University of Virginia Library

9. 新勅撰和歌集卷第九
神祇歌

中納言當時

延喜六年日本紀竟宴の歌、下照姫

からごろも下照姫の妻戀ぞあめに聞ゆるたづならぬ音は

中納言維時

天慶六年内竟宴の歌、國常立尊

天の下をさむる始むすびおきて萬代迄に絶えぬなりけり

源公忠朝臣

月夜見尊

月讀の天にのぼりて闇もなく明らけき世をみるぞ樂しき

橘仲遠

天兒屋根尊

朝な/\てる日の光ます毎にこやねの尊いつかわすれむ

神樂のとりものゝ歌

さゝわけば袖社やれめとね川の石は踏む共いざ河原より

弓といへば志なゝき物を梓弓まゆみつき弓ひと品もなし

二條太皇太后宮大貳

堀河院の御時宮いでさせ給へりける時うへのをのこども參りてわざとならぬ物の音など聞え侍りけるに内の御遊に宮人うたはせ給ひけるを思ひ出でゝよみ侍りける

ゆふしでや神の宮人玉さかにもり出し夜はゝ猶ぞ戀しき

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[6]A
子内親王家宣旨

庚申の夜御神樂の次でに女房歌合し侍りけるに

ゆふしでゝいはふ齋の宮人は代々に枯れせぬ榊をぞとる

京極前關白太政大臣

閏三月侍りける年齋院に參りて長官めし出て女房の中に遣しける

春はなほ殘れるものを櫻花しめの内には散りはてにけり

法成寺入道前攝政太政大臣

賀茂の臨時の祭をよみ侍りける

いかなれば挿頭の花は春ながらをみの衣に霜の置くらむ

貫之

同じ心をよみ侍りける

山藍もてすれる衣のあかひもの長くぞ我は神につかふる

三條入道左大臣

道因がすゝめ侍りける廣田の社の歌合に社頭雪をよみ侍りける

山藍もてすれる衣にふる雪はかざす櫻のちるかとぞみる

兵部卿成實

臨時の祭の還立の御神樂をよみ侍りける

立ち返る雲居の月もかげそへて庭火うつろふ山あゐの袖

大納言通具

神樂をよみ侍りける

ありあけの空まだ深くおく霜に月影さゆるあさくらの聲

正三位家隆

建保三年百首の歌奉りけるに、三室山

榊とりかけし三室のます鏡そのやまの端と月もくもらず

後京極攝政前太政大臣

百首の歌よみ侍りけるに

すゞか河八十瀬白浪分けすぎて神路の山の春をみしかな

春日山もりの下道ふみ分けて幾たびなれぬさを鹿のこゑ

僧正行意

建保六年内裏の歌合の秋の歌

春日山やま高からし秋ぎりのうへにぞ鹿の聲はきこゆる

前大僧正慈圓

日吉の社垂跡の心をよみ侍りける

志賀のうらにいつゝの色の波たてゝ天くだりける古の跡

朝日さすそなたの空の光こそ山陰てらすあるじなりけれ

うけとりき憂身なりとも惑はすな御法の月の入がたの空

述懷の歌よみ侍りけるに

わが頼む神もや袖をぬらすらむはかなくおつる人の涙に

祝部成仲

社頭にて八十賀つかうまつるによみ侍りける

數ふれば八十の春になりに鳬しめの内なる花をかざして

土御門内大臣

千五百番歌合に

やほよろづ神の誓もまことには三世の佛の惠みなりけり

參議雅經

葵をよみ侍りける

かけて祈る其神山の山人と人もみあれのもろかづらせり

祝部忠成

社頭に奉りける述懷の歌

霜やたび置けど緑の榊葉にゆふしでかけて世を祈るかな

寂延法師

題志らず

紅葉ばのあけのたま垣いく秋の時雨の雨に年ふりぬらむ

賀茂重政

祝の心をよみ侍りける

かみ山の榊も松もしげりつゝ常盤かきはのいろぞ久しき

荒木田延成

述懷の歌よみ侍りけるに

やへ榊しげき惠の數そへていやとしのはに君をいのらむ

平泰時

駿河國に神拜し侍りけるにふじの宮によみて奉りける

千早ふる神代の月の冴えぬれば御手洗河も濁らざりけり

卜部兼直

寛喜三年伊勢の勅使たてられ侍りける當日まで雨はれ難く侍りけるに宣旨承りて本宮にこもりて祈請し侍りけるによみ侍りける

天津風あめのやへ雲吹き拂へ早や明らけき日の御影みむ

うまの時より雨はれ侍りにけり。

法印慶算

神樂をよみ侍りける

里かぐら嵐はるかに音づれてよその寐覺も神さびにけり

惠慶法師

題志らず

霜枯や楢の廣葉をやひらでにさすとぞ急ぐ神のみやつこ

能因法師

みづ垣にくちなし染の衣きて紅葉にまじる人やはふりこ
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[6] The kanji in place of A is not available in the Shift-JIS code table. The kanji is Morohashi's kanji number 24776. Tetsuji Morohashi, ed., Dai Kan-Wa jiten (Tokyo: Taishukan shoten, 1966-68).