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新勅撰和歌集卷第五 秋歌下
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5. 新勅撰和歌集卷第五
秋歌下

讀人志らず

寛平の御時きさいの宮の歌合の歌

秋の夜のあまてる月の光にはおくしら露を玉とこそみれ

能因法師

九月十三夜の月をひとり眺めて思ひ出で侍りける

さらしなやをば捨山に旅寐してこよひの月を昔みしかな

小野小町

題志らず

秋の月いかなる物ぞわが心何ともなきにいねがてにする

選子内親王家宰相

九月月あかき夜よみ侍りける

秋のよの露おきまさる草村にかげうつりゆく山のはの月

道信朝臣

隈なき月を眺めあかしてよみ侍りける

いつとなく詠めはすれど秋のよのこの曉はことにもある哉

菅原在良朝臣

對月惜秋といへる心をよみ侍りける

月ゆゑに長き夜すがら詠むれどあかずも惜しき秋の空哉

侍從具定母

秋の歌よみ侍りけるに

うき世をも秋の末葉の露の身におきどころなき袖の月影

按察使兼宗

有明の月の光のさやけさはやどすくさ葉の露やおきそふ

左近中將伊平

三室山した草かけておく露に木のまの月の影ぞうつろふ

後京極攝政前太政大臣

百首の歌の中に

槇の戸のさゝで有明になりゆくを幾夜の月ととふ人もなし

參議雅經

建保二年秋の歌奉りける時

身を秋の我世や痛くふけぬ覽月をのみやは待となけれど

正三位家隆

限あれば明けなむとする鐘の音に猶長き夜の月ぞ殘れる

權大僧都有果

入道二品親王の家にて秋月の歌よみ侍りけるに

風さむみ月は光ぞまさりける四方の草木の秋のくれがた

小侍從

後京極攝政百首の歌よませ侍りけるに

いくめぐり過行く秋にあひぬらむ變らぬ月の影を眺めて

八條院六條

秋の夜は物思ふことのまさりつゝいとゞ露けきかたしきの袖

京極前關白家肥後

秋の夜人々もろ共に起きゐて物語し侍りけるに

秋の夜を明かしかねては曉の露とおきゐてぬるゝ袖かな

右衛門督爲家

うへのをのこども秋十首の歌つかうまつりけるに

片岡の杜の木の葉も色付ぬわさ田のをしね今やからまし

讀人志らず

寛平の御時きさいの宮の歌合の歌

唐衣ほせど袂のつゆけきはわが身の秋になればなりけり

人丸

題志らず

秋田もるひたの庵に時雨ふりわが袖ぬれぬほす人もなし

躬恒

秋深き紅葉の色のくれなゐにふり出つゝ鳴く鹿の聲かな

俊子

兵部卿元良の御子しがの山越の方に時々かよひ住み侍りける家をみにまかりて書き付け侍りける

狩にのみくる君待つと振出つゝ鳴く志賀山は秋ぞ悲しき

中納言家持

題志らず

秋萩の移ろふをしとなく鹿のこゑ聞く山は紅葉しにけり

鎌倉右大臣

雲のゐる梢はるかに霧こめて高師のやまに鹿ぞ鳴くなる

前大僧正慈圓

むべしこそ此頃ものは哀なれ秋ばかりきくさをしかの聲

前參議經盛

歌合し侍りけるに鹿をよみ侍りける

峯になく鹿の音近く聞ゆなり紅葉吹きおろす夜はの嵐に

八條院高倉

建保六年内裏の歌合、秋の歌

我庵は小倉の山の近ければ憂世をしかとなかぬ日ぞなき

權中納言實守

鹿の歌とてよみ侍りける

大江山遙におくる鹿の音はいく野をこえて妻をこふらむ

六條入道前太政大臣

建保五年四月庚申五首の歌、秋朝

大かたの秋をあはれと鳴く鹿の涙なるらし野べのあさ露

正三位知家

澗底鹿といふ心をよみ侍りける

さを鹿のあさ行く谷の埋れ水影だにみえぬ妻をこふらむ

如願法師

題志らず

さを鹿の鳴く音もいたく更けにけり嵐の後の山のはの月

大貳三位

後冷泉院御子の宮と申しける時梨壺の御前の菊面白かりけるを月あかき夜いかゞと仰せられければ

いづれをかわきて折るべき月影に色みえまがふ白菊の花

權大納言長家

旦に參りて侍りけるに此歌の返しつかうまつるべきよし仰せられければよみ侍りける

月影に折りまどはるゝ白菊は移ろふ色やくもるなるらむ

天暦御製

康保三年内裏の菊合に

かげ見えて汀にたてる白菊はをられぬ浪の花かとぞみる

右兵衛督公行

崇徳院月照菊花といふ心をよませ給うけるに

月かげに色もわかれぬ白菊は心あてにぞ折るべかりける

按察使公通

月影もかをるばかりをしるしにて色はまがひぬ白菊の花

鎌倉右大臣

月前菊といふ心をよみ侍りける

ぬれて折る袖の月かげふけにけり籬の菊の花のうへの露

入道二品親王道助

題志らず

わが宿の菊のあさ露色もをしこぼさでにほへ庭の秋かぜ

權大納言忠信

秋の歌よみ侍りけるに

なく/\も行きてはきぬる初雁の涙の色をしる人ぞなき

鎌倉右大臣

渡の原八重のしほ路にとぶ雁のつばさの浪に秋風ぞ吹く

如願法師

月になく雁の羽風のさゆる夜に霜をかさねてうつ衣かな

眞昭法師

嵐ふく遠山がつのあさ衣ころも夜さむのつきにうつなり

曾禰好忠

擣衣の心をよみ侍りける

衣うつ砧のおとをきくなべに霧立つそらに雁ぞ鳴くなる

貫之

から衣うつ聲きけば月きよみまだ寐ぬ人を空にしるかな

皇太后宮大夫俊成

久安百首の歌奉りける秋の歌

衣うつ響は月のなになれや冴えゆく儘にすみのぼるらむ

入道前太政大臣

百首の歌奉りける秋の歌

風さむき夜はの寐覺のとことはになれても寂し衣うつ聲

前大納言隆房

今こむと頼めし人やいかならむ月になく/\衣うつなり

承明門院小宰相

題志らず

月のいろも冴えゆく空の秋風にわが身ひとつと衣うつなり

後京極攝政前太政大臣

月五十首の歌よみ侍りけるに

獨寐の夜さむになれる月みれば時しもあれや衣うつこゑ

權大納言家良

秋の歌よみ侍りけるに

しろたへの月の光におく霜をいく夜かさねて衣うつらむ

正三位家隆

白妙のゆふつけ鳥も思ひわびなくや立田の山のはつしも

建保六年内裏の歌合、秋の歌

手向山紅葉の錦ぬさあれど猶ほ月かげのかくるしらゆふ

前關白

百首の歌の中に、秋の歌

置きまよふ篠のは草の霜の上によをへて月の冴え渡る哉

正三位家隆

千五百番歌合に

秋の嵐吹きにけらしな外山なる柴の下草いろかはるまで

藤原信實朝臣

題志らず

日をへては秋風寒みさを鹿のたちのゝ眞弓紅葉しにけり

入道前太政大臣

百首の歌奉りけるに、秋の歌

秋の色の移ろひ行くを限とて袖に時雨のふらぬ日はなし

參議雅經

秋の行く野山の淺茅うら枯れて峰に分るゝ雲ぞしぐるゝ

鎌倉右大臣

題志らず

雁なきて寒きあさげのつゆ霜にやのゝ神山色づきにけり

西行法師

山里は秋のすゑにぞ思ひしるかなしかりけり木枯のかぜ

限あればいかゞは色の増るべきあかずしぐるゝ小倉山哉

藤原伊光

紅のやしほの岡の紅葉ばをいかにそめよと猶しぐるらむ

内大臣

建保二年秋の歌奉りけるに

みなと川秋ゆく水の色ぞこきのこる山なく時雨ふるらし

參議雅經

足引のやまとにはあらぬ唐錦たつたの時雨いかでそむ覽

僧正行意

我宿はかつちる山の紅葉ばにあさ行く鹿の跡だにもなし

皇太后宮大夫俊成

後法性寺入道前關白の家の歌合に紅葉をよみ侍りける

志ぐれ行く空だにあるを紅葉ばの秋は暮ぬと色にみす覽

式子内親王

百首の歌の中に

秋こそあれ人は尋ねぬ松の戸を幾重もとぢよ鳶の紅葉ば

權中納言定家

關白左大臣の家の

[_]
[5]百首○
よみ侍りけるに

時雨つゝ袖だにほさぬ秋の日にさ杜三室の山は染むらめ

從三位範宗

露時雨染めはてゝけり小倉山けふやちしほの峯の紅葉ば

中宮但馬

幾年かふるの神杉志ぐれつゝ四方の紅葉に殘りそめけむ

權中納言隆親

うへのをのこども秋十首の歌つかうまつりけるに

志ぐれけむ程こそみゆれ神なびの三室の山の峯の紅葉ば

法印覺寛

題志らず

染め殘す梢もあらじむら時雨猶あかなくの山めぐりして

正三位家隆

建保四年右大臣の家の歌合故郷紅葉をよめる

故郷のみかきが原のはじもみぢ心とちらせ秋の木がらし

後法性寺入道前關白太政大臣

文治六年女御入内の屏風に

すそ野より峯の木ずゑにうつりきて盛久しき秋の色かな

後徳大寺左大臣

木のもとに又咲きかへせから錦大宮人にみまし志かせむ

權中納言經忠

左京大夫顯輔歌合し侍りけるに紅葉をよみて遣しける

嵐吹くふなぎの山の紅葉ばゝ時雨のあめに色ぞこがるゝ

關白左大臣

家に百首の歌よませ侍りけるに、紅葉の歌

龍田川みむろの山の近ければ紅葉を浪に染めぬ日ぞなき

小侍從

後京極攝政百首の歌よませ侍りけるに

おきて行く秋の形見やこれならむ見るも仇なる露の白玉

禎子内親王家攝津

秋の暮の歌

行く秋の手向の山のもみぢ葉はかたみ計やちり殘るらむ

權中納言實有

木枯の誘ひはてたる紅葉ばをかは瀬の秋と誰れ詠むらむ

參議雅經

秋はけふくれなゐくゝる立田川ゆくせの浪も色變るらむ


入道前太政大臣

九月盡によみ侍りける

明日よりは名殘を何にかこたましあひも思はぬ秋の別格

八條院高倉

すぎはてぬいづら長月名のみして短かりける秋の程かな
[_]
[5] SKT reads 百首歌.