University of Virginia Library

Search this document 

 1. 
 2. 
 3. 
 4. 
 5. 
 6. 
 7. 
 8. 
expand section9. 
 10. 
 11. 
 12. 
 13. 
 14. 
collapse section15. 
拾遺和歌集卷第十五 戀五
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
 16. 
 17. 
expand section18. 
 19. 
 20. 

15. 拾遺和歌集卷第十五
戀五

善祐法師ながされて侍りける時母のいひ遣はしける

なく泪よはみな海となりなゝむおなじ渚に流れよるべく

人麿

題志らず

住吉の岸にむかへる淡路島あはれと君をいはぬ日ぞなき

よみ人志らず

捨てはてむ命を今は頼まれよ逢ふべき事の此よならねば

いきしなむ事の心にかなひせば二たび物は思はざらまし

燃果てゝ灰となりなむ時にこそ人を思のやまむごにせめ

何方にゆきかくれなむ世中に身の有れば社人もつらけれ

ありへむと思ひもかけぬ世中は中々身をぞ歎かざりける

僞と思ふものから今さらにたがまことをかわれは頼まむ

世中のうきもつらきも忍ぶれば思知らずと人やみるらむ

一向に死なば何かはさもあらばあれ生きてかひなき物思ふ身は

人麿

戀するに死にする物にあらませば千度ぞ我は死返らまし

こひて死ね戀ひてしねとや我妹子が我家の門を過て行く覽

戀死なばこひもしねとや玉ほこの道行く人に言傳もなし

重之

戀しきを慰めかねて菅原や伏見にきてもねられざりけり

よみ人志らず

戀しきは色に出でゝもみえなくにいかなる時か胸にしむ覽

忍ばむに忍れぬべき戀ならばつらきに附けて止もしなまし

大中臣能宣

女に遣はしける

いかで%\戀ふる心を慰めて後の世までのものを思はじ

よみ人志らず

題志らず

限なく思ふ心の深ければつらきもしらぬ物にぞありける

わりなしやしひても頼む心かなつらしと且は思ふ物から

うしと思ふ物から人の戀しきはいづくを忍ぶ心なるらむ

身の憂を人のつらさと思ふ社われ共云じわり無りけれ

つらしとは思ふ物から戀しきはわれに叶はぬ心なりけり

つらきをも思知るやはわが爲につらき人しも我を恨むる

心をばつらき物ぞといひ置きて變らじと思ふ顏ぞ戀しき

淺ましや見しかとだにも思はぬに變らぬ顏ぞ心ならまし

一條攝政

物いひ侍りける女の後につれなく侍りて更にあはず侍りければ

哀ともいふべき人はおもほえで身の徒になりぬべきかな

伊勢

題志らず

さも社は逢見む事の難からめ忘れずとだにいふ人のなき

藤原有時

逢事の歎のもとをたづぬれば獨ねよりぞおひはじめける

貫之

大方のわが身一つの憂からになべての世をも恨みつる哉

人麿

あらちをのかる矢のさきに立つ鹿も最われ計物は思はじ

あら磯のほか行く波のほか心われは思はじ戀はしぬとも

掻き曇り雨ふる川のさゞら浪間無くも人の戀ひらるゝ哉

わがごとや雲の中にも思ふらむ雨も泪もふりにこそふれ

貫之

降る雨に出でゝもぬれぬわが袖の影にゐ乍ひぢ増るかな

よみ人志らず

これをだにかきぞ煩らふ雨と降る泪をのごふ暇なければ

君戀ふる我も久しくなりぬれば袖に泪も降りぬべらなり

君戀ふる泪のかゝる袖のうらは岩ほなり共朽ぞしぬべき

まだ知らぬ思にもゆるわが身かなさるは泪の川の中にて

源景明

女のもとに罷りけるをもとのめのせいし侍りければ

風をいたみ思はぬ方に泊する蜑の小舟もかくや侘ぶらむ

よみ人志らず

題志らず

瀬を早み絶えず流るゝ水よりもつきせぬ物は泪なりけり

わがごとく物思ふひとは古も今行末もあらじとぞおもふ

坂上郎女

黒髮にしろ髮交り生るまで斯る戀にはいまだ逢はざるに

汐みてば入ぬる磯の草なれや見らく少く戀ふらくの多き

志賀の浦の釣に燈せる漁火の仄かに人をみるよしもがな

岩ねふみかさなる山はなけれ共逢はぬ日數を戀や渡らむ

藤原有時

歎きこる山路は人もしらなくにわが心のみ常に行くらむ

圓融院の御時少將の更衣のもとに遣はしける

限なき思ひの空にみちぬればいくその煙り雲となるらむ

御返し

空にみつ思の煙り雲ならば詠むるひとのめにぞ見えまし

よみ人志らず

題志らず

思はずばつれなき事もつらからじ頼めば人を恨みつる哉

つらけれど恨むる限有ければ物はいはれでね社なかるれ

紅の八汐の衣かくしあらば思ひそめずぞあるべかりける

仄かにも我を見しまの芥火のあくとや人の音づれもせぬ

承香殿中納言

延喜の御時承香殿の女御の方なりける女にもとよしのみこまかり通ひ侍りける絶えて後いひ遣はしける

人をとく芥川てふ津の國の名には違はぬ物にぞありける

よみ人志らず

題志らず

限なく思ひそめてし紅のひとをあくにぞかへらざりける

荒磯海の浦と頼めし名殘なみ打ち寄せてける忘れ貝かな

つらけれど人にはいはずいはみがた恨ぞ深き心ひとつに

恨みぬも疑はしくぞ思ほゆる頼む心のなきかとおもへば

近江なる打出のはまのうち出でゝ恨みやせまし人の心を

渡つ海の深き心はあり乍ら恨みられぬる物にぞありける

數ならぬ身は心だになからなむ思知らずば恨みざるべく

恨ての後さへ人のつらからばいかに云てかねをもなかまし

閑院大君

小野宮のおほいまうち君に遣はしける

君を猶恨みつるかな蜑のかる藻に住む虫の名を忘れつゝ

よみ人志らず

題志らず

蜑のかるもに住む虫の名はきけど只我からのつらきなり

戀侘びぬ悲しき事も慰めむいづれなかずの濱邊なるらむ

かくばかりうしと思ふに戀しきは我さへ心二つありけり

人麿

とにかくにものは思はずひだたくみ打つ墨繩の唯一筋に

天暦御製

左大臣の女御うせ侍りにければ父おとゞのもとに遣はしける

古をさらにかけじと思へどもあやしくめにもみつ泪かな

平忠依

女のもとに遣はしける

逢事は心にもあらずつらくともさやは契し忘れはてねば

讀人志らず

題志らず

忘るゝかいざさは我も忘れなむ人にしたがふ心とならば

忘れぬる君は中々つらからで今までいける身をぞ恨むる

我ばかり我を思はむ人もがなさてもや憂きと世を試みむ

怪しくもいとふにはゆる心哉いかにしてかは思絶ゆべき

思ふ事なすこと神のかたからめしばし忘るゝ心つけなむ

遠き所に侍りける人京に侍りける男をみちのまゝに戀ひまかりて高砂といふ所にてよみ侍りける

高砂にわがなく聲はなりにけり都の人はきゝやつくらむ

題志らず

鹿島なるつくまの神のつく%\と我身一つに戀を積つる