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後拾遺和歌集第八 別
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8. 後拾遺和歌集第八

惠慶法師

祭主輔親ゐなかへまかり下らむとしけるに野の花山の紅葉などは誰とか見むとするといひてつかはしける

紅葉見む殘りの秋も少なきに君ながゐせば誰とをらまし

祭主輔親

かへし

惜むべき都の紅葉まだちらぬ秋のうちには歸らざらめや

源道濟

田舎へくだりける人の許にまかりたりけるに侍らざりければ家の柱にかきつけゝる

常ならばあはで歸るも歎かじを都いづとか人のつげゝる

増基法師

東へまかるとて京をいづる日よみ侍りける

都出るけさ計りだにはつかにも逢見て人を別れましかば

藤原道信朝臣

遠江守爲憲まかりくだりけるにある所より扇つかはしけるによめる

わかれてのよとせの春の春ごとに花の都を思ひおこせよ

藤原惟規

父のもとに越後にまかりけるに逢坂のほどより源爲善の朝臣のもとにつかはしける

逢坂の關打ちこゆるほどもなくけさは都のひとぞ戀しき

藤原長能

田舎へまかりける人に狩衣扇つかはすとて

世のつねに思ふ別の旅ならば心見えなるたむけせましや

選子内親王

[_]
[1]三月ばかり
筑後守藤原爲正國に下り侍りけるに扇給はすとて藤の枝つくりたるにむすびつけて侍りける

行く春と共に立ちぬるふな道を祈りかけたる藤なみの花
[_]
[1] Shinpen kokka taikan (Tokyo: Kadokawa Shoten, 1983, vol. 1; hereafter cited as SKT) reads 三月ばかりに.

藤原爲正

かへし

祈りつゝ千代をかけたる藤浪にいきの松こそ思遣らるれ

藤原道信朝臣

人の遠き所にまかりけるに

誰れが世も我世も志らぬ世中に待つ程いかゞ有むとす覽

藤原倫寧朝臣

入道攝政わかう侍りける頃大納言道綱の母にかよひ侍りけるにみちのくにへまかり下らむとて見よとおぼしくて女の硯にいれて侍りける

君をのみ頼むたびなる心には行く末とほく思ほゆるかな

入道攝政

かへし

我をのみ頼むといはゞ行末の松の千代をも君こそはみめ

堪圓法師

筑紫にくだりて侍りけるにのぼらむとて家あるじなる人のもとに遣はしける

山のはに月影みえば思ひ出よあき風ふかばわれも忘れじ

相摸

源頼清の朝臣みちのくにの守はてゝ又肥後守になりて下り侍りけるをいでたちの所に誰ともなくてさしおかせ侍りける

たび/\の千代を遙かに君やへむ末の松よりいきの松迄

嘉言對馬になりて下り侍りけるに人にかはりて遣しける

厭はしき我命さへゆく人のかへらむまでぞをしく成ぬる

大江嘉言

對馬になりてまかり下りけるに津の國のほどより能因法師がもとにつかはしける

命あらば今歸りこむ津の國の難波ほり江の芦のうらわに

中納言定頼

橘則光みちのくにゝ下り侍りけるにいひつかはしける

假そめの別と思へど志ら川のせきとゞめぬは涙なりけり

橘則長

よしみちの朝臣十二月の頃ほひ宇佐の使にまかりけるに年あけばかうぶり給はらむ事など思ひて餞給ひけるにかはらけ取りてよみ侍りける

別路はたつ今日よりも歸るさを哀雲居にきかむとすらむ

慶範法師

筑紫へ下りける人にうまのはなむけし侍るとて人々酒たうべてひねもすに遊びて夜やう/\ふけゆくまゝに老いぬることなど云ひ出してよみ侍りける

誰よりも我ぞ悲しきめぐりこむ程をまつべき命ならねば

讀人志らず

筑紫よりのぼりて後良勢法師のもとにつかはしける

別るべき中と志る/\睦じく習ひにけるぞ今日は悔しき

良勢法師

かへし

名殘ある命と思はゞ纜のまたもや來るとまたましものを

藤原家經朝臣

能因法師伊豫國にまかり下りけるに別惜みて

春は花秋はつきにと契りつゝけふを別とおもはざりけり

源兼長

能因法師伊豫國よりのぼりて又歸リ下りけるに人々馬のはなむけしてあけむ春のぼらむといひ侍りければよめる

思へたゞ頼めて去にし春だにも花の盛はいかゞまたれし

源道濟

語らふ人のみちの國に侍りけるに

思ひ出でよ道は遙になりぬとも心のうちは山もへたてじ

能登へまかり下りけるに人々まできて歌よみ侍りければ

止るべき道には非ず中々に逢はでぞ今日は有べかりける

中納言定頼

讃岐へまかりける人に遣しける

まつ山の松のうら風吹寄せば拾ひてしのべたびわすれ貝

源光成

かへし

たゝぬより絞りもあへぬ衣手にまだきなかけそ松が浦波

源兼隆

爲善伊賀にまかり侍りけるに人々餞たまひけるにかはらけとりて

かくしつゝ多くの人は惜みきぬ我を送らむ
[_]
ことはいつぞも

[_]
[2] SKT reads ことはいつぞは.

源爲善朝臣

大江公資の朝臣遠江守にて下り侍りけるに志はすの廿日頃に馬のはなむけすとてかはらけとりてよみ侍りける

暮れてゆく年と共にぞ別れぬる道にや春はあはむとす覽

祭主輔親

あからさまに田舎へまかると女のもとにいひつかはしたりけるかへりごとに志ばしときけど關こゆるなどあれば遠き心地こそすれといひて侍りければ遣はしける

逢坂の關ぢこゆともみやこなる人に心のかよはざらめや

赤染衛門

橘道員式部を忘れてみちのくにゝ下り侍りければ式部がもとにつかはしける

行く人もとまるもいかに思ふらむ別れて後のまたの別を

中原頼成

物いひける女のいづちともなく遠き所へなむいくといひ侍りければ

何地とも志らぬ別の旅なれどいかで涙のさきに立つらむ

祭主輔親

女に睦じくなりてほどなく遠き所にまかりければ女のもとより、雲居はるかにいくこそあるかなきかの心地せらるれといひ侍りける返事につかはしける

あふ事は雲居遙かにへだつとも心かよはぬ程はあらじを

藤原節信

筑紫にまかりけるむすめに

歸りては誰を見むとか思ふ覽老いて久しき人はありやは

連敏法師

筑紫にまかりてのぼり侍りけるに人々別惜み侍りけるによめる

筑紫舟まだ纜もとかなくにさしいづるものは涙なりけり

大江正言

出雲へ下るとて能因法師のもとにつかはしける

古里の花の都に住み侘びて八雲たつといふ出雲へぞゆく

前大納言公任

寂昭法師入唐せむとて筑紫へまかり下るとて七月七日舟にのり侍りけるに遣しける

天の河後の今日だに遙けきをいつとも志らぬ舟出悲しな

寂昭法師

入唐し侍りけるみちより源心がもとにおくり侍りける

その程と契れる旅の別だ逢ふ事まれにありとこそきけ

讀人志らず

成尋法師もろこしにわたり侍りて後かの母のもとに遣はしける

いかばかり空を仰ぎて歎くらむいく雲居とも志らぬ別を