University of Virginia Library

Search this document 

  
 1. 
 2. 
 3. 
 4. 
 5. 
 6. 
 7. 
 8. 
 9. 
 10. 
collapse section11. 
新勅撰和歌集卷第十一 戀歌一
 630. 
 631. 
 632. 
 633. 
 634. 
 635. 
 636. 
 637. 
 638. 
 639. 
 640. 
 641. 
 642. 
 643. 
 644. 
 645. 
 646. 
 647. 
 648. 
 649. 
 650. 
 651. 
 652. 
 653. 
 654. 
 655. 
 656. 
 657. 
 658. 
 659. 
 660. 
 661. 
 662. 
 663. 
 664. 
 665. 
 666. 
 667. 
 668. 
 669. 
 670. 
 671. 
 672. 
 673. 
 674. 
 675. 
 676. 
 677. 
 678. 
 679. 
 680. 
 681. 
 682. 
 683. 
 684. 
 685. 
 686. 
 687. 
 688. 
 689. 
 690. 
 691. 
 692. 
 693. 
 694. 
 695. 
 696. 
 697. 
 698. 
 699. 
 700. 
 701. 
 702. 
 703. 
 704. 
 705. 
 706. 
 707. 
 708. 
 709. 
  
 12. 
 13. 
 14. 
 15. 
 16. 
 17. 
 18. 
 19. 
 20. 

11. 新勅撰和歌集卷第十一
戀歌一

讀人志らず

題志らず

夢にだにまだみぬ人の戀しきは空に志めゆふ心ち社すれ

古はありもや志けむ今ぞ志るまだみぬ人をこふる物とは

かすが山朝居る雲のおぼつかな志らぬ人にも戀ひ渡る哉

あしわかの浦にきよする白浪の志らじな君は我思ふとも

石見がた恨ぞ深き沖津なみよする玉藻にうづもるゝ身は

難波江のこやに夜更て蜑のたく忍びにだにも逢由もがな

朝な/\蜑のさをさすうら深み及ばぬ戀も我はするかな

業平朝臣

女に遣しける

いへばえにいはねば胸に騷がれて心一つに歎くころかな

權中納言敦忠

始めて人に遣しける

くも居にて雲居に見ゆる鵲の橋をわたると夢にみしかな

讀人志らず

返し

夢ならばみゆるなるらむ鵲はこの世の人のこゆる橋かは

忠義公

下臈に侍りける時本院の侍從に遣しける

色に出でゝ今ぞ知らする人志れず思ひ侘びつる深き心を

中納言朝忠

中將に侍りける時おなじ女に遣しける

いはでのみ思ふ心を志る人はありやなしやと誰かとはまし

本院侍從

返し

知る人や空になからむおもふなる心のそこの心ならでは

太宰帥敦道親王

和泉式部に遣しける

打ち出でも有りにし物を中々に苦しきまでも歎くけふ哉

和泉式部

返し

けふのまの心にかへて思やれ詠めつゝのみすぐす月日を

藤原高光

人のむすめと物語し侍りけるを女のおや聞きつけて諸共にゐあかし侍りにける旦に遣しける

戀やせむ忘やしなむぬともなくねず共なくて明しつる哉

道信朝臣

題志らず

いつまでと我世中も志らなくにかねても物を思はする哉

相摸

いかでかは天津空にもかすむべき心のうちにはれぬ思を

藤原義孝

五節の頃舞姫のさし櫛をとりて返し遣はすとて

人志れぬ心ひとつに歎つゝつげのをぐしぞさす空もなき

太宰大貳高遠

五節の所に侍りける女いみじう見えぬと申しけるあしたに日かげにつけて遣はしける

日かげさす少女の姿みてしよりうはの空なる物を社思へ

躬恒

題志らず

山陰に作るわさ田のみ隱れてほに出ぬ戀に身をや盡さむ

業平朝臣

女に遣しける

袖ぬれて蜑の苅ほす渡つみのみるをあふにて止まむとやする

讀人志らず

返し

巖間より生るみるめしつれなくば潮ひ潮滿ちかひや有りなむ

小町

題志らず

湊入の玉つくりえにこぐ船の音こそたてね君をこふれど

みるめ苅る蜑の往來の湊路に勿來の關もわが据ゑなくに

讀人志らず

いとへども猶すみの江の浦にほす網のめ繁き戀もする哉

戀ひ渡る衣の袖は潮みちてみるめかづかぬ浪ぞたちける

權大納言公實

堀河院艷書の歌を人々にめして女房のもとに遣はして返歌をめしける時よみ侍りける

年ふれどいはでくちぬる埋木のおもふ心はふりぬ戀かな

康資王母

返し

ふかゝらじみなせの河の埋木は下の戀ぢに年ふりぬとも

神祇伯顯仲

戀十首よみ侍りけるに

戀の山志げきをざゝの露分けて入そむるよりぬるゝ袖哉

待賢門院堀河

久安の百首の歌奉りけるに

斯とだにいはぬに繁き亂芦のいかなる節に知せ初めまし

袖ぬるゝ山井の清水いかでかは人め漏さで影をみるべき

皇太后宮大夫俊成

ちらばちれいはせの杜の木枯に傳へやせまし思ふ言の葉

涙河袖のみわたにわきかへり行く方もなき物をこそ思へ

清輔朝臣

おのづから行合のわせを假初にみし人故やいねがてにせむ

我戀をいはで知する由もがな漏さばなべて世にも社しれ

權大納言宗家

二條院の御時戀の歌めしけるに

人目をば包むと思ふにせきかねて袖に餘るは涙なりけり

前大納言資賢

百首の歌よみ侍りけるに忍戀の心を

思ひやる方こそなけれおさふれど包む人めにあまる涙は

後法性寺入道前關白太政大臣

[_]
[9] 家に首の歌
よみ侍りけるに

紅の涙を袖にせきかねてけふぞおもひのいろにいでぬる

皇嘉門院別當

思河岩間によどむ水ぐきをかきながすにも袖はぬれける

宜秋門院丹後

袖の上の涙ぞ今はつらからぬ人にしらるゝ始めと思へば

皇太后宮大夫俊成

戀の歌よみ侍りけるに

みしめ引く卯月のいみをさす日より心にかゝる葵草かな

刑部卿頼輔歌合し侍りけるによみて遣しける忍戀の歌

いかにしてしるべなく共尋ねみむ忍ぶの山のおくの通路

西行法師

題志らず

東路や忍のさとにやすらひて勿來の關をこえぞわづらふ

正三位家隆

人しれず忍ぶの浦にやく鹽の我が名はまだき立つ煙かな

宜秋門院丹後

百首の歌奉りける戀の歌

いはぬまは心ひとつにさはがれて煙も浪も胸にこそたて

源師光

我心いかなる色に出でぬらむまだみぬ人を思ひそめつゝ

權中納言定家

松が根をいそべの浪の打つたへに顯れぬべき袖の上かな

前中納言匡房

堀河院に百首の歌奉りける時忍戀

春くれば雪の下草したにのみ萠出づる戀を知る人ぞなき

藤原仲實朝臣

逢事のかた野のをのゝしの薄ほに出ぬ戀は苦しかりけり

基俊

浪まより明石の浦に漕く船のほには出ずも戀ひ渡るかな

清輔朝臣

久安百首の歌奉りけるに、戀の歌

年ふれどしるしも見えぬ我戀や常磐の山の時雨なるらむ

大納言通具

題志らず

人しれず思ひそめつゝ知らせばや秋の木の葉の露計だに

寂蓮法師

紅の千しほもあかず三室山いろに出づべき言の葉もがな

參議雅經

まさきちる山の霰の玉かづらかけし心やいろに出づらむ

右衛門督爲家

奧山の日蔭の露の玉かづら人こそしらねかけてこふれど

御製

うへのをのこども未見戀といへる心をつかうまつりける次でに

山の端を分出づる月のはつかにも見て社人は人を戀ふなれ

大納言實家

戀の歌よみ侍りけるに

踏みそむる戀路の末にあるものは人の心の岩木なりけり

正三位經家

筑波山端山しげやま尋ねみむ戀にまされる歎きありやと

入道前太政大臣

入道二品親王の家の五十首の歌よみ侍りけるに寄烟戀

富士の根の空にや今はまがへまし我身にけたぬ空し煙を

前關白

百首の歌よみ侍りけるに、忍戀

我戀のもえて空にも紛ひなばふじの烟といづれたかけむ

關白左大臣

わが戀は涙を袖にせきとめて枕のほかにしるひともなし

八條院六條

題志らず

わが床の枕もいかに思ふらむ涙かゝらぬ夜半しなければ

二條院讃岐

千五百番歌合に

蛙なく神なび河に咲く花のいはぬいろをも人のとへかし

殷富門院大輔

戀の歌よみ侍りけるに

打ち忍び落つる涙の白玉のもれこぼれても散りぬべき哉

權大納言家良

忍びかね涙の玉の緒をたえて戀のみだれぞ袖にみえ行く

正三位家隆

前關白の家の歌合に寄絲戀

誰が爲に人のかた糸より懸て我玉のをの絶えむとすらむ

後京極攝政前太政大臣

家の歌合に

芳野川はやき流をせく岩のつれなき中に身をくだくらむ

藤原頼氏朝臣

戀の歌あまたよみ侍りけるに

つれなさの例はありと吉野川いはとがしはをあらふ白浪

藤原盛方朝臣

前參議經盛歌合し侍りけるに

隅田河せぎりに結ぶ水の泡のあはれ何しに思ひそめけむ

法性寺入道前關白家三河

左京大夫顯輔の家の歌合に

人志れず音をのみなけばころも河袖の柵せかぬ日ぞなき

源有房朝臣

平經正朝臣の歌合侍りけるに、戀の歌

涙河そでの柵かけとめてあはぬうき名をながさずもがな

道因法師

つらきにも憂にも落つる涙河いづれの方か淵瀬なるらむ

平重時

題志らず

こがれ行く思をけたぬ涙河いかなるなみの袖ぬらすらむ

如願法師

百首の歌奉りけるに、戀の歌

山河の石まの水のうすごほりわれのみ下にむせぶ頃かな

權大納言忠信

建保六年内裏の歌合に、戀の歌

卷向のあなしの河のかは風になびく玉藻の亂れてぞ思ふ

侍從具定母

題志らず

流れての名をさへ忍ぶ思川あはでも消えね瀬々のうたかた

正三位家隆

思川みをはや乍ら水の泡の消えてもあはむ浪のまもがな

權中納言長方

戀の心をよみ侍りける

落ちたぎつ早瀬の河も岩ふれて志ばしは淀む涙ともがな

皇太后宮大夫俊成

世とともに絶えずも落つる涙かな人は哀れもかけぬ袂に
[_]
[9] SKT reads 家に百首の歌.