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風雅和歌集卷第六 秋歌中
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6. 風雅和歌集卷第六
秋歌中

俊頼朝臣

初雁を詠める

初雁は雲居のよそに過ぎぬれど聲は心に止まるなりけり

藤原爲基朝臣

院の五首の歌合に、秋視聽と云ふ事を

色變る柳がうれに風過ぎて秋の日さむみはつかりのこゑ

儀子内親王

吹き志をる千種の花は庭に臥して風にみだるゝ初雁の聲

前大僧正道玄

雁を

このねぬる朝風寒み初雁の鳴く空見ればこさめ降りつゝ

後西園寺入道前太政大臣

題志らず

村雲によこぎる雁の數みえて朝日に消ゆるみねのあき霧

伏見院御歌

百首の御歌の中に

朝ぼらけ霧の晴れ間の絶え%\に幾列過ぎぬ天つ雁がね

從三位爲信

伏見院に三十首の歌奉りける時、霧中雁を

霧薄き秋の日影の山の端にほの%\見ゆるかりの一つら

後伏見院中納言典侍

秋の歌に

夕日影寂しく見ゆる山もとの田面にくだるかりの一つら

覺譽法親王

百首の歌奉りし時

夕霧のむら/\晴るゝ山際に日影をわたるかりの一つら

大納言公重

しをれ來て都も同じあき霧につばさや干さぬ天つ雁がね

皇太后宮大夫俊成

和歌所にて暮山遠雁と云ふ事を講ぜられけるに

小倉山ふもとの寺の入相にあらぬ音ながらまがふ雁がね

從二位家隆

晴れ染むる遠の外山の夕霧に嵐をわくるはつかりのこゑ

伏見院御歌

秋の御歌の中に

打ちむれてあまとぶ雁のつばさまで夕に向ふ色ぞ悲しき

院御歌

百首の御歌に

雲遠き夕日の跡の山際に行くとも見えぬかりのひとつら

關白右大臣

雲間もる入日の影に數見えてとほぢの空を渡るかりがね

徽安門院

秋の歌とて

雁の鳴くとほぢの山は夕日にて軒ばしぐるゝ秋の村くも

前大納言爲兼

夕日移る柳の末の秋風にそなたのかりのこゑもさびしき

大江宗秀

秋風にうす霧晴るゝ山の端をこえてちかづく雁の一つら

永福門院内侍

雁の鳴く夕の空のうす雲にまだ影見えぬつきぞほのめく

二品法親王尊胤

秋風の高きみ空は雲晴れてつきのあたりに雁のひとつら

伏見院御歌

雁を

連れてとぶ數多の翅横切りて月の下行く夜半のかりがね

式子内親王

正治二年後鳥羽院に奉りける百首の歌の中に

萩の上に雁の涙の置く露はこほりにけりな月にむすびて

徽安門院一條

百首の歌奉りしに

窓白き寐覺の月の入りがたにこゑもさやかに渡る雁がね

賀茂保憲女

秋の歌の中に

秋の夜のねざめの程を雁がねの空にしればや鳴渡るらむ

和泉式部

雁がねの聞ゆるなべに見渡せば四方の梢も色づきにけり

讀人志らず

題志らず

雲の上に鳴つる雁の寒きなべに木々の下葉は移ろはむかも

穂積皇子

今朝の朝げ雁がね聞きつ春日山紅葉にけらしわが心痛し

貫之

朝霧の覺束なきに秋の田の穗に出でゝ雁ぞ鳴き渡りける

前大納言爲家

春日の社に奉りける百首の歌の中に

色かはる梢を見ればさほ山の朝霧がくれかりは來にけり

後伏見院御歌

霧中雁を

天つ雁霧のあなたに聲はして門田のすゑぞ霜にあけゆく

永福門院

月前虫と云ふ事を

きり%\す聲はいづくぞ草もなき白洲の庭の秋の夜の月

藤原定成朝臣

きり%\す月をやしたふ庭遠くかたぶく方の影に鳴く也

前左大臣

夜虫を

宵の間は稀に聞きつる虫の音も更けてぞ志げき蓬生の庭

章義門院

題志らず

分きてなど夜しも増る憂へにて明くるを際に虫の鳴く覽

接心院内大臣

野邊の色もかれのみ増る淺茅生に殘るともなき松虫の聲

權大納言公蔭

百首の歌奉りし時

蛬おのが鳴く音もたえ%\にかべのひま洩る月ぞ悲しき

後京極攝政前太政大臣

秋の歌とて

虫の音は楢の落葉に埋もれて霧のまがきに村さめの降る

從二位兼行

蛬なく夜をさむみ置くつゆに淺茅が上ぞいろかれてゆく

前大納言爲兼

伏見院の御時、六帖の題にて人々歌詠ませさせ給ひけるに、秋雨を

庭のむしは鳴きとまりぬる雨の夜のかべに音する蛬かな

今出川前右大臣

文保三年後宇多院に奉りける百首の歌の中に

夜さむなる枕の下のきり%\す哀に聲のなほのこりける

西行法師

題志らず

何となく物悲しくぞ見えわたる鳥羽田の面の秋の夕ぐれ

後鳥羽院御歌

建仁元年、百首の御歌の中に

露しげき鳥羽田の面の秋風に玉ゆらやどる宵のいなづま

大納言公重

秋の歌に

秋の田のまだはつかなるほの上を遙かに見する宵の稻妻

權大納言公蔭

院に三十首の歌召されし、時秋山を

夕日さす外山の梢あきさびて麓の小田もいろづきにけり

前内大臣

百首の歌奉りし時

小山田の露のおくてのいなむしろ月をかたしく床の獨寐

前大納言經房

題志らず

何となく山田のいほの悲しきに秋風寒みうづら鳴くなり

式子内親王

正治の百首の歌に

うちはらひ小田の淺茅にかる草の茂みが末に鶉たつなり

藤原爲秀朝臣

稻妻を

稻づまの暫しもとめぬ光にも草葉のつゆの數は見えけり

從三位實名

秋の雨の晴れ行く跡の雲間より志ばしほのめく宵の稻妻

前大納言爲家

夕やみに見えぬ雲間も顯はれて時々てらす宵のいなづま

伏見院御歌

秋の御歌に

にほひ志らみ月の近づく山の端の光に弱るいなづまの影

徽安門院

月をまつ暗き籬の花のうへに露をあらはす宵のいなづま

後伏見院御歌

待月と云ふ事を

聲たつる軒の松風庭のむし夕ぐれかけてつきやもよほす

太上天皇

百首の歌の中に

草むらの虫の聲より暮れそめて眞砂の上ぞ月になりぬる

院一條

秋の歌に

草がくれ虫鳴きそめて夕ぎりの晴間の軒に月ぞ見えゆく

伏見院新宰相

影うすき月見えそめて庭の面の草に虫鳴く宿のゆふぐれ

祝子内親王

吹分くる竹のあなたに月みえて籬は暗きあきかぜのおと

前大納言經顯

立並ぶ松の木の間に見えそめて山のはつかに月ぞ仄めく

關白右大臣

百首の歌奉りし時、秋の歌に

いましはや待たるゝ月ぞ匂ふらし村雲白き山の端のそら

徽安門院

題志らず

隈もなく閨のおくまでさし入りぬ向ひの山をのぼる月影

前太宰大貳俊兼

月のぼる夕の山に雲晴れてみどりの空をはらふあきかぜ

院御歌

百首の御歌に

暮もあへず今さしのぼる山の端の月のこなたの松の一本

[_]
[1]A
子内親王

月の歌の中に

山の端を出でぬと見ゆる後までも麓の里は月ぞまたるゝ

前大納言尊氏

程もなく松より上になりにけり木のまもりつる夕暮の月

藤原定宗朝臣

出づるより雲もかゝらぬ山の端を靜にのぼる秋の夜の月

伏見院御歌

八月十五夜伏見に御幸ありて人々に月の歌詠ませさせ給ひけるついでに

軒近き松原山のあきかぜに夕ぐれきよくつきいでにけり

前中納言定家

秋の歌とて

月影を葎の門にさし添へて秋こそきたれとふひとはなし

前關白左大臣

月の歌に

さ夜更けて人は志づまる槇の戸に獨さし入る月ぞ寂しき

前參議家親

伏見院萬葉の言葉にて人々に歌よませさせ給ひける時、秋のもゝ夜と云ふ事を

ながしてふ秋の百夜を重ねても詠めあくべき月の影かは

從二位隆博

月を

心こそあくがれやすく成にけれ詠めうかるゝ月の導べに

清輔朝臣

ひたすらに厭ひも果てじ村雲の晴間ぞ月は照り増りける

後鳥羽院御歌

正治二年百首の歌召されける時

薄雲のたゞよふ空の月影はさやけきよりもあはれなりけり

從二位爲子

題志らず

月影の澄みのぼる跡の山際にたゞ一なびき雲ののこれる

後久我前太政大臣

千五百番歌合に

秋はたゞ荻の葉過ぐる風の音に夜深くいづる山の端の月

權大納言實尹

月前萩を詠める

眞萩原夜ふかく月にみがゝれておき添ふ露の數ぞ隱れぬ

前大納言實明女

月前露を

打ちそよぎ竹の葉登る露ならで月更くる夜の又音もなし

藤原爲基朝臣

月を詠み侍りける

月の行く晴間の空はみどりにてむら/\白き秋のうき雲

平宗宣朝臣

絶々の雲間に傳ふかげにこそ行くとも見ゆれ秋の夜の月

永福門院

題志らず

村雲に隱れあらはれ行く月の晴れも曇りも秋ぞかなしき

吹き志をる風に志ぐるゝ呉竹のふしながら見る庭の月影

前大納言爲兼

月の歌とて

月の色も秋にそめなす風の夜の哀うけとるまつの音かな

永福門院内侍

松風も空にひゞきて更くる夜の梢にたかき深山べのつき

崇徳院御歌

みし人に物の哀を知らすればつきやこのよの鏡なるらむ

選子内親王

月のくまなき夜詠み侍りける

心澄む秋の月だになかりせばなにをうき世の慰めにせむ

民部卿爲定

百首の歌奉りし時、秋の歌

秋を經て涙落ち添ふ袖の月いつを晴間と見る夜半もなし

院御歌

見月と云ふ事を

我が心澄める計りに更け果てゝ月を忘れてむかふ夜の月

前大納言忠良

同じ心を

雲晴れてすめばすみけりみる人の心やつきの心なるらむ

二品法親王覺助

文保三年、百首の歌に

我袖の露も涙もあまりあるあきのうれへは月のみぞとふ

西行法師

月を詠める

深き山に澄みける月をみざりせば思出もなき我身ならまし

前大僧正道玄

心こそやゝ澄み増れ世の中を遁れて月は見るべかりけり

崇徳院御歌

山家月を

山里は月も心やとまるらむみやこにすぎて澄み増るかな

西行法師

月の歌とて

何處とて哀ならずはなけれ共荒れたる宿ぞ月はさやけき

庵にもる月の影こそ寂しけれ山田はひたの音ばかりして

藤原爲秀朝臣

霧はるゝ遠の山もとあらはれて月かげみがく宇治の川波

前中納言定資

秋の歌に

影ははや遠きうらわにさきだちて磯山出づる秋の夜の月

皇太后宮大夫俊成

月前旅を

清見潟波をかたしく旅ごろも又やはかゝる月を來て見む

後鳥羽院御歌

海邊月明といふ事を

清見潟ふじの烟や消えぬらむ月かげみがくみほのうら波

平忠度朝臣

遍昭寺にて人々月見侍りけるに

あれにける宿とて月は變らねどむかしの影は猶ぞ床しき

前大納言爲氏

寳治の百首の歌に、山月を

常磐山かはる梢は見えねども月こそ秋のいろにいでけれ
[_]
[1] A kanji in place of A is not available in the JIS code table. The kanji is Morohashi's kanji number 6487. (Tetsuji Morohashi, ed., Dai Kan-Wa jiten (Tokyo: Taishukan Shoten, 1966-68).