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風雅和歌集卷第十 戀歌一
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10. 風雅和歌集卷第十
戀歌一

權大納言公蔭

戀の歌の中に

契ありてかゝる思や筑波嶺のみねども人のやがて戀しき

關白右大臣

百首の歌奉りし時、戀の歌

知られじなおさふる袖の泪川したにははやきみづの心を

前參議教長

題志らず

暫しこそ袖にもつゝめ泪川たぎつこゝろを爭でせかまし

後醍醐院御歌

我が戀は初元結の濃むらさきいつしか深き色に見えつゝ

前中納言定家

初戀の心をよめる

昨日今日雲の旗手に詠むとて見もせぬ人の思ひやは知る

今上御歌

戀の思ひと云ふ事を

物思ふと我だに知らぬ此の頃の怪しく常は詠めがちなる

冷泉

院の六首の歌合に、戀始

人知れぬこゝろの内の思ひゆゑ常は詠めの日頃にも似ぬ

權大納言公蔭

戀山を

岩が根のこりしく山にあらなくに妹が心の我にうごかぬ

從三位親子

題志らず

深き江の芦の下根によしさらば只朽果てね水籠りにして

大貳三位

始めて人のもとにつかはしける

埋もるゝ雪の下草いかにして妻籠れりとひとに知らせむ

貫之

承平五年、内裏の御屏風に、女に男のものいふまへに櫻の花ある所

よそにては花のたよりと見えながら心の中に心ある物を

從二位家隆

戀の歌の中に

青柳のかづらき山のよそながら君に心をかけぬ日はなし

前大納言爲兼

寄樹戀と云ふ事を

はつ時雨思ひそめても徒らに槇の下葉のいろぞつれなき

權中納言敦忠

年月契りながら逢はざりける人に

人知れず思ふ心は年經てもなにのかひなくなりぬべき哉

中納言國俊

堀川院の百首の歌に、忍戀を

打絶て詠めだにせず戀すてふ氣色を人に見せじと思へば

太宰大貳重家

同じ心を

つらからむ時こそあらめ味氣なく言はで心を碎くべしやは

後二條院御歌

戀の御歌の中に

言ひ出でむ言の葉も猶忍ばれて心にこむる我が思ひかな

徽安門院

戀硯と云ふ事を

いつとなく硯にむかふ手習よ人にいふべき思ひならねば

左兵衞督直義

百首の歌奉りしに

泪をば洩さずとてももの思ふ心のいろのえやはかくれむ

宣光門院新右衛門督

戀の歌とて

忍びかね心に餘る思ひなれば言はでも色に出でぬべき哉

權大納言公蔭

院の六首の歌合に、戀始

知せねば哀も憂さもまだ見ぬに涙までには何かこぼるゝ

花山院前内大臣

寳治の百首の歌の中に、寄月戀

仄かなる面影ばかり三日月のわれて思ふと知せてしがな

鎌倉右大臣

月前戀と云ふ事を

我が袖に覺えず月ぞ宿りける問ふ人あらばいかゞ答へむ

祝子内親王

月はたゞむかふばかりの詠めかな心のうちのあらぬ思に

前大納言爲氏

寳治の百首の歌に、寄草戀

枯れね唯其の名もよしや忍草思ふにまけば人もこそしれ

前大納言爲家

建長五年五月後嵯峨院に三首の歌奉りけるに、寄郭公戀と云ふ事を

郭公今は五月と名のるなり我がしのび音ぞ時ぞともなき

鴨長明

題志らず

忍ぶれば音にこそ立てね小男鹿のいる野の露のけぬべき物を

皇太后宮大夫俊成女

寳治の百首の歌に、寄關戀を

越えて又戀しき人に逢坂の關ならばこそ名をもたのまめ

今出川前右大臣

題志らず

戀死なむ後の哀の爲ばかりかくともせめて知せてしがな

永福門院

戀の心を

さても我が思ふ思よ遂にいかに何のかひなき詠のみして

刑部卿頼輔

日吉の社の歌合に

つらくとも遂に頼はありなまし逢はぬ例のなき世なりせば

大江嘉言

始めて人の許につかはしける

忍ぶれど思ふ思の餘りには色に出でぬる物にぞ有りける

藤原元眞

題志らず

志るやと暫しばかりは忍ぶるに心弱きはなみだなりけり

俊頼朝臣

つれなくのみ侍りける人の許につかはしける

侘びつゝは頼めだにせよ戀死なむ後の世迄も慰めにせむ

進子内親王

戀の歌の中に

身をかへて見る道もがな難面さの人にもかゝる人の心か

大納言公重

百首の歌奉りし時

おのづから我が思寐に見る夢や人はゆるさぬ契なるらむ

源定忠朝臣母

戀の歌とて

忘られむ名をだにせめて歎かばや其も馴ての後ぞと思へば

後醍醐院少將内侍

文保三年後宇多院に奉りける百首の歌の中に

つれもなき人の心の關守は夢路までこそゆるさゞりけれ

前左兵衞督惟方

つれなかりける女の夢には情ある樣に見えければ申しつかはしける

つれもなき現を夢に引きかへてうれしき夢を現ともがな

權大納言公宗

戀の歌に

知せねば難面き色も見えぬまの憂からぬ人に物をこそ思へ

順徳院御歌

思餘り知られむと思ふことの葉も猶人つての中ぞ悲しき

西宮前左大臣

清槇公の女の許へつかはしける

露ばかり頼む心はなけれども誰にかゝれる我ならなくに

祭主輔親

女のもとに始めてつかはしける

訪ふ事の始めは今日に見ゆらめど思ふ心は年ぞ經にける

東三條入道攝政前太政大臣

女につかはしける

音にのみ聞けばかひなし郭公こと語らはむと思ふ心あり

前右近大將道綱母

返し

語らはむ人なき里に郭公かひなかるべきこゑなふるしそ

源兼氏朝臣

顯戀の心を

隱れなきにほの通ひぢ今更にあさき心のみづからぞうき

藤原隆信朝臣

春の比山科わたりをありきけるに梅の花盛りなる宿の見え侍りければあるじを訪はせ侍るにはしたなく言ひければいひ入れ侍りける

梅が香は導べ顏なる春風の誰が行くへともなどや吹來ぬ

讀人志らず

返し

知らるべき行方ならねど梅が香に誘はれて來ば如何厭はむ

藤原隆信朝臣

かやうに云ひて對面などし侍りける後に云ひつかはしける

色深くそめし心ぞわすられぬ深山のさとの梅のにほひに

讀人志らず

返し

歸りにし心の色の淺ければあだに染めける花とこそ見れ

永福門院

戀の歌とて

怪しくも心の中ぞ亂れ行く物思ふ身とはなさじと思ふに

西園寺前内大臣女

忍戀を

くやしくぞ暫し人まをゆるしつる止めかねける袖の泪を

徽安門院

六帖の題に、云ひ始むと云ふ事を

大方になれし日頃も疎き哉かゝるこゝろを思ひけるよと

永福門院

戀の御歌の中に

思ふ方に聞きし人まの一言よ偖もいかにと云ふ道もなし

後伏見院御歌

忍戀の心を

味氣なや人の浮名を立てじ故我が思をばなきになしつる

院御歌

六首の歌合に、戀始と云ふこと

打ちつけに哀なるこそ哀なれ契ならではかくやと思へば

徽安門院

思ふてふ事はかくこそ覺えけれまだ知らざりし人の哀の

藤原爲忠朝臣

百首の歌奉りしに

相思ふ心とまでは頼まねど憂き名は人もさぞしのぶらむ

新宰相

戀の歌の中に

なき名ぞと我が心にも答へばや其夜の夢のかごとばかりは

前大納言實明女

偖もともとはれぬ今は又つらし夢なれとこそ云ひし物から

前大納言俊定

夢にだに見つとはいはじ自から思ひ合する人もこそ有れ

平宗宣朝臣

不惜名戀

なき名とも人にはいはじ其をだにつらきが中の思出にして

永福門院右衛門督

題志らず

夢かなほ亂れそめにし朝寢髮又かきやらむ末も知らねば

進子内親王

初逢戀の心を

今朝よなほ怪しく變る詠かないかなる夢の如何見えつる

永福門院

題志らず

とに斯に晴れぬ思にむきそめて憂きより先に物の悲しき

太上天皇

戀の歌の中に

我は思ひ人にはしひて厭はるゝこれを此世の契なれとや

進子内親王

寢られねば夢にはあらじ面影の心に添ひて見ゆるなりけり

徽安門院一條

百首の歌奉りし時

流石いかに人の思はゞやすからむ包むが上の夢の逢ふ瀬も

永福門院右衛門督

戀の歌に

こと通ふ道もさすがになからめや只憂き中ぞ忍ぶにはなる

藤原爲秀朝臣

折々にきゝ見る事のそれも皆戀しき中のすさびにぞなる

俊頼朝臣

女の許へつかはしける

戀しさに身の憂き事も忘るればつらきも人は嬉しかりけり

賀茂保憲朝臣女

戀の歌の中に

思はじと心をもどく心しもまどひなさりて戀しかるらむ

讀人志らず

題志らず

空蝉の人目を繁み逢はずして年の經ぬればいけりともなし

心にはもえて思へど空蝉の人目をしげみ妹に逢はぬかも

人言をしげしと妹に逢はずして心の中に戀ふるこのごろ

中納言家持

現には更にも云はず夢にだにいもが袂をまきぬとし見ば

讀人志らず

いかならむ日の時にかも吾妹子が藻引の姿朝にけに見む

斯計り戀ひむとかねてしらませば妹をば見ずも有べかりける