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拾遺和歌集卷第七 物名
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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7. 拾遺和歌集卷第七
物名

よみ人志らず

紅梅

鶯の巣作る枝を折りつればこをばいかでか生まむとす覽

さくら

花の色を顯はにめでばあだめきぬいざ暗闇に成て簪さむ

藤原すけみ

いはやなぎ

旅のいは屋なきとこにもねられ鳬草の枕に露はおけども

さるとりの花

鳴く聲はあまたすれ共鶯にまさる鳥のはなく社ありけれ

伊勢

かにひのはな

渡つ海の沖中に日の離れ出てもゆとみゆるは蜑の漁りか

よみ人志らず

かいつばた

こき色かいつはた薄く移ろはむ花に心もつけざらむかも

如覺法師

さくなんさ

紫の色にはさくなむさしのゝ草のゆかりと人もこそしれ

よみ人志らず

しもつけ

植ゑて見る君だにしらぬ花のなを我しもつけむことの怪さ

りうたん

川上に今よりうたむ網代にはまづ紅葉や寄らむとすらむ

きちかう

あだ人のまがきちかうな花うゑそ匂もあへず折盡しけり

あさがほ

我宿の花のはにのみぬる蝶のいかなる朝か他よりはくる

けにごし

忘れにし人の更にも戀しきかむげにこじとは思ふ物から

らに

秋の野に花てふ花を折つれば侘しらにこそ虫も鳴きけれ

忠岑

かるかや

白露の懸るかやがて消えざらば草葉ぞ玉の櫛笥ならまし

はぎのはな

山川はきのはながれず淺きせをせけば淵とぞ秋はなる覽

松むし

瀧つせのなかに玉つむ白波は流るゝ水を緒にぞぬきける

ひぐらし

今こむといひて別れし朝より思ひ暮しの音をのみぞなく

貫之

杣人は宮木ひくらしあし引の山のやま彦こゑとよむなり

松のねは秋の調べに聞ゆ也高くせめあげて風ぞひくらし

すけみ

ひともとぎく

あだ也と人もときくる物しもそ花の當りを過がてにする

すはうごけ

鶯のすはうごけどもぬしもなし風に任せて何地いぬらむ

やまと

ふる道にわれやまどはむ古の野中の草は茂り合ひにけり

いなみの

住吉の岡の松がささしつれば雨は降る共いなみのは着じ

くるすの

白波の打ちかくる洲の乾かぬにわが袂こそ劣らざりけれ

木のしまに尼のまうでたりけるを見て

水もなく舟も通はぬ此島に爭でか海士のながめかるらむ

在原元方

よど川

植ていにし人もみなくに秋萩の誰見よとかは花の咲く覽

貫之

足引の山邊にをれば白雲のいかにせよとかはるゝ時なき

在原業平朝臣

をがはのはし

筑紫よりこゝ迄くれど苞もなし瀧のを川の橋のみぞある

よみ人志らず

くまのくらといふ山寺に賀縁法師のやどりて侍りけるに住持し侍りける法師に歌よめといひければよめる

身を捨てゝ山に入にし我なれば熊のくらはむことも覺えず

いぬかひの御湯

鳥の子はまだ雛乍ら立ちていぬかひのみゆるは巣守なり

すけみ

あらふねのみやしろ

くきも葉もみな緑なる深芹はあらふ根のみや白くみゆ覽

重之

なとりの郡

仇なりな鳥の氷におりゐるは下よりとくる事はしらぬか

兼盛

名取のみゆ

覺束な雲の通路見てしがな鳥のみ行けばあとはかもなし

よみ人志らず

さはこのみゆ

あかずして別るゝ人の住む里はさは此みゆる山のあなたか

紀輔時

つゝみの嶽抄つゝのみたけ

篝火の所定めず見えつるは流れつゝのみたけばなりけり

高向草春

むろの木

神なびの三室のきしやくづるらむ立田の川の水の濁れる

すけみ

きさの木

怒猪の石をくゝみて噛來しは象のきにこそ劣らざりけれ

仙慶法師

はなかんし

五月雨にならぬ限は時鳥なにかは鳴かむしのぶばかりに

すけみ

もゝ

心ざし深き時には底のもゝ潜き出でぬる物にぞありける

よみ人志らず

はしばみ

面影にしばしばみゆる君なれど戀しき事ぞ時ぞともなき

すけみ

ねりがき

古はおごれりしかど侘びぬれば舍人が衣も今はきつべし

をはり米

池をはりこためる水の多かればいひの口より餘るなるべし

まつだけ

足引の山下みづにぬれにけりその火まづたけ衣あぶらむ

厭へ共つらき形見を見る時はまづ猛からぬね社なかるれ

くゝだち

山高み花の色をも見るべきににくゝ立ちぬるはる霞かな

こにやく

野をみれば春めきに鳬青葛籠こにやくまゝし若菜摘べく

高岳相如

そやしまめ

漁りせし蜑の教へしいづくぞや島廻る迚ありといひしは

すけみ

雉のをとり

河岸のをどりをるべき所あらば憂に死せぬ身は投つべし

やまがらめ

紅葉に衣の色はしみにけりあきの山からめぐりこしまに

かやぐき

何とかやくきの姿は思ほえであやしく花の名こそ忘るれ

大伴黒主

つぐみ

わが心怪しく仇に春くればはなにつくみと爭でなりけむ

咲く花に思付くみの味氣なさ身に疾病のいるもしらずて

すけみ

つばくらめ

難波津はくらめにのみぞ舟はつく朝の風の定めなければ

元輔

はらか

み吉野も若菜つむらむ卷もくのひ原霞みて日數へぬれば

祐見

さけかゝみ

あし衣ばさけかゞみてぞ人はきるひろや絶ぬと思ふ成べし

ひぼしのあゆ

雲迷ひ星のあゆくと見えつるは螢の空に飛ぶにぞ有ける

おしあゆ

箸鷹のをぎゑにせむと搆たるおしあゆがすな鼠とるべく

つゝみ燒

わぎもこが身を捨てしより猿澤の池の堤やきみは戀しき

重之

うるかいり

此家はうるかいりてもみてしがな主乍もかはむとぞ思ふ

よみ人志らず

したゞみ

吾妻にて養はれたる人の子は舌だみてこそ物はいひけれ

さはやけ

春かぜのけさはやければ鶯のはなの衣もほころびにけり

まがり

霞わけいまかり歸る物ならば秋くるまでは戀やわたらむ

すけみ

とち、ところ、たちばな

思ふどち所もかへずすみへなむ立離れなば戀しかるべし

くちばいろのをしき

足引の山の木のはの落ちぐちは色のをしきぞ哀なりける

あしがなへ

津國の難波渡りにつくる田は芦かなへかとえ社みわかね

むなぐるま

鷹飼のまだもこなくに繋犬の離れていかむなくるまつ程

躬恒

いかるが、にけ

事ぞ共聞きだにわかずわり無も人の怒るか逃やしなまし

すけみ

鼠の琴の腹にこをうみたるを

年をへて君をのみ社寢住みつれ異の腹にやこをばうむべき

月のきぬをきて侍りけるに

久方の月の衣をばきたれども光はそはぬわが身なりけり

きさのきのはこ

夜とともに汐やく蜑の絶せねば渚の木の葉焦れてぞ散る

ながむしろ

鶯のなかむしろにはわれぞなく花の匂やしばしとまると

へうのかは

底へ鵜の川波分けて入りぬるか待つ程過て見えずもある哉

かの皮のむかはぎ

かの川のむかはぎすぎて深からば渡らで唯にかへる計ぞ

かのえさる

かの江さる舟にて暫しこととはむ沖の白波まだ立たぬまに

惠慶法師

かのとゝいふことを

小男鹿の友まどはせる聲すなり妻やこひしき秋の山邊に

よみ人志らず

ね、うし、とら、たつ、み

一よねてうしとら社は思けめ憂名たつみぞ侘しかりける

うま、ひつじ、さる、とり、いぬ、ゐ

うまれよりひつじ作れば山にさる獨いぬるに人ゐて在せ

すけみ

四十九日

秋風の四方の山より己かじゝふくにちりぬる紅葉悲しな