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風雅和歌集卷第七 秋歌下
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7. 風雅和歌集卷第七
秋歌下

左京大夫顯輔

九月十三夜月を見て

暮の秋月のすがたはたらねども光は空にみちにけるかな

院御歌

仁和寺よりあからさまに京へ御幸ありて九月十三夜、山家月を

深山出でし秋の旅ねの夜頃へて宿もる月や主人まつらむ

前參議俊言

九月十三夜、住吉の社にて詠み侍りける

住吉の神のおまへの濱きよみこと浦よりも月やさやけき

從二位宣子

秋の歌とて

しばし見むかたぶく方は空晴れて更けばと頼む村雲の月

永福門院内侍

山里にて月を見て詠める

露ふかき籬の花はうすぎりて岡邊の杉につきぞかたぶく

儀子内親王

院の五首の歌合に、秋風月と云ふ事を

風に落つる草葉の露も隱なくまがきに清きいりがたの月

前大僧正慈鎭

題志らず

入る月を返すあらしはなかりけり出づる峯には松の秋風

太宰大貳重家

月の歌とて詠める

詠めやる秋の山風心あらばかたぶく月を吹きやかへさぬ

前大納言經顯

月はなほ中空高くのこれども影薄くなるありあけのには

院御歌

月前草花を

風になびく尾花が末にかげろひて月遠くなる有明のには

宣光門院新右衛門督

百首の歌奉りし時、秋の歌

影きよき有明の月は空すみて鹿の音高きあかつきのやま

萬秋門院

嘉暦二年九月十五日内裏の五首の歌合に、曉月聞鹿と云ふ事を

有明の月はかたぶく山の端に鹿の音高き夜半のあきかぜ

西園寺前内大臣女

秋天象と云ふ事を詠み侍りける

月ならぬ星の光もさやけきは秋てふ空やなべてすむらむ

前中納言季雄

元享元年、内裏にて三首講ぜられけるに、霧間曉月

有明の月は絶々影見えてきり吹きわくるあきのやまかぜ

後西園寺入道前太政大臣

題志らず

村雲の隙行く月の影はやみかたぶく老のあきぞかなしき

選子内親王家中務

大齋院の女房春秋の哀をあらそひ侍りけるに中將、春の曙は猶勝るなど申しけるが秋の頃山里に籠りゐて侍りけるに云ひ遣しける

山里に有明の空を詠めてもなほや知られぬあきの哀れは

伏見院御歌

秋の御歌の中に

山風も時雨になれる秋の日にころもやうすき遠のたび人

永福門院

さすとなき日影は軒に移ろひて木の葉にかゝる庭の村雨

宣光門院新右衛門督

百首の歌奉りし時

もろくなる柳の下葉かつ散りて秋物さむきゆふぐれの雨

順徳院御歌

百首の御歌の中に

村雨の空吹きすさぶ夕かぜに一葉づゝ散る玉のをやなぎ

照訓門院權大納言

題志らず

一志きり嵐は過ぎて桐の葉の志づかに落つる夕ぐれの庭

太上天皇

秋の歌に

濡れて落つる桐の枯葉は音を重み嵐はかろき秋のむら雨

大納言公重

百首の歌奉りし時

落ちすさぶ槇の下露猶ふかし雨の名殘のきりのあさあけ

藤原爲秀朝臣

立ちそむる霧かと見れば秋の雨の細かにそゝぐ夕暮の空

徽安門院

題志らず

志をりつる野分はやみて東雲の雲にしたがふ秋のむら雨

院一條

吹きみだし野分にあるゝ朝あけの色濃き雲に雨こぼるなり

前大納言爲兼

野分を

野分だつ夕の雲のあしはやみ時雨に似たるあきのむら雨

藤原爲名朝臣

草も木も野分にしをる夕暮は空にも雲のみだれてぞゆく

院一條

秋の歌に

鳩の鳴く杉の木末のうす霧に秋の日よわきゆふぐれの山

永福門院

卅首の御歌の中に、秋山を

山蔭や夜のまの霧のしめりより又落ちやまぬ木々の下露

秋朝の心を

薄霧の朝げの梢色さびてむしの音のこすもりのしたぐさ

彈正尹邦省親王

野霧

津の國のゐなのゝ霧の絶々にあらはれやらぬこやの松原

權大納言資明

百首の歌奉りし時

朝日山まだ影くらき曙にきりのした行く宇治のしばふね

大江廣秀

題志らず

打ち渡す濱名の橋のあけぼのに一むらくもるまつの薄霧

前太宰大貳俊兼

朝日影うつる梢は露落ちて外面のたけにのこるうすぎり

左近中將忠季

百首の歌奉りしに

日影さすいな葉が上は暮れやらで松原うすき霧の山もと

前中納言爲相

文保三年後宇多院に奉りける百首の歌の中に

奥みえぬ端山の霧のあけぼのに近き松のみのこる一むら

後西園寺入道前太政大臣

入りかゝる遠の夕日は影消えて裾より暮るゝ薄ぎりの山

權中納言俊實

秋の歌とて

霧深きつま木の道のかへるさに聲ばかりしてくだる山人

前大納言尊氏

秋山と云ふ事を

入相は檜原の奥に響き初めて霧にこもれる山ぞ暮れ行く

藤原爲基朝臣

立ちこめて尾上も見えぬ霧の上に梢ばかりの松のむら立

前大納言爲兼

河霧を詠み侍りける

朝嵐の峯よりおろす大井川うきたる霧もながれてぞゆく

前大僧正實超

伏見山ふもとの稻葉雲晴れて田面に殘るうぢのかはぎり

前左兵衛督爲成

海邊霧を

入海の松の一むらくもりそめて鹽よりのぼる秋のゆふ霧

二條院參河内侍

難波潟浦さびしさは秋霧のたえ間に見ゆるあまのつり舟

從二位家隆

秋の歌の中に

さえのぼるひゞきや空に更けぬらむ月の都も衣うつなり

鎌倉右大臣

月前擣衣と云ふ事を

夜をさむみ寐ざめて聞けば長月の有明の月に衣うつなり

民部卿爲定

建武二年、内裏の千首の歌に、擣衣

衣うつよその里人なれをしぞあはれとは思ふ秋の夜寒に

九條左大臣女

秋夜を

今は早あけぬと思ふ鐘のおとの後しも長き秋の夜半かな

永福門院内侍

百首の歌奉りし時

染めやらぬ梢の日影うつりさめてやゝ枯れ渡る山の下草

新室町院御匣

院、三十首のうた召されし時、秋木を

岡べなるはじの紅葉は色こくて四方の梢につゆの一志ほ

左兵衛督直義

おのれとや色づきそむる薄紅葉まだ此頃は志ぐれぬ物を

侍從具定

見るまゝに紅葉色づく足引の山の秋かぜさむくふくらし

中院入道前内大臣

山紅葉を

間なく降る時雨に色やつくば山志げき梢も紅葉しにけり

後宇多院御歌

岡紅葉と云ふ事を

色々にならびの岡の初もみぢ秋の嵯峨野の往來にぞ見る

前大納言實明女

百首の歌奉りし時

朝霧の晴れ行く遠の山もとにもみぢまじれる竹の一むら

前大僧正道玄

題志らず

志賀の山越えて見やれば初時雨古き都はもみぢしにけり

讀人志らず

秋されば置く露霜にあへずして都の山はいろづきぬらむ

權大納言長家

人々さそひて大井川にまかりて紅葉臨水と云ふ事を詠み侍りける

大井川山の紅葉を映しもてからくれなゐの波ぞ立ちける

後京極攝政前太政大臣

紅葉を

時雨つる外山の雲は晴にけり夕日に染むる峯のもみぢば

内大臣

紅葉映日と云ふ事を

日影さへ今一志ほをそめてけり時雨の跡の峰のもみぢ葉

前中納言清雅

伏見院に卅首の歌奉りける時、山紅葉を詠み侍りける

晴れ渡る日影に見れば山もとの梢むら/\紅葉しにけり

院御歌

人々に三十首の歌召されけるついでに、秋山を

霧晴るゝ田面の末に山みえて稻葉に續く木々のもみぢ葉

秋木

呉竹のめぐれるさとを麓にて烟にまじるやまのもみぢ葉

今上御歌

秋望と云ふ事を

夕日うつる外面の杜のうす紅葉寂しき色に秋ぞ暮れ行く

後嵯峨院御歌

建長二年吹田に御幸ありて人々に十首の歌詠ませさせ給ひけるついでに

唐土もおなじ空こそ志ぐるらめから紅にもみぢするころ

伏見院御歌

二品法親王覺助長月の末に長谷の山庄にまかりて紅葉の枝を折りて奉りけるに此の一枝の殘りゆかしくこそとて給はせける

色ふかき宿の紅葉の一枝に折知るひとのなさけをぞ見る

一品親王覺助

御返し

色添へて見るべき君の爲とてぞ我が山里の紅葉をも折る

式子内親王

正治二年百首の歌の中に

解けて寐ぬ袖さへ色にいでねとや露吹き結ぶみねの木枯

能宣朝臣

長月の頃鈴鹿山の紅葉を見て

下紅葉色々になるすゞか山時雨のいたく降ればなるべし

花山院御歌

九月九日を

萬代をつむともつきじ菊の花長月のけふあらむかぎりは

山階入道前左大臣

寳治の百首の歌に、重陽宴を

長月のきくのさかづき九重にいくめぐりとも秋は限らじ

冷泉前太政大臣

九重に千代をかさねてかざす哉けふをり得たる白菊の花

藤原隆祐朝臣

めぐりあふ月日もおなじ九重に重ねて見ゆる千世の白菊

後醍醐院御歌

位の御時三首の歌講ぜられけるついでに、庭菊を

百敷や我が九重の秋の菊こゝろのまゝにをりてかざゝむ

源光行

題志らず

夜もすがら光は霜をかさぬれど月には菊のうつろはぬ哉

前中納言師時

堀川院の百首の歌に、菊を

霜枯れむ事をこそ思へ我が宿のまがきににほふ白菊の花

貫之

屏風に、をんなの菊の花見たる所

置く霜の染めまがはせる菊の花孰か本の色にはあるらむ

前中納言定家

秋の歌に

鵙のゐるまさぎの末は秋たけてわらや烈しきみねの松風

進子内親王

百首の歌奉りし時、秋の歌

見るまゝにかべに消え行く秋の日の時雨に向ふ浮雲の空

前中納言匡房

霜草欲枯虫思苦と云へる心を

初霜に枯れ行くくさの蛬あきはくれぬときくぞかなしき

前參議教長

崇徳院より召されける百首の歌に

ほに出でゝ招くとならば花薄過ぎ行く秋をえやは止めぬ

後鳥羽院御歌

秋の御歌の中に

窓深き秋の木の葉を吹き立てゝ又時雨れ行く山颪のかぜ

權大納言公宗女

院の五首の歌合に、秋視聽と云ふ事を

秋の雨の窓うつ音に聞き侘びて寐ざむるかべに燈火の影

前大僧正覺圓

暮秋雨を

庭の面に荻の枯葉は散りしきて音すさまじきゆふ暮の雨

西園寺前内大臣女

院に三十首の歌めされし時、秋木を

秋の雨に萎れて落つる桐の葉は音するしもぞ寂しかりける

永福門院

題志らず

もろくなる桐の枯葉は庭に落ちて嵐にまじるむら雨の音

慶政上人

秋の頃詠み侍りける

年經たる深山のおくの秋のそら寐ざめ志ぐれぬ曉ぞなき

後鳥羽院御歌

建仁四年百首の御歌に

何となく庭の蓬も下をれてさび行く秋のいろぞかなしき

伏見院御歌

暮秋虫を

夕日うすき枯葉の淺茅志たすぎてそれかと弱き虫の一聲

後伏見院左京大夫

うら枯るゝ淺茅がにはの蛬よわるを志たふ我もいつまで

式子内親王

正治の百首の歌に

志るきかな淺茅色づく庭の面に人めかるべき冬の近さは

侍從隆朝

百首の歌奉りし時

いとはやもをしね色づく初霜のさむき朝げに山風ぞ吹く

後伏見院御歌

秋霜を詠ませ給ひける

夕霜の古枝の萩の下葉より枯れ行く秋のいろは見えけり

從二位爲子

淺茅秋霜を

長月や夜さむの頃の有明のひかりにまがふ淺茅生のしも

前大納言長雄

秋の歌に

風わたる眞葛が原に秋暮れてかへらぬ物は日かずなりけり

登蓮法師

九月盡に詠める

年ごとに變らぬ今日の歎かな惜みとめざる秋は無けれど

前中納言爲相

山をこえ水をわたりて慕ふともしらばぞ今日の秋の別路

常磐井入道前太政大臣

寳治の百首の歌に九月盡を

行く秋の名殘をけふに限るとも夕は明日のそらも變らじ

後伏見院御歌

同じ心を

月も見ず風も音せぬ窓のうちにあきをおくりてむかふ燈