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風雅和歌集卷第八 冬歌
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8. 風雅和歌集卷第八
冬歌

前大納言公任

十月一日おほ井にまかりてこれかれ歌詠みけるに

落積るもみぢ葉見れば大井川堰にとまる秋にぞありける

圓光院入道前關白太政大臣

杜初冬と云ふ事を

冬のきて霜の降りはも哀れなり我もおいそのもりの下草

後二條院御歌

百首の御歌の中に

もみぢ葉の深山に深く散敷くは秋の歸りし道にやある覽

伏見院新宰相

初冬の歌に

草枯れて寂しかるべき庭の面に紅葉散敷き菊も咲きけり

後西園寺入道前太政大臣

浮雲の秋より冬にかゝるまで時雨すさめるとほやまの松

太上天皇

時雨を

夕日さす落葉が上に時雨過ぎて庭にみだるゝ浮雲のかぜ

儀子内親王

山あらしに浮き行く雲の一通り日影さながら時雨降る也

從三位盛親

降りすさぶ時雨の空の浮雲に見えぬ夕日の影ぞうつろふ

民部卿爲定

文保の百首の歌奉りし時

時雨るともよそには見えず絶々に外山をめぐる峯の浮雲

前中納言爲相

冬の歌の中に

時雨行く雲間に弱き冬の日のかげろひあへず暮るゝ空哉

前大納言家雅

伏見院の五十首の歌合に、冬雲を

浮きて行く雲の絶々影見えてしぐるゝ山の夕日さすなり

前參議教長

時雨を詠める

時雨の雨何と降るらむはゝそ原散りての後は色も増らじ

進子内親王

題志らず

山嵐に木の葉降り添ふ村時雨晴るゝ雲間に三日月のかげ

後鳥羽院御歌

神無月雲間待つ間に更けにけりしぐるゝ頃の山の端の月

永福門院

月の姿なほ有明の村雲にひとそゝぎするしぐれをぞ見る

權大納言公蔭

神無月くもの行くての村時雨はれも曇りも風のまに/\

伏見院新宰相

百番歌合に、閨時雨を

折々に時雨おとして長き夜の閨の板間はまてどしらまず

藤原爲仲朝臣

冬の歌の中に

外山より時雨れてわたる浮雲に木の葉吹きまぜゆく嵐哉

永陽門院左京大夫

誘ひ果てし嵐の後のゆふしぐれ庭の落葉を猶やそむらむ

大中臣頼基

均子内親王の裳着侍りけるに尚侍淑子に送り侍りける屏風に笠取山のほとりを人行く程に時雨のするに袖をかづきたる所

笠取の山を頼みしかひもなく時雨に袖をぬらしてぞ行く

從二位爲子

題志らず

時雨れ行く唯一村は早くしてなべての空は雲ぞ長閑けき

永福門院

むら/\に小松まじれる冬枯の野べ凄じき夕ぐれのあめ

進子内親王

枯れつもる楢の落葉に音すなり風吹きまさる夕ぐれの雨

伏見院御歌

落葉深といふ事を人々に詠ませ給ひけるついでに

吹分くる木の葉の下も木のはてに庭見せかぬる山颪の風

後伏見院御歌

冬庭をよませ給ひける

時雨るとも知られぬ庭は木葉濡て寒き夕日は影落ちに鳬

四條太皇大后宮下野

宇治入道前關白の家に殿上人ども殘の紅葉を尋ぬと云ふ題を詠み侍りける時

心して風の殘せるもみぢ葉を尋ぬる山のかひに見るかな

貫之

題志らず

もみぢ葉の散り敷く時は行き通ふ跡だに見えぬ山路也鳬

山川に紅葉の流るゝを見て

水上に時雨降るらし山川の瀬にも紅葉のいろふかく見ゆ

後嵯峨院御歌

弘長二年、嵯峨にて十首の歌講ぜられけるついでに、河落葉

我宿の物なりながら大井河せきも止めず行く木の葉かな

後二條院御歌

冬の御歌に

神南備の山下風の寒けくにちりかひ曇る四方のもみぢ葉

院兵衛督

神垣のもりの木の葉は散りしきて尾花殘れる春日野の原

芬陀利花院前關白内大臣

文保三年後宇多院に奉りける百首の歌の中に

吹く風のさそふともなき梢より落つる枯葉の音ぞ寂しき

權大納言公宗

冬の歌とて

入相のひゞきを送る山風にもろき木の葉の音ぞまじれる

後一條入道前關白左大臣

いつの間に苔さへ色のかはるらむ今朝初霜のふる郷の庭

徽安門院一條

百首の歌奉りし時

秋見しはそれとばかりの萩がえに霜の朽葉ぞ一葉殘れる

權大納言資明

冬枯の芝生の色の一とほり道ふみ分くる野べのあさじも

祝子内親王

題志らず

霜さむき朝げの山はうすぎりて氷れる雲にもる日影かな

今上御歌

冬の御歌の中に

霜こほる竹の葉分に月冴えて庭しづかなるふゆの小夜中

權大納言公蔭

吹きとほす梢の風は身にしみて冴ゆる霜夜の星清きそら

藤原爲基朝臣

冬動物と云ふ事を

置く霜は閨までとほる明け方の枕にちかきかりの一こゑ

紀淑文朝臣

霜を

殘りつる峯の日影も暮れはてゝ夕霜さむしをかのべの里

前大僧正源惠

暮れかゝる日影はよそになりにけり夕霜氷る森のした草

前大納言實明女

百首の歌奉りし時

空高く澄みとほる月は影冴えてしばふに白き霜の明け方

祝部成茂

冬の歌に

紅葉せし岡べも今は白たへのしもの朽葉に月ぞこほれる

三條入道前太政大臣

草葉こそ置添ふ霜にたへざらめ何にかれ行く宿の人目ぞ

前大納言實教

寒草を詠める

ふりはつる我をもすつな春日野やおどろが道の霜の下草

前中納言定家

建仁元年三月、歌合に嵐吹寒草と云ふ事を

淺茅生や殘るはずゑの冬の霜置き所なくふくあらしかな

從二位家隆

冬の歌の中に

霜白き神の鳥居の朝がらす鳴く音もさびし冬のやまもと

後伏見院中納言典侍

霜とくる日影の庭は木の葉濡れて朽にし色ぞ又變りぬる

正三位經家

後京極攝政、左大將に侍りける時、家に六百番歌合し侍りけるに、殘菊

染めかふるまがきの菊の紫は冬に移ろふ色にぞ有りける

後宇多院御歌

人々に歌を召して合せられけるついでに庭殘菊と云ふことを詠ませ給ひける

庭の面に老の友なる白ぎくは六十ぢの霜や猶かさぬべき

藤原道信朝臣

菊を見て詠める

濃紫殘れるきくは白露のあきのかたみに置けるなりけり

前大納言爲世

文保の百首の歌の中に

冬されば冴ゆる嵐の山の端にこほりをかけて出づる月影

正二位隆教

百首の歌奉りしに

おぼろなる光も寒し霜ぐもり冴えたる空に更くる夜の月

儀子内親王

題志らず

吹くとだに知られぬ風は身にしみて影さへ通る霜の上の月

二品法親王覺助

長き夜の霜の枕はゆめ絶えて嵐のまどにこほるつきかげ

徽安門院

冬雲を

氷るかと空さへ見えて月のあたり村々白き雲もさむけし

冷泉前太政大臣

河邊冬月

武士のやそうぢ川の冬の月入るてふ名をば習はざらなむ

藤原爲秀朝臣

瀬だえするふる川水の薄氷ところ%\にみがくつきかげ

後伏見院御歌

題志らず

鐘の音にあくるか空とおきて見れば霜夜の月ぞ庭靜なる

左近中將忠季

有明の月と霜との色のうちに覺えず空もしらみ初めぬる

前大納言爲兼

冬鐘と云ふ事を

吹き冴ゆる嵐のつての二聲に又はきこえぬあかつきの鐘

増基法師

曉がたに千鳥の鳴くを聞きて

あかつきや近くなるらむ諸共にかならずも鳴く鳥千鳥哉

左京大夫顯輔

千鳥を詠み侍りける

近江路や野島が崎の濱風にゆふなみ千鳥たちさわぐなり

正三位經朝

寳治の百首の歌に、潟千鳥

夕暮の汐風あらく鳴海潟かたもさだめず鳴くちどりかな

平宣時朝臣

海邊千鳥と云ふ事を

遙なる沖の干潟の小夜千鳥みちくる汐にこゑぞちかづく

權中納言通相

寒蘆を

難波潟入江にさむき夕日影殘るもさびしあしのむらだち

如願法師

湊いりのたなゝし小舟跡見えて芦の葉むすぶうす氷かな

後西園寺入道前太政大臣

氷を詠める

行きなやむ谷の氷の下むせび末にみなぎるみづぞ少なき

惠助法親王

冬深き谷の下水音絶えてこほりのうへをはらふ木がらし

前關白左大臣

冬の歌の中に

分きて猶こほりやすらむ大井川さむる嵐のやま蔭にして

藤原爲忠朝臣

百首の歌奉りし時

風寒き山かげなればなつみ河むすぶ氷のとくる日もなし

永福門院

冬雨を

寒き雨は枯野の原に降り志めて山松風のおとだにもせず

伏見院御歌

冬夕の心を詠ませ給ひける

梢には夕あらし吹きて寒き日の雪げの雲にかり鳴き渡る

式子内親王

正治の百首の歌の中に

むれてたつ空も雪げにさえ暮れて氷の床に鴛ぞ鳴くなる

前中納言爲相女

霰を

空さむみ雪げもよほす山風のくものゆきゝに霰ちるなり

前中納言重資

風の音も寒き夕日は見えながら雲一村にあられ落つなり

如法三寳院入道前内大臣

野外霰と云ふ事を

霜氷る野べのさゝ原風冴えてたまりもあへず降る霞かな

式子内親王

正治の百首の歌の中に、冬の歌

時雨つゝ四方の紅葉は降り果てゝ霰ぞ落つる庭の木葉に

前大納言爲兼

題志らず

降り晴るゝ庭の霰は片よりて色なる雲ぞそらに暮れ行く

伏見院新宰相

冬夜と云ふ事を

夕べよりあれつる風のさえ/\て夜深き窓に霰をぞ聞く

權僧正永緑

霰を

冬の夜の寐覺に聞けばかた岡のならの枯葉に霰降るなり

民部卿爲定

百首の歌奉りし時

音たつる外面のならのひろばにも餘りてよそに散る霰哉

章義門院

題志らず

詠めやる岡の柳は枝さびて雪まつそらのくれぞさむけき

藤原爲基朝臣

浮雲の志ぐれ暮して晴るゝ跡になかば雪なる軒の山の端

鎌倉右大臣

雪の歌の中に

まきもくの檜原の嵐冴え/\てゆつきが嶽に雪降りに鳬

後鳥羽院御歌

建仁元年三月、歌合に、雪似白雲と云ふ事を

雪やこれはらふ高間の山風につれなき雲のみねに殘れる

前中納言定家

策々窓戸前、又聞新雪下と云ふ事を

初雪の窓のくれ竹ふしながらおもるうは葉の程ぞ聞ゆる

前中納言雅孝

題志らず

降りけるも眞砂の上は見え分かで落葉に白き庭のうす雪

道命法師

庭はたゞ霜かと見れば岡のべの松の葉白き今朝のはつ雪

藤原朝定

笹の葉の上ばかりには降り置けど道も隱れぬ野べの薄雪

院冷泉

跡たえてうづまぬ霜ぞすさまじき芝生が上の野べの薄雪

寂惠法師

朝日影さすや雲間のたえ%\にうつるも氷る峯のしら雪

右近大將道嗣

冬の歌に

いづくとも積るたかねは見えねども雲の絶々降れる白雪

内大臣

野雪と云ふ事を詠み侍りける

高嶺にはけぬが上にや積るらむ富士の裾野の今朝の初雪

藤原爲守

行路雪を

旅人の先だつ道はあまたにて跡なきよりもまがふ雪かな

藤原重能

左兵衞督直義の家の歌合に

波かゝるしづえは消えて磯の松梢ばかりにつもるしら雪

前大納言爲兼

雪降りける日日吉の社へまうでけるに山深くなるまゝ風吹きあれて行くさきも見えず雲立ちむかひ侍りければ

行く先は雪の吹雪に閉ぢ籠めて雲に分け入る志賀の山越

鎌倉右大臣

題志らず

深山には白雪降れりしがらきのまきの杣人みち辿るらむ

基俊

山家雪

雪のうちに今日も暮しつ山里はつま木のけぶり心細くて

民部卿爲定

文保の百首の歌奉りける時、冬の歌

降るまゝに檜原も最どこもりえの初瀬の山は雪積るらし

永福門院

百番歌合に、山雪を

鳥の聲松の嵐のおともせず山志づかなるゆきのゆふぐれ

津守國基

雪の歌とて詠める

三吉野やすゞふく音はうづもれて槇の葉はらふ雪の朝風

俊惠法師

雪埋樵路と云ふ事を

つま木こる山路は雪の降りければ世にふる道も絶や志ぬ覽

光明峰寺入道前攝政左大臣

雪のいみじく降りたりけるあした慶政上人西山に住み侍りける庵室に詠みて遣しける

如何ばかり降りつもるらむ思ひやる心も深きみねの白雪

慶政上人

返し

尋ねいりし誠の道の深き山はつもれる雪の程も志られず

前大僧正道玄

無動寺に籠りて侍りける頃雪のあした藤原爲顯に遣しける

都へも見ゆらむ物を哀れとも訪はぬぞつらき峯の志ら雪

藤原爲顯

返し

詠むべき其方の山もかき暮れて都も雪の晴るゝ間もなし

權中納言宗經

題志らず

訪ふ人の跡こそあらめ松風の音さへ絶ゆるやまの志ら雪

藤原頼氏

降り積る梢の雪やこほるらし朝日も洩らぬ庭のまつが枝

西園寺入道前太政大臣

建保五年四月、庚申に、冬夕を

山の端の雪の光に暮れやらでふゆの日ながし岡のべの里

從二位兼行

雪を詠み侍りける

降りおもる軒端の松は音もせでよそなる谷に雪をれの聲

前大納言爲兼

三島の社に奉らむとて平貞時朝臣すゝめ侍りける十首の歌の中に、松雪を

山おろしの梢の雪を吹くたびに一くもりする松の下かげ

前中納言定資

雪の歌に

夜もすがらふる程よりも積らぬは嵐やはらふ松の志ら雪

從三位盛親

夕暮のみぞれの庭や氷るらむ程なくつもる夜半の志ら雪

從二位爲子

花よたゞまだうすぐもる空の色に梢かをれる雪の朝あけ

永福門院内侍

院より召されける卅首の歌の中に

ふればかつこほる朝げのふる柳なびくともなき雪の白糸

前大僧正道意

冬の歌とて

朝日さす軒端の雪はかつきえてたるひの末に落つる玉水

後伏見院御歌

朝雪と云ふ事を

岡のべや寒き朝日のさしそめておのれと落つる松の白雪

後西園寺入道前太政大臣

野も山も一つに志らむ雪の色に薄雲くらき朝あけのそら

徽安門院

薄曇まだ晴れやらぬ朝あけの雲にまがへるゆきのとほ山

院一條

題志らず

深雪降る枯木のすゑの寒けきにつばさを垂れて烏鳴く也

後鳥羽院御歌

鳥歸る谷のとぼそに雪深しつま木こるをの道や絶えなむ

儀子内親王

薄曇折り/\さむく散る雪にいづるともなき月も凄まじ

前大僧正覺實

降りすさむ夕の雪の空晴れて竹の葉志ろき軒のつきかげ

藤原親行朝臣

吹きかくる簾も白くなりにけり風によこぎる夕暮のゆき

前中納言重資

百首の歌奉りし時

うづもるゝ草木に風の音はやみて雪志づかなる夕暮の庭

院一條

冬の歌とて

山もとの竹はむら/\埋もれて烟もさむき雪のあさあけ

左兵衛督直義

冬地儀と云ふ事を

見渡せば山もと遠き雪のうちに烟さびしき里のひとむら

伏見院御歌

夕雪

降り積る色より月のかげになりて夕暮見えぬ庭の志ら雪

前大納言爲兼

暮るゝまで屡拂ふ竹の葉にかぜはよわりて雪ぞ降り敷く

貫之

屏風の繪に雪の降りたる所

三吉野の山より雪は降りくれどいつとも分かぬ我宿の竹

讀人志らず

題志らず

池のべの杜の末葉に降る雪は五百重降り志けあすさへも見む

うば玉の今宵の雪にいざぬれむ明けむ朝にけなば惜しけむ

貫之

ごとに降りのみ隱すゆきなれど水には色も殘らざりけり

源仲正

水上雪と云ふ事を詠める

諸共にはかなき物は水の面に消ゆれば消ゆる泡の上の雪

二品法親王覺助

文保三年後宇多院へ召されける百首の歌の中に

降りつもる雪間に落つる瀧川の岩根に細きみづのしら浪

從二位行家

氷上雪を

かつ結ぶ氷の程もあらはれて雪になり行く庭のいけみづ

修理大夫顯季

雪の降りたりけるつとめて俊頼朝臣の許に詠みて遣しける

雪降りてふまゝく惜しき庭の面は尋ねぬ人も嬉しかり鳬

俊頼朝臣

返し

我心ゆきげの空に通ふとも知らざりけりな跡しなければ

伏見院御歌

正應二年十一月廿八日、賀茂の臨時の祭の還立待たせ給ふ程、上達部殿上人あまたさぶらひて夜もすがら御歌合など有りける朝ぼらけ雪さへ降りていとおもしろく侍りけるを、同じ五年のおなじ月日臨時の祭にて雪降りて侍りければ、おぼし召し出づる事ありて、御硯の蓋に雪を入れて、淨妙寺關白其の頃こもりゐて侍りけるに遣はさせ給ひける

廻り逢ふ同じ月日は思ひいづや四とせ舊りにしゆきの曙

淨妙寺關白前右大臣

御返し

つもれどもつかへしまゝの心のみふりてもふりぬ雪の曙

進子内親王

冬聲と云ふ事を

降り晴れて氷れる雪の梢よりあかつき深き鳥のはつこゑ

覺譽法親王

朝雪を

降り晴るゝ朝げの空は長閑にて日影に落つる木々の白雪

從二位隆博

雪の歌の中に

日影さす其方の雪のむらぎえにかつ%\落つる軒の玉水

前中納言爲相

鷹狩を

御狩野に草をもとめて立つ鳥のしばしかくるゝ雪の下柴

前大納言公泰

御狩するかた山蔭のおち草にかくれもあへず立つ雉子哉

前大納言爲兼

谷ごしに草取る鷹を目にかけて行く程おそきしばの下道

前大納言爲世

文保三年後宇多院へ奉りける百首の歌の中に

風さゆるうぢのあじろ木瀬を早み氷も波も碎けてぞ見る

前中納言雅孝

山深き雪よりたつる夕烟たがすみがまのしるべなるらむ

安嘉門院四條

小野山はやくすみがまの下もえて烟のうへにつもる白雪

前大納言爲家

住吉の社に奉りける百首の歌の中に、炭竈

炭がまの烟に春をたち籠めてよそめ霞める小野の山もと

平貞時朝臣

遠炭竈と云ふ事を

炭がまの烟ばかりをそれと見て猶みちとほし小野の山里

院御歌

冬夕の心を詠ませ給ひける

暮れやらぬ庭のひかりは雪にして奥暗くなる埋火のもと

皇太后宮大夫俊成

日吉の社へ奉りける百首の歌の中に、爐火を

埋火にすこし春ある心して夜深きふゆをなぐさむるかな

太上天皇

冬の歌の中に

寒からし民のわら屋を思ふには衾のうちの我もはづかし

後深草院小將内侍

寳治の百首の歌に、冬月

雲の上の豐のあかりに立ち出でゝ御階の召に月を見る哉

民部卿爲藤

文保三年後宇多院へ召されける百首の歌の中に

少女子が雲の通路吹く風にめぐらす雪ぞそでにみだるゝ

龜山院御歌

永仁五年五節のまゐりの日申させ給ひける

面影も見る心ちするむかしかな今日少女子が袖の志ら雪

伏見院御歌

御返し

忍ぶらし少女が袖のしら雪も降りにし跡の今日のおも影

權中納言公雄

文保の百首の歌の中に

忘れずよ豐のあかりのをみ衣きつゝなれしは昔なれども

前左兵衛督爲成

賀茂の臨時の祭の舞人つとめける時社頭にて詠み侍りける

山あゐの袖の月影さ夜ふけて霜吹きかへす賀茂の河かぜ

皇太后宮大夫俊成

文治六年、女御入内の屏風に、十二月内侍所の御神樂の所

道理や天の岩戸も明けぬらむ雲居のにはのあさくらの聲

永福門院右衛門督

冬の歌の中に

殘りなく今年も早くくれ竹の嵐にまじるゆきもすさまじ

後鳥羽院御歌

正治二年人々に百首の歌召されけるついでに、年のくれを

今日までは雪降る年の空ながら夕ぐれ方は打ち霞みつゝ

中務卿宗尊親王

十二月十七日立春の節、方遠に外へ罷りて曉、有明の月を見て

入方の影こそやがて霞みけれ春にかゝれるありあけの月

伏見院御歌

冬庭と云ふ事を

自ら垣根のくさもあをむなり霜の下にもはるやちかづく

貫之

歳のうちの梅をよみ侍りける

一年にふたゝび匂ふ梅の花春のこゝろにあかぬなるべし

後鳥羽院御歌

百首の御歌の中に

惜みこし花や紅葉の名殘さへ更におぼゆる年のくれかな

永福門院

題志らず

あれぬ日の夕べの空は長閑にて柳の末もはるちかく見ゆ

卜部兼直

冬の歌とて詠める

身の憂さも變りやするとよしさらば今年は歳の暮も惜まじ

關白右大臣

百首の歌奉りし時

今年又暮ぬと思へば今更に過ぎし月日の惜しくも有る哉

藤原爲明朝臣

いたづらに今日さへくればあすか川又歳波の數や重ねむ

正三位知家

寳治の百首の歌の中に、歳暮を

暮れぬとて何かは急ぐ年を經て人の爲なる春と見ながら