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續千載和歌集卷第十 釋教歌
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10. 續千載和歌集卷第十
釋教歌

法皇御製

菩提心論、日々漸加至十五日圓滿無碍の心を詠み給ひける

日に添へて影は變れど大空の月は一つぞ澄みまさりける

三摩地現前

月の爲何をいとはむ雲霧もさはらぬ影はいつもさやけし

十住心論の開内庫授寳

悟り入る十の心のひらけてぞ思ひのまゝに世を救ひける

弘法大師

眞如親王おとづれて侍りける返事に

斯計り達磨を知れる君なれば陀多謁多までは到るなり鳬

權僧正智辨

觀音院にて詠み侍りける

觀念のこゝろし澄めば山かぜも常樂我淨とこそきこゆれ

大僧正明尊

志賀にて浪の立ちけるを見て

志賀の浪虚空無我とは立たね共聞けば心ぞ澄み渡りける

前大僧正實承

如秋八月霧微細清淨光の心を詠み侍りける

霧に猶まよひしほどぞ秋の夜の月を隔つる障りとは見し

法印守禅

妙觀察智の心を

霧晴れてくもらぬ西の山の端にかゝるも清き月の影かな

前大僧正公澄

然此自證三菩提出過一切地を

三日月の雲居に高く出でぬれば霞も霧も立ちぞへだてぬ

了然上人

大日經成就悉地品、無垢妙清淨圓鏡常現前

曇りなくいにしへ今を隔てぬは心に磨くかゞみなりけり

覺鑁上人

鳥羽院の御時御なで物の鏡を給ひて奏し侍りける

眞澄鏡うつしおこする姿をばまことに三世の佛とぞ見る

鳥羽院御製

御返し

おしなべて誰も佛になりぬとは鏡の影に今日こそは見れ

法皇御製

眞言院の花を御覽じて

三つの世につねに住むべき理は散らぬ櫻の色ぞ見せける

前大僧正禅助

御返し

三の世に散るも散らぬも九重の花の色をば君ぞ見るべき

法印道我

有空不二の心を

空しとも有りとも云はじ今さらに眞の法の二つなければ

入道親王尊圓

法華經序品、照于東方を

春の來るかたを照して法の花開くる時を世にぞ知らする

源有長朝臣

我見燈明佛本光瑞如斯

昔見し春のひかりのかはらねば今も御法の花ぞ咲くらむ

法眼親瑜

方依品、漸々積功徳

墨染の袖にも深く移りけりをり/\なるゝ花のにほひは

前中納言定家

母の周忌に法華經をみづから書きて卷々の心を詠みて表紙の繪に書かせ侍りけるに、二卷の心を

をしまずよあけぼの霞む花の陰これも思ひのしたの故郷

近衛院御製

譬喩品

我が心みつの車にかけつるは思ひの家を憂しとなりけり

法印定爲

信解品、譬如童子幼稚無識の心を

知らでこそ結び置きけめ總角のいとけなかりし程の契を

僧都源信

藥草喩品

一時にそゝぎし雨にうるひつゝ三草二木も枝さしてけり

皇太后宮大夫俊成

待賢門院の中納言人々勸め侍りて法華經二十八品の歌詠ませ侍りけるに、授記品、於未來世感得成佛の心を詠み侍りける

いか計嬉しかり劔さらでだに來む世の事は知らま欲しきを

安樂行品、深入禅定見十方佛

靜かなる庵をしめて入りぬれば一かたならぬ光をぞ見る

涌出品、從地而涌出

池水の底より出づる蓮葉のいかで濁りに志まずなりけむ

前左兵衛督惟方

壽量品、作是教已復至他國

霧深き秋の深山の木のもとに言の葉のみぞ散り殘りける

權大僧都隆淵

方便現涅槃而實不滅度

しばしこそ影をもかくせ鷲の山高嶺の月は今もすむなり

法印成運

勸發品の心を

見ぬ人のためとやわしの山櫻ふたゝび解ける花の下ひも

前大納言爲家

諸行無常是生滅法と云ふ事を

常ならぬ世にふるはては消えぬとやげに身を捨し雪の山道

前大僧正忠源

仁王經觀空品を讀み侍りける時、郭公を聞きて

聞かぬ間は空しき空の時鳥今日はまことの初音なりけり

瞻西上人

色即是空の心を

くまもなき月を映して澄む水の色も空にぞ變らざりける

權大僧都嚴教

不妄語戒を詠める

草の葉の露も光のあればとて玉と言ひてはいかゞ拾はむ

權少僧都頼齡

草繋比丘を

草の葉をいかなる人の結びてかとかでも露の身をば置き劔

前大僧正良信

唯識論、智與眞如平等云々のこゝろを

雲晴れて空も光を見え分かずひとつに澄める秋の夜の月

覺懷法師

心清淨故有情清淨

にごりなきもとの心にまかせてぞ筧の水の清きをも知る

法印實壽

未得眞恒處夢中

晴れやらぬ心の闇の深き夜にまどろまで見る夢ぞ悲しき

法印顯俊

同疏に覺知一心生死永奇と云ふ事を

押しなべて心一つと知りぬれば浮世にめぐる道も惑はず

前中納言定家

後法性寺入道前關白舍利講の次でに人々に十如是の歌詠ませ侍りけるに、如是力

水なれ棹岩間に浪はちかへども撓まずのぼる宇治の河舟

九條左大臣女

五百弟子品

おろかなる心からこそ我が袖にかけゝる玉を涙とは見れ

法印憲實

まよひこし玉の行くへもあらはれぬ身を空蝉の薄き袂に

西行法師

勸持品

いかにして恨みし袖に宿りけむ出でがたく見し有明の月

道基法師

壽量品

古にかはらず今もてらすなるわしのみ山の月を戀ひつゝ

權律師澄世

末の世をてらしてこそは二月の半の月はくもがくれけれ

前中納言定資

妙音品

身をかへて數多に見えし姿こそ人をもらさぬ誓なりけれ

刑部卿頼輔

後法性寺入道前關白、右大臣に侍りける時、家に百首の歌詠み侍りけるに、釋教の心を

逢ひがたき法の浮木を得たる身は苦しき海に何か沈まむ

源兼氏朝臣

普門品、種々諸惡趣

遂に又いかなる道に迷ふとも契りしまゝのしるべ忘るな

前大僧正忠源

言語道斷心行所滅と云ふ心を

今はまた訪ふべき道ぞなかりける心の奥を尋ねきはめて

前僧正禅助

性助法親王かくれての頃法眼行濟法華經を書きて供養せさせけるに

さこそげにうつす光も照すらめ御法の花のさとり開けて

從三位氏久

前大納言爲家身まかりて後一めぐりに前大納言爲氏如法經書き侍りけるに捧物贈り侍るとて

むかし思ふ御法の花の露ごとに涙や添へてかき流すらむ

皇太后宮大夫俊成

一品經を書寫山に贈るとて添へて侍りける歌の中に

種蒔きし心の水に月澄みてひらけやすらむ胸のはちすも

後嵯峨院御製

思順上人扇を忘れてまかり出でにける後に給はせける

たとへ來し扇もさこそわするらめ月をも月と分かぬ心に

西行法師

無量壽經、易往而無人の心を

西へ行く月をやよそに思ふらむ心に入らぬ人のためには

前大納言爲氏

猶如淨水洗除塵身

おのづから心にこもる塵も無し清きながれの山川のみづ

圓胤上人

觀無量壽經、王宮會の心を

春やときみ山櫻にさき立ちてみやこの花はまづぞ開けし

照空上人

日想觀、應常專心繋念一處

夕づく日入江の蘆の一すぢにたのむ心はみだれざりけり

前大納言爲家

後鳥羽院の下野すゝめ侍りける十六想觀の歌に、水想觀を

底きよく澄ます心の水のおもに結ぶ氷をかさねてぞ見る

源空上人

光明遍照十方世界と云へる心を

月影のいたらぬ里はなけれどもながむる人の心にぞすむ

蓮生法師

下品下生の心を詠み侍りける

道もなく忘れ果てたる故郷に月はたづねて猶ぞすみける

順空上人

佛開未始方便之恩を

雲と見て過ぎこしあとの山櫻匂ひにいまぞ花と知りぬる

俊頼朝臣

阿彌陀經、常作天樂の心を

笛の音に琴の調べの通へるはたなびく雲に風や吹くらむ

往生論、永離身心惱

苦しとも憂しとも物を思ひしは見し夢の世の心なりけり

前權僧正成賢

法印聖覺説法志侍りけるに銀にてはちすの葉を作りて水精の念珠を置きて遣しける

極樂のはちすの上に置く露を我が身の玉と思はましかば

法印聖覺

返し

さとり行く心の玉の光にてうき世のやみを照せとぞ思ふ

前大僧正道寳

眞言の發相尋ね聞きて後詞は聞きしにかはらで心いと深き由申して侍りける人の返事に

深しともおもひな果てそ法の水その源は汲みもつくさじ

權僧正桓守

前大僧正公澄谷川の我がひと流れと詠みて侍りける事を傳法のついでに思ひ出でゝ

結ぶ手の雫ぞきよき谷川のながれは末もにごらざりけり

權大僧都澄俊

代々の跡に及ばざる事を思ひて詠み侍りける

散りのこる法の林の木ずゑには言葉の花の色ぞすくなき

權律師定海

圓宗寺の法華會おこし行はれけるに參りて雪の痛く降り侍りければ

思ひきや庭の白雪踏み分けて絶えにし道の跡つけむとは

前大僧正禅助

題志らず

思はずよ畏き代々の法の道おろかなる身に傳ふべしとは

法皇御製

百首の歌召されしついでに

尋ね入る交野の風を受けてこそ法を傳へし宿はしめけれ

前大僧正道玄

嘉元の百首の歌奉りし時、山

我が山に千世を重ねしかひもなく薄きは三の衣なりけり

待賢門院堀川

久安の百首の歌奉りける時

長き夜に迷ふ障りの雲晴れて月のみかほを見る由もがな

法務公紹

釋教の歌に

まよひこし暗のうつゝを歎きても心の月を頼むばかりぞ

法印成運

人の法文尋ねて侍りける返事に

有明はもと見し空の月ぞとも知るこそやがて悟なりけれ

從三位宣子

題志らず

濁り江の水の心は澄まずともやどれる月の影はくもらじ

皇后宮

照しける光もよそのかげならでもと見し月の都なりけり

宰相典侍

まよふべき闇もあらじな身を去らぬ心の月の曇なければ

談天門院

おのづから法の道ある世の中に又立ち返り迷はずもがな

前大僧正親源

めぐり逢ふ契もうれし説き置ける法の車の跡絶えぬ世に

前大僧正慈鎭

日吉の社に奉りける百首の歌に

通るべき道は流石にある物を知らばやとだに人の思はぬ

法皇御製

百首の歌めされしついでに

久方の空に月日のめぐるこそ迷ひを照すはじめなりけれ

前大僧正範憲

春日の社にて詠み侍りける

和ぐる光を見ても春の日の曇らぬもとのさとりをぞ知る

前大僧正良信

題志らず

明らけき御法に逢へるかひもなく浮世の闇に猶や迷はむ

永福門院

始なく迷ひそめける長き夜の夢を此のたびいかで覺さむ

入道前太政大臣

弘安の百首の歌奉りける時

尋ね入る道こそ今も難からめ迷ふをさぞと知る人のなき

承覺法親王

釋教の心を

迷ひをばたがをしへより知りそめて誠の道の疑はるらむ

前大僧正禅助

悟るべき道も心の内なればよそになしてはいかゞ迷はむ

法印俊譽

受け難き身をしぼりてぞ迷ひこし本の悟の道は知りける

民部卿實教

嘉元の百首の歌奉りし時、釋教

世をてらす光は人を分かねども我が身にくらき法の燈火

前大僧正忠源

題志らず

かゝげ置く法の燈火後の世の長き闇路の志るべともなれ

前大僧正範憲

いかゞして光添へましともすれば消えなむとする法の灯

僧正覺圓

消えぬべき法の灯見るたびにかゝぐる人のなきぞ悲しき

入道二品親王性助

弘安元年百首の歌奉りける時

消えぬべき法の灯かゝげても高野の山の明くるぞを待つ

僧正道順

正和二年、法皇高野山に御幸侍りし時、代々の跡にこえて山の程御輿にもめされざりしかば思ひつゞけ侍りける

高野山みゆきの跡はおほけれどまことの道は今ぞ見えける

覺鑁上人母

いかなりける折にか、申し遣しける

底きよき心の水の澄みぬれば流るゝすゑも西へこそ行け

覺鑁上人

返し

のりつめる人をし渡す舟なれば西の流れに棹やさすらむ

漸空上人

比叡の山を出でゝ淨土の門に入り侍りける頃月を見て

共にこそ山は出でしか同じくば西にもさそへ秋の夜の月

彰空上人

題志らず

さのみよも入る月影も慕はれじ西に心をかけぬ身ならば

如空上人

來迎の粧を思ひて詠み侍りける

豫て思ふむかへの雲のあらましも心にうかぶ西の山の端

律師永觀

題志らず

世を捨てゝあみだ佛を頼む身は終おもふぞ嬉しかりける

千觀法師

極樂の彌陀の誓に救はれて洩るべき人もあらじとぞ思ふ

入道前太政大臣

百首の歌奉りし時

紫の雲をも斯くし待ち見ばやいほりの軒に懸かる藤なみ

菅原在良朝臣

堀河左大臣雲居寺に詣でゝ歌詠み侍りけるに

紫の雲居を願ふ身にしあればかねて迎へを契りこそ置け

二品法親王覺法

高野の庵室の前に藤の花の咲きたるを見て

藤の花我が待つ雲の色なれば心に懸けて今日もながめつ

基俊

覺性法親王觀音を紫雲に乘せ奉りて其の心を歌に詠むべき由申し遣して侍りけるに詠みける

むらさきの雲のおり居る山里に心の月やへだてなからむ

入道二品親王覺性

返し

隔てなき心の月はむらさきの雲ぞともにぞ西へ行きける

前大僧正道玄

題志らず

昔より三國はるかにつたはれる法ぞこの世の守なりける