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 | 3. | 菟玖波集卷第三
夏連歌 |
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(Tsukubashu) |  |
3. 菟玖波集卷第三
夏連歌
後光明照院前關白左大臣
世の中の一花ころも立ちかへて
民部卿爲藤
夏衣うすき袂にけふかへて
道生法師
寛元三年三月花の下の連歌に
神まつる卯月のいみや急ぐらん
前大納言爲家
卯の花のかつ散る里の夏衣
救濟法師
導譽法師家の千句連歌に
卯花の垣根の草の下もえぎ
十佛法師
吉野なる夏みるまでの遲櫻
導譽法師
木と木との並びて茂る夏山に
赤染衞門
人の許より葵おこせたりけるを、年經て後、祭の日葵の枯れたる葉に書き附けて遣はしけるに
あふひは今日の心地こそすれ
素阿法師
こと鳥を我が親にせしほととぎす
前大納言尊氏
この山にまた待たるるはほととぎす
今上御製
待たれてはよをも重ねよほととぎす
從二位行家
時鳥いづくの雲を過ぎぬらん
後二條院御製
時鳥すぎつる夜半の草の庵に
前大納言爲世
山ほととぎす一聲は鳴け
隆祐朝臣
過ぎぬるか待ちし雲井の時鳥
後久我太政大臣
五月の空の有明の頃
頓阿法師
夜な夜なの月にも聞かぬ時鳥
道生法師
寛元三年三月昆沙門堂の花の下の連歌に
時鳥聲する方も夜はくらし
順覺法師
あやめをば長き根ながら引きつるに
冷泉太政大臣
家の月次連歌に
常盤井入道前太政大臣
と侍るに
前太政大臣
嘉暦四年七月七日内裏七十韻の連歌侍りけるに
後醍醐院御製
と侍るに
關白前左大臣
橘の匂かをるに風過ぎて
前大納言尊氏
橘の枝をかはすは櫻にて
信照法師
正和元年三月法輪寺千句に
橘もいつかと待ちし時過ぎて
寂意法師
橘はきねが袖ふる鈴なれや
前大僧正道玄
五月雨に山井のせきや落ちぬらん
藤原氏政
朝露ながら草のさみだれ
救濟法師
五月雨のふり分け髮の柳かげ
五月雨に水上しらぬ瀧おちて
後鳥羽院御製
かきくもりあやめも知らぬ五月雨に
後深草院少將内侍
五月雨に軒のあやめの雫こそ
藤原光俊朝臣
せぜやはいづく五月雨の頃
從二位家隆
五月雨になほこそ袖はぬれまされ
前大納言爲家
さもあけ易き夏の夜半かな
前參議經宣
明けやすき關路の月は殘りけり
藤原長泰
霜といふ月には夏の夜をしらで
源氏光
月をこそ短夜ながら待ちつるに
左近中將義詮
夏なればまだ穗に出でぬ薄にて
後光明照院前關白左大臣
露に月まつ庭の夏草
後嵯峨院御製
塵はらふ常夏の花咲きしより
西園寺入道前太政大臣
露のしげみにまじる姫百合
導譽法師
姫百合の見えつ隱れつ咲く花に
善阿法師
風かよふ夏野の眞葛若葉にて
前大納言經嗣
峯高きともしの影に立つ鹿や
龜山院御製
龜山殿にて大井の鵜飼を召して、主水司の奉りける氷魚給はせけるに、鵜飼見知り侍らざりけるにや、川の中に捨てたりけるに
權中納言公雄
前參議雅經
鵜川のかがり影ばかりして
從二位家隆
槇の戸をさぞな水鷄の音づれて
權律師定暹
月の入る跡に水鷄の聲ききて
救濟法師
夏川の入江の洲島立ちかねて
權少僧都永運
鳥かげの舟の帆柱蝉ありて
良阿法師
煙くらべをしづが蚊遣火
周阿法師
蚊遣火のもゆる螢の影ながら
二品法親王
北野社の千句連歌に
思ひをば何とも知らず飛ぶ螢
花園院御製
日影さす山の夕立かつ晴れて
藤原爲冬朝臣
山風や夕涼しくなりぬらむ
天暦御製
弘徽殿の持ち給へる扇にかかせ給ひける
弘徽殿女御
と有るに
後嵯峨院御製
ささのくま日のくま川の夕涼み
後深草院辨内侍
ならす扇のうちも置かれず
前大納言宗明
扇には松の一むら繪にかきて
二品法親王
入かたは日影なれども涼しくて
救濟法師
限あれば雪みなつきの不二の嶽
無性法師
寶治元年三月昆舍門堂の花下にて
一むら雨に袖ぞ涼しき
藤原信實朝臣
衣手のたより涼しき風吹きて
前大納言尊氏
草の原しげき夏野の忘れ水
卜部兼前
月影の宿る清水をむすびあげて
參議雅經
かりそめに堰き入れし水の泉川
民部卿爲藤
むすび捨てたる山の井の水
津守國基
平等院僧正行尊諸國修行し侍りけるに、疲れて覺えければ、麻つくりたるほとりに、よりふして休みける所を馬に乘りて過ぎ侍るとて、誰ともなくて言ひて遣す
大僧正行尊
これを聞きてとりあへず
性遵法師
夏草を秋にや花の見せつらん
後鳥羽院の御時、三字中略、四字上下略の連歌に
夕顏の花なき宿の露のまに
關白左大臣
夕顏の葉末の露の玉かづら
後嵯峨院御製
秋ちかしとや誰も知るらん
從二位家隆
後鳥羽院の御時百韻連歌召されけるに
風も流るる麻のゆふしで
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