University of Virginia Library

Search this document 
 1. 
 2. 
  

 1. 
collapse section2. 
菟玖波集卷第二 春連歌下
 111. 
 112. 
 113. 
 114. 
 115. 
 116. 
 117. 
 118. 
 119. 
 120. 
 121. 
 122. 
 123. 
 124. 
 125. 
 126. 
 127. 
 128. 
 129. 
 130. 
 131. 
 132. 
 133. 
 134. 
 135. 
 136. 
 137. 
 138. 
 139. 
 140. 
 141. 
 142. 
 143. 
 144. 
 145. 
 146. 
 147. 
 148. 
 149. 
 150. 
 151. 
 152. 
 153. 
 154. 
 155. 
 156. 
 157. 
 158. 
 159. 
 160. 
 161. 
 162. 
 163. 
 164. 
 165. 
 166. 
 167. 
 168. 
 169. 
 170. 
 171. 
 172. 
 173. 
 174. 
 175. 
 176. 
 177. 
 178. 
 179. 
 180. 
 181. 
 182. 
 183. 
 184. 
 185. 
 186. 
 187. 
 188. 
 189. 
 190. 
 191. 
 192. 
 193. 
 194. 
 195. 
 196. 
 197. 
 198. 
 3. 
 4. 
 5. 
 6. 
 7. 
 8. 
 9. 
 10. 
 11. 
 12. 
 13. 
 14. 
 15. 
 16. 
 17. 
 18. 
 19. 
 20. 

  

2. 菟玖波集卷第二
春連歌下

前大納言爲氏

誰に心のうつるとか知る
色までもうたてあだなる花さくら

西園寺入道前太政大臣

後鳥羽院御時百韻連歌奉りけるに

同じ霞ぞ都にも立つ
吉野山花さくら戸のあけしより

後鳥羽院御製

夕顏の垣ほの露にやすらひて
花にこととふたそがれの空

後宇多院御製

元亨三年四月龜山殿百韻の連歌に

行末の遠き道をや急ぐらん
花を見すぐる志賀の山越

後深草院少將(内侍)

足引の山の端遠く霞むかな
心は花にかかる白雲

伏見院御製

正和四年六月朔日百韻連歌に

暮れゆく鐘の音ぞかなしき
花まじる檜原の嵐吹きそひて

常盤井入道前太政大臣

春くははれる年ぞうれしき
今いくか花を見るべきあらましに

後光明照院前關白左大臣

霞む夜は明けゆく空もまたるるに
花の光に月ぞのこれる

導朝法師

夢もうつつも見る程ぞかし
花に咲く嵐はよるの枕にて

頓阿法師

花山院入道右大臣花の頃住み侍りける山里の庭の菫をつみて歸るとて

つみてぞ歸る宿の菫を
花見ては一夜もぬべき山里に

救濟法師

雲や霞の光なるらん
花のこる山の梢に月入りて

導譽法師

よそよりも槇の下道先くれて
花にあらそふ山の端の月

素阿法師

二品法親王花の頃西芳精舍にて連歌し侍りける日に

關の霞によこそ明けぬれ
月もらぬ花の陰さへおぼろにて

乘阿法師

昔の春にたがはざりけり
栽ゑかへし花も老木に又なりて

藤原信藤

春をへてこそふる里になれ
うゑ置きし人をや花も忍ぶらん

權少僧都永運

泣けばとて人は名殘もよも知らじ
雨しほしほと花にこそ降れ

權少僧都快宗

雲にこそ山の高きも知られけれ
花や心を空になすらん

法眼良澄

旅寢する夢には關もなかりけり
心とどむる花の木がくれ

法印玄惠

命をたのむあらましはせじ
まだ咲かぬ花の若木をうゑ置きて

藤原氏政

雲も霞もいろいろの春
咲きまじる花の青葉の松見えて

中納言忠嗣

うきならはしの旅心かな
花とめぬ宿の梢を吹く風に

照海上人

志賀の浦和の波は霞まず
松一木花にはかはる梢にて

夢窓國師

そのきさらぎの跡をこそとへ
一ふさの花や老木にのこるらん

二品法親王

西芳精舍の花の頃夢窓國師池水に舟を浮けて百韻連歌侍りし中に

雲に霞や立ちかさぬらん
峰に散る花こそ谷の梢なれ

寛胤法親王

後に思へば春だにもなし
なれけるも悔やしき花の別れにて

導譽法師

いたづれにこそ昔ともなれ
ことしなほ花を見するは命にて

救濟法師

とはれねば後の朝いさしらず
けふ見る花の雪の夕暮

大江成種

關白左大臣家百韻連歌に

別れの雲は面影の夢
月に散る花の山風よるふけて

藤原高秀

これさへ身には契うき春
人を待つたよりなりつる花散りて

關白左大臣

岩こす浪は松の嵐か
散るを見る山には花の瀧落ちて

左近中將義詮

待ちしに歸る心なりけり
散る花の跡なる山や霞むらん

左近中將善成

春の日や神の光となりぬらん
落ちても花はちりにまじはる

權大僧正圓忠

とまらぬは春の別れと思ひしに
きのふの花はけふの山風

從二位行家

さざ波かけて吹く嵐かな
白妙のしが山櫻かつ散りて

前大納言經繼

出でやらぬ夕の月は木の間にて
心つくしに花や散るらん

二品法親王

春やいづくも名殘なるらん
四方に散る花は一木の風なるに

前大僧正賢俊

關屋の春も今はとまらず
杉むらの木の間に見えし花もなし

前大納言尊氏

いつもただ待てば別れのあるままに
花ちる頃はうき夕かな

善阿法師

心くらべによわりこそせめ
花よりも先に落つるぞ涙なる

順覺法師

ここもうからばいづち行かまし
散るを見て花の影ともたのまれず

信照法師

厭ふ心のいつかかはらん
散りやすき櫻にならぶ松の風

寂意法師

末いくほどぞ春の別れ路
明日もこん花なほ殘せ夕嵐

前大納言爲家

吹きかはる風のたよりに任せつつ
思ひ定めずちる櫻かな

稱念院入道前關白太政大臣

天つ風我が思ふかたに吹きよわれ
散るとも花は外へちらさじ

關白前左大臣

一村の松の木の間に波を見て
嵐にかかる花のうき雲

救濟法師

關白家百韻連歌に

思へば今ぞかぎりなりける
雨に散る花の夕の山おろし

藤原宗秀

名を忘れてや人の訪ひ來ぬ
雪になる後にも花は見るべきに

源信經

ふるさとにとまる心はあるものを
別れ思ひて花や散るらん

寂意法師

心をさそふ春の山里
庭に散る花に梢の風見えて

周阿法師

聞けば音して歸る小車
心せよ花見どころの夕あらし

源信武

雪に流るる谷川の末
風そはぬ雨にも花のまた散りて

法印時寶

雲に入る山路の春も暮れにけり
花をしたひて鳥やなくらん

源尊朝

霞のたえま日こそ見えけれ
咲きそめし枝より花のうつろひて

源季賢

今さら何と人のうらむる
春ごとの別れは花にあるものを

源親光

かすみや曇る鏡なるらん
影みえし木の下水に花散りて

權律師定暹

霞より上に見えたる山櫻
をられぬ花は瀧の白波

源能正朝臣

天暦の御時、殿上のをのこども、東山の花見にまかりける道に、木こりの櫻の枝を折りて薪にさして歸りけるを見て、藤原高光

花は梢にのこりげもなし

と侍るに

散らぬまと急ぎ來つれど山櫻

源義舊

うき身はよしや宿も定めじ
花の散る山の木かげを住みかへて

踏むあともなき山里の庭
櫻散る木蔭の嵐雪ふきて

救濟法師

文和四年五月關白家千句連歌に

鳥はなほ籠の内にこそこもれるに

と侍るに

花の後にや雲をこふらん

前大納言尊氏

きのふぞ越えし初瀬路の山
川波もまた散る花になりにけり

關白前左大臣

山里や何につけても憂かるらん
花はころすぎ山は有明

左近中將義詮

櫻散るその面影も忘れぬに
のこりし花の有明の月

藤原知春

花散る後は春ぞ少き
影のこる月の霞に夜はあけて

淨永法師

別れの雁の遠き一つら
山霞む月のそなたに夜はあけて

寂忍法師

寛元四年三月法勝寺花下にて

春の末とやうすかすむらん
有明に彌生の月のなりゆけば

前中納言爲相

人丸に似て歌やよむらん
かきのもとを流るる水に鳴く蛙

民部卿爲藤

かはるや歌の心なるらん
飛鳥川きのふの淵になく蛙

源氏頼

誰とてもまた歌をこそよめ
花の鳥水の蛙の聲聲に

素阿法師

火よりもあかき霞とぞ見る
山ふかき木の下つつじ花咲きて

藤原親長朝臣

めぐみをまつにかくる身の春
春日山花にもれたる藤はなし

大中臣經員

春日の社頭にこもり侍る時、月次の連歌に

身のため君をなほ祈るかな
神垣の藤さく松の陰にゐて

周阿法師

暮れかかる春に心やくだくらん
藤咲く松はあをしむらさき

源頼基

山にかかるは霞とぞ見る
藤さけば松さへ花の木になりて

二品法親王

また見るも別れの花になりにけり
はじめにかへる春もあれかし

伏見院御製

別れゆく春のかへるさ迷へとや
八重たちこめてかすむ夕暮

山階入道左大臣

かつ散りにけり山吹の花
言はずとも春の名殘は知りぬべし

前中納言有忠

ことわり知らばげにはかこたじ
限ある春の日數のゆふぐれに

前參議彦良

木の間かすめる有明の月
別るるは心づくしの春なるに

左近中將義詮

柴の戸までも花ぞちりける
別れうき春はいづくも名殘にて

後深草院辨内侍

したの心や離れざるらん
ゆく春の霞の衣身に馴れて

京月法師

寛元四年三月花下連歌に

逢ひ見てはあかぬ心の別れかな
彼の月日になほ春もあれ

常曉法師

過ぐる月日も老に知られず
ふるさとの春いたづらに暮れはてて

救濟法師

關白家の千句連歌に

思ふに堪へぬ身こそ佗びぬれ

と有るに

明日までの日數のなきに春暮れて

性遵法師

花はとむれど止まらぬかな
春かへり人靜かなる柴の戸に

權大納言實夏

夢とやいはん花の面影
一春もこよひ明けなば過ぎぬべし

前大納言爲氏

憂きをも知らずなほしたふかな
ゆく春のあひも思はぬ別れ路に

從二位家隆

時しも降れる夕暮の雨
佐保姫や春のかへさを送るらん