人もなき所にて待ち侍りけるにまうでござりければ

いかにしてけふを暮さむ小動の急ぎ出でゝもかひ無り鳬

人麿

題志らず

湊いりの芦分小舟さはりおほみわが思ふ人に逢はぬ頃哉

岩代の野中にたてる結び松こゝろもとけずむかし思へば

よみ人志らず

わが宿は播磨潟にもあらなくに明石も果で人の行くらむ

浪間より見ゆる小島の濱楸久しくなりぬきみにあはずて

人麿

増鏡手にとり持ちて朝な/\みれども君にあく時ぞなき

皆人の笠にぬふてふ有馬菅ありての後もあはむとぞ思ふ

よみ人志らず

いかほのやいかほの沼のいかにして戀しき人を今一目みむ

玉川にさらす手づくりさら/\に昔の人の戀しきやなぞ

身は早くならの都になりにしを戀しき事のふりせざる覽

藤原忠房朝臣

石上ふりにし戀の神さびてたゝるに我はねぎぞかねつる

よみ人志らず

いかばかり苦しき物ぞ葛城のくめぢの橋の中のたえまは

限なく思ふながらの橋柱おもひながらになかやたえなむ

源頼光

女のもとに遣はしける

中々に云ひはなたで信濃なる木曾路の橋の懸たるやなぞ

よみ人志らず

題志らず

杉たてる宿をぞ人は尋ねける心のまつはかひなかりけり

石上ふるの社のゆふ襷かけてのみやは戀ひむとおもひし

我やうき人やつらきと千早振神てふ神にとひみてしがな

住吉のあら人神にちかひても忘るゝ君がこゝろとぞきく

右近小將季繩女

忘らるゝ身をば思はず誓ひてし人の命の惜くもあるかな

實方朝臣

女を恨みて更にまうでこじと誓ひて後に遣はしける

何せむに命をかけて誓ひけむいかばやと思ふ折もあり鳬

よみ人志らず

題志らず

塵ひぢの數にもあらぬわれ故に思ひ侘ぶらむ妹が悲しさ

人麿

戀ひ/\てのちもあはむと慰むる心しなくば命あらめや

斯計戀しき物としらませばよそにみるべくありける物を

よみ人志らず

泪川のどかにだにも流れなむ戀しき人のかげやみゆると

貫之

涙川落つる水上はやければせきぞかねつる袖のしがらみ

源順

萬葉集和し侍りける歌

泪川底のもくづとなりはてゝ戀しきせゞに流れこそすれ

藤原惟成

女のもとに遣はしける

人志れず落つる泪の積りつゝ數かくばかりなりにける哉

齋宮女御

天暦の御時承香殿の前をわたらせ給ひてこと御かたにわたらせ給ひければ

且みつゝかげ離れ行く水の面にかく數ならぬ身をいかにせむ

よみ人志らず

題志らず

小男鹿の爪だにひぢぬ山河の淺ましきまでとはぬ君かな

淺ましき木の下陰の岩清水いくその人のかげをみつらむ

行水の泡ならばこそ消えかへり人の淵瀬を流れてもみめ

津の國のほり江の深く思ふ共われは難波の何とだにみず

津の國の生田の池のいく度かつらき心をわれぞみすらむ

津の國の難波渡りに作るなるこやといはなむ行てみるべく

旅人の萱かりおほひつくるてふまろやは人を思ひ忘るゝ

人麿

難波人芦火たくやはすゝたれど己が妻こそとこ珍らなれ

よみ人志らず

住吉の岸におひたる忘草みずやあらましこひはしぬとも

やほか行く濱の眞砂とわが戀といづれまされり沖津島守

兼盛

屏風にみくま野のかたかきたる所

さしながら人の心をみ熊野の浦の濱ゆふいくへなるらむ

天暦御製

ふじの山のかたをつくらせ給ひて藤壷の御方へ遣すとて

世の人のおよばぬ物はふじのねの雲居に高き思なりけり

よみ人志らず

題志らず

わが戀の顯はにみゆる物ならば都のふじといはれなましを

芦ねはふうきは上こそつれなけれ下はえならず思ふ心を

根蓴の苦しかる覽ひとよりも我ぞ益田のいけるかひなき

人麿

垂乳根の親のかふこの繭籠いぶせくもあるか妹に逢はずして

よみ人志らず

いさやまだ戀てふこともしらなくにこやそなる覽い社ねられね

垂乳根の親の諌めし轉寐は物思ふ時のわざにぞありける

中務

年をへてさね明の朝臣詣できたりければ簾垂ごしに物語し侍りけるにいかゞありけむ

うちとなくなれもしなまし玉垂のたれ年月を隔てそめ劔

貫之

題志らず

うかりける節をば捨てゝ白糸のいまくる人と思なさなむ

よみ人志らず

思ふ迚いとこそ人に馴れざらめしか習てぞみねば戀しき

手枕の透間の風も寒かりき身は習はしの物にぞありける

吹く風に雲のはたてはとゞむ共いかゞ頼まむひとの心は

若草にとゞめもあへぬ駒よりも
[_]
[1]なつけ侘ひぬる
人の心か

逢事のかたがひしたる陸奧のこまほしくのみ思ほゆる哉

陸奧のあだちの原の志ら眞弓心こはくもみゆるきみかな

伊勢

年月の行くらむ方も思ほえず秋のはつかに人のみゆれば

思ひきやあひみぬ程の年月を數ふばかりにならむ物とは

はるかなる程にも通ふ心かなさりとて人のしらぬ物ゆゑ

源經基

とほき所に思ふ人をおき侍りて

雲居なる人を遙におもふにはわが心さへそらにこそなれ

人麿

道をまかりてよみ侍りける

よそにありて雲居にみゆる妹が家に早く至らむ歩め黒駒

よみ人志らず

題志らず

わが歸るみちの黒駒心あらば君はこずとも己れいなゝけ

右大將道綱母

入道攝政まかりたりけるに門を遲く明けゝれば

歎つゝ獨ぬるよの明くるまはいかに久しき物とかはしる

よみ人志らず

題志らず

歎きこる人いる山の斧の柄のほと/\しくも成にける哉

おこなひせむとて山にこもり侍りけるに里の人に遣はしける

人にだにしらせで入りし奧山に戀しさ爭で尋ねきつらむ

くにもちがむすめをともみつまかり去りて後かゞみを返し遣はすとて書きつけてつかはしける

影絶えて覺束なさの増鏡みずばわが身のうさもしられじ

よみ人志らず

題志らず

思ひます人しなければ増鏡うつれる影と音をのみぞ鳴く

我袖のぬるゝを人の咎めずばねをだに易く鳴くべき物を

元良のみここまの命婦に物いひ侍りける時女のいひ遣はしける

數ならぬ身は唯にだに思ほえでいかにせよとか詠めらる覽

よみ人志らず

題志らず

夢にさへ人のつれなく見えつれば寢ても覺めても物をこそ思へ

みる夢のうつゝになるはよの常ぞ現の夢になるぞ悲しき

あふことは夢のうちにも嬉しくてね覺の戀ぞ侘しかりける

忘れじよ夢と契りし言の葉はうつゝにつらき心なりけり

あたらしと何に命を思ひけむ忘れば古くなりぬべき身を

柿本人麿

千早振神のい垣も越えぬべし今はわが身の惜けくもなし
[_]
[1] Shinpen kokka Taikan (Tokyo: Kadokawa Shoten, 1983, vol. 1) reads なつけ侘びぬる.