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菟玖波集卷第七 神祇連歌
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7. 菟玖波集卷第七
神祇連歌

建久五年夏の頃、安樂寺破損して侍りけれども、修造の沙汰なかりけるに、彼寺へ參りたる人の夢に、束帶したる人のけだかげにてのたまひける

天の御戸くつるも誰かあはれまん

その後また一人の所司通夜したりけるに、空に聲ありてのたまはせける

世をみな知れる君にあらでは

此の兩句宰府より奏聞し侍りければ、年頃は寺家の沙汰にて侍りけるを、はじめて公家より彼寺を造營せられ侍りけるとなん。

平兼盛は駿河の國司にて侍りけるに、富士の明神示し給ひける

高き根は年を經てこそこもるなれ

平兼盛

これに附け申し侍りける

今すずしくなるやそこには

關白前左大臣

今の北野も大内ぞかし

と侍るに

つくしより神代の都はじまりて

前大納言尊氏

神はまことの誓なりけり
濁りなき君をぞ守る石清水

今上御製

にごりなき世も今とこそ知れ
石清水ひとつ流れにせきとめて

左近中將義詮

君が行幸の絶えぬみちみち
これやこの賀茂と八幡の神まうで

二品法親王

北野社千句連歌に

すぐなる心我人にあり
この神のいつはりもなき影にゐて

救濟法師

關白家の千句連歌に

夜中夜中の夢のまさしき
神垣の月と梅とに袖ふれて

六條内大臣

名を聞くも實に怖しき劒かな
日影あつたの森の下かげ

導譽法師

これやこの上がうへなる我が思ひ
神にはちかひ君のあはれみ

權少僧都永運

二月の法の席にあひもせで
その名あらはす菅原の神

性遵法師

導譽法師家百韻連歌に

一夜の月は神垣の秋
これやこの八幡まぢかき天の川

法眼良澄

弓矢の道は今もたえせず
みなもとの流れも清き石しみづ

素阿法師

紫野より近き神垣
白妙のしめのゆききの道ありて

前中納言有忠

元亨三年四月龜山殿の百韻連歌に

かつらの里も近きをぞ見る
神まつる頃にしなればあふ日草

前大納言經繼

と侍るに

かけ添へてけり賀茂のゆふしで

後嵯峨院御製

關の戸のゆふつけ鳥は心せよ
神だにうくる御祓するころ

關白前左大臣

恨みもありき喜びもあり
忘れじな北野の神のそのむかし

二品法親王

まうけの君とかねて知らるる
神代よりゆづり始むる國にして

前大納言氏忠

住吉の浦なる海人の汐汲みて
跡を垂れしは遠き神の代

前大納言尊氏

家の千句の連歌の中に

一夏の山のしげみの花かたみ
賀茂のまつりは卯月なりしに

導譽法師

つかふればその官をも爭ひて
神のまつりは賀茂のかみしも

救濟法師

國のはじめは神の代の春
さくら木もその八重垣もあとふりて

祝部行親

國祭る寶を今もをさめ置く
いく代をふるの社なるらん

小槻千宣

七つ社をなほたのむかな
日吉とてくもらぬ神のその誓

法印弘全

七つの道も今ぞをさまる
この國を守る日吉の神なれば

大中臣祐員

春日山を出でずして三年籠り侍りける頃百韻の連歌に

祈の數やかさね來ぬらん
あはれとて神も三とせの宮ごもり

丹波良尚

人ごとに賀茂と八幡の神まうで
祈る心は二つともなし

權律師定通

琴の音ぞする志賀の松風
鹿島より日吉の神とあらはれて

木鎭法師

歩みをや七の社に運ぶらん
ひつじもさるも同じ神の日

卜部兼前

伊勢をとこ世の國とこそきけ
神風やしき波よするいその宮

海部宗信

鏡ひとつの影はくもらず
伊勢にては内外の神とあらはれて

荒木田經直

名には隱れぬ伊勢とこそ聞け
神風や音なほたかきいすず川

中臣正朝

この御代に生まれあひてぞ仕へける
氏子を守る神やこの神

藤原親秀

二親におくれて殘るあと問へば
神と佛のふかきあはれみ

西園寺入道前太政大臣

十かへりの松の梢はそれながら
たえず契りし住吉の神

前中納言定家

今朝しもいづる小野の山人
千早ぶる賀茂のみあれの道のべに

救濟法師

人の心のかどをあらすな
祭にはつかひの長の行きつれて

二つ立つなり水鳥の聲
上下の賀茂のかはらの宮柱

二品法親王

けふも日吉と祭りこそすれ
諸人のきのふは出でし神むかへ

寂忍法師

僞りといふ言の葉ぞうき
神のます北野の雪にあとつけて

信教法師

はふり子がくちなし染の袖たれて
いはぬ心も知るらん

藤原信藤

伏見の里にふれる白雪
跡たれし神の昔のすがはらや

常盤井入道前太政大臣

をみ衣袖うちふれし雪の中に
ゆふしで磨く賀茂の神垣

前大納言爲氏

むかしのあとになほぞ住むべき
五十鈴川神代の月も君がため

卜部兼繁

くもらぬ御代を神ぞ守れる
かご山の榊にかけします鏡

嚴尊法師

天が下には隱れなきかな
名に高き宮居となりぬ三笠山

藤原家躬

短夜なれば祈りあかしつ
我が頼む社の御名のかものあし

二品法親王

ちりにまじはる鼠こそあれ
我が山にこれもあがむる神のうち

前關白左大臣

親ともなりつ子とも名付けつ
宮居せし八幡平野の跡ふりて

導譽法師

神のますのもりと誰かなりぬらん
契をかくる洲羽のはし鷹

救濟法師

月みては我うきことの紛れしに
名は住よしのいちはやき神

性遵法師

神の忌垣に引く馬もあり
はらひする巳の日は過ぎぬみしめ繩

權少僧都快宗

この神も塵にまじはる誓にて
日吉の宮居ふもとにぞある

良阿法師

をみなへしよと契る若草
末いのる初元結のをとこ山

藤原俊顯朝臣

書きつづけたる文字ぞ數ある
關越えてやしろに送る神寶

救濟法師

旅のあそびは舟にても有り
土佐にます神の祭のことはじめ

前中納言有光

笛の音さゆる雪のあけぼの
神代よりあな面白といひそめて

關白前左大臣

生まれしも父母なしと聞く法に
名はすがはらの神の宮もり