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拾遺和歌集卷第十一 戀一
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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11. 拾遺和歌集卷第十一
戀一

壬生忠見

天暦の御時の歌合

戀すてふ我名はまだき立ちに鳬人しれずこそ思ひ初しか

平兼盛

忍ぶれど色に出にけりわが戀は物や思ふと人のとふまで

貫之

題志らず

色ならば移るばかりも染めてまし思ふ心をしる人のなき

平公誠

女のもとに始めて遣はしける

忍ぶるも誰ゆゑならぬ物なれば今は何かは君にへだてむ

よみ人志らず

題志らず

歎餘り遂に色にぞ出ぬべきいはぬを人のしらば社あらめ

逢事をまつにて年のへぬる哉身は住の江に生ひぬ物ゆゑ

音にきく人に心をつくばねの見ねど戀しき君にもある哉

人麿

天雲のやへ雲がくれなる神の音にのみやは聞き渡るべき

よみ人志らず

見ぬ人の戀しきやなぞ覺束な誰とかしらむ夢にみゆとも

夢よりぞ戀しき人を見初つる今はあはする人もあらなむ

かくてのみ荒磯の浦の濱千鳥よそに鳴きつゝ戀や渡らむ

よそにのみ見てやは戀ひむ紅の末つむ花の色にいでずば

權中納言敦忠

雅正がむすめにいひ始めはべりける、侍從に侍りける時。

身にしみて思ふ心の年ふれば終に色にも出でぬべきかな

邦正

侍從に侍りける時女に始めて遣はしける

爭でかはしらせそむべき人しれず思ふ心の色に出でずば

權中納言敦忠

爭でかはかく思ふてふ事をだに人傳ならで君にしらせむ

小野宮太政大臣

つゝみの中納言の御やす所を見てつかはしける

あな戀しはつかに人を水の泡の消返る共しらせてしがな

返し

長からじと思ふ心は水の泡によそふる人の頼まれぬかな

讀人志らず

題志らず

湊出づる蜑のを舟のいかりなは苦しき物と戀をしりぬる

大井河くだす筏のみなれ棹みなれぬ人もこひしかりけり

人麿

水底に生ふる玉藻の打ちなびき心をよせて戀ふる頃かな

よみ人志らず

音にのみ聞きつる戀を人しれずつれなき人に傚ひぬる哉

いかゞせむ命はかぎりある物を戀は忘れず人はつれなし

女のもとに男の文つかはしけるに返事もせず侍りければ

山彦もこたへぬ山のよぶこ鳥われ獨のみ鳴きやわたらむ

題志らず

山彦はきみにもにたる心かなわが聲せねば音づれもせず

足引の山下とよみ行く水の時ぞともなく戀ひわたるかな

いかにして暫し忘れむ命だにあらば逢夜のありも社すれ

ぬき亂る泪の玉もとまるやとたまのを計逢むといはなむ

岩の上に生ふる小松も引つれど猶ね難きは君にぞ有ける

七夕もあふよありけり天の川此わたりには渡るせもなし

九條右大臣

さはにのみ年はへぬれど芦たづの心は雲の上にのみこそ

よみ人志らず

大ぞらは曇らざりけり神無月時雨心地はわれのみぞする

忍ぶれど猶強て社思ほゆれ戀といふ物の身をしさらねば

男のよみておこせて侍りける

哀とも思はじものを白雪のしたに消えつゝ猶もふるかな

中務

かへし

程もなく消えぬる雪はかひもなし身を摘て社哀と思はめ

よみ人志らず

題志らず

よそ乍あひ見ぬ程に戀しなば何にかへたる命とかいはむ

いつとてかわが戀やまむ千早ぶる淺間のたけの煙絶ゆ共

一條攝政

大原野の祭の日さか木にさして女のもとに遣はすとて

大原の神もしるらむわが戀はけふ氏人のこゝろやらなむ

よみ人志らず

返し

榊葉の春さす枝の許多あれば咎ぬる神もあらじとぞ思ふ

題志らず

あめつちの神ぞしるらむ君が爲思ふ心のかぎりなければ

海も淺し山も程なしわが戀を何によそへて君にいはまし

人麿

奧山の岩がき沼のみごもりに戀や渡らむ逢ふよしをなみ

寛祐法師

大甞會の御禊に物見侍りける所に童の侍りけるを見て又の日つかはしける

あまた見しとよの御禊の諸人の君しも物を思はするかな

よみ人志らず

題志らず

玉簾糸のたえまにひとをみて好ける心はおもひかけてき

玉垂のすける心とみてしよりつらしてふ事懸ぬ日はなし

我こそや見ぬ人こふる病すれあふ日ならではやむ藥なし

玉江こぐ菰苅舟の差はへて浪間もあらば寄らむとぞ思ふ

みるめかる蜑とはなしに君戀ふるわが衣手の乾く時なき

柿本人麿

み熊野の浦の濱木綿百へなる心は思へど唯に逢はぬかも

貫之

朝な/\けつれば積るおちがみの亂れて物を思ふころ哉

藤原實方朝臣

けさうし侍りける女の更に返ごとし侍らざりければ

我爲は棚井の清水ぬるけれど猶かきやらむ偖はすむやと

よみ人志らず

かへし

掻やらば濁り社せめ淺きせの水屑は誰かすませてもみむ

題志らず

人しれぬ心のうちを見せたらば今迄つらき人はあらじな

小野宮太政大臣

女のもとに遣はしける

人しれぬ思は年もへにけれど我のみしるはかひなかり鳬

よみ人志らず

女のもとに遣はしける

人しれぬ泪に袖はくちにけり逢ふ夜もあらば何に包まむ

かへし

君は唯袖計をやくたすらむ逢ふには身をもかふと社きけ

題志らず

人しれず落つる泪は津の國のなかずとみえて袖ぞ朽ぬる

戀といへば同じ名に社思ふらめ爭でわが身を人に知せむ

中納言朝忠

天暦の御時歌合に

逢ふ事の絶てしなくば中々に人をも身をも恨みざらまし

兼盛

題志らず

逢事は片ゐざりする嬰子の立たむ月にも逢はじとやする

よみ人志らず

逢事を月日にそへて待つ時はけふ行末になりぬとぞ思ふ

あふ事をいつ共しらで君がいはむ常磐の山の松ぞ苦しき

命をば逢ふにかふとか聞しかど我や試しにあはぬ死にせむ

貫之

行末は遂に過ぎつゝあふことの年月なきぞ侘しかりける

よみ人志らず

いきたれば戀する事の苦しきに猶命をばあふにかへてむ

大伴百世

戀死なむ後は何せむいける日の爲こそ人はみまく欲けれ

源經基

哀ともきみだにいはゞ戀侘てしなむ命もをしからなくに

よみ人志らず

けさうし侍りける女の家のまへをわたるとていひいれ侍りける

人しれず思ふ心をとゞめつゝいくたび君が宿を過ぐらむ

題志らず

時雨にも雨にもあらで君戀ふる年のふるにも袖はぬれ鳬

菅原輔昭

契りけることありける女につかはしける

露ばかり頼めし程の過ぎゆけば消えぬ計の心地こそすれ

よみ人志らず

返し

露ばかり頼むる事もなき物をあやしや何に思ひ置きけむ

題志らず

流れてと頼むるよりは山河の戀しきせゞに渡りやはせぬ

逢見ては死にせぬ身とぞなりぬべき頼むるにだにのぶる命は

爭でかと思ふ心のある時はおぼめくさへぞ嬉しかりける

侘つゝもきのふ計はすぐしてきけふや我身の限なるらむ

人麿

戀ひつゝもけふは暮しつ霞立つあすの春日をいかで暮さむ

戀ひつゝもけふはありなむ玉櫛笥あけむ旦を爭で暮さむ

よみ人志らず

君をのみ思ひかけごの玉櫛笥明立つ毎に戀ひぬ日はなし