University of Virginia Library

10. 拾遺和歌集卷第十
神樂歌

榊葉にゆふしで掛てたが世にか神のみ前に祝ひそめけむ

榊葉のかを香はしみとめくれば八十氏人ぞ圓居せりける

御幣にならまし物をすべ神のみてにとられてなづさはましを

御幣はわがにはあらず天にます豐岡姫のみやのみてぐら

逢坂をけさ越えくれば山人の千年つけとてきれる杖なり

よも山のひとのたからとする弓を神のみまへにけふ奉る

石の上ふるや男のたちもがなくみのをしでゝ宮路通はむ

銀の目拔の太刀をさげはきてならの都をねるはたが子ぞ

わが駒は早くゆかなむ旭子がやへさす岡の玉笹のうへに

さいはりに衣はすらむ雨ふれど移ろひ難し深く染めては

しなが鳥ゐなのふし原とびわたる鴫の羽根音面白きかな

住吉のきしもせざらむ物故に妬くや人に待つといはれむ

ある人のいはく住吉の明神の託宣とぞ。

左兵衛督高遠賀茂になぬかまうでけるはての夢に御社よりとてちはや着たるおうなの文をもてまで來りけるをあけてみ侍りければかく書きて侍りける、そのち大貳になりて侍りける。

ゆふ襷かゝる袂は煩はしゆたげにとけてあらむとをしれ

安法法師

住吉にまうでゝ

あまくだるあら人がみのあひおひを思へば久し住吉の松

惠慶法師

我問はゞ神代のことも答へなむ昔をしれるすみよしの松

重之

はこざきを見侍りて

幾世にかかたりつたへむ箱崎の松の千年の一つならねば

元輔

源遠古朝臣子うませて侍りけるに

おひしげれ平野のはらのあや杉よ濃き紫に立ち重ぬべく

僧都實因

ひえのやしろにてよみはべりける

ねぎかくるひえの社のゆふ襷草のかき葉もことやめてきけ

源兼澄

恒徳公の家の障子

大淀のみそぎ幾世になりぬらむ神さびにたるうらの姫松

平祐襷

粟田右大臣の家の障子に唐崎に秡 したる所に網ひくかたかけたる所

御禊するけふ唐崎におろす網は神のうけひく驗なりけり

人麿

題志らず

ち早ぶる神の保てる
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[1]命をは
誰れがためにか永くと思はむ

千早振神も思ひのあればこそ年へて富士の山ももゆらめ

大中臣能宣

安和元年大甞會風俗ながらの山

君が代の長柄の山のかひありと長閑き雲のゐる時ぞみる

さゞ波の長柄の山の長らへて樂しかるべき君が御代かな

よみ人志らず

いはくら山

動きなき岩藏山にきみが代を運び置きつゝ千代を社つめ

能宣

みかみの山

千早振みかみの山の榊葉はさかえぞまさる末の世までに

よみ人志らず

萬代の色もかはらぬ榊葉は三かみの山におふるなりけり

元輔

萬代を三上の山の響くにはやすの川水すみぞあひにける

能宣

おほくら山

みつぎつむ大倉山はときはにて色もかはらず萬代やへむ

よみ人志らず

みを山

高島やみをの中山そま立てゝ作り重ねよ千代のなみくら

能宣

かゞみ山

みがきける心もしるし鏡山曇りなき世にあふがたのしさ

清原元輔

松が崎

千年ふる松が崎にはむれゐつゝたづさへ遊ぶ心あるらし

兼盛

おものゝはま

滯る時もあらじな近江なるおものゝ濱のあまのひつぎは

能宣

天禄元年大甞會風俗千世能山

今年より千年の山は聲絶えず君が御代をぞ祈るべらなる

兼盛

いやたかの山

近江なる彌高山の榊にてきみが千代をばいのりかざゝむ

能宣

みかみの山

祈りくる三上の山のかひしあれば千年の影に斯て仕へむ

いはくら山

今日よりは岩藏山に萬代を動きなくのみつまむとぞ思ふ

中務

かゞみ山

萬代をあきらけくみむかゞみ山千年の程は塵もくもらじ

兼盛

おほくにの里

としもよしこがひもえたり大國の里頼もしく覺ほゆる哉

よし田の里

名に立てる吉田の里の杖なればつくともつきじ君が萬代

いづみ川

泉川のどけき水の底みればことしは影ぞすみまさりける

松がさき

鶴のすむ松が崎には並べたる千代の例をみするなりけり

貫之

延長四年八月廿四日民部卿清貫が六十賀中納言恒佐の妻し侍りける時の屏風に神樂する所の歌

足引の山の榊葉ときはなるかげにさかゆく神のきねかな

人麿

旅にてよみ侍りける

おほなむち少なみ神の作れりし妹脊の山をみるぞ嬉しき

藤原忠房

延喜廿年亭子院のかすがに御幸侍りけるにくにの官廿一首の歌よみて奉りけるに

珍しきけふの春日のやをとめを神も嬉しと忍ばざらめや
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[1] Shinpen kokka Taikan (Tokyo: Kadokawa Shoten, 1983, vol.1) reads 命をば.