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風雅和歌集卷第二 春歌中
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2. 風雅和歌集卷第二
春歌中

院御歌

百首の御歌の中に

みどり濃き霞の志たの山の端にうすき柳の色ぞこもれる

權大納言公蔭

題志らず

春雨にめぐむ柳の淺みどりかつ見るうちも色ぞ添ひ行く

伏見院御歌

五十首の御歌の中に、柳を

いつはとも心に時は分かなくに遠の柳のはるになるいろ

前大納言爲世

文保三年後宇多院に奉りける百首の歌の中に

ひと方に吹きつる風や弱るらむなびきも果てぬ青柳の糸

西園寺前内大臣女

柳を詠み侍りける

霞み渡る岡の柳の一もとに長閑にすさぶはるのゆふかぜ

儀子内親王

吹くとなき風に柳はなびき立ちて遠近かすむ夕ぐれの春

權大納言公宗母

百首の歌奉りし時

はつかなる柳の糸の淺みどり亂れぬほどの春かぜぞ吹く

土御門院御歌

名所柳を

舟つなぐかぜも緑になりにけり六田の淀の玉のをやなぎ

前大納言爲家

春の歌の中に

廣澤のいけの堤の柳かげみどりもふかくはるさめぞ降る

法印定圓

芳野川岩浪はらふふし柳はやくぞはるのいろは見えける

永福門院内侍

春はまづなびく柳の姿より風も長閑けく見ゆるなりけり

權大納言公宗

雨そゝぐ柳が末は長閑にてをちのかすみの色ぞくれゆく

前中納言定家

古集の一句を題にて歌詠み侍りけるに、黄梢新柳出城墻といふ事を

此里のむかひの村の垣根より夕日をそむる玉のをやなぎ

中務

柳を詠める

繰り返し年經て見れど青柳の糸は舊りせぬみどりなりけり

大江嘉言

岸の上の柳は痛く老いにけり幾世の春をすぐしきぬらむ

人丸

百敷の大宮人のかざしたる志だり柳は見れどあかぬかも

讀人志らず

梅のはな咲きたる園の青柳は鬘にすべくなりにけらしも

貫之

よる人もなき青柳の糸なれば吹きくる風にかつ亂れつゝ

藤原爲基朝臣

春の歌の中に

淺みどり柳の糸の打ちはへて今日も志き/\春雨ぞ降る

徽安門院一條

昨日今日世は長閑にて降る雨に柳が枝ぞ志だりまされる

前大納言爲兼

春雨を

春の色を催ほす雨の降るなべに枯野の草も下めぐむなり

土御門院御歌

淺みどり初志ほ染むる春雨に野なる草木ぞ色まさりける

權大納言公蔭

かき暮れてふりだにまされつく%\と雫寂しき軒の春雨

從三位親子

見るまゝに軒の雫はまされども音には立てぬ庭のはる雨

皇太后宮大夫俊成

住吉の社に奉りける百首の歌の中に、同じ心を

春雨は軒のいと水つく%\と心ぼそくて日をもふるかな

前中納言定家

題志らず

春雨に木の葉亂れし村時雨それもまぎるゝ方はありけり

前大納言爲兼

さびしさは花よいつかの詠めして霞にくるゝ春雨のそら

從二位兼行

詠めやる山はかすみて夕暮の軒端の空にそゝぐはるさめ

藤原教兼朝臣

霞み暮るゝ空ものどけき春雨に遠き入相の聲そさびしき

徽安門院

晴れゆくか雲と霞のひま見えて雨吹きはらふはるの夕風

後伏見院御歌

春の御歌の中に

春風は柳の糸を吹きみだし庭よりはるゝゆふぐれのあめ

前大納言爲兼

題を探りて歌詠み侍りけるに、河上春月といふ事を

打ち渡す宇治の渡りの夜深きに川音澄みて月ぞかすめる

前大納言實明女

百首の歌奉りし時、春の歌

風になびく柳の影もそことなく霞更け行く春の夜のつき

永福門院

題志らず

何となく庭の梢は霞み更けているかた晴るゝ山の端の月

同院内侍

閨までも花の香深き春の夜の窓にかすめる入り方のつき

俊惠法師

きゞすを詠める

狩人の朝踏む小野の草若みかくろへ兼ねて雉子鳴くなり

人麿

題志らず

朝霧に志のゝに濡れて呼子鳥み船の山をなきわたる見ゆ

前大納言尊氏

喚子鳥を

人もなき深山の奥の呼子鳥いく聲鳴かばたれかこたへむ

太上天皇

百首の歌の中に

つばくらめ簾の外に數多見えて春日のどけみ人影もせず

儀子内親王

題志らず

春日影世は長閑にてそれとなく囀りかはす鳥のこゑ%\

後二條院御歌

春の御歌の中に

雲雀あがる山の裾野の夕暮にわかばの志ばふ春風ぞ吹く

永福門院

何となき草の花咲く野邊の春雲にひばりの聲も長閑けき

前大僧正慈鎭

春深き野邊の霞の下風に吹かれてあがるゆふひばりかな

前大納言爲家

千首の歌詠み侍りけるに

歸る雁羽根打ちかはす志ら雲の道行きぶりは櫻なりけり

從二位家隆

春の歌とて詠める

歸る雁秋來し數は知らねども寐ざめの空に聲ぞすくなき

藤原爲秀朝臣

歸雁を

別るらむ名殘ならでも春の雁哀なるべきあけぼのゝこゑ

永福門院内侍

入り方の月は霞のそこに更けてかへり後るゝ雁の一つら

康資王母

雁がねの花の折しも歸るらむ尋ねてだにも人はをしむに

皇太后宮大夫俊成

春日の社に奉りける百首の歌の中に、同じ心を

何となく思ひぞおくる歸る雁言づてやらむ人はなけれど

西行法師

題志らず

春になる櫻の枝は何となく花なけれどもなつかしきかな

俊頼朝臣

いまだ咲かざる花といふ事を

めぐむより氣色ことなる花なれば兼ねても枝の懷かしき哉

鴨長明

花を思ふ心を詠める

思ひやる心やかねて詠むらむまだ見ぬ花の面かげに立つ

前關白右大臣母

咲かぬ間の待ち遠にのみ覺ゆるは花に心の急ぐなるらし

朔平門院

春の歌の中に

咲き咲かぬ梢の花もおしなべてひとつ薫りにかすむ夕暮

永福門院右衛門督

花の歌とて

見るまゝに軒端の花は咲き添ひて春雨かすむ遠の夕ぐれ

前大納言爲兼

伏見院西園寺に御幸ありて花の歌人々に詠ませ給ひける時

宿からや春の心も急ぐらむ外にまだ見ぬはつざくらかな

讀人志らず

題志らず

打ちなびき春は來ぬらし山際の遠き梢の咲き行く見れば

人麿

見渡せば春日の野邊に霞立ち開くる花はさくらばなかも

鶯の木づたふ梅の移ろへばさくらの花のときかたまけぬ

中納言家持

櫻を

春雨にあらそひかねて我宿の櫻のはなは咲きそめにけり

後鳥羽院下野

寳治の百首の歌の中に、見花

山櫻またれ/\て咲きしより花に向はぬときの間もなし

民部卿爲定

春の歌に

三吉野の芳野の櫻咲きしより一日も雲のたゝぬ日ぞなき

光明峰寺入道前攝政左大臣

住捨てし志賀の花園しかすがに咲く櫻あれば春は來に鳬

從二位家隆

行く末の花かゝれとて吉野山誰れ白雲のたねをまきけむ

後京極攝政前太政大臣

後鳥羽院に五十首の歌召されける時、深山花

かへり見る山は遙かに重なりて麓の花も八重のしらくも

前中納言匡房

題志らず

白雲のやへたつ峯と見えつるは高間の山の花ざかりかも

貫之

延喜十四年、女一宮の屏風の歌

山のかひたなびき渡る白雲は遠きさくらの見ゆるなりけり

前中納言定家

春の歌とて

いつも見し松の色かは泊瀬山さくらに洩るゝ春の一しほ

後西園寺入道前太政大臣

文保三年後宇多院に奉りける百首の歌の中に

山遠きかすみのにほひ雲の色花の外までかをるはるかな

權大納言公宗女

春の歌の中に

花薫る高嶺の雲の一むらは猶あけのこるしのゝめのそら

前參議雅有

花咲かぬ宿の梢もなかりけり都のはるはいまさかりかも

左兵衛督直義

花を

花見にと春はむれつゝ玉鉾の道行く人の多くも有るかな

貫之

延喜十六年、齋院の屏風に、人の花のもとに立ちて見たる所

山櫻よそに見るとてすがの根の永き春日をたち暮しつる

天慶四年、右大將の屏風に、山里に人の花見たる所

まだ知らぬ所までかく來て見れば櫻ばかりの花なかり鳬

從二位行家

寳治の百首の歌の中に、見花

櫻花あかぬ心のあやにくに見ても猶こそ見まくほしけれ

藤原爲秀朝臣

花の歌の中に

咲き滿ちて散るべくも非ぬ花盛薫るばかりの風は厭はず

永福門院右衛門督

伏見院花の頃折々に御幸有りて御覽ぜられけるに嵯峨にて詠み侍りける

眺め殘す花の梢もあらし山風よりさきにたづねつるかな

前中納言爲相

春の歌とて

御吉野の大宮所たづね見む古きかざしのはなやのこると

中務

櫻を詠める

いそのかみ故郷に咲く花なれば昔ながら匂ひけるかな

貫之

承平五年内裏の御屏風に馬に乘りたる人の故郷と覺しき所に櫻の花見たる所

故郷に咲ける物から櫻花色はすこしもあせずぞありける

皇太后宮大夫俊成

大炊御門右大臣未だ納言に侍りける時三條の家の櫻盛りになりける頃人々歌詠み侍りけるに

君がすむ宿の梢の花ざかり氣色ことなるくもぞ立ちける

其の後いくばくの年も隔てず、近衛太皇太后宮、立后侍りけるとなむ。

前大納言爲氏

寳治の百首の歌に、翫花

櫻花いざや手ごとに手折りもて共に千歳の春にかざゝむ

普光園入道前關白左大臣

花下日暮と云へる心を

すがの根の永き日影を足びきの山の櫻にあかでくれぬる

藤原家經朝臣

永承五年賀陽院の歌合に、櫻を

さても猶あかずやあると山櫻花を常磐に見るよしもがな

西行法師

題志らず

同じくば月のをり咲け山櫻はな見る春の絶え間あらせじ

太上天皇

百首の歌に

薫り匂ひ長閑けき色を花にもて春にかなへる櫻なりけり

前左大臣

春の歌とて

長閑なる鶯の音に聞きそめて花にぞ春のさかりをば見る

法橋顯昭

誰にかも今日をさかりとつげやらむ一人見まうき山櫻哉

祝部成茂

ごとに詠めぬ春はなけれどもあかぬは花の色や添ふらむ

壽成門院

今朝はなほ咲き添ふ庭の花盛移ろはぬ間を訪ふ人もがな

白川院御歌

寛治七年三月十日法勝寺の花御覽じけるついでに常行堂のまへにて、人々鞠つかうまつりけるに、京極前關白太政大臣鞠を奉るとて、尋ねと聞くに、誘はれぬと奏し侍りける御返し

山深く尋ねにはこでさくら花なにし心をあくがらすらむ

小侍從

高倉院の御時、内裏より女房數多誘なひて、上達部殿上人花見侍りけるに、右京大夫、折ふし風の氣ありてとて伴ひ侍らざりければ、花の枝に付けて遣しける

さそはれぬ心の程はつらけれど一人見るべき花の色かは

建禮門院右京大夫

返し

風を厭ふ花のあたりは如何とてよそながらこそ思遣りつれ

源道濟

題志らず

駒とめて見るにもあかず櫻花折りてかざゝむ心ゆくまで

前大納言爲家

旅人のゆきゝの岡は名のみして花に留まる春の木のもと

前參議爲實

あすか井の春の心は知らねども宿りしぬべき花の蔭かな

淨妙寺關白前右大臣

糸櫻の盛りに法勝寺を過ぐとて

立ち寄らで過ぎぬと思へど糸櫻心にかゝる春の木のもと

從二位爲子

花の歌あまた詠み侍りける中に

見ぬ方の木末いかにと此里の花にあかでも老をこそ思へ

藤原爲基朝臣

尋ね行く道も櫻を三吉野の花のさかりのおくぞゆかしき

大納言公重

百首の歌奉りし時

越えやらであかずこそ見れ春の日の長柄の山の花の下道

後伏見院御歌

遠村花と云ふ事を

櫻咲くとほぢの村の夕ぐれに花折りかざし人かへるなり

前大納言爲世

文保三年後宇多院に奉りける百首の歌の中に

暮れぬとて立ちこそ歸れ櫻狩なほ行くさきに花を殘して

伏見院御歌

花の御歌の中に

枝もなく咲き重なれる花の色に梢も重きはるのあけぼの

從二位兼行

盛りとは昨日も見えし花の色のなほ咲きかをる木々の曙

從三位親子

花なれやまだ明けやらぬ東雲の遠のかすみの奥深きいろ

從一位教良女

伏見院人々に花の歌數多よませさせ給ひけるに

山の端の月は殘れるしのゝめに麓の花のいろぞあけゆく

後伏見院御歌

春のあしたと云ふ事を

花の上にさすや朝日のかげ晴れて囀る鳥の聲も長閑けき

進子内親王

開け添ふ梢の花に露見えておとせぬ雨のそゝぐあさあけ

永福門院

夕花を

花の上に志ばし移ろふ夕附日入るともなしに影きえに鳬

從三位親子

伏見院の御時五十番歌合に、春夕を

つく%\とかすみて曇る春の日の花靜なるやどの夕ぐれ

前大納言家雅

同じ歌合に、春風を

吹くとなき霞の志たの春風に花の香深きやどのゆふぐれ

花山院御歌

題志らず

足引の山に入り日の時しもぞあまたの花は照り増りける

伏見院御歌

花の上の暮れ行く空に響きゝて聲に色あるいりあひの鐘

徽安門院

そことなき霞の色にくれなりて近き梢のはなもわかれず

進子内親王

山うすき霞の空はやゝ暮れて花の軒端ににほふつきかげ

從二位爲子

前大納言爲兼の家に歌合し侍りけるに、春夜を

花白き梢の上はのどかにてかすみのうちに月ぞふけぬる

前大納言忠良

千五百番歌合に

峯しらむ梢の空に影落ちてはなのゆき間にありあけの月

後鳥羽院御歌

春の御歌の中に

あたら夜のなごりを花に契りおきて櫻分け入る有明の月