University of Virginia Library

Search this document 
 1. 
 2. 
  

 1. 
 2. 
 3. 
 4. 
 5. 
 6. 
 7. 
 8. 
 9. 
 10. 
 11. 
 12. 
 13. 
 14. 
 15. 
 16. 
collapse section17. 
菟玖波集卷第十七 羇旅連歌
 1619. 
 1620. 
 1621. 
 1622. 
 1623. 
 1624. 
 1625. 
 1626. 
 1627. 
 1628. 
 1629. 
 1630. 
 1631. 
 1632. 
 1633. 
 1634. 
 1635. 
 1636. 
 1637. 
 1638. 
 1639. 
 1640. 
 1641. 
 1642. 
 1643. 
 1644. 
 1645. 
 1646. 
 1647. 
 1648. 
 1649. 
 1650. 
 1651. 
 1652. 
 1653. 
 1654. 
 1655. 
 1656. 
 1657. 
 1658. 
 1659. 
 1660. 
 1661. 
 1662. 
 1663. 
 1664. 
 1665. 
 1666. 
 1667. 
 1668. 
 1669. 
 1670. 
 1671. 
 1672. 
 1673. 
 1674. 
 1675. 
 1676. 
 1677. 
 1678. 
 1679. 
 1680. 
 1681. 
 1682. 
 1683. 
 1684. 
 1685. 
 1686. 
 1687. 
 1688. 
 1689. 
 1690. 
 1691. 
 1692. 
 1693. 
 1694. 
 1695. 
 1696. 
 1697. 
 1698. 
 1699. 
 1700. 
 1701. 
 1702. 
 1703. 
 1704. 
 1705. 
 1706. 
 1707. 
 1708. 
 1709. 
 1710. 
 1711. 
 1712. 
 1713. 
 1714. 
 1715. 
 1716. 
 1717. 
 1718. 
 1719. 
 1720. 
 1721. 
 1722. 
 1723. 
 1724. 
 1725. 
 1726. 
 1727. 
 1728. 
 1729. 
 1730. 
 1731. 
 1732. 
 1733. 
 1734. 
 1735. 
 1736. 
 1737. 
 1738. 
 1739. 
 1740. 
 1741. 
 1742. 
 1743. 
 1744. 
 1745. 
 1746. 
 1747. 
 1748. 
 1749. 
 1750. 
 1751. 
 1752. 
 1753. 
 1754. 
 1755. 
 1756. 
 1757. 
 1758. 
 1759. 
 1760. 
 1761. 
 1762. 
 1763. 
 1764. 
 1765. 
 1766. 
 1767. 
 1768. 
 1769. 
 1770. 
 1771. 
 1772. 
 1773. 
 1774. 
 1775. 
 1776. 
 1777. 
 1778. 
 1779. 
 1780. 
 1781. 
 1782. 
 1783. 
 1784. 
 1785. 
 1786. 
 1787. 
 1788. 
 1789. 
 1790. 
 1791. 
 1792. 
 1793. 
 1794. 
 1795. 
 1796. 
 1797. 
 1798. 
 1799. 
 1800. 
 1801. 
 1802. 
 1803. 
 18. 
 19. 
 20. 

  

17. 菟玖波集卷第十七
旅連歌

關白内大臣に侍りける時、家の千句に

恨みてだにもなぐさみにけり

救濟法師

といふ句に

松原の汐干にかすむ旅の道

信照法師

出でたる月ぞ霞みそめける
旅衣春きてけふはみかの原

導譽法師

旅にて聞けば山の松風
古郷の花を見捨てて出でぬるに

關白前左大臣

きのふまでには花の遠山
春のこる都は旅のわかれにて

御堂入道關白家に人人あまた遊びけるに、内の御物忌に參るべきよし催しありて人々出でけるに、折ふし口惜しなどいひて前中納言道方の辨

出づる空なき春の夜の月

赤染衞門

と侍るに

故郷にまつらん人を思ひつつ

大江成種

夢はこなたの心にぞ見る
こよひ我れ花の關屋に旅寐して

寂意法師

浦と松とに秋風ぞ吹く
月出づる山さへかはる船路にて

藤原氏政

故里を秋に出でにしはじめより
有明までは宿ごとの月

圓懷法師

心をば出でし都にとどめおき
關屋にのこる月をこそ見れ

海部宗信

關屋の秋はただ風の音
旅にゆく心も月にとどまりて

藤原高秀

月もこなたの古郷の山
人も知れ旅寐の秋はうきものを

救濟法師

旅のあはれは宿ごとにあり
忘れじな山路のゆふべ浦の秋

藤原爲顯

松風も波につれてや聞ゆらん
あとなる月ぞ舟を送りし

平高業

後れじと人も旅にや出でぬらん
波のよるゆく月の友舟

權律師高暹

歸るべき古郷とてや急ぐらん
月の夜舟のうら波の音

前大納言爲家

ともに朝立つ旅のそらかな
東路や野邊の秋霧夜をこめて

權少僧都快宗

かねて泊をしらぬ旅人
月にゆく道は明くるを限りにて

十佛法師

古郷は鷄鳴きてこそ出でつるに
關こゆるまで有明の月

常智法師

鈴の聲にも秋風ぞ吹く
夜すぐる山路は月にさそはれて

藤原助茂

けふの旅こそ暮れかかりけれ
月出でば夜もゆかんと里出でて

中原遠康

昨日もけふもいそぐ道かな
末に見し山をも月に越えすぎて

汲實法師

旅と秋との心かはらず
夜こゆる山路の月に行きつれて

安倍爲信

都をやかへりみてのみ慕ふらん
旅の名殘のありあけの月

法印超清

惜しまば秋よしばしとどまれ
有明を夜舟のうちにまつしまや

三河法師

せめてはねてや夢を待たまし
月を見ぬ秋の末野の草まくら

文和二年六月、世間閑かならぬことありて、美濃國小島といふ所へ行宮にて侍りけるに、同七月かの所にて連歌し侍りしに

小島の里はただ松の風

關白前左大臣

と侍るに

旅にあるみののお山のうき秋に

同じところにて

待ちえて見るは旅の玉章
雁の鳴くほどは雲井の都より

常曉法師

鳴くや鶉のとこなかの聲
野に臥してあとも枕も露深し

法印定意

冬にむかへば旅ぞ物うき
花もなき野邊の草葉をふみ分けて

越智孝康

末にある山をも今は越えなまし
あとは時雨のふるさとの空

寂意法師

風につれたる村雲の空
我もゆく山を時雨のまた越えて

二品法親王

北野の社の千句の中に

遠山や雲のあなたになりぬらん
舟路の雪ぞ波につもらぬ

救濟法師

すそ野まで吹く山風の音
冬の日もともに短き旅衣

權大僧都圓惠

立ち居につけて苦しかりけり
雪ふれば袖うちはらふ旅衣

前大納言尊氏

のる駒の足なづむまで日は暮れて
山のかけ路はかちにならばや

こえし關こそ遠き山なれ
足柄のふもとの道は竹の下

侍從典侍

實方朝臣、陸奧の守になりて下るとて、東三條院に參りて罷り下るよし申しけるに、かづけ物給ふとていひ侍りける

みちのくの衣の關はたちぬれど

實方朝臣

と申し侍りければ

また逢阪はたのもしきかな

平堯重

弓杖ばかりぞすこし見えける
關守はあばらやながらゐがくれて

藤原俊顯朝臣

まだ夜深きにいづる旅人
川舟のよどまぬ波に月をみて

性遵法師

旅寐の砧いづくともなし
野山にも草の枕を雁なきて

前中納言定家

思ひ置くべき露の上かは
枕ゆふこよひばかりの柴の庵

民部卿爲藤

元亨四年四月、龜山殿連歌に

深山の庵に年の經ぬれば
ふみ分くる岩根の道の跡ふりぬ

鳥羽院に奉りける連歌の中に

ふるさとの花も今しはちる比に

鶯のしらべもつらくふく風に

從二位家隆

山路にかかるみねのしら雲

左近中將義詮

旅の道馴れはまさらで憂かりけり
きのふの山に又けふの山

二品法親王

麓につづく志賀の唐崎
山越えの末はうらにや成りぬらん

導譽法師

歸るべき日を數ふれば程もなし
あなたこなたを見つる富士の根

木鎭法師

面白しともはじめてぞいふ
都にて聞きつる不二を今日は見て

權少僧都永運

煙や空に立ちのぼるらん
都へと歸る旅にも不二を見て

源信詮

雪に跡ある道ぞすくなき
我ならで夜深き關はよも知らじ

法眼永懷

まだ出てやらぬ關の旅人
鳥の音も夜深き里に鐘ききて

祝部尚長

逢阪こえて旅いそぐなり
鳥の音や跡なき關に殘るらん

成阿法師

關まで送る故郷の友
行くは旅とまるは何か憂かるらん

曉阿法師

門たたくなり山本の里
旅にまづ宿とふ人を先立てて

木阿法師

馴れまさりては寒き松風
夢しらぬ旅寐いく夜となりぬらん

荒木田長範

草まくらところどころに結び代へ
旅寐の夢は宿ごとにあり

常智法師

人をとむるは山中の道
雨にこそ木陰も宿となりにけれ

荒木田守藤

遠近の里をば誰に尋ねまし
雪に分けゆく山中の道

藤原範高

旅にてもまた枕ならべつ
夢に來て古郷人やみえつらん

大中臣憲宗

鐘ばかりこそ曉をしれ
鳥の鳴く里の旅寐に夢さめて

宏元法師

昨日も今日も人の別れ路
旅とてや宿は日ごとにかはるらん

中原遠藤

橘や鈴のごとくに見えつらん
かげふむ山を夜過ぐる人

禪顯法師

旅よりもなほ後の世や憂からまし
道暗きよに宿をいでぬる

源時秀

ささの枕は夢だにもなし
風まよふ深山の雲に旅寐して

藤原高秀

まだ明けやらでいづる旅人
鳥の音の聞えぬ山に止まりて

前大納言爲氏

うつつも人のつらきなりけり
旅衣きても逢ひみぬ宇津の山

救濟法師

松の陰より汐や引くらん
川舟の海に入るまで綱はへて

藤原俊顯朝臣

法のうへにものりは有りけり
人わたすこの川舟に馬たてて

二品法親王

さきだつ跡をよそにこそとへ
川舟にのり後れたる旅の友

詠人しらず

舟にやのりの道を尋ねん
水ふかき川のこなたに駒とめて

高階重成

また旅人やさとを出づらん
渡るべき川のむかひに舟見えて

平維遠

浦路の霜のさむき月の夜
うき旅は我もねになく友千鳥

周阿法師

旅の宿とふ鹽釜の浦
夕暮のまがきが島に舟とめて

祐阿法師

浦にも森のかげは有りけり
逢ふ人もなぎさの舟に日は暮れて

藤原助兼

はやく行く水や氷らで流るらん
湊の汐に近き川おと

覺晴法師

その日數遠き旅にはさだまらで
浦吹く風ぞ舟路なりける

惟宗親孝

月の夜道ぞあくがれて行く
舟とめし旅の浦囘にこぎ別れ

源師義

里こそかはれ旅のゆくすゑ
漕ぐ舟は浦よりうらにうつりきて

源頼遠

しばしとまるは月やまつらん
波くらき湊の夜舟出でやらで

藤原貞直

船かと思ふ波をこそきけ
浦にあるやかたに今宵旅寐して

救專法師

ともなはばせめては我をつれてゆけ
誰もたびなる浦々の舟

眞阿法師

かがみの宮はいかにまします
つくしなる松浦のうらは程遠し

荒木田綱直

岸の下ゆく水の白波
よる方のなぎさに舟はただよひて

丹波政職

螢や我と身のこがるらん
水暗き夜舟はゆくも知られぬに

南佛法師

遠きも近く行きやすき道
舟はやき跡よりおくる風吹きて

源頼氏

近江國佐佐木金剛寺にて千句の連歌侍りしに

傳ふる劔家守るなり

救濟法師

といふ句に

早川の水のうき橋綱きりて

惜しきは旅の別れなりけり
この山を越えば都もよもみえじ

藤原倫篤

むまやの鈴の山近き聲
夜すぐる人をや關にとどむらん

鴨長明

參議雅經と伴ひて東へまかりけるに、宇津山を越え侍るとて楓を折りて

昔にもかへてぞ見ゆる宇都の山

參議雅經

これに蔦の紅葉を打ち添へて

いかで都の人につたへん

承胤法親王

一夜の夢にわかれ幾たび
里つづきあまたの鳥の音を聞きて

左近中將義詮

あとかへりみる旅の道かな
越えすぎし都の山はけふの雲

道朝法師

夜舟こぎゆく浦波の音
月にだに越えぬ山路のあるものを

法眼良澄

夕霧は山のなかばに立ちわたり
不二や遠きも隔てざるらん

藤原知春

雪をわくるは旅の夕暮
富士の根のかげゆく道は野山にて

仁朝法師

ともなふ雁や北に鳴くらん
今はとて旅なる人の歸る山

神眞嗣

遠くなる宿の別れも忘るなよ
程は雲井のふるさとの山

導譽法師

鳥と鐘とはともに曉
寺近き山路の關を今こえて

二品法親王

北野社の千句の中に

浦波きけば川音もなし
舟はやきあとには山の隔たりて

前大納言尊氏

つつみえぬ袖の涙は湊にて
唐舟もはやよせよかし

源尊宣朝臣

芦垣は浦なる里になほみえて
八重の汐路を舟やゆくらん

關白前左大臣

先だつ人に我ぞ後るる
舟出でしあとの浦風吹きかへて

後嵯峨院御製

波の音もしづかになりぬ和田の原
八十島かけて出づる舟人

後深草辨内侍

臥しなれぬ松の下根の苔莚
これにはしかじ旅のかなしさ

前大納言忠信

波のいづくも月ぞやどれる
行く舟もとまらぬものを難波瀉

後深草院少將内侍

なほつながれぬ我が心かな
沖中に割れたる舟のつな手繩

從二位家隆

夜半の寢覺ぞいとどかなしき
駒こゆる檜の隈川の旅枕

前中納言定家

契ありてや立ちとまるらん
それと見て打ち過ぎぬべき飛鳥井に

二品法親王

濱と山との中なるはすま
浦の名のあかし暮らして行く旅に

救濟法師

つるぎと見るはただ秋の霜
あつたより近くなるみの野は暮れて

前大僧正賢俊

山ふところはまだ月もなし
舟はまた島がくれをや出でぬらん

左近少將善成

旅の日かずはいくほどもなし
風あれば遠きも近きも舟路にて

權少僧都永運

ふめば危き波のうきはし
うちわたす川瀬の駒の爪ひぢて

福光園入道前關白左大臣

弘長二年八月、仙洞庚申連歌に

風のたよりをたえずまつかな
和田の原行くへもしらぬ波のうへ

前大納言尊氏

はま川の波のうつせに風ききて
舟のうきねは夢だにもなし

後白河院御製

熊野御幸の還御の時、かうぶりなはてにて雨いたく降りければ、

かぶりなはてはこしとこそ思へ

從三位頼政

御こし近く侍りけるに

おひかけていそびたひをばめぐるとも

從二位家隆

建保五年四月、庚申百韻連歌に

誰かはきなん海人の苫屋に
まてしばし浦路も更けぬ小夜千鳥

前大納言經信

いかがこゆらん遠の旅人
關の戸は波間も見えず清見がた

後光明照院前關白左大臣

嘉暦二年七夕、内裏の百韻に

朝まだき往來の道を急ぐかな
清見が關をこゆるうら波

前右兵衞督爲教

又立ちかへり見てや過ぎまし
波かくるを島の苫屋かはらずば

稱阿上人

迷ひける心に道を誘はれて
うき草ながら舟やゆくらん

寂忍法師

杉の板葺月ぞもりくる
旅寢する三輪の山もと夜は更けて

素阿法師

ぬのの衣の寒き旅人
きのふより今日の細道山深し

藤原信藤

思ひやらるる後の世の道
くらきより闇き山路を夜こえて

藤原親長朝臣

けさ越えし山をば浦のへだてきて
みちのかはるや汐干なるらん

法眼村重

古郷にかかる旅ぞと知らせばや
舟路の末の沖つしらなみ

常盤井入道前太政大臣

松にひびきの浦風ぞ吹く
こぎつづく灘の汐瀬のつくし舟

關白前左大臣

家にて是れ彼れ百韻連歌し侍りしに

芦の屋の汐燒く蜑のいとまなみ
風ある舟はささず來にけり

權大僧都圓忠

霞も浪もうき島が原
舟にても旅をするがの海遠し

導譽法師

よその里にも衣うつ音
海士のすむ芦屋も舟も程近し

救濟法師

須磨も明石も舟の通ひ路
うかりしも中々旅の物がたり

性遵法師

山はよそなる秋の浦風
夜舟こぐ須磨のあま雲月みえて

順覺法師

いとど都ぞ遠ざかりゆく
浦にては川舟をさへ乘りかへて

寂意法師

とりあへざりし旅の道かな
波はやき川瀬の舟のみなれ棹

頓阿法師

二つも三つもなき御法かな
こぎ歸るほどをや待たん渡し舟

二品法親王

旅にはさそふ友だにもなし
行く舟の波の上よりこぎ別れ

木鎭法師

森の木の間や日影なるらん
浦遠くなぎさの舟のこぎ出でて

從二位行家

荒れたる駒やつながざるらん
あだに見るひなの篠屋のかり柱

後鳥羽院御製

人人に連歌召されけるついでに

暮れかかる峯に日影のさすままに
こなたの里を急ぐ旅人

信實朝臣

あまり夜ふかく旅にいでぬる
鳥が音は關の戸にしてまたれけり

隆祐朝臣

都を見つる夢のかよひ路
やがて又同じ旅寢にかへるかな

救濟法師

過ぎぬれば昨日のことも忘られぬ
旅人かはる宿の夕暮

藤原教言朝臣

いづくの方に衣うつらん
ぬし知らぬ宿の夕の旅の道

顯英法師

村雲に出で入る月の影更けて
浦こぐ舟や行きちがふらん

常智法師

月の行くそなたの道に關すゑて
こよひの宿は須磨の浦船

前大納言忠信

こえくれば雪の下草ふみ分けて
ひとり過ぎゆく野路のしのはら

救濟法師

けふの渡りの舟のかぢとり
これぞこの旅のはじめの鹿島立

善阿法師

宿りかれとや秋はしぐるる
野中よりあなたも末の遠ければ

源宗氏

よそよりはこなたもさこそ霞むらめ
はてかとすれば同じ武藏野

信照法師

寒くなりゆく有明の月
曉は必ずいづる宿ごとに

平景清

行末の契ばかりは殘りけり
別れ易きは旅の道づれ

禪源法師

おのが一つれ歸る雁がね
ふる里は誰が心にもあるものを

藤原時綱

遠きに旅の奧ぞしらるる
我が方を忍ぶは里の名に有りて

性嚴法師

東路や都も遠くなりぬらん
昨日の山はけふの古里

寂意法師

雲重なりていづくともなし
ふる里は遠山にこそなりにけれ

前大納言爲家

夏草の茂みはそこと分かねども
行けばゆかるる野中ふる道

關白左大臣

家の千句の中に

旅の袂の露とこそなれ
古郷に思ひおきたる人ありて

二品法親王

こぎならべてはきしる舷
旅人のとまる宿をもあらそひて

導譽法師

野山の鐘の夕暮の聲
宿なくばせめては寺をも尋ねばや

十佛法師

片岡の道よりけふの日は暮れて
草の枕にふせる旅人

前參議彦良

都やよその夕なるらむ
道かはる旅には馴れぬ宿とひて

源頼氏

これさへ遠き古郷の夢
聞きもせずみもせぬ方に旅寐して

導譽法師

旅寐の夜半は長くなりゆく
古郷も夢にかへるは程もなし

跡遠くして野ははてもなし
いづくともかねては知らぬ草枕

寂意法師

夜深き雪をみほの松原
清見潟月を明けぬと關越えて

良心法師

人やりは心にもあらぬ別れにて
さこそは末も急がざるらめ

導生法師

千句の連歌の中に

ふたわかれにもくだりぬるかな
打ちむれて旅ゆく道のせばければ

藤原秀能

都戀ひしきさよの中山
東路の露分衣しほたれて

前中納言定家

谷深き柴の扉の霧こめて
都をこふる袖やくちなん

後二條院御製

乾元二年三月、内裏の連歌に

錦は波のよるも見えけり
古郷に歸るも旅の道なれば

後鳥羽院御製

花薄招く袂にさそはれて
遠方人はしばしとどまれ

前大納言尊氏

山路の月のただ寒きかげ
旅衣袖はあらしのやどりにて

承胤法親王

風疾み沖なる舟の綱手繩
ひく心こそ古郷にあれ

源氏頼

玉章の文字をばおくに書きとめて
その關よりも旅のおとづれ

淨永法師

誰にか宿をかりは來つらん
文をみて旅の心はしられけり

藤原高秀

千鳥の聲やあなたなるらん
我出でし旅には友のなきものを

南佛法師

なきしほれたる雁の一つら
旅にうき泪のはてはいかならん

信照法師

今はやつるる姿なりけり
かへるには錦をや着ん旅衣

權少僧都永運

嶺にはあらし山陰は鐘
いつのまに旅寐の夢の見えつらん

盛憲法師

遠き煙はいづくともなし
しらぬ野の末には松の見えながら

木鎭法師

波にはおなじ音をこそきけ
夢さますうきねの舟の夜ごとに

良阿法師

劔とりもつ家ぞありける
舟とめて夜ともす火の川上に

二品法親王

おく山なれど庵や有るらん
ゆきゆきて旅こそ里に歸りけれ

つくしの海のもじの關守
都より文のたよりを松浦潟

救濟法師

つとめ置きしは後の世の爲
これぞこの身のたくはへの旅のつと

關白前左大臣

この二歌は誰のこすらん
道はなほうらなる芦邊島がくれ

人人に百韻の連歌めされけるついでに

眞金ふく吉備の中山越え暮れて

後鳥羽院御製

といふ句に

ならはぬかたは道やまよはん