University of Virginia Library

Search this document 
  

 1. 
 2. 
 3. 
 4. 
collapse section5. 
風雅和歌集卷第五 秋歌上
 436. 
 437. 
 438. 
 439. 
 440. 
 441. 
 442. 
 443. 
 444. 
 445. 
 446. 
 447. 
 448. 
 449. 
 450. 
 451. 
 452. 
 453. 
 454. 
 455. 
 456. 
 457. 
 458. 
 459. 
 460. 
 461. 
 462. 
 463. 
 464. 
 465. 
 466. 
 467. 
 468. 
 469. 
 470. 
 471. 
 472. 
 473. 
 474. 
 475. 
 476. 
 477. 
 478. 
 479. 
 480. 
 481. 
 482. 
 483. 
 484. 
 485. 
 486. 
 487. 
 488. 
 489. 
 490. 
 491. 
 492. 
 493. 
 494. 
 495. 
 496. 
 497. 
 498. 
 499. 
 500. 
 501. 
 502. 
 503. 
 504. 
 505. 
 506. 
 507. 
 508. 
 509. 
 510. 
 511. 
 512. 
 513. 
 514. 
 515. 
 6. 
 7. 
 8. 
 9. 
 10. 
 11. 
 12. 
 13. 
 14. 
 15. 
 16. 
 17. 
 18. 
 19. 
 20. 
  

5. 風雅和歌集卷第五
秋歌上

前中納言定家

後京極攝政、左大將に侍りける時、家に六百番歌合し侍りけるに、殘暑を

秋來てもなほ夕風を松が根に夏を忘れしかげぞたちうき

後嵯峨院御歌

寳治二年、百首の歌人々に召されけるついでに、早秋を

風の音の俄に變るくれはとりあやしと思へば秋は來に鳬

藻壁門院但馬

白露はまだおきあへぬうたゝ寐の袖におどろく秋の初風

正二位隆教

題志らず

露ならぬ泪ももろくなりにけり荻の葉むけの秋のはつ風

入道二品親王法守

秋の歌とて

おちそむる桐の一葉の聲のうちに秋の哀を聞き始めぬる

權大納言公宗

夕暮の雲にほのめく三日月のはつかなるより秋ぞ悲しき

前大納言爲家

夕まぐれ秋來るかたの山の端に影珍らしくいづるみか月

權大納言公蔭

初秋露を

秋來てはけふぞ雲間に三日月の光まちとる萩のうはつゆ

式子内親王

正治二年、百首の歌に

詠むれば木の間移ろふ夕づくよやゝ氣色だつ秋の空かな

從に位家隆

名所の百首の歌の中に、泊瀬山

秋の色はまだこもりえの泊瀬山何をかことに露もおくらむ

前中納言定家

題志らず

山里は蝉の諸ごゑ秋かけて外面のきりのした葉おつなり

從三位客子

色うすき夕日の山に秋見えて梢によわる日ぐらしのこゑ

權中納言俊實

影弱き木の間の夕日移ろひて秋すさまじき日ぐらしの聲

永福門院

むら雀こゑする竹にうつる日の影こそ秋の色になりぬれ

凡河内躬恒

七月七日よみ侍りける

今日ははやとく暮れなゝむ久方の天の川霧立ち渡りつゝ

後山本前左大臣

文保三年奉りける百首に

心をばかすともなしに銀河よその逢ふ瀬に暮ぞ待たるゝ

前參議隆康

文永十年内裏にて七夕の七首の歌講ぜられけるに

逢ふ事をまどほに頼む七夕の契やうすきあまの羽ごろも

清輔朝臣

題志らず

思ひやる心も凉し彦ぼしのつままつ宵のあまのかはかぜ

讀人志らず

天の原ふりさけ見れば天の川霧立ちわたる君はきぬらし

伊勢

尚侍貴子の四十の賀民部卿清貫志侍りける屏風に七月七日たらひに影見たる所

珍らしく逢ふ七夕はよそ人も影みまほしき夜にぞありける

紫式部

七夕の歌の中に

大方をおもへばゆゝし天の川今日の逢ふ瀬は羨まれけり

前中納言匡房

天の川逢ふ瀬によする白波は幾夜をへても歸らざらなむ

太宰大貳重家

七夕の逢ふ瀬は難き天の川やすの渡りも名のみなりけり

後光明照院前關白左大臣

七夕の契りは秋の名のみしてまだ短夜はあふほどやなき

源義詮朝臣

年をへてかはらぬ物は七夕の秋をかさぬるちぎりなりけり

太上天皇

百首の歌の中に

更けぬなり星合の空に月は入りて秋風動く庭のともし火

後嵯峨院御歌

七夕の心を

たなばたに心をかして歎くかな明方ちかきあまのかは風

前大納言實教

後宇多院大覺寺におはしましける頃七夕の七百首の歌の中に、野女郎花を

幾年か嵯峨野の秋の女郎花つかふる道になれて見つらむ

前左兵衛督惟方

顯昭久しくおとづれざりければ申し遣しける

秋くれば萩もふるえに咲く物を人こそかはれもとの心は

法橋顯昭

返し

我が心又かはらずよ初萩の下葉にすがるつゆばかりだに

俊頼朝臣

草花露深と云ふ事を

あだし野の萩の末こす秋風にこぼるゝ露やたま川のみづ

安嘉門院四條

萩をよめる

さこそわれ萩の古枝の秋ならめもとの心を人の問へかし

永福門院

秋の御歌に

眞萩散る庭の秋風身にしみて夕日の影ぞかべに消え行く

前中納言定家

風吹けば枝もとをゝにおく露の散るさへ惜しき秋萩の花

九條左大臣女

乾元二年伏見院の五十番歌合に、秋露を

志をれふす枝吹き返す秋風にとまらずおつる萩のうは露

藤原公直朝臣母

題志らず

一志ぼり雨はすぎぬる庭の面に散りてうつろふ萩が花摺

從三位盛親

秋ふかみ花散る萩はもと透きて殘る末葉の色ぞさびしき

前大納言尊氏

籬薄を

露にふす眞垣の萩は色くれて尾花ぞ志ろき秋かぜのには

伏見院御歌

秋の歌あまたよませ給ひける中に

庭の面に夕べの風は吹きみちて高き薄のすゑぞみだるゝ

見わたせば裾野の尾花吹きしきて夕暮はげし山颪のかぜ

進子内親王

秋さむき夕日は峰にかげろひて岡の尾花にかぜすさぶ也

從三位親子

風後草花を

招きやむ尾花が末も靜にて風吹きとまるくれぞさびしき

院御歌

百首の御歌の中に

吹きうつりなびく薄の末々を長閑にわたる野邊の夕かぜ

藤原隆祐朝臣

九條前内大臣の家の百首の歌に、遠村秋夕と云ふ事を

夕日さす遠山もとのさと見えて薄吹きしく野邊のあき風

二品法親王慈道

薄を

身をかくす宿にはうゑじ花薄招くたよりに人もこそとへ

前大納言爲兼

秋の歌の中に

哀れさもその色となき夕暮の尾花が末にあきぞうかべる

源重之女

招くとも頼むべしやは花ずゝき風に隨ふこゝろなりけり

正三位季經

後法性寺入道關白、右大臣に侍りける時、よませ侍りける百首の歌の中に、草花を

吹く風のたよりならでは花ずゝき心と人を招かざりけり

前中納言定家

題志らず

打ち志めり薄のうれはおもりつゝ西吹く風に靡く村さめ

伏見院御歌

荻風を

こゝにのみあはれやとまる秋風の荻のうへこす夕暮の宿

前大納言爲兼

吹き捨てゝ過ぎぬる風の名殘まで音せぬ荻も秋ぞ悲しき

入道二品親王法守

百首の歌奉りし時

庭白きいさごに月は移ろひて秋風よわきはなのすゑ%\

前太宰大貳俊兼

秋の歌とて

薄霧のそらはほのかに明けそめて軒の忍に露ぞ見え行く

藤原爲守女

秋ぞかしいかに哀のとばかりにやすくも置ける袖の露哉

藤原重顯

光り添ふ草葉の上に數見えて月を待ちけるつゆの色かな

如願法師

庭草露と云ふ事を

踏み分けて誰れかは訪はむ蓬生の庭も籬もあきの志ら露

後鳥羽院御歌

千五百番歌合に

哀れ昔如何なる野邊の草葉よりかゝる秋風吹き始めけむ

前大僧正覺圓

題志らず

村雲に影さだまらぬ秋の日の移りやすくもくるゝ頃かな

從二位家隆

淺茅原秋風吹きぬあはれまた如何に心のならむとすらむ

伏見院御歌

秋風は遠き草葉をわたるなり夕日の影は野邊はるかにて

藤原爲基朝臣

鷺のゐるあたりの草はうら枯れて野澤の水も秋ぞ寂しき

院御歌

秋の歌あまた詠ませ給ひける中に

村雨のなかば晴れ行く雲霧に秋の日きよきまつ原のやま

永福門院

夕附日岩根の苔に影消えて岡のやなぎはあきかぜぞふく

前大納言爲兼

秋風に浮雲たかく空澄みて夕日になびくきしのあをやぎ

伏見院御歌

庭深き柳の枯葉散りみちてかきほあれたるあきかぜの宿

太上天皇

百首の歌の中に

川遠き夕日の柳岸はれてさぎのつばさにあきかぜぞふく

前中納言重資

影よわき柳がうれのゆふづくひ寂しくうつる秋の色かな

從二位家隆

秋の歌とて

玉島や落ちくるあゆの河柳下葉うち散りあきかぜぞ吹く

儀子内親王

薄霧のやまもと遠く鹿鳴きて夕日かげろふ岡のべのまつ

橘爲仲朝臣

小夜の中山と云ふ所にて鹿の鳴くを聞きて詠める

旅寐するさよの中山さよなかに鹿も鳴くなり妻や戀しき

藤原爲秀朝臣

題志らず

暮れうつる眞垣の花は見え分かで霧に隔てぬ小牡鹿の聲

徽安門院一條

百首の歌奉りし時

隔たらぬ牡鹿の聲は間近くてきりの色よりくるゝ山もと

寂然法師

秋の歌に

木枯に月澄む峯の鹿の音を我のみ聞くは惜しくもある哉

後京極攝政前太政大臣

千五百番歌合の歌

物思へとする業ならし木の間より落たる月に小男鹿の聲

前大僧正範憲

野鹿を

幾秋の涙さそひつ春日野や聞きてなれぬる小牡鹿のこゑ

貫之

題志らず

秋萩の亂るゝ玉は鳴く鹿の聲より落つるなみだなりけり

基俊

堀川院の百首の歌に、鹿を

風さむみはだれ霜降る秋の夜は山下とよみ鹿ぞ鳴くなる

大納言成道

同じ心を

終夜妻とふ鹿を聞くからに我さへあやないこそ寐られね

式子内親王

正治二年、百首の歌に

山里は峰の木の葉にきほひつゝ雲よりおろす小牡鹿の聲

民部卿爲藤

文保三年後宇多院より召されける百首の歌の中に

小山田の庵もる床も夜さむにて稻葉の風に鹿ぞ鳴くなる