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風雅和歌集卷第十四 戀歌五
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14. 風雅和歌集卷第十四
戀歌五

太上天皇

百首の歌に

戀しとも何か今はと思へども唯此の暮を知らせてしがな

徽安門院

戀の歌の中に

迷ひそめし契思ふかつらきしも人に哀れの世々に歸るよ

永福門院

立歸りこれも夢にて又絶えばありしにまさる物や思はむ

内大臣室

自から逢ふ夜有りやと待つ程に思ひしよりも存へにけり

高階師直

存へば思出でゝや訪はるゝと生けるかひなき身を惜む哉

前中納言雅孝

後宇多院に奉りける百首の歌の中に

存へて有らばと頼む命さへ戀ひ弱る身は明日も知られず

清輔朝臣

戀の歌とて

中々に思絶えなむと思ふこそ戀しきよりも苦しかりけれ

殷富門院大輔

死なばやと思ふさへこそはかなけれ人のつらさは此世のみかは

權大納言實家

人心憂きにたへたる命こそ難面きよりもつれなかりけれ

讀人志らず

題志らず

玉の緒を片緒によりて緒を弱み亂るゝ時に戀ひざらめやも

玉葛かけぬ時なく戀ふれどもいかにか妹が逢ふ時もなき

ますらをの現し心も我はなしよる晝云はず戀ひし渡れば

藤原道信朝臣

小辨が許に罷りたりけるに人あるけしきなれば歸りてつかはしける

露にだに心おかるな夏萩の下葉のいろよそれならずとも

讀人志らず

從三位頼政絶えて久しくなりにける女又語らひける人に忘られて後逢ひ侍りて申し遣しける

住むとしもなくてたえにし忘水何故さても思ひ出でけむ

從三位頼政

返し

人もみなむすぶなれども忘水我のみ飽かぬ心ちこそすれ

二條院御歌

戀の御歌の中に

いかで我れ人を忘れむ忘れゆく人こそ斯は戀しかりけれ

從二位爲子

淨妙寺關白に物申しける人の、心にしめて物思ふ由など云ひけるが、關白なくなりて後又從一位兼教に云ひかはす由聞きければ誰ともなくて花の枝に付けてさし置かせける

程なくぞ殘る片枝に移しける散りにしはなにそめし心を

永福門院

題志らず

さらばとて恨をやめて見る中のうきつま%\に頼兼ねぬる

見る人も物を思はぬ樣なれば心のうちをたれにうれへむ

權大納言公宗母

歎くらむ戀ふらむとだに思出でよ人には人の移りはつ共

西園寺前内大臣女

憂しとのみ我さへ捨つる身の果はなき誰故と喞たずもなし

伏見院御歌

戀命を

厭ふしも喞ち顏にや思ひなさむ難面しとだに懸けし命を

前中納言重資

何にかゝる命ぞさればつれもなく我やは惜む人も厭ふを

權大納言公宗母

百首の歌奉りしに

人もさぞつれなき方に思ふらむ慕ふに似たる命ながさを

權大納言資名

戀の歌に

忘らるゝ我身も人もあらぬよにたが面影の猶のこるらむ

祝子内親王

我れさへに心にうとき哀れさよなれし契の名殘ともなく

權大納言公宗母

百首の歌奉りし時

憂きながら思出でける折々や夢にも人の見えしなるらむ

藤原爲季朝臣

まだ通ふ同じ夢路も有る物を有りし現ぞうたて果敢なき

從二位爲子

恨戀の心を

思ひさます身を知る方の道理も餘り憂きには又忘れぬる

伏見院御歌

思ひ連ねさも憂かりけると思ふ後に又戀しきぞ理もなき

例なくつらき限やこのきはと思ひし上の憂きもありけり

徽安門院小宰相

百首の歌奉りしに

自から思ひいづとも今はたゞ憂き方のみや忘れざるらむ

關白右大臣

涙こそ己が物から哀なれそをだに人のゆくへとおもへば

左兵衛督直義

逢ふ事は絶えぬる中に同じ世の契計りぞ有りてかひなき

從三位盛親

戀の歌の中に

人心憂きあまりには大方の世をさへ懸けて厭ひ立ちぬる

西園寺前内大臣女

戀死なむ身をも哀と誰か云はむ云べき人はつらき世なれば

式部卿恒明親王

思ふ方へせめては靡け戀死なむ我世の後のけぶりなりとも

永福門院

厭ひ惜み我のみ身をば憂ふれど戀ふなる果を知る人もなし

さま%\の我が慰めも事つきて今はと弱る程ぞかなしき

同院右衛門督

幾程と思ふ哀れもまたかなし人のうき世を我もいとへば

朔平門院

寄雲戀

待慣れし昔に似たる雲の色よあらぬ詠めの暮ぞかなしき

永福門院

觸物催戀と云ふ事を

月のよは雲の夕もみな悲しその夜は逢はぬ時しなければ

彈正尹邦省親王

忘戀

忘らるゝ袖には曇れ夜半の月見し夜に似たる影も恨めし

前中納言定家

遇不逢戀の心を

訪ひこかしまた同じ世のつきを見てかゝる命に殘る契を

從二位顯氏

寳治の百首の歌の中に、寄風戀

其方より吹來る風のつてにだに情をかくる音づれぞなき

藤原朝定

戀の歌に

逢ふ事はくち木の橋の絶々に通ふばかりの道だにもなし

侍從隆朝

侘びはつる後は形見と忍ぶかな憂かりしまゝの有明の月

前參議家親

思ひたえまた見るまじき夢にしも殘る名殘の覺め難き哉

太上天皇

百首の歌の中に

知らざりし深き限は移りはつる人にて人の見えける物を

前左兵衞督惟方

互に久しく音せざりける女の許へ遣しける

音せずば音もやすると待つ程に絶えばたえよと思ける哉

相模

思ふ事侍りける頃

つらからむ人をも何か恨むべき自らだにも厭はしき身を

讀人志らず

藤原相如に忘られて侍りける後詠みて遣しける

我ながら我からぞとは知りながら今一たびは人を恨みむ

藤原相如

返し

忘れぬと聞かばぞ我も忘るべき同じ心にちぎりこしかば

中納言家持

大伴郎女につかはしける

夢にだに見えば社あらめ斯計見えずて有るは戀て死ねとか

讀人志らず

題志らず

君に逢はで久しくなりぬ玉の緒の長き命の惜けくもなし

人麿

敷妙の枕せし人ことゝへやそのまくらには苔生ひにけり

花山院御歌

人に給はせける

今よりはあひも思はじ過にける年月さへに妬くもある哉

讀人志らず

御返事

思ふと云ふ過にし身だに憂かりしを添ふるつらさを思こそやれ

西園寺前内大臣女

戀の歌に

恨む共戀ふ共よしや忘らるゝ身をある物と人に聞かれじ

永福門院

遂にさても恨の中に過ぎにしを思ひ出づるぞ思出もなき

伏見院御歌

鳥の行く夕の空よその夜には我もいそぎし方はさだめき

猶も世にあるやとかくる人傳ようき身の憂きを更に知れとや

京極前關白家肥後

忘るまじき由契りける人のさもあらざりければ歎きける人に代りてよみ侍りける

はかなくて絶にし人の憂きよりも物忘せぬ身をぞ恨むる

殷富門院大輔

題志らず

あかざりし匂殘れるさ莚は獨りぬる夜も起き憂かりけり

永福門院左京大夫

絶えて久しく訪はぬ人に五月五日菖蒲の根につけて遣はしける人に代りて

知られじな憂きみがくれの菖蒲草我のみ長き音には泣く共

伏見院御歌

戀の御歌の中に

面影のとまる名殘よそれだにも人の許せる形見ならぬを

永福門院

よそなりし其夜に人は歸れども身は改めぬ物をこそ思へ

善成王

恨みずば人も情や殘さまし身を志りけりと思ふあはれに

藤原宗光朝臣

恨しを我が憂節になしやはつる其より絶し中ぞと思へば

左近中將忠季

百首の歌奉りし時、戀の歌

かくぞありしその夜まではの哀より更に泪もふかき玉章

永福門院

題志らず

人の捨てし哀を獨り身にとめて歎き殘れるはてぞ久しき

新宰相

伏見院の御時六帖の題にて人々に歌詠ませさせ給ひけるに、人づてと云ふ事を

自らとひもとはれも人傳の言の葉のみを聞くまでにして

伏見院御歌

戀の御歌の中に

思くたすうさも哀も幾返り世はあらぬ世の身は元の身に

今出川前右大臣室

今はたゞ見ず知らざりし古に人をも身をも思ひなさばや

藤原隆信朝臣

憂き乍ら身をも厭はじ世の中にあればぞ人をよそにても見る

前中納言爲相

題志らず

誰が契誰が恨にかはるらむ身はあらぬよの深き夕ぐれ

從二位爲子

戀の歌あまた詠み侍りけるに

頼みありて待ちし夜までの戀しさよそれも昔の今の夕暮

永福門院

絶戀の心を

常よりも哀なりしを限にて此世ながらはげにさてぞかし

源家長朝臣

千五百番歌合に

侘びつゝは同じ世にだにと思ふ身のさらぬ別に成や果なむ

崇徳院御歌

戀の御歌の中に

等閑の哀も人のかくばかりあひ見し時も消えなましかば

從二位宣子

自づから思ひや出づるとばかりの我が慰めもよその年月

前大納言爲氏

建長二年八月廿七日庚申の歌合に、絶久戀

忘れじの人の頼めはかひなくて生ける計りの年月ぞ憂き