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新勅撰和歌集卷第十四 戀歌四
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14. 新勅撰和歌集卷第十四
戀歌四

柿本人丸

題志らず

夕されば君きまさむと待し夜の名殘ぞ今も寢がてにする

足引の山下かぜは吹かねども君がこぬ夜はかねて寒しも

小野小町

來ぬ人を待つと詠めて我宿のなどかこの暮悲しかるらむ

頼まじと思はむ迚はいかゞせむ夢より外に逢夜なければ

在原滋春

忘れなむと思ふ心の悲きは憂もうからぬ物にぞありける

讀人志らず

さり共と思ふ覽こそ悲けれ有るにもあらぬ身を知ずして

謙徳公

女に遣しける

思へばや下ゆふ紐のとけつらむ我をば人の戀しものゆゑ

延喜御製

題志らず

しぐれつゝ色増りゆく草よりも人の心ぞ枯れにけらしな

九條右大臣

むさし野の野中をわけて摘みそめし若紫の色はかぎりか

讀人志らず

梓弓末野の原にとかりする君がゆづるのたえむと思へや

あづさ弓引きみひかずみ昔より心は君によりにしものを

伊勢の蜑の朝な夕なに潜くてふあはびの貝の片思ひして

ゆふだゝみ志ら月山のさね葛のちも必ず逢はむとぞ思ふ

逢坂の關は夜こそ守り増れ暮るゝをなどてわれ頼むらむ

兵部卿元良親王

女に遣しける

淺くこそ人は見るとも關河のたゆる心はあらじとぞ思ふ

平中興女

返し

關川の岩間をくゞる水を淺み絶えぬべくのみ見ゆる心を

讀人志らず

題志らず

櫻あさのをふの下草露しあらば明してゆかむ親は志る共

露霜の上とも志らじ武蔵野の我はゆかりの草葉ならねば

今はとて忘るゝ草のたねをだに人の心にまかせずもがな

人丸

玉鉾の道行きつかれいな莚志きても人をみるよしもがな

讀人志らず

夕されば道たど/\し月待ちて歸れ我背子其間にもみむ

額田王

君待つとわが戀ひをれば我宿の簾うごかし秋かぜぞ吹く

壬生忠岑

脆く共いざ白露に身をなして君があたりの草に消えなむ

躬恒

侘びぬれば今はとものを思へども心志らぬは涙なりけり

采女明日番

采女まちにて右近のつかさのざうしにまかり出づる人を待ち侍りけるに行き過きながら立ち寄らざりければ

三笠山きてもとはれぬ道のべにつらき行手の影ぞ強面き

右近

后宮の御方に候ひける時里にいで侍るとて九條右大臣頭少將に侍りけるに遣しける

逢見ずば契りし程に思出よそへつる玉を身にもはなたで

式部卿敦慶親王家大和

清愼公少將に侍りける時遣しける

戀しさの外に心のあらばこそ人のわするゝ身をも恨みめ

孚子内親王

忍びてもの思ひ侍りける時

露しげき草の袂をまくらにて君まつ虫の音をのみぞ鳴く

中務

身の上も人の心も志らぬまはことぞ共なき音をのみぞ鳴く

ありしより亂れ増りて蜑のかる物思ふ身共君は知らじな

二條太皇太后宮大貳

題志らず

風吹けば空にたゞよふ雲よりもうきて亂るゝわが心かな

あらじかし此世の外を尋ぬとも泪の袖にかゝるたぐひは

周防内侍

堀河院に艷書の歌めしける時

人志れぬ袖ぞ露けき逢事のかれのみまさる山のかげぐさ

大納言忠教

返し

奥山の下陰草はかれやする軒端にのみはおのれなりつゝ

權中納言俊忠

同じ艷書とてよみ侍りける

三島江のかりそめにさへ眞菰草ゆふ手に餘る戀もする哉

前關白

百首の歌よみ侍りける名所戀

涙河みなわを袖にせきかねて人のうきせに朽やはてなむ

うしと思ふ物からぬるゝ袖のうら左みぎにも浪や立つ覽

侍從具定母

題志らず

ほし侘びぬ蜑の刈藻に鹽たれて我から濡るゝ袖のうら浪

前大納言隆房

蜑の刈るみるを逢ふにてありしだに今は渚によせぬ浪哉

宜秋門院丹後

後法性寺入道前關白の家の百首の歌よみ侍りけるに

みるまゝに人の心は軒端にて我のみ志げるわすれ草かな

俊惠法師

忘るなよ忘れじとこそ頼めしか我やはいひし君ぞ契りし

二條院讃岐

逢不遇戀の心を

目の前にかはる心を志ら露のきえばともにと何思ひけむ

入道前太政大臣

題志らず

忘るなよ消えばともにと云ひ置きし末野の草に結ぶ白露

鎌倉右大臣

我戀はあはでふる野の小笹原いく夜迄とか霜の置くらむ

前大納言隆房

辿りつゝわくる袂にかけてけり行きもならはぬ道芝の露

寂蓮法師

花薄ほにだに戀ひぬ我中の霜おくのべとなりにけるかな

藤原行能朝臣

長月の時雨にぬれぬ言の葉もかはるならひの色ぞ悲しき

宮内卿

問へかしなしぐるゝ袖の色に出て人の心の秋になる身を

八條院高倉

吹くからに身にぞ志みける君はさは我をや秋の木枯の風

俊惠法師

我妹子をかた待つ宵の秋風は荻の上葉をよきて吹かなむ

入道前太政大臣

秋戀といふ心をよみ侍りける

萩のうへの雁の涙をかこつとも戀に色こき袖やみゆらむ

紅葉せぬ山にもいろやあらはれむ時雨にまさる戀の涙を

内大臣

諸人の袖まで染めよ立田姫よその千入をたぐひともみむ

侍從具定母

題志らず

なれ/\て秋に扇をおく露のいろもうらめし閨の月かげ

中宮但馬

月草のうつろふ色の深ければ人のこゝろの花ぞ志をるゝ

藤原教雅朝臣

おもかげはなほ有明の月草に濡れてうつろふ袖のあさ露

藤原資季朝臣

白妙の我衣手をかたしきてひとりや寐なむ妹を戀ひつゝ

民部卿成範

戀の歌あまたよみ侍りけるに

思ひきやまだうら若き初草の秋をも待たで枯れむ物とは

侍從具定母

問へかしな淺茅吹きこす秋風にひとりくだくる露の枕を

法印幸清

よしさらば茂りもはてねあだ人のまれなる跡の庭の蓬生

寂蓮法師

恨みわび思ひたえてもやみなましなに俤の忘れがたみぞ

俊惠法師

死なばやと仇にも云はじ後の世は俤だにも添はじと思へば

左近中將公衡

契りしにかはる恨も忘られてその面影はなほとまるかな

前大納言忠良

世のうさや聞えこざらむ面影は巖の中におくれ志もせじ

みあれの宣旨

題志らず

大空に戀しき人も宿らなむながむるをだに形見と思はむ

和泉式部

見えもせむ見もせむ人を朝毎におきては向ふ鏡ともがな

塵のゐる物と枕はなりにけり何のためにか打ちも拂はむ

權中納言定頼母

九條太政大臣中將に侍りける時たえ侍りて後枕に松かきたるを見侍りて

心には忍ぶと思ふを志きたへの枕にてこそ松は見えけれ

藤原恒興女

亭子院に奉りける

わくらばにまれなる人の手枕は夢かとのみぞ誤たれける

藤原高光

女に遣しける

片時も忘れやはするつらかりし心の更にたぐひなければ

藤原惟成

題志らず

かたしきの衣をせばみ亂れつゝ猶つゝまれぬ袖のしら玉

和泉式部

逢事を玉緒にする身にしあれば絶ゆるをいかゞ哀と思はむ

緒を弱み亂れて落つる玉とこそ涙も人の目には見ゆらめ

讀人志らず

逢ふことを今は限と思へども涙はたえぬ物にぞありける

よしさらば戀しきことを忍びみて耐へずは耐ぬ命と思はむ

梓弓ひきつのべなるなのりそのたれ憂物と知せそめけむ

別れての後ぞ悲しき涙河そこもあらはになりぬと思へば

にほ鳥の沖中河はたえぬとも君に語らふこと盡きめやは

行く船の跡なき浪にまじりなば誰かは水の泡とだに見む

立ちて思ひ居てもぞ思ふ紅のあか裳たれひきいにし姿を

呉竹のしげくも物を思ふかな一夜へだつる節のつらさに