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新勅撰和歌集卷第十 釋教歌
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10. 新勅撰和歌集卷第十
釋教歌

弘法大師

土佐國室戸といふ所にて

法性の室戸といへどわがすめば有爲の浪風よせぬ日ぞなき

空也上人

蓮露をよみ侍りける

有漏の身は草葉にかゝる露なるを頓て蓮に宿らざりけむ

大僧正行基

伊駒の山の麓にてをはりとり侍りけるに

法の月久しくもがなと思へ共さ夜更けにけり光かくしつ

千觀法師

題志らず

法の身の月は我身を照せども無明の雲のみせぬなりけり

大僧正觀修

尼の戒うけ侍りけるに

念ごろに十の戒めうけつれば五のさはりあらじとぞ思ふ

大僧都深觀

大僧正明尊山階寺の供養の導師にて草木成佛のよしとき侍りけるを聞きてあしたに遣しける

草木まで佛の種と聞きつればこのみとならむことも頼もし

大僧正明尊

返し

たれも皆佛の種ぞ行はゞこのみながらもならざらめやは

錫杖の心をよみ侍りける

六のわを離れて三世の佛にはたゞ此杖にかゝりてぞなる

權大納言行成

法性寺入道前攝政の家に法花經廿八品の歌よませ侍りけるに、序品

昔みし花の色々散りかふはけふのみ法のためしなるらむ

法成寺入道前攝政太政大臣

五百弟子品

きて作る人無りせば衣手に斯る玉をも知らずやあらまし

少僧都源信

二十八品の歌よみ侍りけるに、同じ品

袖の上の玉を涙と思ひしはかけゝむ君にそはぬなりけり

京極前關白家肥後

依釋迦遺教念彌陀といふ心をよみ侍りける

教へおきて入にし月の無りせば西に心をいかでかけまし

瞻西上人

提婆品の心をよみ侍りける

法の爲になふ薪にことよせて即てこのよをこりぞはてぬる

冷泉院太皇大后宮

觀音院に御封よせさせ給ひける時の御歌

けふたつる民の烟の絶えざらば消えて儚き跡を問はなむ

選子内親王

發心和歌集の歌 般若心經

世々をへて説きくる法はおほかれど花ぞ眞の心なりける

普賢十願請佛住世

みな人の光をあふぐ空のごと長閑にてらせ雲がくれせで

藥王品、盡是女身

まれらなる法を聞きつる道しあれば憂を限と思ひぬる哉

式子内親王

百首の歌の中に大悲代受苦の心を

けちがたき人の思に身をかへて仄かにさへや立増るらむ

皇太后宮大夫俊成

待賢門院中納言人々すゝめて法華經二十八品の歌よませ侍りけるに譬喩品、其中衆生悉是吾子の心をよめる

孤子と何歎きけむ世の中にかゝるみ法のありけるものを

隨喜功徳品

谷河の流の末をくむ人もきくはいかゞは志るしありける

美福門院極樂六時讃を繪にかゝせられ侍りてかくべき歌つかうまつりけるに虚空界をとび過ぎて觀喜國をさしてゆかむ

手折りつる花の露だにまだひぬに雲の幾重を過ぎてきぬ覽

白銀光さかりにて普賢大士來至す

白妙に月か雪かと見えつるはにしをさしける光なりけり

前大僧正慈圓

舍利報恩講といふことを行ひ侍りけるに

けふの法は鷲の高嶺に出でし日の隱れて後の光なりけり

さとり行く雲は高嶺に晴にけりのどかに照せ秋の夜の月

金剛界の五部をよみ侍りける佛の部

今はうへに光もあらじもち月と限るになれば一きはの空

塵點本の心をよみ侍りける

ゐる塵の積りて高くなる山の奧より出でし月をみるかな

後法性寺入道前關白太政大臣

家に百首の歌よませ侍りける時、五智の大圓鏡智の心を

曇なくみがきあらはす悟こそまどかにすめる鏡なりけれ

藤原隆信朝臣

阿含經

ありとやは風待つ程を頼むべきを鹿鳴く野に置ける白露

藤原盛方朝臣

安樂行品

山深みまことの道に入る人は法の花をや志をりにはする

法印慶忠

法華經提婆品の心を

法の爲身を志たがへし山人にかへりて道の知べをぞする

權大納言宗家

紫式部のためとて結縁經供養し侍りける所に藥草喩品をおくり侍るとて

法の雨に我もや濡れむむつまじきわか紫の草のゆかりに

八條院高倉

廿八品の歌よみ侍りけるに、壽量品

身を捨て戀ひぬ心ぞうかりける岩にも生ふる松は有世に

陀羅尼品

天津空雲のかよひ路それながら少女の姿いつかまちみむ

寂然法師

勸發品、受持佛語作禮而去

散々にわしの高嶺をおりぞ行くみ法の花を家づとにして

殷富門院大輔

[_]
[7]A
王子の心をよみ侍りける

身をすつる衣かけゝる竹の葉のそよいか計悲しかりけむ

後京極攝政前太政大臣

百首の歌よみ侍りけるに、十界の歌人界

夢の世に月日儚く明け暮れて又は得難き身をいかにせむ

菩薩

秋の月もちは一夜の隔てにてかつ/\影ぞ殘るくまなき

源季廣

十二光佛の心をよみ侍りけるに、不斷光佛

月影は入る山の端もつらかりき絶えぬ光をみる由もがな

鑁也法師

如來無邊誓願仕の心をよめる

かず志らぬ千々の蓮にすむ月を心の水にうつしてぞみる

信生法師

中道觀の心をよみ侍りける

ながむれば心の空に雲消えてむなしき跡にのこる月かげ

寂然法師

悲鳴

[_]
[8]B
咽痛戀本群といへる心をよめる

立ちはなれ小萩が原に鳴く鹿は道踏みまどふ友や戀しき

寂超法師

自惟孤露の心を

とことはに頼む影なくねをぞ鳴く鶴の林の空を戀ひつゝ

法眼宗圓

十戒の歌よみ侍りけるに不殺生戒

今日よりは狩にも出づな雉子鳴く交野のみのは霜結ぶなり

不偸盜戒

こえじ唯同じかざしの名もつらし龍田の山の夜はの白波

不慳貪戒

苔の下に朽せぬ名社悲しけれとまればそれも惜む習ひに

蓮生法師

經教如鏡の心をよめる

後の世をてらす鏡の影を見よ志らぬ翁はあふかひもなし

寂然法師

十如是の心をよみ侍りける本末究竟等

小笹原有るか無きかの一ふしに本も末葉も變らざりけり

後京極攝政前太政大臣

後法性寺入道前關白舍利講の次でに人々に十如是の歌よませ侍りけるに如是躰の心を

春の夜の烟に消えしつきかげの殘る姿も世をてらしけり

二條院讃岐

如是性

すむとても思ひも志らぬ身のうちに慕ひて殘る有明の月

殷富門院新中納言

大輔人々に十首の歌すゝめて天王寺に詣でけるによみ侍りける

とゞめける形見を見てもいとゞしく昔戀しき法の跡かな

郁芳門院安藝

天王寺の西門にてよみ侍りける

障りなくいる日をみても思ふ哉是こそ西の門出なりけれ

後白河院京極

老の後天王寺にこもり居て侍りける時物にかきつけて侍りける

西の海いり日を志たふ門出して君の都にとほざかりぬる

高辨上人

無き人の手にものかきてと申しける人に光明眞言をかきて送り侍るとて

かきつくる跡に光の輝けばくらき道にもやみは晴るらむ

何事かと申したりける人の返事に遣しける

清瀧やせゞのいはなみ高尾やま人も嵐のかぜぞ身にしむ

夢の世の現なりせばいかゞせむ覺め行程をまてば社あれ

住房の西の谷にいはほあり、定心石と名づく。松あり、繩床樹と名づく。もと二枝にして座するにたよりあり正月。雪ふる日少しひまあるほど座禪するに松の嵐はげしく吹きて墨染の袖に霰の降りつもりて侍りけるをつゝみて石の上をたつとて衣重明珠のたとひを思ひいでゝよみ侍りける

松のした巖根の苔にすみぞめの袖のあられやかけし白玉
[_]
[7] The kanji in place of A is not available in the JIS code table. The character is New Nelson 1027 or Nelson 1087.
[_]
[8] The kanji in place of B is not available in the JIS code table. The character is kanji number 3437 in Morohashi Tetsuji, ed., Dai Kan-Wa jiten (Tokyo: Taishukan shoten, 1966-68).