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風雅和歌集卷第十六 雜歌中
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16. 風雅和歌集卷第十六
雜歌中

藤原爲基朝臣

曉雲と云ふ事を

曉やまだ深からし松のうれにわかるともなきみねの白雲

後西園寺入道前太政大臣

文保三年、百首の歌の中に

見るまゝに天ぎる星ぞうきしづむ曉やみのむらくもの空

左近中將忠季

百首の歌奉りし時

時ははや曉近くなりぬなりまれなる星のそらぞしづけき

今上御歌

雜の御歌の中に

西の空はまだ星見えて有明の影よりしらむ遠のやまの端

院一條

康永二年、歌合に、雜色を

白み増る空の緑は薄く見えて明け殘る星の數ぞ消え行く

祝子内親王

曉の心を

山深みおりゐるそらは明けやらで麓に遠きあかつきの鐘

太上天皇

雜の歌の中に

夜鳥は高き梢に鳴き落ちてつき靜かなるあかつきのやま

鐘の音に夢は覺めぬる後にしも更に寂しきあかつきの床

從三位親子

窓近き軒端の峯は明けそめて谷よりのぼるあかつきの雲

進子内親王

聞き聞かず同じ響きも亂るなり嵐のうちのあかつきの鐘

春宮權大夫冬通

明けぬるか寐覺の窓の隙見えて殘るともなき夜半の燈火

院御歌

百首の御歌の中に

羽音して渡るからすのひと聲に軒端の空は雲あけぬなり

徽安門院一條

立ちそむるからす一聲鳴き過ぎてはやし靜に明くる東雲

前大納言實明女

朝がらす聲する森の梢しも月は夜ふかきありあけのかげ

伏見院御歌

題を探りて人々歌つかうまつりけるに關と云ふ事をよませ給ひける

逢坂や曉かけて鳴くとりの聲しろくなるせきのすぎむら

院御歌

百首の御歌に

里々の明けゆくおとは急げども長閑にしらむ山のはの空

藤原爲基朝臣

題志らず

出でやらで朝日籠れる山の端のあたりの空ぞ先匂ひぬる

從二位爲子

朝煙を

宿々に立つる烟の末あひてひと村かすむさとのあさあけ

徽安門院一條

百首の歌奉りし時

遠方の里は朝日に顯はれてけぶりぞうすき竹のひとむら

前大納言實明女

風すさぶ竹のさ枝の夕づく日うつり定めぬ影ぞさびしき

前大納言爲兼

あさき夕と云ふ事を

もりうつる谷にひとすぢ日影見えて峯も麓も松の夕かぜ

順徳院御歌

雜の御歌に

入日さすみねの浮雲たなびきて遙かにかへる鳥のひと聲

太上天皇

夕日影田面遙かに飛ぶ鷺のつばさのほかに山ぞ暮れぬる

榮子内親王

山もとはまづ暮れそめて峰高き梢に殘るゆふ日かげかな

後伏見院御歌

夕山と云ふ事を

夕山や麓の檜原いろさめて殘る日かげぞみねにすくなき

中務卿宗尊親王

百首の歌の中に

見渡せば雲間の日影移ろひてむら/\かはる山の色かな

徽安門院

雜の歌に

夕日さすみねは緑の薄く見えて陰なる山ぞ分きて色こき

左近中將忠季

百首の歌奉りし時

夕付日入りぬる峰の色濃きに一もと立てる松ぞさびしき

順徳院御歌

百首の御歌の中に

夕付日山のあなたになる儘に雲の旗手ぞいろかはり行く

院一條

雜の歌に

山の端の色ある雲にまづ過ぎて入日の跡の空ぞしづけき

徽安門院一條

西の空の夕日の跡は覺めやらで月よりかはる雲の色かな

源義詮朝臣

月はあれどまだ暮れやらぬ空なれや移るも薄き庭の影哉

從二位行家

人とはぬ谷の戸ぼそのしづけきに雲こそ歸れ夕ぐれの山

前大納言尊氏

暮山をよめる

山風はたかねの松に聲やみて夕のくもぞたにゝしづまる

民部卿爲定

百首の歌奉りし時

こもり江の初瀬の檜ばら吹き分けて嵐にもるゝ入相の鐘

前中納言重資

雨そゝぐ槇のしづくは落ち添ひて雲深くなる夕ぐれの山

後伏見院御歌

題志らず

鳥の行く夕のそらのはる%\と詠めの末に山ぞいろこき

藤原爲基朝臣

飛び連れて遠ざかり行く鴉羽に暮るゝ色添ふをち方の空

伏見院御歌

夕鐘を

鐘の音をひとつ嵐に吹きこめて夕暮しをるのきの松かぜ

ならび立つまつの面は靜にて嵐のおくにかねひゞくなり

山の端の詠めにあたる夕ぐれに聞かで聞ゆる入相のおと

祝子内親王

つれ%\と詠め/\て暮るゝ日の入相の鐘の聲ぞ寂しき

後伏見院御歌

雜の御歌の中に

尋ね入る山路のすゑは人も逢はず入相の鐘に嵐こそ吹け

永福門院

かくしてぞ昨日も暮れし山の端の入日のあとに鐘の聲々

從二位爲子

何となく夕の空を見る儘に怪しきまではなぞやわびしき

後鳥羽院御歌

何となく過ぎ來し方のながめまで心にうかぶ夕ぐれの空

伏見院御歌

寺深き寢覺の山は明けもせであま夜の鐘の聲ぞしめれる

儀子内親王

つく%\と獨聞く夜の雨の音は降りをやむさへ寂しかり鳬

皆人のいをぬるなべに鳥羽玉の夜てふ時ぞ世は靜かなる

從一位教良女

燈を詠み侍りける

思ひつくす心に時は移れども同じ影なるねやのともし火

前大納言爲家

寳治の百首の歌に、夜燈を

哀にぞ月に背くる燈火のありとはなしに我がよ更けぬる

前大納言長雅

雜の歌に

眞木の屋のひま吹く風も心せよ窓深き夜に殘るともし火

徽安門院

燈火は雨夜のまどにかすかにて軒のしづくを枕にぞ聞く

後伏見院御歌

月を

一筋に思ひも果てじ猶も此の浮世の友は月こそありけれ

讀人志らず

世の中は空しき物とあらむとぞ此照る月は滿ちかけしける

大僧正行尊

月のあかきを見て詠める

ありし世に廻る身としも思はねば月は昔の心地こそすれ

藤原敦經朝臣

藏人おりて後月を見て詠める

昔のみ詠むるまゝに戀しきはなれし雲居の月にやある覽

前參議家親

頭おろして後、月を見て

今は我れ又見るまじき哀れさよなれて仕へし雲の上の月

如願法師

雜の歌の中に

袖の上に變らぬ月のかはるかなありし昔の影を戀ひつゝ

何となく昔戀しき我が袖の濡れたる上にやどるつきかげ

從二位爲子

時ありて花も紅葉もひとさかり哀に月のいつもかはらぬ

二品法親王覺助

大峰修行の時詠み侍りける

うきて立つ雲吹き拂ふ山風の小笹に過ぐる音のはげしさ

永福門院

雲を

山合におりしづまれる白雲の暫しと見れば早消えにけり

前右衛門督基顯

薄く濃き山の色かと見る程に空行く雲のかけぞうつろふ

前大納言爲兼

雜の歌の中に

大空にあまねくおほふ雲の心國土うるほふ雨くだすなり

從二位爲子

荒き雨のをやまぬ程の庭たづみせき入れぬ水ぞ暫し流るゝ

入道二品親王法守

百首の歌奉りし時、雜の歌

枝暗き梢に雨の音はしてまだつゆ落ちぬまきのしたみち

太上天皇

五首の歌合に、雜遠近を

雲かゝる遠山松は見えずなりて籬のたけに雨こぼるなり

永福門院内侍

眺めつる草の上より降りそめて山の端消ゆる夕ぐれの雨

後伏見院御歌

雨夜思と云ふ事を

獨あかす四方の思は聞きこめぬたゞつく%\と更くる夜の雨

伏見院御歌

雜の御歌の中に

夜の雨に心はなりて思ひやる千里の寐覺こゝにかなしも

大藏卿有家

元久元年七月北野の社の歌合に、暮山雨を

見ぬ世まで思ふも寂し石の上ふるの山邊のあめの夕ぐれ

儀子内親王

題志らず

山松は見る/\雲に消え果てゝ寂しさのみの夕ぐれの雨

藤原親行朝臣

虹の立つ峯より雨は晴れそめて麓の松をのぼるしらくも

藤原公直朝臣母

雨は今晴れぬと見つる遠山の松にみだれてかゝるしら雲

永福門院内侍

百首の歌奉りし時

雨晴れて色濃き山の裾野より離れてのぼる雲ぞまぢかき

藤原爲基朝臣

題志らず

山もとや雨晴れのぼる雲の跡に煙のこれるさとの一むら

從三位親子

谷かげや眞柴の烟濃く見えて入相くらきやまのしたみち

進子内親王

雜の歌の中に

立ちのぼる烟さびしき山もとの里の此方にもりの一むら

後山本前左大臣

嘉元の百首の歌に、山を

白雲の八重立つ峰も塵ひぢの積りてなれる山にし非ずや

前大僧正慈順

題志らず

三の峰の二の道を並べ置きて我がたつ杣の名こそ高けれ

伏見院御歌

雜の御歌の中に

浦かぜは湊のあしに吹きしをり夕暮しろき波のうへの雨

後二條院御歌

浦の松木の間に見えて沈む日の名殘の波ぞ暫しうつろふ

永福門院

沈み果てぬ入日は浪の上にして汐干に清きいそのまつ原

藤原爲基朝臣

磯山の陰なる海はみどりにて夕日にみがくおきつ白なみ

祝部成茂

白波のたかしのやまの麓より眞砂吹きまき浦かぜぞ吹く

藤原朝村

かつしかのまゝの浦風吹きにけり夕波越ゆる淀のつぎ橋

院兵衛督

打ち寄する荒磯浪の跡なれや汐干のかたに殘るもくづは

前中納言定家

眺望の心を

わたの原波と空とは一つにて入日をうくる山の端もなし

藤原冬隆朝臣

清見がそ磯山もとは暮れそめて入日のこれる三保の松原

讀人志らず

物へ行くに海のほとりにて

風を痛み寄せ來る波にいさりする蜑少女子が裳の裾ぬれぬ

題志らず

玉津島見れどもあかずいかにして包みもたらむ見ぬ人の爲

家づとに貝を拾ふと沖邊より寄せ來るなみに衣手濡れぬ

あり通ふ難波の宮は海近み海士少女子が乘れるふね見ゆ

山階入道前左大臣

寳治の百首の歌に、江蘆を

難波江に夕汐遠く滿ちぬらし見らくすくなきあしの村立

津守國基

津の國に侍りける頃京にあひ知りたる人のもとに遣す文の上にかきて侍りける

津の國の難波よりぞと云はず共芦でを見ても其と知らなむ

光明峰寺入道前攝政左大臣

題志らず

津の國の難波の里の浦ちかみまがきを出づるあまの釣舟

前中納言爲相女

荒磯の松の陰なる海士小舟つなぎながらぞ浪にたゞよふ

從三位行尹

漕ぎ出でゝ武庫の浦より見渡せば波間にうかぶ住吉の松

從二位爲子

日吉へ參るとて唐崎の松を見て詠める

唐崎やかすかに見ゆる眞砂路にまがふ色なき一もとの松

前中納言有光

雜の歌に

にほの海や霞みて遠き朝あけに行く方見えぬ海士の釣舟

從二位家隆

明け渡るをじまの松の木の間より雲に離るゝ海士の釣舟

前中納言基成

浦々の暮るゝ波間もかず見えて沖に出でそふ海士の漁火

從二位爲子

漕ぎ出づる程も浪ぢに數消えぬ追風はやきうらのつり舟

前大納言爲兼

物として量り難しなよわき水に重き舟しも浮ぶと思へば

從二位兼行

河むかひまだ水暗きあけぼのに出づるか舟の音ぞ聞ゆる

前内大臣

百首の歌奉りし時、雜の歌

苔むして人の行きゝの跡もなしわたらで年やふるの高橋

前大納言爲兼

題志らず

大井川遙に見ゆる橋のうへに行く人すごし雨のゆふぐれ

岡のべや靡かぬ松は聲をなして下草しをる山おろしの風

藤原爲守女

谷深き松のしづ枝に吹きとめて深山の嵐こゑしづむなり

從二位宣子

山人のおへる眞柴の枝にさへ猶音づれて行くあらしかな

從三位親子

つれ%\と山陰すごき夕暮のこゝろにむかふまつの一本

前大納言爲兼

見るとなき心にも猶あたりけむ向ふみぎりの松の一もと

伏見院御歌

夕松と云ふ事を

いましもは嵐に増る哀れかな音せぬ松のゆふぐれのやま

權大納言公蔭

百首の歌奉りし時

年深き杉の梢も神さびてこぐらきもりはみや居なりけり

淨妙寺左大臣

雜の歌の中に

暮れぬるか籬の竹のむらすゞめねぐらあらそふ聲騷ぐなり

徽安門院

康永二年、歌合に、雜色と云ふことを

みどり濃き日影の山のはる%\と己れまがはず渡る白鷺

伏見院御歌

鷺を

山もとの田面より立つ白鷺の行くかた見れば森の一むら

前中納言爲相

雜の歌に

谷陰や木深き方にかくろへて雨をもよほす山ばとのこゑ

從三位忠嗣

鐘のおと鳥のね聞かぬおく山の曉知るは寢ざめなりけり

正二位隆教

山家夢と云ふ事を

吹きおろす軒端の山の松かぜに絶えて短き夢のかよひ路

前中納言定家

三十首の歌の中に、山家松

忍ばれむ物ともなしに小倉山軒端の松ぞなれてひさしき

圓光院入道前關白太政大臣

山家の心を

松の風かけひの水に聞きかへて都の人のおとづれはなし

權律師慶運

山を

塵の身ぞおき所なき白雲のたなびく山のおくはあれども

藤原基任

題志らず

山深き住まひばかりはかひもなし心に反く浮世ならねば

權律師慈成

山深き宿には人の音もせでたに靜かなるとりのひとこゑ

前大納言爲氏

寳治の百首の歌に、山家嵐を

山もとの松のかこひのあれまくに嵐よしばし心して吹け

權中納言俊實

雜の歌の中に

たゞ一へあだにかこへる柴の垣いとふ心に世をば隔てゝ

式子内親王

我宿はつま木こり行く山賤のしば/\通ふ跡ばかりして

西園寺前内大臣女

山家木を

こゝにさへ嵐吹けとは思はずよ身の隱れがの軒の山まつ

入道二品親王法守

百首の歌奉りし時

山の奥靜かにとこそ思ひしに嵐ぞさわぐ檜はらまきはら

山本入道前太政大臣女

世を逃れて山深く住み侍りける頃よめる

まだ人の庵ならべぬ山かげは音するかぜを友ときくかな

前權僧正良海

竹を

一もとゝ思ひてうゑし呉竹の庭見えぬまで繁るふるさと

伏見院御歌

六帖の題にて人々に歌よませさせ給ひけるついでに、山里

つくろはぬ岩木を庭の姿にて宿めづらしき山のおくかな

佛國禪師

題志らず

我だにもせばしと思ふ草の庵になかばさし入る峰の白雲

伏見院御歌

山家夕と云ふ事を

山かげや近き入相の聲くれて外面のたにゝ沈むしらくも

院御歌

百首の御歌に

跡絶えてへだつる山の雲ふかしゆきゝは近き都なれども

前大僧正道玄

無動寺に籠山して侍りける時源兼氏朝臣の許に申し送り侍りける

山里をたれすみ憂しと厭ひけむ心のすめば寂しさもなし

藤原宗秀

題志らず

訪ふ人も待たれぬ程に住慣れてみ山の奥は寂しさもなし

前大納言家雅

おく山の岩ほの枕苔むしろかくても經なむあはれ世の中

安嘉門院高倉

寳治の百首の歌に、山家水を

人目こそ枯れなば枯れめ山ざとに筧の水の音をだにせよ

儀子内親王

題志らず

とはるやと待たましいかに寂しからむ人目を厭ふ奥山の庵

二品法親王承覺

折れ殘る軒の懸樋をつたひきて庭にしたゝるこけの下水

伏見院御歌

山家の御歌の中に

遠方の山は夕日のかげ晴れて軒端のくもは雨おとすなり

進子内親王

雨を

雲しづむ谷の軒端の雨の暮聞きなれぬ鳥の聲もさびしき

順徳院御歌

雜の御歌に

ますら男が山かたつきて住む庵の外面に渡す杉のまろ橋

前大納言忠良

山深き草のいほりの雨の夜におとせで降るは泪なりけり

前大納言實明女

百首の歌奉りし時

山ざとは寂しとばかりいひ捨てゝ心留めて見る人やなき

前大納言尊氏

田家雨をよめる

山もとやいほの軒端に雲おりて田面さびしき雨の夕ぐれ

後嵯峨院御歌

寳治二年百首の歌人々に召されけるついでに、里竹を

思ひ入る深山の里のしるしとて浮世隔つるまどのくれ竹

二品親王慈道

西山の善峰寺にてよみ侍りける

此里は外面の眞柴志げゝれば外に求めぬつま木こるなり

院御歌

題志らず

あともなき賤が家居の竹の垣犬の聲のみおくぶかくして

山階入道前左大臣

寳治の百首の歌に、山家水を

身をかくす深山のおくの通路を有りとな告げそ谷の下水

後花山院前内大臣

文保三年後宇多院に奉りける百首の歌の中に

庵むすぶ山下水の木隱れに澄ますこゝろを知る人ぞなき

前大納言爲家

千首の歌よみ侍りけるに

閼伽棚の花の枯葉も打ちしめり朝ぎりふかし峰の山でら

藤原爲基朝臣

山里なる所へ罷りける道にてよみ侍りける

月はまだ峰越え遣らぬ山陰にかつ%\見ゆる松のした道

從三位頼政

百首の歌よみ侍りけるに

稻荷山西にや月のなりぬらむ杉のいほりの窓のしらめる

伏見院御歌

山家鳥

山陰や竹のあなたに入り日落ちて林のとりのこゑぞ爭ふ

從二位爲子

山路の心を

山人の分け入る外のあともなし峯より奥の芝のしたみち

中務卿宗尊親王

樵夫を

見渡せばつま木の道の松陰に柴よせかけてやすむやま人

前大納言公泰

しばし猶麓の道のくらければ月待ち出でゝ歸るやまびと

前左兵衛督惟方

深き山里に人の尋ねくるも無くて何と無く物哀なるに

人はいはじ鳥も聲せぬ山路にも在ればあらるゝ身に社有けれ

東山に住み侍りける比從三位頼政尋ね來て後かき絶え音せざりければ遣しける

いかにして野中の清水思出でゝ忘る計りに又なりぬらむ

靜仁法親王

笙の岩屋にこもりてよみ侍りける

暮ると明くと露けき苔の袂哉もらぬ岩屋の名をば頼まじ

藤原道信朝臣

玉井と云ふ所にて

我ならぬ人に汲すな行きずりに結び置きつる玉の井の水

弘法大師

高野の奥の院へ參る道に玉川と云ふ河の水上に毒虫の多かりければ此の流を飮むまじき由を示し置きて後よみ侍りける

忘れても汲みやしつらむ旅人の高野のおくの玉川のみづ

阿一上人

同じ山に登りて三鈷の松を見て

是ぞ此のもろこし舟にのりを得てしるしを殘す松の一本

前左兵衛督惟方

白川なりける家に住み絶えて年へて後罷りてよみ侍りける

故郷は淺茅がしたにうづもれて草の庵となりにけるかな

二品法親王寛尊

大覺寺に住み侍りける比詠める

年を經てあれこそ増れ嵯峨の山君が住み來し跡はあれ共

藤原爲守女

雜の歌に

命待つ假の宿りのうちにだに住み定めたる隱れがもなし

夢窓國師

庵を住み捨てゝ出でけるに

幾度か斯く住み捨てゝ出でつらむ定めなき世に結ぶ假庵

前中納言定家

百首の歌の中に

鷺の居る池の汀に松舊りてみやこの外のこゝちこそすれ

權中納言定頼

長和五年四月雨のいと長閑に降るに大納言公任に遣しける

八重葎繁れる宿につれ%\と訪ふ人もなき詠めをぞする