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風雅和歌集卷第十八 釋教歌
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18. 風雅和歌集卷第十八
釋教歌

待兼ねて歎くと告げよ皆人にいつをいつとて急がざる覽

此の歌は、善光寺如來の御歌となむ。

急げ人彌陀の御舟の通ふ世にのり後れなばいつか渡らむ

かの御歌につぎて、聖徳太子のよみ給へるとなむ。

補陀落の海を渡れる物なればみるめも更に惜しからぬ哉

是は長治の頃或る人目志ひたる子を相具して粉河寺に詣でゝ彼の子を膝にすゑて泣く/\祈り申すとて、補陀落の海におふなる物なればこのみるめをばたまへとぞ思ふと思ひ續けてまどろみける夢に、觀音の示し給ひけるとなむ。

西行法師

法花經序品の心を

散りまがふはなの匂ひをさきだてゝ光を法の莚にぞしく

前權少僧都源信

方便品

妙法の唯ひとつのみありければ又二つなし又三つもなし

權僧正永縁

譬喩品の心をよめる

心をば三つの車にかけしかど一つぞ法のためしには引く

慶政上人

不覺不知不驚不怖の心を

驚かでけふも空しく暮れぬなり哀うきみのいりあひの空

前參議經盛

信解品

年經れど行方も知らぬ垂乳根よこはいかにして尋逢ひけむ

前大納言尊氏

五十ぢまで迷ひ來にけるはかなさよ唯假そめの草の庵に

入道二品親王尊圓

伏見院隱れ給ひて後人々一品經書き侍りけるに信解品を書きて奉るとてよめる

我ぞ憂き五十ぢ餘りの年ふとも廻り逢ふべき別ならねば

法成寺入道前關白太政大臣

藥草喩品の心を

法の雨は普く灑ぐ物なれどうるふ草木はおのがしな%\

權大納言行成

くさ%\の草木の種と思ひしを潤ほす雨は一つなりけり

大僧正行尊

草も木も種は一つをいかなれば二葉三葉に芽ぐみ初けむ

藤原爲明朝臣

前大納言爲氏一品經の歌とてすゝめ侍りけるに安樂行品、若入他家不與小女處女寡女等共語といふ文の心をよめる

名にめでゝ迷もぞする女郎花匂ふ宿をばよきて行かなむ

祭主輔親

壽量品の心を

此世にて入りぬと見えし月なれど鷲の山にはすむとこそ聞け

正二位隆教

分別功徳品を

皆人を渡さむと思ふ艫綱のながくもがなや淀のかはふね

院御歌

藥王品、是眞精進、是名眞法供養如來と、いへる心をよませ給ひける

燕なく軒端の夕日かげきえて柳にあをきにはのはるかぜ

赤染衛門

妙音品

ここにのみありとやは見る孰くにも妙なる聲に法とこそ聞け

平忠度朝臣

普門品、即得淺處の心を

おり立ちて頼むとなれば飛鳥川淵も瀬になる物とこそ聞け

赤染衛門

陀羅尼品

法まもる誓を深く立てつれば末の世迄もあせじとぞ思ふ

前大僧正覺實

般若經、常啼菩薩を

法の爲我が身を變へば小車の浮世にめぐる道や絶えなむ

院御歌

圓覺經、生死、涅槃、猶如昨夢の心を

誰も皆あたら色香をながむらし昨日も同じ花どりのはる

居一切時不起妄念

雁の飛ぶ高嶺の雲のひと靡き月入りかゝる山の端のまつ

夢窓國師

擧足下足皆是道の心を

故里と定むる方の無き時はいづくに行くも家路なりけり

法印實澄

本覺流轉の心をよめる

住みなれし宿をば花にうかれきて歸るさしらぬ春の旅人

前大納言忠良

隨求陀羅尼經の倶縛婆羅門をよみ侍りける

朽ち殘る法のことのは吹く風ははかなき苔の下までぞゆく

慶政上人

但指無明即是法性といふ事を

すゝめこしゑひの枕の春の夢見し世はやがて現なりけり

院御歌

三諦一誹非三非一の心を

窓の外にしたゝる雨を聞くなべにかべに背ける夜はの燈

寛胤法親王

未得眞覺恒處夢中といふ事をよめる

長き夜の闇の現に迷ふかな夢をゆめとも知らぬこゝろに

法印覺懷

覺むるをも待つ瀬だになからまし長き眠の内と聞かずば

前大僧正覺實

因明論の似現量の心を

村雲の絶間の影はいそげども更くるは遲きあきの夜の月

後宇多院御歌

釋教の御歌の中に

そのまゝに絶え間を志るは誠ある三國傳はる詞なりけり

入道二品親王法守

百首の歌奉りしに、雜の歌

我がうくるみ法は常の言の葉の及ばぬ上に説けるなるべし

院御歌

大梅山の別傳院に御幸侍りける時、僧問雲門、樹凋葉落時如何、雲門云、體露全風と云ふ因縁を頌せさせ給ひけるついでに

立田川もみぢ葉流る三吉野のよしのゝやまに櫻ばな咲く

藤原爲基朝臣

見るやいかに山の木葉は落ちつきて道に當れる虎の斑尾

佛國禪師

題志らず

夜もすがら心の行くへ尋ぬれば昨日の空に飛ぶ鳥のあと

夢窓國師

出づるとも入るとも月を思はねば心にかゝる山の端もなし

院御歌

眉間寳劔と云ふ事を

冴ゆる夜の空高く澄む月よりも置添ふ霜の色はすさまじ

永福門院内侍

一花開五葉結菓自然成の心を

咲き初むるやどの櫻の一本よ春の景色にあきぞしらるゝ

前大僧正慈鎭

厭離穢土の歌五十首よみ侍りける中に

浮世かな吉野の花にはるの風時雨るゝ空にありあけの月

後宇多院御歌

釋教の心をよませ給ひける

心ざし深く汲みてし廣澤のながれは末も絶えじとぞ思ふ

前大僧正慈鎭

昔より鷲の高嶺に澄む月の入らぬに迷ふひとぞかなしき

前大僧正道玄

みな人の心のうちはわしの山高嶺の月のすみかなりけり

院御歌

百首の御歌の中に

世を照す光をいかでかゝげましけなばけぬべき法の燈火

慶政上人

如何不求道安可須待老といふ心を

徒らに老を待つにぞなりぬべき今年もかくて又暮しつゝ

前大僧正慈鎭

雜の歌の中に

さりともな光は殘る世なりけり空ゆく月日法のともしび

前大納言爲家

前大僧正良覺横川にて如法經書きけるに天長の昔まで思ひやらるゝよし申すとて

古への流れの末をうつしてや横川の杉のしるしをもみる

前大僧正良覺

かへし

其のまゝに流の末をうつしても猶古へのあとぞゆかしき

山本入道前太政大臣女

光臺寺にすみ侍りけるに、二月十五日山本入道前太政大臣のもとより櫻のうち枝に鈴をかけて、ありながらきえぬとしめす佛には雪にもまがふ花を手向けよと申して侍りける返事に

在り乍らきえぬと見えて悲しきはけふの手向の花の白雪

示證上人

釋教の歌の中に

沈みこしうき身はいつか浮ぶべき誓の舟の法にあはずば

從二位爲子

觀勝寺にて理趣三昧行ひける道に、花籠より紅葉の散りたりければ、よみはべりける

法の庭に散す紅葉は山姫の染むるも深きえとやなるらむ

慶政上人

式乾門院十三年の法事に、法華山寺にて唐本の一切經供養せられける時、空に音樂のきこえければよみ侍りける

法の庭空に樂こそきこゆなれ雲のあなたに花やちるらむ

皇太后宮大夫俊成

極樂六時の讃を歌によみけるに、晨朝を

朝まだきつゆけき花を折る程は玉しく庭に玉ぞちりける

後光明照院前關白左大臣

女人往生願

異浦にくちて捨てたる蜑小舟我が方にひく波もありけり

前參議教長

不淨觀の心をよめる

渡つ海を皆かたぶけて洗ふとも我が身の内を爭で清めむ

法源禪師

雪山成道の心をよみて前大納言爲兼のもとにつかはしける

ふりにける雪の深山は跡もなし誰れ踏分けて道を志る覽

前大納言爲兼

返し

導べする雪の深山のけふに逢ひて舊き哀の色を添へぬる

如空上人

釋教の歌の中に

西を思ふ心も同じ夢なれど長きねぶりはさめぬべきかな

從三位親子

心をばかねて西にぞ送りぬる我が身をさそへ山の端の月

慶政上人

經をひらきて泪をのごひ侍りける時、花を見てよみ侍りける

匂へども知る人もなき櫻花たゞ獨みてあはれとぞおもふ

伏見院御歌

百首の御歌の中に

深く染めし心の匂すて兼ねぬまどひの前の色とみながら

かたのゝ尼

法成寺にまゐりてよみ侍りける

曇なく研ける玉の臺には塵もゐがたきものにぞ有りける

前大僧正慈鎭

釋教の歌の中に

般若臺に納め置てし法花經もゆめとのよりぞ現にはこし