University of Virginia Library

5. 拾遺和歌集卷第五

中納言朝忠

天暦の御時齋宮くだり侍りける時の長奉送使にてまかり歸らむとて

萬代の始とけふを祈りおきていま行く末は神ぞ知るらむ

大中臣能宣

はじめて平野祭に男使たてし時うたふべき歌よませしに

千早振る平野の松の枝繁み千代も八千代も色はかはらじ

よみ人志らず

仁和の御時大甞會の歌

がまふ野の玉のを山に住む鶴の千年は君が御代の數なり

清原元輔

贈皇后宮の御うぶやの七夜に兵部卿致平のみこのきじのかたをつくりて誰ともなくて歌をつけて侍りける

朝まだききりふの岡に立つきじは千代の日つぎの始也鳬

能宣

藤氏のうぶやにまかりて

二葉より頼もしきかな春日山木高き松の種ぞとおもへば

うぶやの七夜にまかりて

君がへむやほ萬代を數ふればかつ%\けふぞ七日なりける

平兼盛

右大將藤原實資うぶやの七夜に

今年おひの松は七日になりにけり殘りの程を思ひ社やれ

能宣

ある人のうぶやにまかりて

千年とも數はさだめず世中に限りなき身と人もいふべく

源順

藤原誠信元服し侍りける夜よみける

老ぬれば同じこと社せられけれ君は千世ませ君は千世ませ

能宣

三善のすけたゞ冠し侍りける時

ゆひそむる初もとゆひのこ紫衣のいろに移れとぞおもふ

兼盛

天暦のみかど四十になりおはしましける時山階寺に金泥壽命經四十八卷をかき供養し奉りて御卷數鶴にくはせてすはまにたてたりけり。其すはまのしき物にあまたの歌あしてにかける中に

山階の山の岩ねに松植ゑてときはかきはに祈りつるかな

仲算法師

聲高く三笠の山ぞよばふなる天の下こそたのしかるらし

齋宮内侍

承平四年中宮の賀し侍りける時の屏風に

色かへぬ松と竹との末の世をいづれ久しと君のみぞみむ

大中臣頼基

おなじ賀に竹の杖つくりて侍りけるに

一節に千代をこめたる杖なればつくともつきじ君が齡は

元輔

清愼公五十賀し侍りける時の屏風に

君が世を何に譬へむさゞれ石の巖とならむ程もあかねば

青柳の緑の糸をくりかへしいくらばかりの春をへぬらむ

兼盛

わが宿に咲ける櫻の花ざかり千年見る共あかじとぞ思ふ

能宣

おなじ人の七十賀し侍りけるに竹の杖をつくりて

君が爲けふきる竹の杖なれば又もつきせぬよゝぞ籠れる

くらゐ山岑までつける杖なれば今萬代のさかのためなり

小野好古朝臣

一條攝政、中將に侍りける時父の大臣の五十賀し侍りける屏風に

吹く風によその紅葉は散りくれど君が常磐の影ぞ長閑き

源公忠朝臣

權中納言敦忠母の賀し侍りけるに

萬代も猶こそあかね君がため思ふこゝろの限りなければ

伊勢

五條の内侍のかみの賀民部卿清貫し侍りける時屏風に

大空にむれたるたづのさしながら思ふ心のありげなる哉

春の野の若菜ならねど君が爲年の數をもつまむとぞ思ふ

九條右大臣

天徳三年内裏に花の宴せさせ給ひけるに

櫻花今宵かざしにさしながらかくて千年の春をこそへめ

よみ人志らず

題志らず

かつみつゝ千年の春はすぐす共いつかは花の色に飽べき

躬恒

亭子院の歌合に

三千年になるてふ桃の今年より花咲く春にあひにける哉

藤原のぶかた

康保三年内裏にて子日せさせ給ひけるに殿上の男子ども和歌つかうまつりけるに

珍しき千世の始の子日にはまづけふを社ひくべかりけれ

三條太政大臣廉義公

小野宮の太政大臣の家にて子日し侍りけるに下らふに侍りける時よみはべりける

行末も子日の松のためしには君が千年をひかむとぞ思ふ

貫之

延喜の御時御屏風に

松をのみときはと思ふに夜とともに流す泉も緑なりけり

よみ人志らず

題志らず

水無月のなごしの祓する人はちとせの命のぶといふなり

參議伊衡

承平四年中宮の賀し侍りける屏風に

みそぎして思ふことをぞ祈りつる八百萬代の神のまに/\

小野宮太政大臣

天暦の御時前栽の宴せさせ給ひける時

萬代にかはらぬ花の色なればいづれの秋か君は見ざらむ

平兼盛

廉義公の家にて人々に歌よませ侍りけるにくさむらの中のよるの虫といふ題を

千年とぞくさむら毎に聞ゆなるこや松虫の聲にはある覽

貫之

右大臣源光の家に前栽合し侍りけるまけわざをうどねり橘のすけずみがし侍りける千鳥のかたつくりて侍りけるによませ侍りける

たが年の數とかはみむ行き返り千鳥なくなる濱の眞砂を

能宣

天暦の御時清愼公御文奉るとてよませ侍りければ

おひ初むるねよりぞ著き笛竹の末の世長くならむ物とは

伊勢

かゞみ鑄させ侍りけるうらに鶴のかたを鑄つけさせ侍りて

千年共何か祈らむ浦にすむたづの上をぞみるべかりける

よみ人志らず

題志らず

君が代は天の羽衣稀にきてなづともつきぬ岩ほならなむ

元輔

賀の屏風に

動きなき岩ほのはても君ぞみむ少女の袖のなで盡すまで