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新勅撰和歌集卷第六 冬歌
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6. 新勅撰和歌集卷第六
冬歌

大伴池重

題志らず

神無月時雨に逢る紅葉ばのふかば散りなむ風のまに/\

相摸

いつも猶ひまなき袖を神無月濡しそふるは時雨なりけり

在原元方

わびごとや神無月とはなりにけむ涙のごとくふる時雨かな

俊子

大納言清蔭亭子院御賀のため長月の頃俊子に申し付けて色々に營みいそぎ侍りける事過ぎにける神無月のついたち申し遣しける

千々の色に急ぎし秋は過ぎに鳬今は時雨に何を染めまし

曾禰好忠

題志らず

露ばかり袖だにぬれず神無月紅葉は雨とふりにふれども

前中納言匡房

から錦むら/\殘る紅葉ばや秋の形見のころもなるらむ

權大納言宗家

殘しおく秋のかたみのから錦たちはてつるは木枯のかぜ

右近大將通房

後朱雀院の御時うへのをのこども大井川に罷りて紅葉浮水といへる心をよみ侍りけるに中將に侍りける時

水の面に浮べる色のふかければ紅葉を浪とみつる今日哉

九條太政大臣

大井川うかぶ紅葉のにしきをば波の心にまかせてやたつ

中納言資綱

後冷泉院の御時殿上の逍遙に同じ心をよみ侍りける

紅葉ばの流れもやらぬ大井川かはせは浪の音にこそきけ

橘俊綱朝臣

白河院の御時うへのをのこども月前落葉といへる心をよみ侍りけるに

久方の月すみ渡る木がらしにしぐるゝ雨は紅葉なりけり

入道二品親王道助

題志らず

木がらしの紅葉ふき志く庭の面に露も殘らぬ秋の色かな

大藏卿有家

千五百番歌合に

霜おかぬ人目も今はかれはてゝ松にとひくる風ぞ變らぬ

正三位家隆

建保五年内裏の歌合、冬山霜

かさゝぎの渡すやいづこ夕霜の雲居に志ろき峰のかけ橋

藤原信實朝臣

冬關月

須磨のうらに秋をとゞめぬ關守も殘る霜夜の月はみる覽

權中納言師俊

法性寺入道前關白内大臣に侍りける時家の歌合に

露結ぶ霜夜の數のかさなれば耐へでや菊の移ろひぬらむ

延喜御製

延喜十二年十月御前のやり水のほとりに菊植て御遊び侍りける次によませ給うける

水底にかげをうつせる菊の花浪のをるにぞ色まさりける

源公忠朝臣

おく霜に色染め返しそぼちつゝ花の盛は今日ながら見む

上東門院小少將

里に出でゝ時雨しける日紫式部に遣しける

雲間なく詠むる空もかきくらしいかに忍ぶる時雨なる覽

紫式部

返し

理りの時雨の空は雲間あれど詠むる袖ぞかわくよもなき

源師賢朝臣

山路時雨といへる心をよみ侍りける

袖ぬらす時雨なりけり神無月いこまの山にかゝるむら雲

右衛門督爲家

冬の歌よみ侍りけるに

冬きては志ぐるゝ雲の絶間だに四方の木葉のふらぬ日ぞなき

正三位知家

時雨にはぬれぬ木葉もなかり鳬山は三笠のなのみふりつゝ

源兼昌

法性寺入道前關白の家の歌合に

夕づく日いるさの山のたかねより遙にめぐる初時雨かな

藤原公重朝臣

前參議經盛歌合し侍りけるに

山のはに入日の影はさしながら麓の里は志ぐれてぞ行く

平經正朝臣

村雲の外山の峯に懸るかとみれば志ぐるゝ志がらきの里

前内大臣

建保六年内裏の歌合に冬歌

神無月志ぐれにけりなあらち山行きかふ袖も色變るまで

前大僧正慈圓

題志らず

み山木の殘りはてたる梢よりなほ志ぐるゝは嵐なりけり

月におもふ秋ののこりの夕暮に木陰ふきはらふ山颪の風

前大納言忠良

秋の色はのこらぬ山の木がらしに月の桂の影ぞつれなき

殷富門院大輔

空さむみこぼれておつる白玉のゆらぐ程なき霜がれの庭

正三位家隆

ふる里の庭の日影もさえくれてきりの落葉に霰ふるなり

千五百番歌合に

夕づく日さすがにうつる柴の戸に霰吹まく山おろしの風

兵部卿成實

百首の歌よみ侍りける冬の歌

さゆる夜はふるや霰の玉くしげみむろの山の明方のそら

前關白

建保四年百首の歌の中に、冬の歌

岩たゝく瀧津かはなみ音さえて谷の心やよざむなるらむ

式子内親王

題志らず

ふきむすぶ瀧は氷にとぢはてゝ松にぞ風の聲もをしまぬ

おちたぎつ岩きりこえし谷水も冬はよな/\ゆき惱むなり

中宮但馬

關白左大臣の家の百首の歌よみ侍りけるに氷をよめる

ねや寒き寐くたれ髮のながき夜に涙の氷むすぼゝれつゝ

西行法師

題志らず

風さえてよすればやがて氷りつゝ返る浪なき志賀の唐崎

内大臣

寛喜元年女御入内の屏風湖邊氷結

志賀の浦や氷のひまを行く船に波も道あるよとやみる覽

宜秋門院丹後

千五百番歌合に

冬の夜はあまぎる雪に空さえて雲の浪路にこほる月かげ

二條院讃岐

打ちはへて冬はさばかり長き夜に猶殘りける有明のつき

皇太后宮大夫俊成

久安百首の歌奉りける時、冬の歌

月きよみ千鳥鳴くなりおきつ風ふけひのうらの明方の空

權中納言國信

千鳥をよみ侍りける

友千鳥むれて渚にわたるなり沖の志らすに汐やみつらむ

源顯國朝臣

風ふけば難波のうらの濱千鳥あしまに浪の立居こそなけ

源具親朝臣

千五百番歌合に

小夜千どり湊吹きこす鹽風にうらより外の友さそふなり

鎌倉右大臣

題志らず

風寒み夜の更けゆけばいもが島かたみの浦に千鳥鳴く也

前關白

寛喜元年女御入内の屏風、山野雪朝

年さむき松の心もあらはれて花さくいろをみする雪かな

内大臣

あらはれて年ある御代の印にや野にも山にもつもる白雪

權中納言長方

題志らず

敷島やふるの都はうづもれてならしの岡にみ雪つもれり

宮木ひく杣山人はあともなしひばら杉はら雪ふかくして

正三位家隆

たかしまやみをの杣山あとたえて氷も雪もふかき冬かな

賀茂重政

卷もくの檜原の山も雪とぢて正木のかづらくる人もなし

西行法師

高野に侍りける時寂然法師大原に住み侍りけるに遣しける

大原は比良のたかねの近ければ雪ふる程を思ひこそやれ

刑部卿範兼

題志らず

玉椿みどりの色もみえぬまでこせの冬野は雪ふりにけり

清輔朝臣

雲居より散りくる雪は久方の月のかつらの花にやある覽

前關白

百首の歌の雪の歌

いる人のおとづれもせぬ白雪のふかき山路を出づる月影

關白左大臣

少女子の袖ふる雪の白妙によしのゝ宮はさえぬ日もなし

左京太夫顯輔

冬の月をよみ侍りける

雪ふかき吉野の山のたかねより空さへさえて出づる月影

後京極攝政前太政大臣

冬の歌とてよみ侍りける

寂しきはいつも詠めの物なれど雲間の峯の雪のあけぼの

志もとゆふ葛城山のいかならむ都も雪はまなくときなし

鎌倉右大臣

山たかみあけはなれゆく横雲のたえまにみゆる峯の白雪

正三位家隆

あけわたる雲間の星の光まで山の端さむし峯のしらゆき

八條院高倉

建保五年内裏の歌合、冬海雪

里のあまの定めぬ宿もうづもれぬよする渚のゆきの白浪

正三位家隆

わたの原やそ志ま白くふる雪のあまぎる浪にまがふ釣舟

康資王母

高陽院家歌合に

ふみ見ける鳰のあとさへをしきかな氷の上にふれる白雪

曾禰好忠

題志らず

千早ぶる神なび山のならの葉を雪ふりさけて手折る山人

基俊

堀川院に百首の歌奉りける時

奧山の松の葉志ろきふる雪は人だのめなる花にぞ有ける

入道前太政大臣

建保六年内裏の歌合に冬の歌

爪木こる山路も今やたえぬらむ里だにふかき今朝の白雪

參議雅經

かり衣すそ野もふかしはしたかのとかへる山の峯の白雪

兵部卿成實

關白左大臣の家の百首の歌よみ侍りけるに雪の歌

はし鷹のとかへる山の雪の内にそれともみえぬ峯の椎柴

中宮大夫通方

古溪雪をよみ侍りける

谷ふかみ雪のふる道跡たえてつもれる年を志る人ぞなき

前關白

家の歌合に暮山雪といへる心を

くれやすき日影も雪もひさにふる三室の山の松の下をれ

嘉陽門院越前

歌合に寒夜爐火といへる心を

板間より袖に志らるゝ山おろしにあらはれ渡る埋火の影

藤原隆信朝臣

後京極攝政の家の歌合に

いかなれば冬に志られぬ色乍ら松しも風の烈しかるらむ

鎌倉右大臣

題志らず

ものゝふの八十氏川を行く水の流れてはやき年の暮かな

入道二品親王道助

五十首の歌よませ侍りける時惜歳暮といふ心を

とゞめばや流れてはやき年なみのよどまぬ水は柵もなし

正三位家隆

つらかりし袖の別のそれならで惜むをいそぐ年の暮かな

如願法師

飛鳥川かはる淵瀬もある物をせくかた志らぬ年の暮かな

大納言師氏

題志らず

百敷の大宮人もむれゐつゝ去年とやけふを明日は語らむ

貫之

ふる雪を空に幣とぞ手向つる春のさかひに年のこゆれば