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菟玖波集卷第十二 雜連歌一
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12. 菟玖波集卷第十二
雜連歌一

後鳥羽院御製

建保五年四月、庚申連歌に

吉野山二たび春になりけり
年のうちより年をむかへて

けふ鶯の初音をぞ待つ

後深草院御製

と侍るに

春風に谷の小川もうちとけて

後二條院御製

不二の煙も思ひくらべん
明けわたる清見が關の八重がすみ

小松内大臣

春熊野へまゐりける道にて、ここはいづくと人に問ひ侍りければ、秋の野里と申すとて答へければ、

秋の野里は春めきにけり

よみ人知らず

これを聞きて同行の山伏の中に

見渡せば切目の山は霞にて

救濟法師

ありとも見えぬ苔の下水
埋れ木の枝には波の花咲きて

素阿法師

をりをりにこそ春をとひつれ
ともに立つ霞の衣水のあや

順覺法師

袖をかつぐは名のみかさにて
春日野のおくなる山の朝かすみ

前大納言爲家

それとも見えず雁の玉づさ
薄墨の霞や空を隔つらん

二條院の御時、承香殿の梅を折らせて中宮の御方へたてまつらせ給ふとて

行きては見ねど折りて見ましを

よみ人知らず

と侍りければ、誰とはなくて女房の中より御返しに

色も香もえならぬ梅の花なれや

關白前左大臣

花の中にも花やえらびし
色よりも匂を梅のかざしにて

二品法親王

落つる涙ぞ神のことの葉
咲く梅や家をはなれて匂ふらん

時はうしなる寺の行ひ

と侍るに

二月や夜中の月の雲がくれ

源宗氏

遠き難波の浦の明けぼの
誰が里に咲くやこの花匂ふらん

救濟法師

花はむかしの名殘なりけり
霞めとは思はぬ月も泪にて

後光明照院前關白左大臣

めぐりあはんと思ひやはする
老の後うゑにし梅のはつ花に

導譽法師

たきものあはせこれも勝負
聲聲に鳴く鶯を籠に入れて

素阿法師

薄墨は繪に書く花の朽木にて
柳の葉こそ筆の名にあれ

仁朝法師

富士の根の煙はいつか霞むらん
山のすそ野の草の下もえ

乘阿上人

ありとは聞けど歸らざりけり
鳥の子の一つ殘るは巣守にて

前大納言尊氏

賢き人は墨染の袖
隱れ家の花ばかりこそ友となれ

導譽法師

二品法親王北野社千句に

うき世の友の我を訪ひつる
花咲きてなど隱れ家のなかるらん

關白左大臣

と侍るに

月ぞ霞にかくれかねたる

藤原高秀

夕暮は山も霞も一つにて
月いでぬれば日ぞおぼろなる

救濟法師

月のわづかにかすむ夕暮
熊のすむうつぼ木ながら花咲きて

槇の葉や月を殘して霞むらん
花のとぼその明けぼのの山

圓嘉法師

けぶりとならんことぞ悲しき
山人の薪にまじる花の枝

權少僧都快宗

思ひ出はただ年年の春
花になほ老の命はながらへて

藤原貞直

昔の春ぞ人にとはれし
老いぬれば花咲かぬ木に身をなして

神爲清

春の草としとし庭の荒れしより
我さへともに古里の花

藤原時綱

あくるは易き鐘の音かな
春の夜の寢覺は老のならひにて

よみ人知らず

鳥は鳴くかと明くるをぞ待つ
春の夜をもながく覺ゆる花盛り

關白前左大臣

世の中の思ふにたがふことわりに
花の頃こそ風はなほ吹け

二品法親王

柴の戸には雪も殘らず
山里の花にはことに風吹きて

導譽法師

日のながきをも夕にぞ知る
見る程はかへらぬ花の木のもとに

前大納言爲世

花の頃法勝寺にて

絲櫻花のぬひよりほころびぬ

詠み人知らず

と侍りけるに、花見る人の中に

霞のころも立ちもはてぬに

藤原忠頼朝臣

をりからなるは山里の春
一枝の花をあるじにゆるされて

源氏光

山かげもなほ里は見えけり
霞めども花はまぎれぬ梢にて

圓海法師

ながながしきは春の日の蔭
山鳥の尾の上の花を遠く見て

權少僧都長驗

雁がねや春を忘れず歸るらん
花にかならず別れこそあれ

敬心法師

網代のうへも浪ぞよせける
小車に花をあらしの吹きかけて

救濟法師

詠むる月やなほかすむらん
風だにも花をば殘す木の下に

關白前左大臣

文和五年三月、西芳精舍の花見るとて百韻連歌侍りしに

時うつるむかしはけふの昨日にて
ことおもひ出も花の夕暮

前大納言尊氏

松風はこの谷かげと思へども
よその嶺より散る櫻かな

藤原親秀

心もなくて春やゆくらん
散る花のうきをば風もよも知らじ

頓阿法師

かよひ路は雪よりなほも殘りけり
櫻ちりしく池のにほとり

相阿法師

春一時はなほも明けぼの
花ちりし夕に似たる鐘聞きて

性遵法師

よろづのうきは一夜なりけり
花の散る山の木かげの笹の庵

權少僧都永運

雪むらむらの野は春の草
年年の花のふる里人住まで

神貞嗣

夢の契も別れなりけり
朝には雲となりぬる花散りて

藤原重宣

名はあり原のあとふりにけり
雨露にしぼめる花の色見えて

珍惠法師

身のかねごともたのまれぬ春
又みずは我れ世になしと花も知れ

大中臣國親

あはれといふも愚なりけり
人だにも花に先だつ世の中に

村譽法師

春もいまはの入相の鐘
山風は花ちる里のゆふべにて

法印定意

弘安二年八月、日吉社奉納の獨連歌の中に

いたづらにこそ風も吹くらめ
山櫻ちるべき程はちりはてて

救濟法師

紅葉の風も空にこそ吹け
花ちりし跡の櫻木名をとめて

大江成種

關白左大臣西芳精舍の花の下にて連歌し侍りしに

誰に惜しめと春はゆくらん
人ごとの袖の有明かすむ夜に

法印聯海

面影のなきこそ花のわかれなれ
霞きえたる有明の月

導譽法師

花に馴るるもあはれいつまで
かろき身は春の胡蝶の如くにて

救濟法師

思ひ出づるぞうき涙なる
紅の色とは是をいはつつじ

寂意法師

人とはぬ柴の戸ぼその春暮れて
山の陰にはながき日もなし

木鎭法師

櫻は散りぬあとの面影
木のもとに八重山吹の花咲きて

林阿上人

けぶりの末の見ゆる山本
なき跡は春の草にやなりぬらん

源頼章朝臣

馴れて見し老木の櫻また散りぬ
惜しめばとても春はとまらず

救濟法師

けふ過ぎゆくも一時のうち
逢ひがたく失ひやすき春暮れて

源義篤

明日まで花の散りのこれかし
あぢきなく後の春をも知らぬ身に

源頼氏

散らぬ別れの花のゆふぐれ
けふも聞く入相の鐘は春ながら

導朝法師

花の友こそ散らぬ程なれ
柴の戸に春は殘りて人はなし

藤原冬隆朝臣

命をも知らねば後もたのまれず
老いてぞ惜しき春のわかれ路

藤原高秀

うちたれがみの短よの夢
このとりはうなゐこといふ名の有りて

救濟法師

むかひの里に人や待つらん
我ぞまづ山にて聞きつ郭公

乘阿上人

夢の中にも又ぞかたらふ
待ちえつつ聞きてぬるよの郭公

祐阿法師

けふの日に袖のくすたま絲かけて
あやめの軒をつたふささがに

源親光

ぬる夜の夢ぞむかしなりぬる
橘の匂を袖にかたしきて

從三位頼政

高倉院の御時、南殿の上にぬえといふ鳥鳴き侍りけるに、頼政を召して射侍るべきよし仰せられければ、五月闇のくらきに、聲をしるべにて、仕りけるに禄をかくるとて後徳大寺左大臣

ほととぎす雲井に名をもあぐるかな
弓張の月のいるにまかせて

大中臣憲宗

たのまれぬともまつは夕暮
五月雨のはれまも月の頃にして

常智法師

夏なき露のむすぶ木の下
みじか夜は明けても月や殘るらん

法印禪陽

蓮咲く池にもかげの花みえて
底なる水の月ぞ涼しき

藤原資顯

風ばかりこそ涼しかりけれ
むら雨に梢の蝉の聲まぜて

平重時

松風に涼しき瀧を聞きそへて
夕の山は蝉の聲聲

導譽法師

佗び人のうすき衣のいかならん
蝉のをりはへ鳴かぬ日はなし

前中納言有忠

集めける窓の白雪消えぬるに
螢の火にも文字は見えけり

關白左大臣

ひとりひとりぞさき立ちし跡
あだし身は夏ある蟲のたぐひにて

相阿法師

車をかくるよはひにぞなる
夕顏の花やかなる時すぎて

存阿法師

よむ歌の心は人の行衞にて
種まく草は撫子の花

良阿法師

くらげも骨はあるとこそ聞け
舟人のもてる扇や海の月

藤原宗篤

月に馴るるも一夏のほど
山風の松にこもるは涼しくて

導譽法師

煙はおくにこもる呉竹
一夏の身の行ひに世を知らで

關白左大臣

殘りの秋ぞなほもたのまぬ
老の身は人より露の命にて

救濟法師

關白内大臣に侍りし時、家の千句に

遠くなるそなたはなほも戀ひしきに
けふもむかしの秋の夕暮

源氏頼

なほ月見よとのこる曉
隱れ家は秋のうき世にかはれかし

周阿法師

心迷ひや涙なるらん
うきことはいつも秋とも分かぬ身に

越智通遠

憂きことは我が命にや限るらん
老のゆふべは今までの秋

寂眞法師

水のうへより秋風ぞ吹く
川霧や柳の露となりぬらん

菅原長綱朝臣

憂きことは我と知るべき秋なるに
うゑずはきかじ荻のうは風

平時助

この夕暮も荻のうは風
秋ながらはじめの程は月もなし

神爲清

秋風は止む時もなく吹きつるに
桐の落葉はなほ雨の音

圓懷法師

誰か見る古き都の夜半の月
秋ばかりこそ昔なりけれ

法印弘全

馴れて見る月も哀れと思ひしれ
柴のいほりはつねの秋かぜ

乘阿法師

月もふけ秋も半ばは過ぎにけり
ともに風ある松のした荻

藤原長泰

忌垣の月もすみよしの浦
波こゆる松の下枝に露みえて

藤原親秀

人は秋なる我がこころざし
置く露やちの葉の上にあまるらん

よみ人しらず

秋の頃ほひある所に女どもの數多みすの中に侍りけるに、男の歌のもとをいひ入り侍りけるに

白露のおくに數多の聲すなり

と侍るに末は内より

花のいろいろありと知らなん

大江成種

うつり殘るは袖の月影
むらさきのゆかりの草に花をみて

藤原冬輔朝臣

鳴く鹿は山のいづくに通ふらん
松に聞えて秋風の聲

常盤井入道前太政大臣

我がためのつらさも知らぬ心かな
老となるてふ月をながめて

讀人知らず

梢にのぼる秋のしら露
山の端の松のもとより月出でて

藤原長卿

又はれ曇り秋ぞしぐるる
村雲の空ゆく月の定まらで

藤原爲顯

住む人しらぬ庵ひとつあり
深山には月見る夜半も少きに

源有方

世を捨てて我が住む山の隱れ家は
月ぞ忘れず袖をとひける

二品法親王

身は秋ながらうき世にぞすむ
あらましの山には月の先たちて

夢窓國師

住みすてし里の秋にやなりぬらん
のがれて後もおなじよの月

權僧正良瑜

むぐらの宿は住みうかるべし
思ひある身にさへ秋の月を見て

性遵法師

身を秋の心はすつる習ひにて
うきしづむこそ浪の上の月

救濟法師

導譽月次の連歌に

八幡にますもかの國のぬし
箱崎や明けのこる月のにしの海

前中納言有光

まつ宵の程ぞ過ぎぬる我が契
槇の戸ささで月をこそ見れ

藤原家尹朝臣

心にはうき世の秋も殘らぬに
隱れ家までぞ月はつれたる

源頼基

いづくをも捨てぬ光や照らすらん
月には殘る山かげもなし

妙千法師

舟出づる浦より遠の霧晴れて
月の下なる明けぼのの山

導朝法師

むすぶ夢にはそはぬいにしへ
月やどる野中の清水かげ見えて

法印顯詮

庵の外山やなほしぐるらん
明けぬれば月には見えて影もなし

海部宗信

今もある露の命の殘れかし
またこん秋の月の頃まで

嚴專法師

住む人いかに露のふるさと
月ばかり昔の秋や殘すらん

成阿法師

庭に落つるは桐の葉の雨
山里はかげの中なる月を見て

大江成種

ともに住みしは古郷の秋
柴の戸を浮世の月のなほとひて

藤原雅廣

蝉の鳴く音もかなしとぞ聞く
柴の戸の秋の日くらし獨りゐて

よみ人知らず

ここにすむとは誰か知るべき
浮草をかき分けみれば水の月

救濟法師

谷の木末のうへの瀧川
遠山は月おち鐘やひびくらん

禪顯法師

鐘をきく寢覺の後も更くる夜に
月より秋の霜やおくらん

昌信法師

秋やなほ霜の後まで殘るらん
松にかげある有明の月

中原遠藤

影ほのかなる有明の月
人ごとの寢覺に秋やのこるらん

後深草院辨内侍

はかなくも恨みて年の積りぬる
老曾の森の葛の下露

法印時寳

秋寒き袖なる霜を拂ふまに
しばし砧の聲ぞとだゆる

法印兼深

それをや人の弓張といふ
ささがにははじの立枝に絲かけて

詠み人知らず

つらづゑつくは人にかはらず
山梨を梢の猿の折りもちて

前大納言爲氏

かずにあまれる身の思ひかな
曉の鴫の羽音はしげけれど

前中納言有忠

引く手あまたにかよふ玉章
斜なる琴柱に似せて飛ぶ雁や

二品法親王

舟にては波の下なる月を見て
うへに雲ある雁の一つら

藤原俊顯朝臣

この山までもかりぞたづぬる
うき心秋にのがれぬ身となりて

導譽法師

古郷は月や主となりぬらん
人はむかしの秋にかはらず

朱雀院の隱れさせ給ふける秋の頃人のもとより

君はまた有りしにあらぬ夕暮に

壬生忠見

と申し送り侍りけるに

いかに聲々蟲の鳴くらん

讀人知らず

萬葉集連歌に

佐保川の水をせき入れて植ゑし田を

中納言家持

かるわさいねはひとりなるべし

前大納言爲氏

紅葉の錦きてやゆかまし
ぬれぬれも秋は時雨のふるさとに

頓阿法師

夕霧のはれゆく跡は露みえて
いなばの雲は月も隔てず

藤原家躬

うつろふ菊の花のいろいろ
一もとは黄なるもまじるもみぢにて

權律師源義

もみぢをわたす谷川の橋
埋れ木も蔦のかかるに秋しりて

三善仲久

日影ながらの月の遠山
紅葉ある松を分けてや時雨るらん

眞阿法師

秋の名殘やかれ殘るらん
菊ばかり花なき草になほ見えて

紀頼兼

旅にぞ秋の心すすむる
盃に山路の菊の露うけて

俊圓法師

佗び人のすみかときけば露けくて
風は紅葉のかげにこそ吹け

從二位家隆

我が身の老となりにけるかな
鳥羽玉の黒髮山の秋の霜

承胤法親王

よその砧はこの里の暮
昨日今日秋のあはれの打ちつづき

源信詮

影さむき月の桂の枝ながら
西なる里の秋やのこりし

法眼良澄

跡とふ涙月を隱して
古郷の秋こそのこれ淺茅原

大中臣性員

月あはれこよひばかりの昔にて
老は名殘の秋ぞ悲しき

素阿法師

救濟法師、北野社千句連歌し侍りし時

これまでもはらむ薄ぞ時を知る
十月にならば秋ものこらじ

源氏物語の卷の名と古今集作者とを賦物にし侍りける連歌に

紅葉のかぜに散りまよふころ

前大納言爲家

といふに

時雨なり比良の高根の神無月

藤原助夏

山のかげをばめぐらざりけり
雲かかる高根ばかりの夕時雨

導譽法師

木の葉も露もただ風の音
月見えて跡はまた降るむら時雨

性嚴法師

深山の雪はけさよりぞ降る
ふもとなる里は夕のしぐれにて

海部宗信

比も時雨のふらぬ日ぞなき
散りのこる木の葉も風にさそはれて

讀人知らず

すきて下まで見ゆる水かな
山川の木葉をとづる薄氷

二品法親王

今はとて思ひ捨てにし秋なるに
木末の風ぞ落葉にも吹く

關白前左大臣

歌の名にあふならの古こと
木枯の庭はよろづの葉をあつめ

救濟法師

いくかへりまで雪の降るらん
とめこかし鷹手にすゑて出づる野に

空にぞ冬の月は澄みける

西行法師

と侍るに

舍るべき水は氷にとぢられて

法眼慶譽

この神に誰もあゆみを運ぶらん
霜にあとあるみちしばの草

木鎭法師

ゆけば雪ある山本の道
霜枯れの小野の淺茅をふみわけて

源親通

波を立てたる池の浮鳥
月影は水のむすばぬ氷にて

素阿法師

池水に波のたつとは見えつるに
氷や月の姿なるらん

權少僧都永運

淡路の國は波の遠島
影あれば月と水との二こほり

昌信法師

月のこほりに水も流れず
鴛鳥は池なる波にともねして

中原遠實

白きは雪の色にこそみれ
月寒き浦のかもめの聲はして

道光法師

高根の雪は幾重ともなし
月寒き比良のみづ海氷りゐて

よみ人知らず

日こそ待たるれ寒き山かげ
川舟を氷るところにさしとめて

藤原信藤

心あらばこれも姿をかへよかし
染めぬに黒き炭燒の袖

三阿法師

人の來とてもうきや殘らん
ふまで訪ふ道こそなけれ庭の雪

祐阿法師

漕ぎ行く舟に寒き浦風
松遠き潮路の雪の朝びらき

紀宗基

瓜木とる山路は遠し日は暮れぬ
雪吹きおくる谷の下風

南佛法師

霞に出づる日こそ遠けれ
雲はるるそなたの山は見えながら

平重時

山深き道やゆふべに迷ふらん
槇もひばらも皆雪の陰

神眞資

有明の月も木の間に影さえて
雪をみやまの槇のひとむら

頓阿法師

ふり捨てぬれば世こそ輕けれ
はらはずば雪にや折れむ窓の竹

卜部兼繁

鳥のとまるや夕なるらむ
ふる雪に日もくれ竹の枝たれて

二品法親王

一とせながら四つの時あり
雪ふれば皆白山の花咲きて

導譽法師

庭なる霜は月にあらそふ
雪ふらば何事をかは思ふべき

前大納言爲家

小野のあたりに春は來にけり
雪のうち夢うつつとも分かざりし

藤原知春

橋を渡らぬ道もありけり
水もなき氷のうへに雪ふりて

藤原長泰

道のほとりは霞む松原
江につなぐ舟にや雪のたまるらん

十佛法師

身をすてしより友はまたれず
隱れ家のみ山の雪をひとりみて