University of Virginia Library

能宣

返し

よのなかを  思へばくるし  わするれば  えも忘られず  たれもみな  同じみやまの  まつが枝と  かるゝ事なく  すべらぎの  千代も八千代も  つかへむと  たかき頼みを  かくれぬの  したよりねざす  あやめぐさ  綾なき身にも  ひとなみに  かゝる心を  おもひつゝ  よにふる雪を  きみはしも  冬はとりつみ  なつはまた  草のほたるを  あつめつゝ  光さやけき  ひさかたの  月のかつらを  をるまでに  時雨にそぼち  つゆにぬれ  へにけむ袖の  ふかみどり  色あせがたに  いまはなり  かつ下葉より  くれなゐに  うつろひはてむ  秋にあはゞ  先ひらけなむ  はなよりも  木高きかげと  あふがれむ  物とこそみし  しほがまの  うら寂しげに なぞもかく  世をしも思ひ  なすのゆの  絶ゆる故をも  かまへつゝ  わが身を人の  身になして  思ひくらべよ  もゝしきに  あかし暮して  とこなつの  雲居はるけき  ひとなみに  おくれて靡く  我もあるらし