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續千載和歌集卷第十六 雜歌上
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16. 續千載和歌集卷第十六
雜歌上

圓光院入道前關白太政大臣

嶺松と云ふ事を

春日山ふりさけ見れば嶺に生ふる松は木高く年ふりに鳬

法皇御製

嘉元の百首の歌めされしついでに

誰しかも松の心にたぐへけむ我に相生の身をあはせつゝ

前大納言爲世

年もへぬ何をか今は斯て身の老となるをのまつことにせむ

前大納言爲家

弘長の百首の歌奉りける時、曉

いたづらに老の寐覺のながき夜は我泪にぞ鳥もなきける

正三位爲實

百首の歌奉りし時

いたづらに八聲の鳥はなれにけり仕へで聞かむ曉もがな

前權僧正雲雅

名所の歌よみ侍りける中に

朝夕にあふぐ心にかゝるかなながらの山の峰のしらくも

法皇御製

山中瀧水といふ事を

分入れば深きみ山の高嶺より落ちくる瀧の音のさやけさ

西園寺入道前太政大臣

布引の瀧を見て

山ひめの手玉もゆらにおりはへて千尋にさらす布引の瀧

按察使資平

題志らず

あま小舟今や出づらむ大島のなだの潮風ふきすさぶなり

井手左大臣

元正天皇難波の宮におましましける時

堀江には玉志かましを大君の御舟こがむと豫てしりせば

讀人志らず

題志らず

芦の屋のなだの汐路を漕ぐ舟の跡なき浪に雲ぞかゝれる

後二條院御製

難波潟あしべ遙に晴るゝ日は聲も長閑にたづぞ鳴くなる

太宰權帥爲理

寳治の百首の歌奉りける時、岸苔

住吉のきしの岩根にむす苔のみどりに松の色やそふらむ

讀人志らず

題志らず

朝日影さすや岡べの松の雪も消えあへぬまに春はきに鳬

法皇御製

嘉元の百首の歌めされしついでに

いとゞ又民安かれといはふかな我が身世にたつ春の始は

權中納言爲藤

前參議にて年久しく侍りしが還任の頃鶯をよみ侍りける

谷蔭にあらはれ初むる鶯のおなじ古巣に音こそなかるれ

圓光院入道前關白太政大臣

嘉元の百首の歌奉りし時、鶯

九重のたけのそのよも忘られずきゝてなれにし鶯のこゑ

前大納言資季

鶯の歌とてよみ侍りける

我身世にふりゆく年を重ねきて幾春きゝつうぐひすの聲

法務公紹

春の歌の中に

いたづらに我が身年ふる山かげになほ春志らで殘る白雪

入道前太政大臣

春くれば外山のみ雪消えにけり我が老らくの年は積れど

正三位實綱

山はなほみ雪しふれどかげろふのもゆる野原の春の早蕨

山本入道前太政大臣女

河の瀬に亂れてうつる青柳のみどりは波の色かとぞ見る

平時村朝臣

たが里にまづ咲く梅の匂ひきてかぜの便に人さそふらむ

念阿法師

咲き殘る老木の梅に忍ぶかな難波の春のむかしがたりを

入道前太政大臣

嘉元の百首の歌奉りし時、梅

色も香も忘れはてにし墨染の袖におどろく梅のしたかぜ

土御門院御製

おなじ心を

植ゑ置きし梅のそのふや荒れぬらむ匂もよその故郷の春

從二位家隆

吹きおくる朧月夜の春風に梅が香のみぞかすまざりける

太政大臣

正應六年、内大臣にて、踏歌節會の内辨のつとめ侍りて程なく大臣辭し申して後、春月をよみ侍りける

今はとて雲居を出でしいざよひの睦月の月の影ぞ忘れぬ

大江宗秀

題志らず

須磨の蜑の藻鹽の烟そのまゝに霞みなれたる春の夜の月

前大僧正實超

哀れなる五十ぢの後の泪かなむかしも霞む月は見しかど

道洪法師

かすむ夜のつきは昔の春ながらもとの身ならぬ墨染の袖

如願法師

山里にこもりゐて侍りける頃述懷の歌よみ侍りけるに、歸雁を

故郷になきて歎くとことづてよ道行きぶりの春の雁がね

法印覺寛

おなじ心を

歸る雁越路の空のしら雲にみやこの花のおもかげやたつ

西園寺入道前太政大臣

建保四年百首の歌奉りける時

春雨は四方の草木をわかねども滋き惠は我が身なりけり

後二條院御製

春雨を

淺みどりあまねき惠色に出でゝ野なる草木に春雨ぞふる

法皇御製

侍花といへる心をよませ給うける

老が身の猶ながらへて今年又ふたゝび春の花や見るべき

前大僧正禪助

寄花述懷といふ事を

花を見し身の思出をいざさらば六十ぢの春と人に語らむ

後光明峰寺前攝政左大臣

花の歌の中に

後に又誰か忍ばむ植ゑ置きし花はやとせの春ぞへにける

權少僧都能信

春ははや志た紐とけてからごろも龍田の山に匂ふ春かぜ

平宗宣朝臣

開花をよめる

あふさかの山の櫻や咲きぬらむ雲間に見ゆる關の杉むら

藤原隆氏朝臣

遠尋花といへる心を

誰か又花かとよそにたどるらむ分けつる跡の峰のしら雲

法印長舜

前大納言爲世賀茂の社にて三首の歌合し侍りし時尋花と云ふ事を

匂はずば花のところも白雲のかさなる山に猶やまよはむ

僧正道順

題志らず

分入りてこれより奥と思はねばみ山は花を長閑にぞ見る

能譽法師

あくがるゝ心のまゝに尋ねきて山路のはてを花に見る哉

大江宗秀

立ちまよふ色も匂も一つにて花にへだてぬ峰の志らくも

祝部行親

よしさらばさながら花といひなさむ同じ梢の嶺のしら雲

源重泰

吉野山おなじ櫻のいろながら折られぬ花や峯のしらくも

祝部行氏

折らずとも人に語らむ山ざくら見る面影を家づとにして

中臣祐親

老らくの挿頭に折らむさくら花この春ばかり人な咎めそ

山田法師

人々あつまりて櫻の花の下に居てよめる

珍らしき物かはあやな櫻花こゝらの春にあかずもある哉

赤染衛門

題志らず

志のぶべき人なき身こそ悲しけれ花は哀と誰か見ざらむ

津守國助

ありて世のうきを知ればや山櫻芳野の奥の花となりけむ

藤原泰宗

木のもとの暮れぬる後も山櫻殘るは花のひかりなりけり

藤原定成朝臣

さくら色に山わけ衣うつろひぬかつ散りかゝる花の下道

京極入道前關白家肥後

堀河院かくれさせ給うて後の春花をみけるついでに權中納言俊忠の許へ歌遣したりける返事を、中宮の女房の中に送りける由聞きて申し遣しける

櫻花雪と山路に降りしけばむべこそ人の踏みたがへけれ

權中納言俊忠

返し

雪とふる花ならねども古を戀ふるなみだに迷ふとを知れ

中務卿具平親王

題志らず

花散るとかけてもいはじ鶯の最ど音せずなりもこそすれ

萬秋門院

定なき世を宇治河の瀧つ瀬にことわり知れと散る櫻かな

光俊朝臣

花の枝に付けて民部卿資直がもとへ遣しける

今年猶ちり行く花を惜むまで殘るべき身と思ひやはせし

平行氏

花の歌とてよめる

又とだに老いて頼まぬ別にはいよ/\散るも惜しき花哉

順西法師

身のよその春とや風も思ふらむ宿にとめじと花さそふなり

平師親

吹く風の誘はゞせめていかゞせむ心と花の散るぞ悲しき

法眼兼譽

前大納言爲世よませ侍りし三首の歌に、落花を

花は皆散りはてぬらし筑波嶺の木のもとごとに積る白雪

在原業平朝臣

山吹を

山吹の花も心のあればこそいはぬ色には咲きはじめけめ

藤原爲顯

弘安の百首の歌奉りける時

墨ぞめの袂は春のよそなれば夏立ちかはる色だにもなし

權中納言公雄

前僧正道性よませ侍りける三首の歌の中に、夏藤を

七十ぢの夏にかゝれる藤の花かざして老の波にまがへむ

伏見院御製

夕卯花を

月と見てよるもやこえむ夕ぐれの籬の山にさけるうの花

法印定爲

前大納言爲世よませ侍りし三首の歌に、卯花

身を隱すかひこそなけれ卯の花の浮世隔てぬ同じ垣根に

法眼慶融

夏の歌の中に

世の中を厭ふ宿には植ゑ置きて身を卯の花の影に隱さむ

右兵衞督基氏

昔こそ心にかゝれあふひ草神のみあれにいつかざしけむ

法皇御製

道ありて亂れずもがな夏草のことしげき世に又も交らば

後一條入道前關白左大臣

さゆりばのしられぬ宿と成やせむ跡なき庭の草の茂みに

權大納言經繼

百首の歌奉りし時

おろかなる老の泪の露けきは夕日の影のやまとなでしこ

賀茂定宣

題志らず

つれなさを我も語らむ時鳥おなじこゝろにまつ人もがな

平時香

待ちわぶる山郭公ひと聲も鳴かぬに明くるみじか夜の空

安部忠顯

思ひ寐の夢のたゞぢの時鳥覺めてもおなじ聲を聞かばや

藤原景綱

故郷に誰聞きつらむほとゝぎす軒端の草の忍ぶはつ音を

前中納言資名

此里を鳴きて過ぎつる郭公よそにもこよひ誰か聞くらむ

高階宗俊朝臣

待つ程の心かよはゞほとゝぎす同じ初音を人もきくらむ

尊空上人

まどろまで待ちつるものを時鳥夢かと聞きて驚かれぬる

藤原頼氏

宵のまの月待ちいづる山の端にこゑもほのめく子規かな

平義政

時鳥はつかの月の山の端を出でゝ夜ふかき空に鳴くなり

眞淨法師

一こゑを人にはつげずほとゝぎす聞き定めむと思ふ心に

藤原長經

聞けばまづそでこそぬるれ子規おのれや人に泪かすらむ

藤原隆祐朝臣

故郷時鳥と云ふ事を

故郷と思ひな捨てそほとゝぎすなれも昔の聲はかはらじ

藤原時親

題志らず

ほとゝぎす花たちばなに聞ゆなり昔忘れぬよゝのふる聲

贈從三位爲子

五月四日昔今の事などのどかに申したりけるあしたに菖蒲につけて

とにかくに昔をかけし昨日より袖のうきねは猶も乾かず

萬秋門院

御返し

我のみと昔をかけし袖の上に今日は浮根を又ぞ添へける

入道前太政大臣

出家の後おとづれざりける人のもとへ、五月五日菖蒲の根を遣すとて

菖蒲草かけ離れても墨染の袖にはあらぬねぞかゝりける

讀人志らず

返し

墨染の袖にかこちてあやめ草思はぬ方ぞかけはなれける

法印宗圓

前大納言爲世よませ侍りし春日の社の三十首の歌の中に

たちばなの花もにほはぬ宿ならば何に昔を思ひ出でまし

平宗宣朝臣

盧橘をよめる

行く末にさてもや人の忍ぶとてわが袖觸るゝ軒のたち花

祝部成賢

にほひくるはな橘の袖の香にこの里人もむかし變ふらし

藤原秀茂

羇中五月雨を

ぬれつゝもいくかきぬらむ旅衣かさなる山の五月雨の空

前大納言爲家

弘長の百首の歌奉りけるとき、五月雨

五月雨の草の庵のよるの袖しづくも露もさてや朽ちなむ

西音法師

題志らず

かくてしも世にふる身こそ哀なれ草の庵の五月雨のそら

平貞宗

汐くまぬ隙だに袖や濡すらむ海士のとまやの五月雨の頃

大江廣房

五月雨の雲のとだえの山の端に暫し見えつる月の影かな

眞昭法師

みじか夜の月に浦こぐ舟人の浪路程なく明くるしのゝめ

前大納言有房

嘉元の百首の歌奉りし時、螢

あつめこし窓の螢の光もて思ひしよりも身をてらすかな

惟宗忠宗

題志らず

風わたるなつみの河の夕暮に山陰すゞし日ぐらしのこゑ

靜仁法親王

御祓河なつ行く水の早き瀬にかけて凉しき波のしらゆふ

後二條院御製

水邊納凉

凉しさは夕暮かけてむすぶ手の袖にせかるゝ山のした水

惟康親王家右衛門督

世を遁れて後六月つごもりの日よみ侍りける

御祓せではや幾年になりぬらむ祈るべき身の命ならねば

權大僧都聖尋母

初秋の心を

三島江の玉江のあしの一夜にも音こそかはれ秋のはつ風

平時夏女

秋の歌の中に

思ひやるよそまで苦し織女の暮まつ程の今日のこゝろは

前大僧正良信

いかにせむ秋にもあらぬ夕だにもの思ふ身はぬるゝ袂を

紀宗信

さのみなど泪のとがとかこつらむ露にもぬるゝ老の袂を

津守國夏

志ら玉か何ぞと問はむ打ちわたす遠方野べの秋の夕つゆ

中務卿宗尊親王

あはれとも大方にこそ思ひしか今はうき身の秋の夕ぐれ

伏見院御製

ふく風のうきになしてやかこたまし夕はまさる秋の哀を

後二條院御製

いつ志かと初秋風の吹きしより袖にたまらぬ露の志ら玉

前大僧正良信

人とはで年ふる軒の忘れ草身をあきかぜに露ぞこぼるゝ

前大僧正道玄

心なきわが衣手に置く露や草のたもとのたぐひなるらむ

入道二品法親王性助

家に五十首の歌よませ侍りけるに、述懷

世の中は秋の草葉をふく風の露もこゝろぞ止らざりける

常磐井入道前太政大臣

修明門院四辻殿におはしましける頃庭のくさむら茂りて昔にもあらず見え侍りければ人の許へ申し遣しける

わけわびし露のかけても思ひきや君なきやどの庭の蓬生

讀人志らず

返し

尋ねきて人の分けゝむ白露の頓て袖にもかゝりぬるかな

式子内親王

正治の百首の歌奉りける時

荒れにける伏見の里の淺茅原むなしき露のかゝる袖かな

太政大臣室

題志らず

露をだにはらひかねたる小山田の庵もる袖にすぐる村雨

左大臣

幾夜われ稻葉の風を身にしめて露もる庵に寐覺しつらむ

承空上人

秋きても訪はれずとてや津の國の生田の杜に鹿の鳴く覽

今出河院近衛

侘び人の秋の寐覺はかなしきに鹿の音とほき山里もがな

讀人志らず

天喜二年四月藏人所の歌合に、風

待つ人もなき宿なれど秋風の吹來る夜半はいこそ寐られね

大江政國女

題志らず

芦火たく難波のこやに立つ烟月待つよひの空なへだてそ

藤原親範

かつ晴るゝ霧のたえまの秋風を便になして出づる月かな

行胤法師

あらし吹く峯にかゝれる浮雲の晴るゝ方より出づる月影

前僧正道性

月送客と云ふ事を

歸るさの袖まで月はしたひきぬ人はおくらぬ秋の山路に

津守國平

山家月

年經ぬる松のとぼそは朽ちぬとも獨やすまむ山の端の月

藤原頼景

秋の歌の中に

雲はみなあらしの山の麓にてかつらの袖に月ぞくまなき

源親長朝臣

秋をへて人もこぬみの濱風に幾夜の月のひとりすむらむ

行觀法師

志賀の蜑の釣する袖に月さへて雲吹きかへす比良の山風

入道前太政大臣

百首の歌奉りし時

喞つべきことわりもなき泪かな月見ぬ里はぬれぬ物かは

平親世

前大納言爲氏月の頃まかるべき由申しけるがさも侍らざりければ申し遣しける

契り置く月の頃さへ過ぎ行けば廻り逢ふべき頼だになし

前大納言爲氏

返し

山の端の月ははつかに成ぬれど廻り逢ふべき契をぞ待つ

祝部成久

題志らず

夜もすがら袖の泪になれにけり物思ふころの秋の月かげ

平行氏

宿るとも袖わく秋の月ならばうき身慰むかげやなからむ

本如法師

うき事を思へばくもる泪かな身を忘れてぞ月は見るべき

前大納言爲世

月前述懷を

いとゞ猶泪をそへて身の爲のうきを志らする月の影かな

二品法親王覺助

弘安の百首の歌奉りける時

雲晴れてのどけき空の秋の月おもひなきよの光とぞ見る

藤原保能

題志らず

見るまゝに光もよそになりにけりかづらき山の有明の月

法印靜伊

誰かまた心とむらむきよみがた關もる波の秋の夜のつき

中臣祐殖

さやかなる名をばとゞめて清見潟傾ぶく月に關守ぞなき

藤原忠能

面影ぞなほ殘りけるいもが島かたみの浦のありあけの月

法印清壽

かたしきの袖の秋風夜をさむみ寐ざめて聞けば衣うつ也

大江經親

霜結ぶすゞの志のやの麻衣うつにつけてや夜寒なるらむ

前大納言基良

我が袖に素より深き色を見よ峯の木の葉は今ぞしぐるゝ

源清兼朝臣

色増る程こそ見えね村時雨そめてくれぬる山のもみぢ葉

大中臣永胤朝臣

身のうさを思へば最ど世を秋の袖の時雨の晴るゝまぞなき

清原元輔

風早み秋果て方の葛の葉のうらみつゝのみ世をもふる哉

菅原孝標女

紅葉を人の折りて見せければ

孰くにも劣らじ物を我宿のよをあき果つる景色ばかりは

前大納言實冬

永仁元年龜山殿の十首の歌に、幽居暮秋

世をすつる住みかにも猶惜む哉思ひなれにし秋の名殘を

中原師宗朝臣

題志らず

暮れて行く秋の名殘を小鹽山志かも今宵や鳴き明すらむ

高階成朝朝臣

後近衛關白前右大臣の家の歌合に、朝時雨

明けぬとて峯にわかるゝ横雲を空に殘してふる時雨かな

權中納言公雄

時雨を

ながき夜の老の寐覺の泪だにかわかぬ袖に降る時雨かな

院御製

三十首の歌よませ給うける時、初冬時雨

今日よりの時雨よ何の爲ならむ木葉は秋に染め盡してき

前大納言基良

題志らず

いかにせむ頼む木蔭の時雨にもふりてなれにし秋の泪を

大江廣茂

志がらきの外山にかゝる浮雲の行く方見えてふる時雨哉

中臣祐臣

過ぎやすき時雨を風にさきだてゝ雲の跡行く冬の夜の月

丹波尚長朝臣

とだえしてよそに成ぬと見る雲の又しぐれくる葛城の山

大江貞廣

さらでだに時雨かさなる山の端に猶雲おくるよその木枯

前大納言俊光

神無月のころ老會のもりを過ぐとて

我が身さへ老會の杜の木がらしに木の葉より猶降る泪哉

藤原秀長

路落葉を

散るたびにもとこし道は埋れて木の葉の上をかよふ山人

藤原經清朝臣

冬の歌の中に

苔衣猶袖さむし身のうへにふりゆく霜をはらひすてゝも

前僧正道性

前大納言爲世人々にすゝめ侍りし春日の社の三十首の歌の中に

ふくとても秋にや歸る置く霜のしたはふくずに殘る夕風

前大納言爲家

弘長二年龜山殿の十首の歌に、朝寒蘆

難波江や朝おく霜に折れふして殘るともなきよゝの葦原

土御門院御製

題志らず

陽炎のをのゝ草葉の枯しより有るか無きかと問ふ人もなし

永福門院

天少女袖ふる夜半の風さむみ月を雲居におもひやるかな

權中納言兼信

さえくらす嵐の空の雲間よりかげも雪げにこほる月かな

讀人志らず

浦風や吹きまさるらむこゆるぎの磯の波間に千鳥なくなり

藤原範秀

滿つ潮に浦の干潟は見えわかで波より上に立つ千鳥かな

津守經國

いにしへの和歌の浦ぢの友千鳥跡ふむ程の言の葉もがな

式乾門院御匣

忍ぶべき人もやあると濱千鳥かき置く跡を世に殘すかな

龜山院御製

弘安の百首の歌めされける次でに

にほの海や汀の干どりこゑ立てゝ歸らぬ波に昔戀ひつゝ

雪の深く積りて侍りけるに性助法親王のもとに遣されける

むかしより今もかはらず頼みつる心の跡ぞ雪に見ゆべき

入道二品法親王性助

御返し

たのみつる心の色のあとみえて雪にしらるゝ君が言の葉

法眼行濟

前大納言爲世よませ侍りし春日の社の三十首の歌の中に

今は世にふりはてにける老が身の山とし高くつもる白雪

二品法親王覺助

嘉元の百首の歌奉りし時、雪

降る雪といくへかうづむ吉野山見しは昔のすゞの志た道

頓阿法師

題志らず

積れたゞ入りにし山の峰の雪うき世に歸る道もなきまで

讀人志らず

ふりにける跡とも見えず葛城や豐浦の寺の雪のあけぼの

前大納言爲家

爐火を

消えずとて頼むべきかは老がよのふくるに殘る閨の埋火

藤原基任

歳暮の心を

老となるつらさも知らでいそがれし昔の年の暮ぞ戀しき

津守國冬

嘉元の百首の歌奉りし時、歳暮

行きめぐる年は限もなき物を暮るゝをはてと何か思はむ

從三位氏久

題志らず

この冬も氷をふみて暮れにけりいつか心の春に逢ふべき

二品法親王覺助

嘉元の百首の歌奉りし時、歳暮

鏡山見てもものうき霜雪のかさなるまゝに暮るゝ年かな

前大納言爲氏

弘安の百首の歌奉りし時

いまは身の雪につけても徒につもれば老の年もふりつゝ