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11. | 菟玖波集卷第十一
戀連歌下 |
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(Tsukubashu) | ||
11. 菟玖波集卷第十一
戀連歌下
左近中將義詮
名殘ある別れに後やちぎるらん
源氏頼
又も見ぬ人の別れのそのままに
性遵法師
別れなん後は頼みもなく涙
救濟法師
待てしばし鳥なかぬ夜はよも明けじ
常曉法師
曉のとりあへずうき別れして
源頼基
またいつと知らぬ別れに夜は明けて
尊阿法師
別れてやまた夕暮の待たるらん
卜部兼前
けふいつとなくまた別れぬる
善阿法師
逢ふことも後をば知らぬ別れにて
隆祐朝臣
はし鷹のそれし空しき別れより
京月法師
あかぬ別れをしのぶばかりぞ
前大納言爲氏
鳥のねはあふよのうちになしはてて
後二條院御製
逢ひみても人目を思ふ歸るさに
後嵯峨院兵衞内侍
よなよなの恨は鳥の聲ばかり
福光園入道前關白左大臣
別れ路のあけゆく床にわれなきて
後醍醐院御製
何ゆゑに月をかたみと思ふらん
前太政大臣
嘉暦四年内裏七夕に
きぬぎぬの別れもかくや歎きこし
左近中將義詮
誰かまたこの曉に別るらん
小一條院
女のもとにて曉の鐘の聞えければ、
よみ人知らず
と侍るに
後宇多院御製
元亭元年十月、龜山殿百韻連歌に
いたづらに人はつれなくかはるよに
關白左大臣
うき別れあり明の月にとめかねて
權律師定暹
別れよりやもめ烏のねに鳴いて
藤原資顯
なほうきは夜ふかかりつる別れにて
周防法師
月も入り人も別れて殘るよに
荒木田守藤
俤を月に忘れぬ夜は明けて
賢阿法師
別れ路をあまり忍ぶに夜はあけて
三善仲久
玉章をたのむの雁のつてに見で
權大僧正圓忠
かへさるる我が玉章を身にそへて
左兵衞督直義
玉章に心はつきぬならひにて
藤原家尹朝臣
關白家の千句連歌に
玉章をうらせばきまで書きなして
木鎭法師
とりあつめたる人のたまづさ
丹波忠峯朝臣
玉章は風のたよりに待たれしに
二品法親王
身の秋にその玉章もかき絶えて
前大僧正賢俊
いつはりや文の詞にまじるらん
前中納言有光
くれなゐの筆のすさびの言の葉に
素暹法師
こひしとかける人の玉章
寂忍法師
玉づさはこなたかなたに通ひつつ
圓嘉法師
あれどかひなき水莖のあと
藤原助廣
一筆のいつはりげなる玉章に
左近少將善成
玉章を急ぐ使に書きさして
關白左大臣
玉章を涙にかけば文字もなし
救濟法師
玉章のうす墨なるをよみかねて
二品法親王
玉章のかよひ通はぬ時ありて
藤原助夏
玉章にいつはりまこと見え分かで
源成賢朝臣
煙はしるき袖のたきもの
導譽法師
思ひなみだは川の名にあり
前大納言爲氏
泪の河のみをつくしつつ
前參議爲雄
正和四年五月、伏見殿の百韻連歌に
ことかたにかへりかねぬる心にて
二品法親王
なほいのれ契のすゑをみしめ繩
後醍醐院御製
祈にうけぬ戀ぞつれなき
權中納言公雄
住吉の神に祈らぬものゆゑに
山階入道左大臣
寳治元年八月十五夜、常盤井殿百韻連歌に
名こそ惜しけれ忘れ果てなば
民部卿爲藤
はし鷹のこゐにぞけふは暮れにける
後醍醐院御製
唯うつせみの身をやかへまし
西園寺入道太政大臣
戀衣すそわの小田を打ちかへし
救濟法師
なく泪すずりの上に落ちそひて
前左兵衞督爲教
忘らるる形見ばかりのますかがみ
藤原高秀
今もなほかたみの扇見るたびに
權少僧都快宗
小車のめぐりあひしは昔にて
藤原倫篤
梓弓ひくかたあるときくものを
救濟法師
盃のさしも思ふと云ひながら
惟宗親孝
見る時もまたみぬ時も涙にて
權僧正良瑜
夕貌の花のなさけも忘られず
後宇多院御製
人心淺き契を恨みしに
前大納言公明
と侍るに
權大納言實夏
涙をも人の袂にかへさばや
後深草院少將内侍
人心思ひ思はぬ色見えて
大納言爲家
と侍るに
伏見院御製
正和四年伏見殿百韻連歌に
とはで過ぎしは恨なりけり
權中納言公雄
歎かじよ唯我からの憂き思ひ
善阿法師
ながらへけりと人もこそ知れ
信照法師
なに故にかかる浮名の立田川
道生法師
またあたらしきつまな重ねそ
從二位爲成
つらきをやなほあやにくに慕ふらん
忠房親王
見ずともよしや夢の浮橋
導譽法師
なにをかねたむ身には覺えず
寂意法師
人こそ人にうつり易けれ
藤原頼廣
身こそあれ人には人もつらからじ
源義篤
憂きときは我も涙の落ちそひて
救濟法師
我にうき人の命もしらぬよに
素阿法師
戀ひ死なば來ん世の契なほ頼め
藤原貞直
人の爲うかりし先の世とは知れ
小槻景實
間とほなる中には絶えぬ恨にて
權律師圓忠
なほざりの程こそ人のうさもしれ
前大納言尊氏
うきならば我も心のかはれかし
權少僧都永運
うき人の戀ひしきままに身はやせて
村我法師
人ゆゑは命をだにも惜しまぬに
後深草院辨内侍
歸るさの曉起きに袖ぬれて
前中納言定家
三字中略・四字上下略連歌に
忘れず忍ぶふしもあらじな
從二位家隆
身はかくれなき山なしの花
藤原秀能
人を難波のうらみけらしも
仙寂法師
人心秋の末にやなりぬらん
良阿法師
詫びては人をまた恨みつる
藤原信藤
袖はただ人のうつりがを泪にて
承胤法親王
いまなくは僞りならぬ心にて
救濟法師
戀をのみ須磨の鹽屋の夕煙
平宗行
紅は妹背の中の涙にて
大江成益
袖ばかりふりぬる雨は涙にて
法眼慶譽
人のうきにや秋をしるらん
寛胤法親王
いかが吹く我が身に知らぬ秋の風
關白前左大臣
人ゆゑは火にも水にもいりぬべし
後深草院少將内侍
立ちそひてつらきけしきを見ては又
左近中將義詮
つらかりしこそ今戀ひしけれ
照海上人
有りとだに知らずながらに存へて
前中納言定家
夕顏のはかなき宿の露のまに
二品法親王
わが身の秋はことの數かは
前大納言尊氏
人よりもつれなきものは心にて
前大納言爲氏
くるをこそ頼みもせしが青つづら
冷泉太政大臣
その名もつらきわすれ草かな
後嵯峨院御製
弘長二年八月、庚申連歌に
我が心さへ頼まれぬかな
常盤井入道前太政大臣
我のみひとり袖はぬらさじ
西圓法師
ながきうらみのなど殘るらん
寂忍法師
泣きながす泪は淵となりにけり
十佛法師
來んよには人も物をや思はまし
藤原秀能
たたぬ別れの人も恨めし
前大納言爲家
戀ひしきもつらきも同じ泪にて
後深草院辨内侍
わが元結のいふかひもなし
冷泉大納言
つれなくも誰俤をとどむらん
信照法師
なくなくぬればみじか夜もなし
導譽法師
名は立ちながらそふこともなし
救濟法師
戀ひしきにさへ世の中ぞうき
(Tsukubashu) | ||