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風雅和歌集卷第四 夏歌
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4. 風雅和歌集卷第四
夏歌

後京極攝政前太政大臣

後鳥羽院よりめされける五十首の歌の中に

昨日まで霞みし物を津の國の難波わたりの夏のあけぼの

後伏見院御歌

首夏を

春くれし昨日も同じ淺みどり今日やはかはる夏山のいろ

前大納言爲家

寳治の百首の歌の中に、同じ心を

夏きてはたゞ一重なる衣手にいかでか春を立ち隔つらむ

式子内親王

正治二年後鳥羽院に奉りける百首の歌の中に

櫻色の衣にもまたわかるゝに春を殘せるやどのふぢなみ

後二條院御歌

百首の御歌の中に、更衣を

櫻色の衣はうへにかふれども心にはるをわすれぬものを

院御歌

四月の始によませ給ひける

花とりの春におくるゝなぐさめにまづまちすさぶ山郭公

從二位家隆

後鳥羽院に奉りける五十首の歌の中に

時鳥まつとせし間にわがやどの池の藤なみ移ろひにけり

前中納言定家

千五百番歌合に

時志らぬ里は玉川いつとてか夏のかきねをうづむ志ら雪

前大納言經房

前大納言兼宗の家の歌合に、卯花を

朝まだき卯花山を見わたせば空はくもりてつもる志ら雪

前大納言爲兼

題志らず

夏淺きみどりの木立庭遠み雨降りしむる日ぐらしのやど

權大納言公宗

夏の朝のあめと云ふ事を

薄雲る青葉の山の朝明けに降るとしもなき雨そゝぐなり

後一條入道前關白左大臣

夏の歌に

もろ葛まだ二葉よりかけそめて幾世かへぬる賀茂の瑞垣

兵衛督

院に三十首の歌召されける時、葵

哀れとや神もみあれに葵草二葉よりこそたのみそめしか

前大納言爲家

寳治の百首の歌の中に、待郭公

葵草かざす卯月のほとゝぎすひとの心にまづかゝりつゝ

鷹司院按察

我がための聲にもあらじ郭公語らへとしもなど思ふらむ

源頼實

四月ばかりに人の許に云ひやりける

待侘びて聞きやしつると郭公人にさへこそ訪はまほしけれ

刑部卿頼輔

時鳥を詠める

年を經ておなじ聲なる郭公きかまほしさも變らざりけり

徽安門院

年を經ておなじ鳴く音を時鳥何かは忍ぶなにかまたるゝ

左兵衛督直義

百首の歌奉りし時

いつとてもまたずは非ねど同じくば山時鳥月になかなむ

權大納言公蔭

郭公さやかにをなけ夕月夜雲間のかげはほのかなりとも

前大納言資季

後嵯峨院に三首の歌奉けるに河郭公

岩ばしる瀧つ川浪をち歸り山ほとゝぎすこゝになかなむ

前大納言爲兼

郭公を

折りはへていまこゝになく時鳥きよく凉しき聲の色かな

右近大將道嗣

待ちえてもたどるばかりの一聲は聞きてかひなき郭公哉

入道二品親王尊圓

里郭公と云ふ事を

呉竹のふしみの里のほとゝぎす忍ぶ二代の事かたらなむ

前大納言爲兼

伏見院に卅首の歌奉ける時、聞郭公

時鳥人のまどろむ程とてや忍ぶるころはふけてこそなけ

前中納言爲相

題志らず

我が爲と聞きやなさまし霍公ぬしさだまらぬ己が初音を

京極前關白家肥後

堀川院に奉りける百首の歌に、郭公を

山深く尋ねきつればほとゝぎす忍ぶる聲も隱れざりけり

前中納言定家

夏の歌の中に

忘られぬこぞのふる聲戀ひ/\て猶めづらしき郭公かな

俊頼朝臣

連夜待郭公と云ふ事を

時鳥待つ夜の數はかさなれど聲は積らぬ物にぞありける

前參議俊言

聞郭公を

郭公あかぬなごりを詠めおくる心もそらに慕ひてぞゆく

藤原爲基朝臣

猶ぞまつ山時鳥一こゑのなごりをそらにしばしながめて

鎌倉右大臣

足びきの山郭公深山出でゝ夜ふかき月のかげになくなり

式子内親王

正治二年後鳥羽院に奉りける百首の歌の中に

時鳥よこ雲かすむ山の端のありあけの月になほぞ語らふ

伏見院御歌

夏の御歌の中に

郭公なごりしばしのながめより鳴きつる峰は雲あけぬなり

祝部成仲

ひえの山にあひ知りたる僧の、里へいでば必おとせむと契り侍りけるに、里には出でながら音せず侍りければ、四月十日頃に遣はしける

里なるゝ山郭公いかなればまつやどにしも音せざるらむ

正三位季經

尋郭公歸路聞と云ふ事を

尋ねつるかひはなけれど時鳥かへる山路に一こゑぞ鳴く

後鳥羽院御歌

題志らず

尋ね入るかへさはおくれ時鳥誰れゆゑ暮す山路とかしる

前中納言定家

等閑に山ほとゝぎす鳴きすてゝ我しもとまる杜の下かげ

藤原仲實朝臣

夕かけていづち行くらむ郭公神なびやまに今ぞ鳴くなる

貫之

延喜の御時古今集撰び始められけるに夜更くるまで御前にさぶらふに時鳥の鳴きければ

こと夏は如何鳴きけむ郭公今宵ばかりはあらじとぞ聞く

從三位頼政

郭公を

時鳥あかで過ぎぬる名殘をば月なしとても詠めやはせぬ

待賢門院堀川

訪ふ人もなき故郷の黄昏にわれのみ名のるほとゝぎす哉

前中納言定家

千五百番歌合に

またれつゝ年にまれなる郭公さつきばかりの聲な惜みそ

前大納言尊氏

題志らず

菖蒲をば吹添ふれ共梅雨の古やの軒は洩るにぞありける

前大納言經繼

あやめ草ひく人もなし山しろのとはに波こす五月雨の頃

前大納言經親

伏見院の御時五十番歌合に夏雨をよみ侍りける

樗さく梢に雨はやゝはれて軒のあやめにのこるたまみづ

院冷泉

夏の歌の中に

菖蒲つたふ軒のしづくも絶々に晴間にむかふ五月雨の空

左近中將忠季

百首の歌奉りし時

夕月夜かげろふ窓は凉しくて軒のあやめに風わたる見ゆ

前大納言公泰

暮れかゝる外面の小田の村雨に凉しさそへてとる早苗哉

前大僧正慈鎭

早苗を

まだとらぬ早苗の葉末靡くなりすだく蛙の聲のひゞきに

從二位行家

寳治の百首の歌の中に、同じ心を

三輪川の水堰入れて大和なる布留のわさ田は早苗取る也

冷泉前太政大臣

今よりは五月きぬとや急ぐ覽山田の早苗取らぬ日ぞなき

前參議忠定

早苗とる田面の水の淺みどりすゞしきいろに山風ぞ吹く

藤原爲忠朝臣

百首の歌奉りし時

夕日さす山田のはらを見渡せば杉の木蔭に早苗とるなり

後伏見院御歌

夏の御歌に

小山田や早苗の末に風みえて行くて凉しきすぎの下みち

太上天皇

風わたる田面の早苗色さめていり日殘れる岡のまつばら

進子内親王

早苗とる山もと小田に雨はれて夕日の峯をわたるうき雲

院一條

雨晴るゝ小田の早苗の山もとに雲おりかゝる杉のむら立

從二位爲子

山家五月雨をよみ侍りける

山蔭や谷よりのぼる五月雨の雲は軒まで立ちみちにけり

後山本前左大臣

嘉元の百首の歌に、五月雨を

蛙鳴くぬまの岩がき浪こえてみくさうかるゝ五月雨の頃

參議雅經

千五百番歌合に

五月雨にこえ行く波は葛飾やかつみがくるゝまゝの繼橋

權中納言公雄

題志らず

あすか川ひとつ淵とやなりぬらむ七瀬の淀の五月雨の頃

正二位隆教

河五月雨を

五月雨にきしの青柳枝ひぢて梢をわたるよどのかはぶね

源俊平

寳治の百首の歌の中に、溪五月雨

流れ添ふ山の志づくの五月雨に淺瀬も深きたにがはの水

藤原清輔朝臣

夏の歌とて

田子の浦の藻鹽も燒かぬ梅雨に絶えぬは富士の烟なりけり

兵部卿成實

河やしろ志のに波こす梅雨に衣ほすてふひまやなからむ

法印定爲

後宇多院に奉りける百首の歌の中に

五月雨の晴間待ち出づる月影に軒のあやめの露ぞ凉しき

後京極攝政前太政大臣

題志らず

五月雨の空をへだてゝ行く月の光はもらでのきのたま水

二品法親王承覺

五月雨にあたら月夜を過しきて晴るゝかひなき夕闇の空

修理大夫顯季

盧橘を

我宿の花橘やにほふらむやまほとゝぎすすぎがてに鳴く

民部卿爲藤

文保三年後宇多院へ奉りける百首の歌の中に

月影に鵜舟のかゞりさしかへて曉やみの夜がはこぐなり

中務卿宗尊親王

鵜川を

大井河鵜舟はそれとみえわかで山もと廻るかゞり火の影

前大納言爲氏

弘安の百首の歌奉りける時

牡鹿待つさつをの火串ほの見えてよそに明行く端山繁山

藤原義孝

照射をよみ侍りける

五月やみそことも知らぬ照射すと端山が裾に明しつる哉

皇太后宮大夫俊成

千五百番歌合に

ますらをや端山わくらむともし消ち螢にまがふ夕暗の空

永福門院

三十首の御歌の中に、夏鳥と云ふ事を

かげ志げき木の下やみの暗き夜に水の音して水鷄鳴くなり

後伏見院御歌

水鷄を

心ある夏の景色の今宵かな木の間の月にくひなこゑして

前大納言實明女

百首の歌奉りし時

水鷄鳴く森一むらは木ぐらくて月に晴れたる野べの遠方

郁芳門院安藝

夏の歌の中に

槇の戸をしひてもたゝく水鷄哉月の光のさすと見る/\

祝子内親王

松の上に月の姿も見えそめて凉しくむかふ夕ぐれのやま

後京極攝政前太政大臣

雨晴るゝ軒の雫にかげ見えてあやめにすがる夏の夜の月

前關白右大臣

茂りあふ庭の梢を吹き分けて風に洩りくる月のすゞしさ

前中納言重資

百首の歌奉りし時

うたゝねに凉しき影を片しきて簾は月のへだてともなし

從三位盛親

夏の歌の中に

はしちかみ轉寢ながら更くる夜の月の影しく床ぞ凉しき

伏見院新宰相

秋よりも月にぞなるゝ凉むとて轉寢ながら明すよな/\

前大僧正道意

山水の岩洩る音もさ夜ふけて木の間の月の影ぞすゞしき

藤原隆祐朝臣

宵のまに暫し漂ふ雲間より待ち出でゝ見れば明くる月影

賀茂重保

水上夏月を

夏の夜は岩がき清水月冴えてむすべばとくる氷なりけり

後京極攝政前太政大臣

雨後夏月と云ふ事を

夕立の風にわかれて行く雲に後れてのぼる山の端のつき

後鳥羽院御歌

千五百番歌合に

まだ宵の月待つとても明けにけり短き夢の結ぶともなく

伏見院御歌

夏の御歌の中に

月や出づる星の光の變るかな凉しきかぜの夕やみのそら

すゞみつる數多の宿も靜まりて夜更けて白き道のべの月

從二位爲子

夏夜と云ふ事を

星多み晴れたる空は色濃くて吹くとしもなき風ぞ凉しき

小野小町

題志らず

夏の夜の侘しき事は夢をだに見る程もなく明くるなりけり

寂蓮法師

千五百番歌合に

古への野寺のかゞみ跡絶えて飛ぶ火は夜半の螢なりけり

前關白左大臣

百首の歌奉りし時

底清き玉江の水にとぶ螢もゆるかげさへすゞしかりけり

式部卿恒明親王

螢を

月うすき庭の眞清水音澄みてみぎはの螢かげみだるなり

順徳院御歌

池水は風もおとせで蓮葉のうへこす玉はほたるなりけり

後一條入道前關白左大臣

螢とぶかた山蔭の夕やみは秋よりさきにかねてすゞしき

皇太后宮大夫俊成女

寳治の百首の歌の中に、水邊螢

秋ちかし雲居までとや行く螢澤邊のみづにかげの亂るゝ

式子内親王

正治二年後鳥羽院に奉りける百首の歌の中に

秋風とかりにやつぐる夕ぐれの雲近きまで行くほたる哉

凉しやと風の便りを尋ぬれば茂みに靡く野邊のさゆりば

如願法師

夏の歌の中に

山ふかみ雲消えなばと思ひしに又道絶ゆるやどの夏ぐさ

後鳥羽院御歌

建仁四年、百首の御歌の中に、夕立

片岡の棟なみより吹く風にかつ%\そゝぐゆふだちの雨

同院宮内卿

千五百番歌合に

衣手に凉しき風をさきだてゝ曇りはじむるゆふだちの空

前大納言爲家

寳治の百首の歌の中に、夕立

山もとの遠の日影はさだかにてかたへ凉しき夕だちの雲

前大納言經顯

百首の歌奉りし時、夏の歌

外山には夕立すらし立ちのぼる雲よりあまる稻妻のかげ

前大納言爲兼

題志らず

松を拂ふ風は裾野の草に落ちてゆふだつ雲に雨きほふ也

徽安門院

行きなやみ照る日苦しき山道にぬるともよしや夕立の雨

前太宰大貳俊兼

院に三十首の歌召されし時、夏木を

虹のたつ麓の杉は雲に消えて峯より晴るゝ夕だちのあめ

徽安門院小宰相

夕立を

降りよわる雨を殘して風はやみよそになり行く夕立の雲

宣光門院新右衛門督

夏の歌の中に

夕立の雲吹きおくるおひ風に木末のつゆぞまた雨と降る

院御歌

百首の御歌の中に

夕立の雲飛びわくる白鷺のつばさにかけて晴るゝ日の影

後西園寺入道前太政大臣

文保三年後宇多院に百首の歌奉りける時、夏の歌

月うつるまさごの上のにはたづみ跡まで凉し夕だちの雨

後山本前左大臣

更に又日影うつろふ竹の葉に凉しさ見ゆるゆふだちの跡

藤原爲守女

題志らず

降るほどは志ばしとだえて村雨の過ぐる梢の蝉のもろ聲

今上御歌

夏聲と云ふ事を

風高き松の木蔭に立ちよれば聞くも凉しき日ぐらしの聲

進子内親王

蝉を

雨晴れて露吹きはらふ木ずゑより風にみだるゝ蝉の諸聲

二品法親王尊胤

夏の歌の中に

蝉の聲は風にみだれて吹き返す楢のひろ葉に雨かゝるなり

式部卿恒明親王

暮れはつる梢に蝉は聲やみてやゝかげ見ゆる月ぞ凉しき

院御歌

百首の御歌の中に

空晴れて梢色濃き月の夜のかぜにおどろくせみの一こゑ

藤原隆信朝臣

後京極攝政、左大臣に侍りける時、家に六百番歌合し侍りけるに、蝉をよめる

鳴きすさぶ隙かときけば遠近にやがて待ちとる蝉の諸聲

伏見院新宰相

納凉を

鳴く蝉の聲やむ杜に吹く風の凉しきなべに日も暮れぬなり

藤原爲秀朝臣

夕附日梢によわく鳴く蝉のはやまのかげは今ぞすゞしき

皇太后宮大夫俊成女

建仁三年、影供歌合に、雨後聞蝉と云ふ事を

雨晴れて空ふく風に鳴く蝉の聲もみだるゝもりの下つゆ

曾禰好忠

題志らず

芦の葉に隱れて住めば難波なるこやの夏こそ凉しかりけれ

平政村朝臣

中務卿宗尊親王の家の百首の歌に

夏山の茂みが志たに瀧落ちてふもとすゞしき水の音かな

覺譽法親王

深夜納凉を

吹分くる梢の月はかげふけてすだれにすさぶ風ぞ凉しき

後鳥羽院御歌

夏の御歌の中に

みだれ芦の下葉なみより行く水の音せぬ波の色ぞ凉しき

今出川入道前右大臣

題志らず

風通ふ山松がねの夕すゞみ水のこゝろもくみてこそ知れ

從二位兼行

夏の日の夕影おそき道のべに雲一むらの志たぞすゞしき

祝子内親王

日の影は竹より西にへだゝりて夕風すゞし庭のくさむら

權律師慈成

山川のみなそこきよき夕波に靡く玉藻ぞ見るもすゞしき

權大納言公蔭

山もとや木の志ためぐる小車の簾うごかす風ぞすゞしき

進子内親王

夜納凉といふことを

もりかぬる月はすくなき木の下に夜深き水の音ぞ凉しき

從二位兼行

題志らず

苔青き山の岩根の松かぜにすゞしくすめるみづの色かな

前大僧正慈鎭

夏深き峯の松が枝風こえて月かげすゞしありあけのやま

寂蓮法師

淺茅生に秋まつ程や忍ぶらむ聞きもわかれぬむしの聲々

永福門院

草の末に花こそ見えね雲風も野分に似たるゆふ暮のあめ

大納言通方

夏月を

結ぶ手に月をやどして山の井のそこの心に秋や見ゆらむ

前左大臣

晩風似秋と云ふ事を

松に吹く風も凉しき山陰に秋おぼえたる日ぐらしのこゑ

伏見院御歌

夏の御歌の中に

鳴く聲も高き梢のせみのはの薄き日影にあきぞちかづく

權中納言公雄

文保三年後宇多院に奉りける百首の歌の中に

御祓する河瀬の浪の白ゆふは秋をかけてぞ凉しかりける

圓光院入道前關白太政大臣

六月祓を

御祓するゆくせの波もさ夜ふけて秋風近し賀茂の川みづ

順徳院御歌

湊川夏の行くては知らねども流れて早き瀬々のゆふしで