University of Virginia Library

7. 後拾遺和歌集第七

源順

天暦の御時賀の御屏風の歌、立春

今日とくる氷にかへてむすぶらし千年の春にあはむ契を

平兼盛

入道攝政の賀し侍りける屏風にながらの橋のかたかきたる所をよめる

朽もせぬ長柄の橋のはし柱ひさしきことの見えもするかな

おなじ屏風に武藏野のかたかきて侍りけるをよめる

むさし野を霧の晴間に見わたせば行末遠き心地こそすれ

源兼隆

東三條院四十賀し侍りける屏風に子日して男女車よりおりて小松ひく所をよめる

霞さへた靡く野べの松なれば空にぞ君が千代は志らるゝ

前律師慶暹

前大僧正明尊九十賀し侍りけるに宇治前太政大臣竹の杖遣しける返事によみ侍りける

君をいのる年の久しく成りぬれば老の坂ゆく杖ぞ嬉しき

平兼盛

内裏の御屏風に命長き人の家に松鶴ある所を

春秋も志らで年ふる我身かな松とつるとの年をかぞへて

源兼隆

屏風の繪に海のほとりに松の一もとある所を

一本の松の志るしぞ頼もしきふた心なき千世とみつれば

讀人志らず

題志らず

君が世を何に譬へむ常磐なるまつの緑も千代をこそふれ

紫式部

後一條院生れさせ給ひて七夜に人々まゐりあひて女房盃いだせと侍りければ

めづらしき光さし添ふ盃はもちながらこそ千世も囘らめ

前大納言公任

後朱雀院うまれさせ給ひて七夜によめる

いとけなき衣の袖は狹くともごふの石をばなで盡してむ

讀人志らず

題志らず

君が世は限りもあらじはま椿二たび色はあらたまるとも

或人云、この歌七夜に中納言定頼がよめる。

右大臣顯房

故第一の親王うまれ給ひてうちつゞき前の齋宮うまれさせ給ひて内裏よりうぶやしなひなど遣はして人々歌よみ侍りけるによめる

是もまた千代のけしきの志るき哉生ひ添ふ松の二葉乍に

清原元輔

少將敦敏子うませて侍りける七夜によめる

姫小松大原山の種なればちとせはこゝにまかせてをみむ

赤染衛門

匡房の朝臣うまれて侍りけるにうぶぎぬ縫はせてつかはすとてよめる

雲の上に昇らむまでも見てしがな鶴の毛衣年ふとならば

おなじ七夜によみ侍りける

千代を祈る心の内の凉しきは絶せぬ家の風にぞ有りける

右大臣

故第一の親王のいかまゐらせけるに關白前のおほきおほいまうち君さはる事ありて内にも參り侍らざりければ内大臣下臈に侍りける時いだき奉りて侍りけるを見てよめる

千年ふる二葉の松にかけてこそ藤の若枝もはる日榮えめ

花山院御製

みこたちを冷泉院の親王になして後よませ給ひける

思ふこと今はなきかな撫子の花さく計りなりぬと思へば

伊勢大輔

後三條院みこの宮と申しける時今上をさなくおはしけるにゆかりある事ありて見まゐらせければ鏡を見よとて給はせたりけるによみ侍りける

君みればちりもくもらで萬代のよはひをのみも増鏡かな

閑院贈太政大臣

かへし

曇りなき鏡の光ます/\もてさらむ影にかくれざらめや

藤三位

うまごのをさなきを周防内侍見侍りて後鶴の子の千代のけしきを思ひいづる由いひにおこせて侍りける返しにつかはしける

思遣れまだ鶴の子の生先を千世もとなづる袖のせばさを

清原元輔

紀伊守爲光をさなき子をいだしてこれいはひて歌よめといひ侍りければよめる

萬代をかぞへむものは紀の國の千尋の濱の眞砂なりけり

人の裳着侍りけるによめる

住吉の浦の玉もをむすびあげて渚の松のかげをこそみめ

源重之

人のをさなきはら%\の子ども裳着せかうぶりせさせ袴着せなどし侍りけるにかはらけとりて

いろ/\に許多千年のみゆる哉小松が原にたづや群居る

藤原保昌朝臣

大中臣輔長はかまき侍りけるに内外戚のおほぢにて輔親公資侍りけるを見てよめる

方々の親の親どち祝ふめり子の子の千代を思ひこそやれ

大江嘉言

三條院みこの宮と申しける時帶刀の陣の歌合によめる

君が代は千代に一たびゐる塵の白雲かゝる山となるまで

民部卿經信

承暦二年内裏の歌合に詠侍りける

君が代はつきじとぞ思ふ神風や御裳濯河のすまむ限りは

藤原爲盛女

宇治前太政大臣の家に卅講の後歌合し侍りけるによめる

思ひやれ八十氏人の君がためひとつ心にいのるいのりを

能因法師

永承四年内裏の歌合に松をよめる

かすが山岩根の松は君がため千とせのみかは万代ぞへむ

式部大輔資業

おなじ歌合によめる

君がよは白玉椿八千代ともなにゝ數へむかぎりなければ

後冷泉院御製

冷泉院はじめてつくらせ給ひて水などせきいれたるを御覧じてよませ給ひける

岩潜る瀧の白糸たえせでぞ久しく代々にへつゝみるべき

小大君

東三條院に東宮わたり給ひて池のうき草などはらはせ給ひけるに

君すめば濁れるみづもなかりけり汀のたづも心してゐよ

藤原範永朝臣

關白前のおほいまうち君六條の家にわたりはじめ侍りける時池水長くすめりといふ心を人々よみ侍りけるに

今年だに鏡とみゆる池水の千代へてすまむ影ぞゆかしき

良暹法師

俊綱の朝臣丹波守にて侍りける時かの國の臨時のまつりの使にて藤の花をかざして侍りけるをみて

千世をへむ君かざせる藤の花松に懸れる心地こそすれ

式部大輔資業

後冷泉院の御時大甞會の御屏風、近江國龜山松樹多生

万代に千代の重ねて見ゆるかな龜の岡なる松のみどりに

おなじ御屏風に大倉山をよめる

動きなき大倉山をたてたれば治まれる世ぞ久しかるべき

江侍從

陽明門院はじめて后にたゝせ給ひけるを聞きて

紫の雲のよそなる身なれ共たつときくこそ嬉しかりけれ