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菟玖波集卷第四 秋連歌上
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4. 菟玖波集卷第四
秋連歌上

今上御製

文和三年七月七夕に

袖にこそ露のはじめは知られけれ
吹くを秋なる荻の上風

關白前左大臣

秋のまぎれや憂き身なるらん
荻の音松の聲にて風はなし

花園院御製

貞和三年六月萩原殿の百韻連歌に

薄霧に見ゆるは月のはじめにて
秋の心の袖のゆふ露

二品法親王

三日月もよを急ぐかと影みえて
きのふけふこそ風も秋なれ

救濟法師

とりし早苗は稻葉とぞなる
秋いそぐ風はきのふに吹きかへて

前大納言尊氏

尾花が末ぞ露にかたぶく
袖もまた夕の秋は涙にて

久良親王

木の葉しぐれの音きこゆなり
秋になほもろきは涙袖の露

後深草院辨内侍

今さらにその名もつらく成りにけり
軒に生ひたる草の葉の露

前大納言資季

鈎簾の間かけて風通ふなり
七夕のそらだきものの夕煙

信實朝臣

またやことしも物思ふべき
稀にあふ契も過ぎぬ天の川

後宇多院御製

元亨三年十月龜山殿百韻連歌に

まためぐりあふ逢瀬ともがな
今朝はまたたちわかるとも銀河

前大納言爲家

雲にぞ橋のかげはありける
うば玉の夜わたる月の銀河

夢窓國師

まだ初秋はみじか夜の空
七夕も明くるそらをや惜しむらん

性遵法師

三つ葉四つ葉の露の下草
星合ひのけふは七つの日數にて

救濟法師

秋におくこそ心なりけれ
七夕もこよひ扇のつままちて

源親光

もろきぞ老の命なりける
風よわき秋の柳の葉は落ちて

良阿法師

流す涙のはては紅
玉章をかきの一葉の秋風に

前大納言氏忠

野をゆけば淺茅色づき露置きて
ゆふ日がくれは松の秋風

關白前左大臣

身のうへになほうきことや知らるらん
かげの庵は山の秋風

導譽法師

文和五年三月家の千句に

何ゆゑの我が思ひぞととひし時
秋は夕暮風は荻の葉

頓阿法師

月をみて枕定めぬ夜もすがら
風におきふす庭の荻原

藤原高秀

秋風やなほ音高く聞ゆらん
庭なる荻はことくさのうへ

救濟法師

淺茅といふは花咲かぬ草
故郷はうきことばかり秋に似て

二品法親王

笛の音に琴のしらべを又添へて
となりの秋も松風ぞ吹く

前大僧正賢俊

秋のとなりを風にこそ知れ
中垣のあなたに荻の末見えて

前中納言定家

しばしな立ちそ四方の秋霧
見て過ぎむ野もせの荻のおるにしき

山階入道左大臣

うつろふ秋をなほぞうらむる
風かよふ小野の淺茅のま葛原

關白前左大臣

山は鹿の音野には鳴く蟲
物ごとに悲しきかなや秋の暮

今上御製

柴の戸ぼそは月のあけぼの
夕こそみやまの秋と思ひしに

左近中將義詮

月影も所がらにぞかはりける
とこ浦よりも難波江の秋

權大僧都圓惠

月出でぬれば須磨の浦船
霧はれて山ここもとに成りにけり

權少僧都永運

月も高根の遠き夕ぐれ
秋霧の上一とほり山見えて

寂意法師

柴の戸ぼその荻の上風
なほうきは秋の中にも夕にて

寂忍法師

風にさきだつ露ぞはかなき
朝貌の花はあまたも有りながら

左兵衞督直義

貞和四年六月家の連歌に

唯一時の秋の夕かげ
朝顏のしぼめる花は露もなし

前右兵衞督爲教

なほざりの契やこれも結ぶらん
小野の淺茅における白露

權律師定暹

結ぶは露か袖の涙か
尾花散る風の下草それながら

相阿法師

露にぞぬらす苔の衣手
松風の音をいはやの秋にして

文和四年五月關白家の千句の連歌に

身をだにも思ひ捨てたる世の中に

權少僧都永運

と侍るに

秋のうきをばのこす山里

性遵法師

いろいろなるは庭の撫子
花さけば一つ草とはよも見えじ

良尋法師

秋の涙ぞ袖の雨なる
露にふく尾花の風は音もなし

左近中將經家

共に臥す野邊の鶉の立ちつれて
入江の尾花また浦の波

前參議宗平

いたくな吹きそ秋の夕風
露のもる山の庵の板びさし

中納言忠嗣

あるる板間は月もかくれず
草おひて軒にも露やむすぶらん

藤原忠頼朝臣

今聞くは里の砧の音ながら
露霜さびし淺茅生の奧

前大納言尊氏

月を見る夜の須磨の浦波
淡路潟せとの秋風身にしみて

藤原長泰

いがきの月も住吉の浦
波越ゆる松のしづえに露見えて

木鎭法師

かはる空こそ月になりぬれ
雲霧のたえまに見えし日は入りて

藤原家尹朝臣

しめぢが原は猶秋の草
うき夕露と涙に袖しめて

後鳥羽院御製

かつ見てをしき秋の色かな
風に散る野邊の千草の花かつみ

西園寺入道前太政大臣

尾花ちりかふ夕暮の空
葛のはふ園の竹垣あれはてて

前中納言定家

くるとあくと詠めもあかぬ槇の戸に
外山へだつる宇治の川霧

善阿法師

散りては松も枯葉にぞなる
秋とてもその色みせぬ常磐山

順覺法師

牛よりは猶早き馬かな
夜は長く晝は短き時なれや

大江成種

月のかげろふ曉の空
宇治山やをのの秋風ききかへて

導譽法師

月にこそそなたの山も知られけれ
ふじなりけりな秋の白雪

左近中將義詮

古き枕に月ぞ殘れる
見る夢や昔の秋にかへるらん

福光園院入道前關白左大臣

忘られぬべき秋の暮かは
うすぎりの岡のかや原とにかくに

後鳥羽院御製

人人連歌召されける序に

したはは袖の色に出でなむ
時雨ゆく宿のむら萩うらかれて

從二位家隆

同じ御時奉りける連歌の中に

小萩原ふかく露けき夕暮に
鹿の上毛のほしやかぬらん

救濟法師

ただ一めぐり秋ぞしぐるる
草にさく花見車の野に出でて

松を吹きこす風のあら海
大内や花の萩の戸秋しりて

後光明照院

唐人の立ちまふ袖や招くらん

前關白左大臣

尾花に似たる青海の波

寶治元年八月十五月夜仙洞連歌に

山里は人のたよりぞなかりける

後深草院少將内侍

と侍るに

さよともすれば荻のうは風

前大納言爲家

と侍るに

さらぬだに寢覺がちなる秋の夜に

祝部行親

あけもみどりも袖ぞつらなる
松にそふ紅葉の下の花薄

關白左大臣

山のしづくは松の下露
水あれば月もこけにやたまるらん

救濟法師

關の夕の嵐吹くなり
一木ある松にさはらぬ月清み

導譽法師

夕かさねて秋やゆくらん
月いづる山は山より猶遠し

二品法親王

鹿のたつ狩場の道の山歸り
弓張月はいるも程なし

前大納言尊氏

一とほりなる村雨のおと
寢覺より月にこそ又むかひけれ

源頼章朝臣

ただ今の身はあるに任せて
月はよも山の奧まで住みかへじ

源信武

舟をさすこそ男なりけれ
空にゆく月の桂の里とへば

源高秀

ひとり寐は猶長き夜の夢さめて
月も身にしむ秋風ぞ吹く

寂意法師

へだてとなりぬ峯の夕霧
山なくば待たでも月を見るべきに

素阿法師

行く秋とむるしがらみもがな
月ぞうきやらじとすれど更けにけり

權少僧都長驗

谷水は苔の下なる流れにて
月のゆくとは空にこそ知れ

周阿法師

夕のうきぞ秋に先だつ
影ばかり山のはいでて月はなし

二品法親王

袖にむすぶは露か涙か
月の夜は夢を見るべき程もなし

權大納言實夏

波吹きかへす浦の秋風
月影も汐干に遠くなるみ潟

法印定意

弘安二年八月日吉社へ人人奉納の獨連歌の中に

いつも曇らぬますかがみかな
玉くしげ二見の浦の秋の月

源信詮

波も秋なる汐風ぞ吹く
月にこそうらも湊も一つなれ

權少都親祐

かへでの紅葉波に散るなり
こよひしも月の入江に舟とめて

三阿法師

雫をうくる松の下かげ
み山にはもりくる月もかすかにて

前大納言爲家

蒼天の光にむかふためしにて
袖こそいたく月になれぬれ

後鳥羽院御製

さびしさしかも秋や忍ばむ
春日山峯立ちはなれゆく月に

從二位家隆

後鳥羽院に連歌奉りける中に

鈴蟲の聲ふりそむる村雨に
月出でまじる峯のうすきり

伏見院御製

正和四年五月伏見院百韻連歌に

木かげより螢の影ぞ見えそむる
月まつ程の夕闇の空

山階入道左大臣

寶治元年八月十五夜連歌に

里の名もすみ憂かるべきあたりにて
月に別るる淺茅生の宿

高階重成

花やこれ波も心もなかりけり
月にや水の秋は見ゆらん

道生法師

逢はぬ間をなど一筋に恨みけん
杉の板葺月ぞもりくる

寂忍法師

寶治二年三月花下にて

露の白きを霜かとぞ見る
久方の月の宿かる衣手に

善阿法師

同じ憂ひにきくは蟲の音
軒ならぶ庵に月の影わけて

素阿法師

夕日の野には置く露もなし
山よりもあなたに月のよを待ちて

菅原長綱朝臣

秋の思ひぞ涙落ち添ふ
山陰や月の夜頃をも忘るらん

導譽法師

こずゑもかげも松の秋風
山よりや月の夕になりぬらん

二品法親王

雲もたつみの明けがたの空
出入るに月も二つの時ありて

關白前左大臣

松の高きはなほ霧のうへ
山里はよその峯より月見えて