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拾遺和歌集卷第十三 戀三
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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13. 拾遺和歌集卷第十三
戀三

よみ人志らず

題志らず

あしびきの山下風も寒けきに今夜もまたやわが獨りねむ

人麿

足引の山鳥のをのしだり尾のなが/\し夜を獨かもねむ

よみ人志らず

足曳のかつらぎ山にゐる雲の立ちてもゐても君を社思へ

足引の山の山すげやまずのみ見ねば戀しき君にもある哉

石上乙麿左大臣麿男

たびの思を述ぶといふことを

足引の山越えくれて宿からば妹立ち待ていねざらむかも

人麿

題志らず

足引の山より出づる月待つと人にはいひて君をこそまて

三日月の清かにみえず雲隱れみまくぞほしきうたて此頃

よみ人志らず

逢事はかたわれ月の雲がくれおぼろげにやは人の戀しき

人麿

秋の夜の月かも君は雲がくれ暫しもみねばこゝら戀しき

平兼盛

圓融院の御時の御屏風八月十五夜月のかげ池に映れる家に男女ゐてけさうしたる所

秋の夜の月みるとのみ起居つゝ今夜もねでや我は歸らむ

源さねあきら

月のあかゝりける夜女のもとに遣はしける

戀しさは同じ心にあらずとも今宵のつきを君みざらめや

中務

返し

さやかにもみるべき月を我はたゞ泪に曇る折ぞおほかる

人麿

題志らず

久方のあまてる月もかくれ行く何によそへて君を忍ばむ

よみ人志らず

京に思ふ人を置きてはるかなる所にまかりけるみちに月のあかゝりける夜

都にて見しにかはらぬ月影をなぐさめにても明す頃かな

貫之

題志らず

てる月も影水底に映りけり似たるものなき戀もするかな

中宮内侍

月を見て田舍なる男を思ひ出でゝ遣はしける

こよひ君いかなる里の月をみて都にわれを思ひ出づらむ

忠岑

題志らず

月影を我身にかふるものならばおもはぬ人も哀とやみむ

萬葉集和せる歌

獨ぬる宿にはつきのみえざらば戀しき事の數はまさらじ

人麿

題志らず

長月の有明の月ありつゝも君しきまさばわれ戀めやも

月のあかき夜人を待ち侍りて

ことならば闇にぞあらまし秋の夜のなぞ月影の人頼めなる

春宮左近

題志らず

ふらぬ夜の心をしらで大空の雨をつらしと思ひけるかな

よみ人志らず

衣だに中にありしは踈かりき逢はぬ夜をさへ隔てつる哉

長き夜も人はつらしと思ふにはねなくに明くる物にぞ有ける

今はとはじといひ侍りける女のもとに遣はしける

忘れなむ今は問はじと思つゝぬる夜しも社夢にみえけれ

題志らず

夜とてもねられざりけり人知れず寐覺の戀に驚かれつゝ

うば玉の妹が黒髮今宵もやわがなき床に靡き出でぬらむ

わがせこが在處もしらでねたる夜は曉がたの枕さびしも

いかなりし時くれ竹の一夜だに徒らぶしを苦しといふ覽

いかならむ折ふしにかは呉竹の夜は戀しき人に逢ひみむ

人麿

まさしてふやそのに夕けとふ卜まさにせよ妹に逢べく

夕けとふ卜にも善く有り今宵だにこざ覽君をいつか待べき

夢をだに爭で形見にみてしがな逢はでぬるよの慰めにせむ

現には逢事かたし玉のをのよるは絶えせず夢に見えなむ

ひろはたの御やす所久しう内にもまゐらざりける夢になむれいのやうにて内にさぶらひ給ひつると人のいひ侍りけるを聞きて

古へをいかでかとのみ思ふ身に今夜の夢を春になさばや

貫之

延喜十五年御屏風の歌

忘らるゝ時しなければ春の田をかへす%\ぞ人は戀しき

よみ人志らず

題志らず

あづさ弓春のあらたを打返へし思ひやみにし人ぞ戀しき

躬恒

かの岡に萩かる男子繩をなみねるやねりその碎けてぞ思ふ

よみ人志らず

春くれば柳のいともとけにけり結ぼゝれたるわが心かな

いづかたによるとかは見む青柳のいと定めなき人の心を

まきもくの檜原の霞たち歸りかくこそはみめあかぬ君哉

藤原清正が女

冬よりひえの山にのぼりて春まで音せぬ人のもとに

眺めやる山邊はいとゞ霞みつゝ覺束なさのまさる春かな

人麿

題志らず

我せこをきませの山と人はいへど君もきまさぬ山の名ならし

山邊赤人

我せこをならしの岡の喚子鳥君よびかへせ夜の更けぬ時

よみ人志らず

こぬひとをまつちの山の時鳥おなじ心にねこそなかるれ

東雲に鳴きこそ渡れ時鳥もの思ふ宿はしるくやあるらむ

たゝくとて宿の妻戸を明けたれば人も梢の水鷄なりけり

夏衣うすきながらぞ頼まるゝ一重なるしも身に近ければ

かりてほす淀の眞菰の雨降れば束ねもあへぬ戀もする哉

六月の土さへさけて照日にも我袖ひめや妹に逢はずして

人麿

なる神のしばし動きて空曇り雨もふらなむ君とまるべく

人ごとは夏野の草の繁くとも君と我としたづさはりなば

よみ人志らず

野も山も茂合ひぬる夏なれど人のつらさは言のはもなし

夏草の茂みにおふるまろこ菅まろがまろねよ幾よへぬ覽

御製

天暦の御時ひろはたの御やす所久しくまゐらざりければ御文つかはしける

山がつの垣ほにおふる撫子に思ひよそへぬ時のまぞなき

清原元輔

廉義公の家の障子の繪に撫子おひたる家の心ぼそげなるを

思ひしる人に見せばや終夜わがとこなつにおきゐたる露

よみ人志らず

題志らず

秋の野の草葉もわけぬ我袖の露けくのみもなりまさる哉

曾彌好忠

三百六十首の歌のなかに

わが背子がきまさぬ宵の秋風はこぬ人よりも恨めしき哉

よみ人志らず

題志らず

羨まし朝日にあたる白露をわが身と今はなすよしもがな

人麿

秋の田のほの上に置ける白露のけぬべく我は思ほゆる哉

住吉の岸を田にほりまきし稻のかる程までも逢はぬ君哉

赤人

戀しくば形見にせむとわが宿に植ゑし秋萩今さかりなり

廣平親王天暦第一

中將の御息所のもとに萩につけて遣はしける

秋萩の下葉をみずば忘らるゝひとの心をいかでしらまし

よみ人志らず

題志らず

しめゆはぬ野べの秋萩風吹けばとふし斯ふし物を社思へ

中宮内侍

移ろふは下葉計とみし程にやがても秋になりにけるかな

能宣

女のもとに遣はしける

言の葉も霜にはあへずかれにけりこや秋果つる印なる覽

貫之

色もなき心を人に染めしより移はむとはわが思はなくに

よみ人志らず

數ならぬ身を宇治川の網代木に多くの日をも過しつる哉

下紅葉するをばしらで松の木のうへの緑を頼みけるかな

人麿

我背子を我が戀をればわが宿の草さへ思ひうらがれに鳬

よみ人志らず

定文が家の歌合に

霜の上に降る初雪のあさごほりとけずも物を思ふ頃かな

源景明

たえて年頃になりにける女のもとにまかりて雪のふり侍りければ

み吉野の雪に籠れる山人もふる道とめてねをや鳴くらむ

人麿

題志らず

頼めつゝこぬ夜許多に成ぬればまたじと思ふぞ待つに勝れる