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風雅和歌集卷第九 旅歌
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9. 風雅和歌集卷第九
旅歌

貫之

人の馬のはなむけに

遠く行く君を送ると思ひやる心もともにたび寐をやせむ

雨のふる日兼茂朝臣ものへ行くに兼輔馬の餞する所にてよめる

久堅の雨も心にかなはなむふるとて人の立ちとまるべく

康資王母

遠くまかりける時四條太皇大后宮より裝束を給はせたりければ申しける

旅衣遙かに立てば秋霧のおぼつかなさをいかにながめむ

民部卿爲定

遠き所へ罷りける人につかはし侍りける

目に見えぬ心を人にたぐへてもやる方なきは別なりけり

安嘉門院四條

百首の歌の中に、曉を

いづかたに有明の月の誘ふらむ空にうかるゝたびの心を

順徳院御歌

題志らず

旅衣朝立つ人はたゆむなり霧にくもれるあけくれのそら

修理大夫顯季

梓弓入る野の草のふかければ朝行く人のそでぞつゆけき

藤原定宗朝臣

逢坂の關は明けぬと出でぬれど道猶くらしすぎの下かげ

藤原頼成

深き夜に關の戸出でゝ足柄の山もとくらき竹のしたみち

藤原行朝

富士の嶺を山よりうへに顧みて今こえかゝる足柄のせき

藤原朝定

我のみと夜深く越ゆる深山路にさきだつ人の聲ぞ聞ゆる

道全法師

山路棧と云ふことを

岩だゝみのぼりわづらふ峰つゞき雲にはづれてみゆる棧

權律師慈成

院に卅首の歌召されし時、山旅

行く末はなほいくへとも白雲のかさなる峯に又向ひぬる

院御歌

夕旅行を

雲霧に分け入る谷は末暮れて夕日殘れるみねのかけはし

前大僧正道昭

修行し侍りけるに先達にて侍りける權僧正良宋のもとへつかはしける

分けきつる山又山はふもとにて嶺より峯の奥ぞはるけき

延政門院新大納言

山を

山高みいづれを分きて越え行かむ數多跡ある岩のかげ道

前大納言爲兼

五十首の歌よみ侍りけるに、旅

めにかけて暮れぬと急ぐ山もとの松の夕日の色ぞ少なき

從三位行能

寳治二年、百首の歌召されけるに、旅行

一村の里の知るべに立つ烟行けども遠み暮るゝそらかな

和氣仲成朝臣

題志らず

行き暮れて宿とふ末の里の犬とがむる聲を知べにぞする

本如法師

夕まぐれ迷ふ山路は越え過ぎて宿とふ里に出づる月かげ

從二位爲子

旅月をよみ侍りける

越え惱み我が身行き止る夕山の尾上を月は今ぞ出づなる

平維貞

行きとまる草の枕の露にしも我れ待ち顏にやどる月かな

藤原公重朝臣

九月十三夜、いつく島へ參りけるに、備後の鞆と云ふ所にて、海邊月と云ふ事をよめる

あたら夜の月を獨りぞ詠めつるおもはぬ磯になみ枕して

從三位基輔

題志らず

夜もすがら苫もる月を枕にてうちも寢られぬ浪の音かな

藤原頼氏

泊り舟入りぬる磯の波の音にこよひも夢はみらく少なし

藤原公重朝臣

夜をこめて旅の宿りを立つ人は隈なき月を明けぬとや思ふ

前參議俊言

羇中嵐を

吹きおろす富士の高嶺の朝嵐に袖しをれそふうき島が原

前大納言爲兼

あづまへ罷りけるにやす川を渡るとて

やす川と爭でか名には流れけむ苦しき瀬のみある世と思ふに

小夜の中山にて

峰の雲浦わの浪をめにかけて嵐を分くるさやのなかやま

光明峯寺入道前攝政左大臣

旅の歌とて

笹の葉のさやの中山ながき夜も假寢の夢は結びやはする

前大納言爲兼

あづまへ罷りける道にてよみ侍りける

高瀬山松の下道分け行けばゆふ嵐吹きて逢ふひともなし

聖尊法親王

旅宿友と云ふ事を

明日も又同じ道にと契るかな泊りかはらぬ夜半のたび人

前大納言公泰

前左大臣の家に卅首の歌よませ侍りける中に、海旅と云ふ事を

天の原八十島かけて照る月のみちたる汐に夜ぶねこぐなり

前太宰大貳俊兼

雜の歌の中に

蘆の葉に雨降りかゝる暗き夜の入江の舟に都をぞおもふ

前大納言尊氏

世の中騷がしく侍りける頃みくさ山をとほりて大倉谷と云ふ所にて

今むかふ方は明石の浦ながらまだ晴れやらぬ我が思かな

永福門院内侍

播磨なる所に住み侍りける頃、常に見渡したる方を旅人のとほるも哀に見送られてよみ侍りける

うらやまし山田のくろに道も有れや都へ通ふをちの旅人

道全法師

前大納言爲兼安藝國に侍りける所へ尋ね罷りて題を探りて歌よみけるに、海山と云ふ事を

海山の思遣られし遙けさも越ゆれば易き物にぞ有りける

寂然法師

讃岐より都へのぼるとて道より崇徳院に奉りける

慰めに見つゝも行かむ君が住むそなたの山を雲な隔てそ

崇徳院御歌

松山へおはしまして後都なる人の許に遣はさせ給ひける

思ひやれ都はるかに沖つ浪立ち隔てたるこゝろぼそさを

後鳥羽院御歌

雜の御歌の中に

過ぎ來つる旅の哀れをかず/\にいかで都の人に語らむ

祭主定忠

行きうつる所々の面影をこゝろにとむるたびのみちかな

權大納言公蔭

露にふし嵐に袖をかさね來て野山のたびも日數へにけり

後伏見院御歌

飛ぶ鳥の眺めの末も見えぬまで都の空をおもひこそやれ

兵部卿隆親

寳治の百首の歌の中に、旅行

分け來つる露の袂は干しわびぬまだ里遠き野邊の夕ぐれ

正三位經家

旅の歌の中に

行きずりの衣にうつれ萩がはな旅の志るしと人に語らむ

人麿

題志らず

いざや子等大和へ早く白菅の眞野の萩原手折りて行かむ

笠金村

鹽津山打ち越えくれば我が乘れる駒ぞ躓く家戀ふらしも

讀人志らず

里はなれとほからなくに草枕旅とし思へば猶戀ひにけり

從三位頼政

敦頼あづまの方へくだりけるに人々餞し侍りけるに

遙々と行くも泊るも老いぬれば又逢ふ事を如何とぞ思ふ

道因法師

題志らず

はかなくも歸らむ程を契る哉さらぬ別になりもこそすれ

從三位頼政

贈左大臣範季みちの國の守にて下り侍るにつかはしける

歸るまでえぞ待つまじき君が行き末遙なる我身ならねば

寂然法師

崇徳院、松山におはしましけるに參りて、日數へて都へ歸りなむとしける曉よめる

歸るとも後には又と頼むべき此身の轉てあだにも有る哉

登蓮法師

筑紫へ罷りける道より都へ云ひつかはしける

故郷を戀ふる泪のなかりせば何とか旅の身には添へまし

民部卿爲定

旅の歌に

故郷にかよふ心の道はあれど越えて跡なき峯のしらくも

藤原有範朝臣

秋の比東に思ひ立つ事侍りける時

山姫の紅葉のにしき我にかせふる郷人に着ても見ゆべく

前大納言爲家

寳治の百首の歌に、旅宿

哀れなどあひも思はぬ故郷も旅寢となれば戀しかるらむ

山階入道前左大臣

露ながら結ぶ小笹のかり枕かりそめぶしの幾夜へぬらむ

從三位行能

岩代の岡の萱根を結ぶ夜も夢はみやこにかはらざりけり

前大納言爲兼

旅の歌の中に

故郷に契りし人も寐覺せば我が旅寐をもおもひやるらむ

結びすてゝ夜な/\變る旅枕假寐の夢のあともはかなし

讀人志らず

玉かつまあへしま山の夕露に旅寐しかねつ長きこの夜を