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續千載和歌集卷第七 雜躰
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7. 續千載和歌集卷第七
雜躰

法皇御製

顯密の教法の心をよませ給ひける長歌

くもりなき こゝろは空に てらせども 我とへだつる うきぐもを 風のたよりに さそひ來て いつを始めと くらきより くらき道にも まよふらむ これを救はむ ためとてぞ 三世の佛は 出でにける 説きおく法は さま%\に なゝの宗まで わかるれど こゝろ一つを たねとして まことの道にぞ たづね入る 然はあれども これはみな 志かの園生の かぜのおと 吹初めしより わしのみね 八年のあきを むかへても 闇をてらせる ひかりにて 霧をいとはぬ つきならず 鶴のはやしの けぶりより 八つのもゝ年 すぎてこそ まことの法は ひろめむと ときけることは すゑつひに 三のくに%\ つたへ來て わが大和にぞ とゞまれる あまねく照す おほひるめ 本のくにとて まきばしら 造りもなさぬ ことわりの かく顯はれて やまどりの おのれと長く ひさしくぞ 國をまもらむ かためにて 代々を重ねて たえせねば えぶの身乍ら 此のまゝに 悟りのくらゐ うごきなく 世を治むべき 志るしとて 清きなぎさの 伊勢の海に ひろへる玉を みかきもり 潮のみちひも 手にまかせ 吹く風降る雨 時しあらば 民のかまども にぎはひて 萬づ代經べき あしはらの 瑞穗のくにぞ ゆたかなるべき

反歌

代々たえず法のしるしを傳へきて普くてらす日の本の國

讀人志らず

郭公の長うた

たにちかく 家はをれども こだかくて 里はあれども ほとゝぎす 未だきなかず なくこゑを 聞まくほしと あしたには 門にいでたち ゆふべには 谷をみわたし こふれども 一こゑだにも いまだきなかず

反歌

藤なみのさかりは過ぎぬあし引の山郭公などか來なかぬ

題志らず

みつもろの かみなび山に いほえさし 繁くおひたる とがの木の 彌つぎ/\に たまかづら たゆることなく ありつゝも やまに通はむ あすかのや 古きみやこは やまたかみ 河とほじろし はるの日は 山しみがほし あきの夜は 河しさやけし あさぐもに たづは亂れて ゆふぎりに 蛙さはなく みるごとに ねにのみなかる むかしおもへば

反歌

飛鳥河かは淀さらず立つ霧の思過ぐべき戀にあらなくに

讀人志らず

やましろの くにの宮古は はるされば花さきみだる あきされば もみぢ葉匂ひ おびにせる いづみの河の かみつせに うち橋わたし よどせには うき橋わたし かりがよひ 仕へまつらむ よろづ世までに

花園左大臣家小大進

久安の百首の歌奉りける長歌

きみが代は 行く末まつに はなさきて とかへり色を みづがきの 久しかるべき 志るしには ときはの山に なみたてる 志ら玉つばき やちかへり 葉がへする迄 みどりなる さか木の枝の たちさかえ 志きみが原を つみはやし 祈るいのりの 驗あれば 願ふねがひも みつしほに のぶる命は ながはまの 眞砂を千世の ありかずに とれ共たえず おほ井がは 萬づ代を經て すむかめの よはひ讓ると むれたりし 葦まのたづの さしながら ともは雲居に 立ちのぼり われは澤べに ひとりゐて 鳴く聲そらに きこえねば 積るうれへも おほかれど こゝろの内に うち志のび おもひ嘆きて すぐるまに 斯るおほせの かしこさを わが身の春に いはひつゝ 代々をふれ共 いろかへぬ 竹のみどりの すゑの世を みかきの内に 移しうゑて 匂ふときくの はなゝらば 霜をいたゞく おいの身も 時にあひたる こゝちこそせめ

旋頭歌

讀人志らず

題志らず

白雪のふりしく冬はすぎにけらしも春霞たなびく野べに

うぐひす鳴くも

泊瀬のや弓槻が下に我が隱したる妻茜さし照れる月夜に

ひと見けむかも

人麿

池のべのをつきが下に笹なかりそ其れをだに君が形見に

見つゝ志のばむ

藤原隆信朝臣出家して侍りける頃もろともに年の老いぬる事をわびて昔今の事など申して、せめての心ざしに歌に一句をそふるよし申しつかはして侍りける

みどり子と思ひし人も老いぬとて背く世をみる悲しさは

ゆめかうつゝか

隆信朝臣

返し

ありてなき夢も現も誰れにかくとはれまし君が見る世に

そむかざりせば

折句歌

入道前太政大臣

伏見院みこのみやと申し侍りける時わづらふ事ありて久しく參らざりけるに御製を給はせたりける御返事に、戀しさは誰もさぞといふ事を句のかみ志もにおきて

これも又一枝殘れ志をれてもさける久しさ花のかたみぞ

前大納言爲氏

龜山院の御時、こ屏風、すゞり箱を、折句くつ冠におきてよめと仰せごとありければつかうまつりける

こま渡す一瀬もみえずやへこほりうは波なきは深き水底

ふぢばかま、女郎花といふことをよみ侍りける

冬枯を千草押しなみはてはみな風に雪さへ又つもるらし

後法性寺入道前關白太政大臣

隆信朝臣まうでこむと申しける日を忘れてもや有らむとて、いひし日をたがふなよといふことをくつかうぶりにおきてよみてつかはしける

いかに又獨あかすか忍ぶてふ人はつらしな思ひこりねよ

物名

曾禰好忠

きのえ

二葉にてわが引植ゑし松のきの枝さす春に逢ひにける哉

かのえ

花の香の枝にし止る物ならば暮るゝ春をも惜まざらまし

伊勢大輔

庚申の夜思ふゆかりの人に

何事も捨つる身なれど世は中のえさるまじきは君故と知れ

津守國助

梅、さくら

鶯は花の志るべをもとむめり咲くらむ方の風もふかなむ

隆信朝臣

李のはな

世をすつと爭でいふらむけふあすも物は何故思ふ我身ぞ

皇太后宮大夫俊成

正治の百首の歌奉りける時、たくみ鳥

難波人あしのわか葉やほさでたく緑にかすむゆふ烟かな

入道前太政大臣

にはたゝき

小夜衣返すかひなき身にはたゞ君を恨みて袖ぞぬれぬる

左大臣

やをとめ

疎らなる閨をとめてはもりくれど宿る程なき夏の夜の月

前中納言定家

さし櫛、ひかげ

神山に幾世へぬらむ榊葉の久しく志めをゆひかけてけり

前大納言爲氏

かはら硯

露ながら色もかはらずすり衣千草の花のみやぎ野のはら

入道前太政大臣

すきをしき

忘れずよ霜の志たなる花ずゝきをしき形見の秋の面かげ

太政大臣

こしがたな

古よいかに過ぎこし方なれば忍べど歸るみちなかるらむ

津守國助

みす、たゝみ

逢ふことにかへむ命を省みず唯身を捨てゝこふるはかなさ

俊頼朝臣

木賊、椋の葉

程もなくとく寒く野はなりにけり虫の聲々弱り行くまで

山本入道前太政大臣

筑波山

押並べて四方の草木の色づくはやまず時雨の降ればなり

誹諧歌

祐子内親王家紀伊

睦月七日をかしき文ども人々の許にみゆる、身にはさもなければ

春たつと聞くにつけても春日野の若菜をなどか人の忘るゝ

大貳三位

題志らず

袂だに匂はざりせば梅の花ひきかくしても折るべき物を

從三位頼政

柳埀門前といへるこゝろを

青柳の打垂髮を見せむとやいづべき門にまちたてるらむ

入道前太政大臣

百首の歌奉りし時

空はまだあまげになれや春の夜の月も霞の袖がさをきて

大僧正行尊

二月の頃俊惠法師わづらふ事侍りければつかはしける

君が爲風をぞいとふこの春は花ゆゑとのみ何おもひけむ

信實朝臣

題志らず

招くとてさのみも人の止まらば尾花がもとや所なからむ

大貳三位

亂れたる名をのみぞ立つ苅萱のおく白露をぬれ衣にして

讀人志らず

我が如く機織る虫も音をやなく人のつらさを經緯にして

辨乳母

山の端をいづるのみこそさやけゝれ海なる月の暗げなる哉

前大納言爲世

嘉元の百首の歌奉りし時

よる/\は砧の音をさそひ來て風ぞ枕にころもうちける

正三位知家

題志らず

賤の女がきなれ衣の秋あはせ早くもいそぐつちの音かな

康資王母

泊瀬にまうでゝさほ山の紅葉の散りたるを見て

佐保山の嵐ぞやがてぬがせける紅葉の錦身にはきたれど

俊頼朝臣

物申しける人の母に申すべき事ありてまかりて尋ねけるにたび/\、なしと申してあはざりければ

箒木はおもてぶせやと思へばや近づく儘に隱れ行くらむ

正三位知家

題志らず

ふりかくる額の髮の片みだれとくと頼むる今日の暮かな

從三位頼政

返迎車戀といふことを

載せてやる我が心さへとゞめ置きて妬くも返すむな車哉

衣笠内大臣

題志らず

益荒雄が夢の編笠打ちたれて目をも合せず人ぞなりゆく

和泉式部

雁の子を人のおこせて侍りければよみ侍りける

いくへづゝ幾つ重ねて頼まゝしかりのこの世の人の心は

前大納言爲家

題志らず

かち人の野分にあへる深簔の毛を吹くよこそ苦しかるらめ

光俊朝臣

世を捨てゝ人にもみえず知られねば我こそ今は隱簔なれ

俊惠法師

道因法師日吉の社の歌合によき歌をよみてまけにけりと聞きていひつかはしける

君が歌飾磨の市と見しか共かちのなきこそ怪しかりけれ